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2025-05-02 14:50

かみさま(女性口調)/Ene

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かみさま


作:Ene @ene_oeuf 様

BGM:魔王魂


https://x.com/ene_oeuf/status/1906209270598910281


お借りしました!

#フリー台本


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サマリー

小学生のハルトくんとの出会いのエピソードでは、彼の厳しい生活環境が描かれ、食事を与えることで彼の心に触れる瞬間が強調されます。ハルトくんが「神様」と呼んで手を合わせるシーンは、彼の純粋な想いとともに、現実の厳しさを思い起こさせます。ある子供が神様に頼むように女性に懇願するエピソードが展開され、彼女はその信頼に困惑しながらも彼を支えようと奮闘します。しかし、最終的にはその願いが叶えられなかった結果に胸を痛めます。

ハルトくんとの出会い
何年前かな? 近所にさ、小学生がいたのよ。
なんて言うんだろう、あんまりご飯食べさせてもらってなさそうっていうか、あんま家に親いないのかなぁみたいな感じで、
まあ正直言っちゃうと、かなりみすぼらしい子だったのよね。 全身ガリッガリでさ、多分お風呂も入ってないから肌もカピカピで、
髪とかもギトギトなっちゃって、 そんでいつも同じ服着ててさ。
で、いつだったか会社帰りに通りがかったら、なんかその子がアパートの前でしょんぼりしてんのよ。
しょんぼりっていうか、なんだろう、もういかにも途方に暮れたって感じで、目なんかもうつろでさ、
まっすぐ歩けてないのよ。フラッフラなの。 多分お腹すきすぎて、もうどうにもならなくて出てきたんだと思うんだけどさ。
でもどこに行くって当てもなくて、家に帰っても何もないってわかってて、そういう、なんかわかる?そういうの。
なんかその周辺だけ世界の色がさ、違ってんのよ。 その子の周辺だけ色がないのよ。
どんより。 別に私さ、スピリチュアルとかそういうの興味ないけど、ああいうのって見てわかるもんなんだなっていう。
それぐらい、なんて言うんだろう、壮絶なもんがあるのよ。 本気で救いがない人間の空気っていうのをさ。
でもそんなんさ、見ちゃったらほっとけないじゃない? 声かけるじゃない?そりゃさ、なんか食べる?って。
神様と呼ばれる瞬間
いやいやわかるのよ。そういう顔するけどさ。 そういう顔するだろうなって私もわかってて話してるんだけどさ。
でも考えてみてよ。相手小学校低学年とかそれぐらいよ。 子供だよ。で、手足とか本当に棒よ、ただの。
それがフラフラで立ってんの。薄汚れで。 あんまりさ、そういう子供に声かけたりするの良くないってわかるよ。
わかってるよ。でもいざ目の前にすると割り切れないのよ、そういうの。 なんかしてあげたいって思っちゃうのよ。
で、コンビニでおにぎり買ってあげたわけよ。 そしたらもうね、食べるのよ。すっごい食べるの。
おにぎり4個ぐらい一気に。 あんま急に食べるとお腹痛くなるよとか、一応こっちも言うんだけどさ。全然聞いてないの。
で、チョコとかもあげたんだけど、それもう病でなくなるの。 何日まともに食べてないのかなって。
なんかさ、もう考えるのも嫌になっちゃったよね。 親は何してんのよってさ。
ついでにウェットティッシュ買ってね、手足とか顔とか拭いてあげたのよ。 だってかわいそうじゃない。
そしたらようやく人心地ついたって顔になって、それがまた案外普通の顔してんのよね。 本当に表紙抜けするぐらい普通の子。
別に何も特別じゃないのよ。ああいう子って本当になんて言うんだろう。 全然特別じゃないの。
うまく言えないんだけどさ、本当にどこにでもいる感じの。 名前もさ、聞いてもないのにあっさり教えてくれちゃうのよ。
ハルトって言ってた。 晴れの日の春に人って書いて。
いい名前じゃんって思ったけど、親子さんどういうつもりでつけたんだろうとか考えちゃって、余計になんかダメだったわ。
で、その子がね、ああそう、ハルトくんがね、 マジマジと私の顔を見て何言うのかと思ったら
お姉ちゃん神様って聞くんだよ。 いや、神様よ、神様。
言われたことある? コンビニのおにぎりとウェットティッシュで神様になれるんだったら特訓になってるわよ。
今頃世界は宗教なのかよ。 でもその子は、ハルトくんはさ、なんての、真面目な顔をしてんのよ。
私、ほら、独身じゃん。で、めいっ子とかともしばらく会ってないのね。 だからあんま子供と接したことなくてさ、わかんなかったの。
これ茶化しちゃダメなやつかなって思ってさ。 だからしょうがないから、そうだよ、神様だよ。
今は目立たないように人間の姿をしてるんだよ、とか言って話し合わせるしかなかったんだけどさ。
そしたらやっと笑ってさ。 笑うと普通に可愛かったよ。
普通の男の子って感じだった。 そんでさ、そしたらさ、
神様お願いします。お父さんとお母さんが帰ってきますように。 でさ、
私に向かって拝むんだよね。 したったらずのさ、子供特有のあのたどたどしい感じでさ。
わかる? 子供に本気でこうやってさ、手合わせて拝まれたことある?
お父さんとお母さんが帰ってきますようにってさ。 いやいやいやいや、できるわけないです。
親の帰還と現実の厳しさ
でもさ、 目がさ、目が本気なのよ。
なんてのかな。目だけは混じりっけなしで本気なの。 いや違うのよ、あれよ、さすがにあの子も本気で言ってたわけじゃないよ。
いやそれもわかんないんだけどね。 小一ったらサンタとか信じてる年齢だしさ。
もしかしたら本気で私のこと神様だと思ってた可能性もあるよ。 あるけど、それはあの子しかわかんないんだけどね。
でもとにかく目が違ったの。 私を通り越して私の後ろにいる何かを見てるみたいだった。
この子、何が見えてるんだろうって思った。 もしかしたら本当に何か見えてるのかもしれないって。
それぐらい目がさ、違うの。 結局ね、
わかったよ、伝えとくよ。お父さんとお母さんすぐ帰ってくるから心配しなくていいよってお茶にごすしかなかったんだよね。
だって他に何も言えないもん。 精一杯頑張ったけどそんなもんだよ、できることなんてさ。
でね、その日はもうそこで話切り上げて帰るしかなくて。 気の毒ってより、なんか怖くなっちゃってさ。
あーやばいな、まずいなーみたいな後味の悪さすごくてさ。 だってできるわけないし、親の連絡先も知らないし。
かわいそうだとは思うけど、またご飯食べさせてくれとか、家に入れてくれとか言われるようになったらって思うとさ。
やっぱさ、うち彼氏もいるじゃん。 そうなるとさ、困るしさ。
で、 何日ぐらいかな。2週間ぐらい経ってたかな。
はるとくんがまた私のアパートの前をうろついてたんだよね。 ちょうど仕事帰りで出くわす形になっちゃって。
あちゃーって思ったんだけど、無視するわけにもいかないからさ、声かけるじゃん。 そしたらね、なんか元気なの。
嬉しそうなの。どんよりしてた空気がちょっと明るくなってたんだよね。 そしたらさ、
お父さんとお母さんが帰ってきました。 ありがとうございますって言って、私に手合わせるんだよ。
もう完全に私のこと神様だと思ってんの。 マジでって感じだけどさ、私からすりゃ。私何もしてないし、当たり前だけど。
まあでもさ、親が帰ってきたならそれはそれで結果往来じゃん。 よかったじゃんって思ったよ。私めっちゃご利益あんじゃんみたいな。
でもよくよく話聞いたらなんか、なんか違ってんのよ話が。 両親ね。
多分本格的にどっか行っちゃうつもりで最後に金目の物取りに戻ってきただけっぽかったんだよね。
案の定またすぐ大きなカバン持って出て行ったって。 で、挙句の果てにはテーブルにこれ置いてたって見せてきたのをなんだと思う?
1万円札。それが2枚。 2万で何日生きろってのよ。お金の使い方も分かってないような子供にさ。
で、さ、それ見た時すごい嫌な予感したんだけど、 そういう予感って当たるんだよね。本当に。
ちょっともうそういう顔しないでよ。続き話しにくくなるじゃん。 でもまぁ、つまりはね、そういうこと。そういうことだった。
信じられた神様
ハルトくんさ、そのお金を私に差し出して言うわけよ。 またお父さんとお母さんが帰ってきますように神様お願いしますって、私の顔見てキラッキラの目で手合わせて。
ねぇ、もうはっきりとお願いになっちゃってんの。 わかる?
祈りとか希望とかじゃなくて、私個人に対するお願いなのよ。 その子の中では私が神様だから。
2万円でお父さんとお母さんを戻してくださいって精一杯にさ、私に頼むんだよ。 だから、
だからさ、できるわけないんだよな。 だってもう私は察してた。この子は捨てられたんだって。もう帰ってこないって。
多分私だけじゃなくて近所の大人たちもみんなわかってたと思うわよ。 でもそんなこと言えないでしょ。もう帰ってこないと思うよとか、絶対言えるわけないじゃん。
かといってさ、何をしてやればいいとかもわかんない。 どこに連絡するとか、連絡したらどうなるとか、そういうの。
こちとら独身のさ、ただのOLなんだからさ、わかんないよ。 できないよ。
だいたいそういう家の親って基本やばいじゃん。 下手に踏み込んだら何されるかわかんないじゃん。他人の家だもん。
でも、その子は信じてんの。私のことを信じてんのよ。 一度叶えてくれたから、二度目もやってもらえると思って、私に頼めば何とかなると思って、
わざわざ帰ってくるのを待ってたの。 私、
神様だからさ、その時初めてあって思った。 自分が何をしたのかわかったよ。
でももう後の祭り、だってハルト君は神様に出会っちゃったし、 私は偽物の神様だし、なんかもうとにかくダメだった。
切ない結末
そこから離れたくてさ、走ってさ、逃げるみたいに帰ったことだけ覚えてる。 もう無理って思った。もう関わらないでおこうと思った。
その日からしばらくは逃げてたよ。 外に出る時もちょっとだけドア開けて誰もいないこと確認してから出るみたいなさ。
会いたくなくて。 はい、そうですね。最低ですね、私。
わかるよ。でも無理だったよ。次に顔を合わせたら何を言われるんだろうって。 何をお願いされるんだろうって。
怖いよ。 怖かったよ。
ね、ね、なんだろう。 1ヶ月ぐらい経ってたかな。
ある日通りがかったらその子のアパートの前にいっぱい車が停まっててさ。 どっかの職員みたいな人が何人かいて、ああ誰かが通報したんだなって思った。
しばらく見てたらドアが開いて痩せた子供がタンカで運び出されているところだった。 毛布にくるまれててよく見えなかったけど、
過労死で顔だけ出てて、酸素マスクみたいなの被せられてて、 生きてた。
ちゃんと生きてたんだよね、ハルト君。 あ、やっとどっかの施設で保護されるんだろうなって思った。
よかったーって、本当によかったーって思ったよ。 膝から力抜けて立ってられなくなるぐらい本気で安心したのよ、その時、私。
そしたらさ、ハルト君がね、私に気づいたんだよね。 結構な距離はあったけどこう目が合ってさ、何か言いたそうな顔をしてさ、私の方に向かって体を起こそうとするの。
職員さんたちもびっくりして私の方を見てさ、知り合いですか?みたいな顔をするんだけど、こっちも何とも言えないから半端にえしゃくするぐらいで、
なんかあーって感じなんだけど、でもハルトが私の方を見て必死だから誰かがマスク外してあげててさ。
正直かなり気まずかったけど、神様の役を中途半端にしちゃってた罪悪感とかもあったし、 無事でよかったって本当に思ったから、せめて最後に手でも振ってあげたくて近づいたの。
できれば手を握ってあげたくて、 よく頑張ったね、よく生きてたねって言ってあげたくてさ。
そしたらね、なんか変なの。 口が動いてるの。
ずーっとカサカサになっちゃってる唇で。 でもね、ハルトくん全然嬉しそうにしてないのよ。
私の顔見ても。 あっそうかって思った次の瞬間にわかった。
嘘つきって言ってた。 その後どうなったかわかんないんだけどさ。
そのアパートにはもう戻ってこれなかったみたいだし、 私も割とその後すぐぐらいに転職決まって引っ越してそれっきりだったから、
風邪の噂みたいなのもなかったし、 親が逮捕されたみたいなことも聞かなかった。
だから本当それだけ。 ただ子供が一人そこにいたってだけ。
私が下手なことして恨まれちゃって、多分今も許してもらえてないんだろうなってだけ。
ただそれだけの話なんだけど、ねえ。
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