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2025-02-04 20:50

自分が誰だかわからないプルチネッラと、トルマリンの鍵の話/Ene

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自分が誰だかわからないプルチネッラと、トルマリンの鍵の話


作:Ene @ene_oeuf 様

BGM:魔王魂


https://giraffe.noor.jp/pul.html


お借りしました!

#フリー台本


【活動まとめ】 https://lit.link/azekura

サマリー

プルチネッラは、自分が誰であるか過去の記憶を全く持たない道化師です。このエピソードでは、彼が心に閉じ込めた感情や、エンターテイメントの世界で笑いをもたらす使命について語られます。また、プルチネッラがアウローラと出会い、彼女の感情や秘密について問いかけます。トルマリンの鍵が象徴するように、彼らの間にある恋心や痛みが浮き彫りにされ、最終的には彼女を笑顔にしようとする心温まる話が展開されます。

自分を知らないプルチネッラ
自分が誰だかわからないプルチネッラと、トルマリンの鍵の話。
俺はね、いつだってみんなを楽しませてやらなきゃならない。
そうさ、笑っておどけて飛び跳ねて、 転んで起き上がってまた跳ねて、
時には泣くのさ、こんな風にね。 どうだい、俺はいかにも愉快じゃないかね。
俺はたいした同家だともさ。 おや、あんた笑ったね。
泣きやんだね。 顔をお見せよ。もっともっと笑うがいいよ。
あんたはとっても綺麗だもの。 俺はね、いいかい、この体のある限り人を笑わせにはならんのさ。
そいつが俺の仕事ってわけだ。 あの子も、あいつも、住みの酒屋のおかみさんも、
俺を指差して言うことにゃ、 ブラーボ、ブラーボ、プルチネッラ、ひどい同家さ。
あいつはみんなの笑われ者。 コロンビーナは影すら踏ませてくれなかろうよ。
俺は毎晩、舞台に上がる。 こんな衣装と仮面をつけてね。
お決まりなのさ。プルチネッラはこうでなきゃ。 ああ、いや違うよ、そうじゃない。劇場なんかに上がれるもんかね。
俺たちは所詮流れ者。 小さな天幕でもありゃ女児。
そばの檻では牙のない虎が昼寝をし、 肉のない男がフイゴのような肺を鳴らして死のまどろみに耐えている。
断食なんてこの頃ちっとも流行りやしない。 お客は新しい物好きさ。
だから俺たちが必要なのさ。 さあご喝采。日が沈んで月が出たら俺は同家にならなけりゃ。
笑っておどけて飛び跳ねて、 転んで起き上がってまた跳ねる。
問題はね。 ああ、そういや、あんたの名前をまだ聞いてない。
なんてこった。 まあいいかね、シニョリーナ。
問題は、いつからこんなことをやり始めたんだか、 俺自身が覚えていないってことなのさ。
俺という男には過去がないのさ。 一体どうしたことだろう。
俺は自分がどこから来たのか、なんて名なのか、 いくつになったのか、まるで何にも知らないのさ。
ん? そうだね、きっとそうだ。
あんたよりは年笠だろうよ。 ところで、あんたはいくつだい?
そう、今が一番綺麗な時だ。 あんた本当にキラキラしている。
ねえ、シニョリーナ。 もしあんたの気が向いたら、俺の話を遮っても構わないから、
どうぞ名前を教えておくれね。 それにしても俺は話が下手だねえ、まるでダメなんだ。
どこまで話した? ああそう、俺は俺自身のことをまるで知らない男なんだ。
そら、おかしな話だろう。 鳥がいちいち空の飛び方を忘れたと言って悩むかね。
魚が自分の名前を綴りたいと言ってペンを処文なさるもんかね。
どこで生まれて、どんなまんまで、どんなふうに育ったか、俺はさっぱりわからない。
俺は時々振り返る。今日こそは何か見えるかもってね。 でも俺の道は足元で途切れてそれっきり、俺を過去に戻してくれる道しるべはどこにもない。
わかるかい? いつだって俺の後ろにあるのは、底なしに暗い崖っぷち。
よもす柄、火のない家のよう。 きっといつか俺はそこに落ちていくんだろう。
時々見えない手が俺の背中を引っ張って、俺はびっくりして飛び跳ねる。 そうするとお客は笑うのさ。
ブラボー、そら見な、プルチネッラがまたおかしなことをやり始めたぞ。 ほっといけない、そんな顔をしちゃいけない。
あんたはそこで見ておいで。俺は道家で、あんたはお客。 この命のある限り。
それまで俺はプルチネッラさ。自分のことがわからない男。 何にも知らない、わからない。道家にぴったり、お客は大受け。
感情の鍵
あ、ごめんよ、よしておくれ。そんな顔をしないでおくれ、シニョリーナ。 俺は話が下手なんだ。
そんな目で見ないで。お願いだよ、シニョリーナ。 優しいんだね、シニョリーナ。あんたはいつだって親切だ。
でも俺だってそれほど哀れな奴じゃない。 俺はプルチネッラでいるのが好きさ。他のことよりはいくらかマシにやれるから。
プルチネッラになる前の俺がどんなだったか知る人に、いつか会うかもしれないってドットオレが言うもんだからね。
俺はね、俺におまじないをかけたのさ。 いつだって笑っていられるように。いつでも道家でいられるように。
ああ、そうさね。あんただってご存知だろうね、シニョリーナ。 悲しいとか嫌だとか、不安だとか寂しいとか、
そういう気持ちは誰だって持っていなくちゃならないもんさ。 そいつが人生のちょっとした香辛料ってわけだもの。
いい香りのしないスープを一体誰が飲みたいもんかね。 はしかみの入らないかゆを誰が食いたいと思うかね。
でもそいつらは時々胸の中で暴れて悪さをするだろう。 残念なことにプルチネッラもそれらを持たないわけにはいかない。
だから閉じ込めて鍵をかけてしまうのさ。 お客でいっぱいの舞台に上がることに比べれば、そう難しいことでもないからね。
ん?なんだい?どうしたね? どうやってそれをしたかって?
いけないよ、シニョリーナ。そんなことを聞いちゃいけない。 そんな顔するもんじゃない。あんたには関わりのないことさ。
あんたはそんなに綺麗だし、いい家に生まれて明日の憂いは何もない。 そういうお人には役に立たないお話だもの。
そう?そうかい?シニョリーナ。 そんなに聞きたきゃ話してあげてもいいけれど。
俺と約束できるかい? 同じことをしちゃいけないよ。
このおまじないは俺でなければ聞かないよ。 ねえ、シニョリーナ。
今日はずいぶん泣くじゃないか。 顔を上げよ。涙を拭き。
俺があんたにひどいことを言ったのでなければいいけれど。 実のところ、人間はね、
同家にはそれほど向いてないんだ。 誤魔化したり嘘をついたり、悲しいのに悲しくない。
そんな顔をしていちゃいけない。 そんなことをしていると幸せはどっかに行っちまう。
シニョリーナ、わかるね?俺の言うことが。 あんたはとっても綺麗だよ。
いつか幸せになれるとも。 幸せにおなりよ、シニョリーナ。
あんたが幸せになれるなら、俺にとっても何よりさ。 プルチネンタがそう言ってたこと、いつか思い出しておくれよね。
おや? 時間だ。残念。今日はここまで。
ドットオレが呼びに来た。俺は舞台に上がらなくちゃ。 さあ、シニョリーナ。また明日。
都合が良ければここへおいで。 俺はいつだってここにいる。
迷子の迷子のお嬢さん。 俺とちょっぴり似ているね。
俺はあんたが何者なのか尋ねない。 それが約束決まり事。
プルチネンタは誰の前でも同化しさ。 泣かないで、俺のシニョリーナ。
良ければ舞台を見ておいき。 きっと楽しい。俺はあんたを笑わせてあげる。
笑っておどけて飛び跳ねて。 転んで起き上がってまた跳ねて。
やあ、シニョリーナ。こんばんは。 どうしたね。今日はそんなに息を切らせて。
そうお急ぎにならなくたって俺はいつだってここにいるさ。 ちゃんとあんたを待っている。
ごらんよ。このシチリアじゃあ今が一番いい時さ。 ちょうど夕日が沈む頃。
俺はここから見える夕日が好きさ。 あの鐘の輝くさまをごらんな。
あの見事な赤ね色。 さてそれじゃあいつものように話をしようか、シニョリーナ。
プルチネンタは覚えているとも、あんたの聞きたい話のことを。 ごらん。
ここに取り出したるは魔法の鍵だ。 見事だろうこの銀細工。
見たことがあるかい、シニョリーナ。 宝石だってついている。
さる光明な錬金術師の持ち物さ。 俺はね、こいつで錠をこしらえたのさ。
俺の心に、一番奥に。
何でもかんでも閉じ込めてしまって、出てこないように鍵をかけて、 かっちりとやればそれでおしまい。
少しずつ、少しずつ、俺は望みを捨ててきたのさ。
風のように生きるんだ。 そう、風のように。
正直なところ俺はもう自分がどこの誰なのかわからなくてもいいんだよ。 どうしようもないんだ。
俺を知っている人間はきっともうこの世にはいないんだろう。 いつまでプルチネンタでいるのか、いつそうでなくなるのか。
それを決めるのは俺じゃない。 もちろんドットウォレやコロンビーナ、アルレッキーノのやつでもない。
俺が一体どこから来てどこへ行くのか、俺自身にもわからないのだから、 きっと誰にもわからない。
ああ、きっと俺はバカなんだ。 バカなのに。
ああ、どうして俺は考えるのか、なぜに思うことをやめないのか。 恋しく思わねばならんのか。
俺には鍵が必要なんだよ。 わかるかい?
そうでなければやっていけない。こいつを捨てることもできない。 シニョリーナ、俺は哀れなプルチネンタさ。
舞台の重要性
毎夜寝床で一人きり、そっと鍵を開けて取り出して、 ずいぶん小さくなっちまった俺の心を手のひらに乗せてキスをする。
すると少しだけ動き出す。嬉しそうに踊り出す。 けど俺はそいつをまた閉じ込める。
そうでなけりゃ舞台の幕が上がらないのさ。 お客は俺を待っている。笑わせて欲しくて待っている。
同家がいなけりゃ始まらない。この世には同家が必要なんだ。
ああああ、どなたも泣かずに待っておいで。 プルチネッタがすぐに行くとも。
そんな顔をしちゃいけないよ。あんたにその顔は似合わない。 あんたはキラキラしていなくっちゃ。
シニョリーナ、おまじないの話は終わりさ。 面白いもんじゃなかったろうね。
それでいいのさ。どうか真似をしないでおくれ。 俺に約束しておくれ。
あんたは思ったように生きればいい。 気持ちのままにね。
嘘つきになっちゃいけないよ。 あんたはちゃんと幸せにおなり。
かわいい俺のシニョリーナ。 大丈夫、心配いらない。あんたはとっても綺麗だよ。
あんたを射止めた幸せ者はどこの誰? はっ、ああ、赤くなったな。驚いた?
あんたが恋をしていることぐらい、同家はとっくにお見通しさ。 ああ、
今日も時間だ。どっと俺が呼びに来た。 よければ舞台を見てお行き。
アルレッキーノもコロンビーナもあんたのために芝居をするよ。 きっと楽しい。
受け合うともさ。笑っておどけて飛び跳ねて。 やあ、シニョリーナ、こんばんは。
しばらくぶりだね。ようこそ、ようこそ。 しばらく姿を見ないからどうしたものかと思っていたよ。
俺の綺麗なシニョリーナ。 俺の一座は明日でここを出ちまうんだ。
その前に会いたいと思っていたよ。 来てくれてよかった、シニョリーナ。
おや、どうしなったね。そんな風に泣いたりして。 あんたは少し泣きすぎるね。
何も悲しいことはない。元気をお出し。 お召し物が台無しだ。
さあ、落ち着いて。よければ理由を話してごらん。 プルチネッラが笑わせてあげよう。
ここにお座り。もう大丈夫。 涙を拭いて、俺と話をしようじゃないか。
どうしたんだい、俺のシニョリーナ。 泣かないで。泣かないで。
あんたのしょげてる顔を見ると、俺の心の鍵がガタガタ言うよ。
ん? そいつは何だね。
キラキラしている。飾り物かね。 プルチネッラによく見せてごらん。
おやおや、どうした。鍵じゃないか。 綺麗な鍵だ。
なんて見事なトルマリンだろう。 俺のとどこか似ているようだね。
ん? 俺にくれるのかい? そいつは素敵だ。ありがとう。
でも、なぜだね、シニョリーナ。
ああ、なんてこった、シニョリーナ。 ダメだよ。あんたは約束したじゃないか。
そんなことをしちゃいけない。 いけないばかりですまないね。でもいけないよ。
プルチネッラは言ったじゃないか。 真似をしちゃいけないと言ったろう。
ああ、泣かないで。怒らないから顔を上げ。 あんたの話を聞きたい人はたくさんいるよ。
綺麗な綺麗なシニョリーナ。 あんたと俺は違うんだ。
わかるね。あんたはいい子だもの。 今度こそ約束してくれるね。
プルチネッラが悪かった。 だからもうやめるんだ。
涙を拭いて顔を上げよ。 さあ、こんな鍵は開けておしまい。
終わりにするんだ。 そのためだったら泣いてもいい。
この鍵は俺がもらっておくから。 いいね。
アウローラの秘密
いつか取りにおいで。 どうして泣くの、シニョリーナ。
何があんたをそんなにまで悲しくさせるの。 あんたは何を閉じ込めたの。
大丈夫。安心をし、プルチネッラが聞いてあげる。 あんたをきっと笑わせてあげる。
お願いだ、泣かないで。 俺はあんたが好きなんだ。
アウローラ。 そう、そんな名前だったんだね、俺のシニョリーナ。
綺麗だよ。素敵な名前だ。 ぴったりじゃないか、俺のシニョリーナ。
こんな風に知りたくはなかった。 俺は見たよ。
コロンビーナが持っていた今朝の新聞の切れっぱし。
あんたの絵が載っていた。 可哀想なお嬢さん。
気の毒な俺のアウローラ。 こんな悲しいことはない。
言えなかったんだね。可哀想に。 あんた、お嬢さんだから。
誰にも言えなかったんだ。 芝居小屋の道化師を好きになった、だなんて。
ハルレッキーノが好きだなんて。
ああ、死んでしまうほど好きだったなんて。 あんたは俺に言いたかったんだね。
ハルレッキーノが好きだって。 ごめんよ。
ごめんよ、シニョリーナ。 許しておくれね。
俺が芝居を見ていけなんて言ったから、 あんたは気づいちまったんだ。
ハルレッキーノとコロンビーナができていること。 あんたの目には見えちまった。
あんたも恋する女だから。 シニョリーナ、おまじないをしたんだね。
ハルレッキーノを好きな気持ちを閉じ込めてしまおうとしたんだね。 バカだね、シニョリーナ。
あんたはバカさ。 うまくいかなかったろう。
だから真似をしないでと言ったのさ。 あんなものには意味がない。
おまじないなんて、うそっぱち。 もしもそうでないのなら、
いったい誰が月のない夜に一人で泣いたりするものか。 人は悲しいものなんだ。
誰だって物陰で泣いている。 どうにもならない恋にも愛にも身を焦がし、
鍵の壊れた家の中で途方に暮れるものなのさ。 だからこの世には同家がいるんだ。
俺だってそんなことは知っていた。 知っていたんだよ、シニョリーナ。
シニョリーナ、俺のお嬢さん。 あんたと話している時は、俺、とても楽しかった。
アルレッキーノが好きでもいいから、時々は俺と話してくれたら、 俺はそれだけでよかったのに。
あんたアルレッキーノに言えばよかった。 いっそ失恋しちまえばよかった。
どうしてあんたは死んでしまったの?
ママ、見て。 今日のプルチネッドはとっても楽しそう。
いつもよりずっと面白いよ。
俺はプルチネッド。 心に鍵を。笑顔のままで。
俺は踊らなきゃ。 アウローラ。
笑っておどけて飛び跳ねて。 転んで起き上がってまた跳ねて。
20:50

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