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2023-03-23 13:24

#36『配給危機2027』―シェルターの隣人は底知れない―【ラジオドラマ】

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”戦時下なれど起床困難”


あらすじ

…数年後の日本は戦時下に置かれている。長期化した地下の避難所生活、各人が役割を分担しながら社会生活を送っているのにも関わらず、集団では生きていけない二人の隣人は何にも役立てず爪弾きにされていた。ついに逃せない食糧の配給が迫る中、朝起きるのも一苦労な二人は寝袋から出るためにあれこれと会話を試みるが、やがてそれは現実を超えた内容となっていく。


ラジオドラマシリーズ『私的エクレアイズム』です。主に会話劇の形式で短編を配信しています。楽しんで頂けたら番組をフォローして下さると幸いです。


『配給危機2027』

出演 北崎杏佳(三塩小豆役)/伊橙香月(粉奈千歩役)

脚本・制作 村楓午


カバーイラスト 大畑夏穂


次回『スノーモービル、雪消不明』は3月30日(木)19時頃より順次配信致します。ご聴取頂ければ幸いです。


(c) 2023 村楓午

00:00
ラジオドラマ、配給危機2027
そんなことあるかな?
私が普段考えてたことなんですけど、
もし、この戦争が終わって、政治もまともになって、
誰も取り残されない社会になったら、一体何をしたいですか?
はい、後部に答えましょう。
交換留学を実現させて、私も海外で暮らしてみたい。
一人でただじっとしていたい。
あ、すいません。さっきから全部大枠が一緒なんですけど。
え?そう?
もっとその、めっちゃ理想だけどやれてなかったこととか、
それが現実になったら幸せのキャパ超えちゃうよー、みたいなこと考えてください。
へぇー。
タルトの底だけ食べてたい。
おっ、いいですね。何タルトの底ですか?
梅は何でもいいしどうでもいい。
底のあのサクシとネチョ感だけ欲しい。
そして奥歯にひっついた破片をベロでほじくり取って時間差で味わいたい。
うーん。
じゃあ、サクサクでしっとりしててネチョネチョなタルトの底以外の部分は全部私が食べますよ。
フチもいらないからね。
フチ?
タルトの周りを囲んでる部分。
記事的には底の仲間かもしれないけど、私は底に底を含めない。
あんまりそこそこ言われるとタルトの底がどれかわからないんですが。
そこそこそこじゃそこそことは認めないからそこのとこ分かっといてねって話。
あ、今日の配給の中身思い出しました。
何?
タルトの底です。
いいって。
ほんとですってば。
昨日行けてないのに中身分かるわけないでしょ。
最後私が貰いに行った時数日分のメニュー教えてもらいました。
避難所内で妻弾きにされてきた人がどうやったら教えてもらえるの?
最初から一人だった人には教えません。
ねえ、違ったらどうなるか分かって言ってんだよね隣人さん。
はい、どうぞ確認してきてください。
こんな子供じみた話で寝袋出れるわけないでしょ。
子供はタルトの底の話はしません。
タルトの底が配給に出るとか嘘つく大人のことを子供じみてるって言ってんの。
タルトが出れば必然的に底も同時についてきます。ありえない話じゃないです。
ない。言い切り。
なんでですか。
だって戦事家だもん。
03:00
戦争はすべて奪いますがタルトまで奪うか分かりませんよ。
最後に食べた甘いもの、先月の缶詰のみかん、スプーン2杯分。
そっから貯めて貯めてのタルトです。
誰が貯めて貯めてタルト配給しようって思い浮かぶの?
隣人さんです。
私?
はい。未来の。
未来の。
もう決まってるんです。
でも、じゃあなんで隣人さんはそのこと知ってんの?
それを教えたら世界線が分岐してパラレルワールドになるので、タルトの底は配給されません。
ずるくない?
私も歯がゆいです。すみません。
いや、無理。信じられない。
未来のご自分を信じてください。
未来の自分は信じてる。
じゃあ、ついでに私も信じてください。
いや、寝袋の判定勝ち。
えー、判定基準なんですか。
不透明な政治してるから教えない。
でも、判定勝ちってもつれ込んではいるんですよね。
タルトの底を配給すると決定した未来の私、という可能性に興味がある。
可能性か。
どこに伸びしろあります?
決定権。
つまり、未来の隣人さんがなぜ配給の中身を決めるような立場にいるのか、ですね。
話させてよ。この疑問についてそっちが答えても世界線が分岐しないなら。
いけるとこまで行ってみましょう。
よし。
まず、私は一人が好き。
はい。
日本が戦争を始めてからしばらくして、最寄りの地下鉄駅に避難しろって言われた時も、
一人だけホームから降りて線路の隅に寝袋を開いた。
私は何の横割りもこなせずたらいまわしにされてからようやく辿り着きました。
長いけどいい合図地。
で、廃棄をさばいてんのはここの自治を仕切ってる元気な行政院とその三家の食料物資班。
私たちはずっと寝てるので寝袋班と呼ばれています。
私その呼ばれ方嫌い。
すみません。
第一、私だけの時は住みの人だったからね。
隣人さんがどっかで集団生活を送れてたら、ここは複数系の寝袋班なんて呼ばれずに住んだんだからね。
わかってます。自分が一番わかってるのでそれ以上言わないでください。
安定剤も滞ってるので戻りましょう。
それで物資班から私は嫌われてるっていうか無視されてるし、
その上の行政の一人とはここのルールのことで一回胸ぐらつかんで揉めた。
まだ自治が起動に乗る前ですよね。見てましたよ。
反戦デモの鎮圧くらい最後抑えつけられてました。
まだあの時の擦り傷癒えてないから。
ご愁傷様です。
助けてくれなくてありがとう。
どういたしまして。
そして何も状況変わらないまま数ヶ月経ちました。
はい、ここからどう私がそいつらより決定権持って樽と配るわけ?
隣人さん、こうやって振り返ってみると到底起きれなくて配給が取りに行けない人だとは思えないんですが。
06:01
一人の時はギリ這い上がって取りに行けてたよ。
誰かさんが来たから好きで来たんでしょう。
あの、今の私たち相互依存なんでしょうか。
いいから。とにかくこんな有様で未来の私はどうすんのって。
そうですね。始まりは寝袋からのろしをあげます。
当たり前。
隣人さんをまずようやく名乗ります。
おー、名前まだ言ったことないよ。
私が三島あずきですと挨拶してからもう二ヶ月経ちますけどね。
隣人に名乗り返す現代人いないから。
えっ、じゃあ私の名前言えんの?
言えますがすみません。これだけは伝えると分岐してしまうので控えさせてください。
もみな。
はい?
もみなって言います。苗字。今知らない人のリアクションだったけど。
あー、ごめんなさい。早くて。
もみな。
あ、知ってます。さっき早くて。
もみなみたいな感じでゴニョゴニョっとリスニングしちゃって。
なんて言ったのかなって。
あれ?今のは?今のも名前伝えたことにならない?
あー、ならないです。
伝達の中継に伴う非武装地帯化という項目が保障してます。
104ページに書いてあります。
なんの?何を参照してんの?
それも言えません。
とにかく説明にあたって必要最低限の補足をするために言葉を用いただけです。
戦争をするべきじゃないという時にはその中に
戦争をするべきという危険なワードが含まれますよね。
ですが、人は時に危険を犯してても伝えなくちゃいけないことがあるんです。
それはわかるよ。私も今未来とやりあってんだから。
大丈夫です。未来はもう決まってるんですから。
わかんないよ、まだ。
で、名乗ってからどうなんの?
はい。
え、なに?途中でやめて気にならせる手法?
ねえ、なんなの?
あと充電減るからスマホの画面つけっぱにしないで。
どうせ配給まで残り何分的なつまんないツッコミだよ。
通知でしょ?
すみません。続きから。
はいはい。
隣人さんが名乗った瞬間、その瞬間にもっともっと先の未来から木星人がやってきます。
なに?
木星人です。逃亡中の。
急にどうした?
意欲もありませんしお腹も空いてますが、何を言ってるかわかってますよ、自分で。
木星人が一時的に身を隠すために過去にやってくるんですね。
そしてそれが偶然戦時化の2027年日本で私たちのいるこの地下鉄の線路なんです。
あのさ、さっきは批判的な言い方してごめんね。
いきなり現れたので驚いていると、その木星人は私の子孫だと自己紹介します。
うん、いろんなとこたらいましんされたのつらかったよね。
つまり私は木星人の祖先ということになります。もちろん何十世代も離れていますが。
木星人は言います。一時的に身を隠させてくれたらお礼に技術を提供しますと。
私は身を隠すのには協力しますが、見返りは断ります。
なぜなら子孫の頼みも聞けないやつは脳だからです。
09:03
しかしその会話を聞いていた隣人さんが私は技術提供を求めると言い出します。
がみついなあ、未来の私。
すると私の子孫は人類の発展に決定的な変化を与えないような限定的な用途という条件で頼みを聞くことを了承します。
それを聞くと隣人さんがこう言いました。
私、なんていうの?
日本の物資配給に関わる省庁を奨学し、タルトの底をこの避難所に届けさせろ。
あ、え、ここでいきなりつながるの?
子孫ははじめタルトがなんだかわかりませんでしたが、焼き菓子のことだと理解すると、
そこの部分だけ届けさせたらニュースになるので、
リストのデータを改ざんしてタルトの全体として届ける形で我慢してほしいと答えます。
私、我慢するよね。
そこでは我慢できない隣人さんはそこんとこなんとかそこだけ届けさせろとそこそこどころではない勢いでそこへ詰め寄ります。
そこばっか言わないで。
あとなんで私そんな態度悪いの?もしかしてずっと思ってた?
私は二人の間に入って、まあまあ落ち着いてと仲裁します。
それでも隣人さんは興奮さめやらず鼻息を吐き出します。
それでも隣人さんは興奮さめやらず鼻息を吐き出します。
できねえなら木星人の存在を公表すると言い出します。
やめなさい私。
ていうか聞いてる?
同行の開いた隣人さんを見て私は交渉の余地がないと判断します。
あなただよ、同行開いてるの。
大丈夫?
そして私は未来の隣人さんを信じリスクを取ることを選びました。
ねえ、おい。
こうして時間は現在に戻ってきます。
おお、帰ってきた。
えっと、今どういう感じ?
なんか変なこと喋り続けてたらグーってなっちゃったの?
わかる?私たち今寝袋から出られなくて、
立ちっていうか私が政治家なのに出られなくて、
それで隣人さんがあなたがいろいろこっちの気分を掻き立てようと喋ってくれてました。
わかりますか?
話は全部聞いてましたか?
危険を承知でこれから情報を開示します。
空腹ってこんなに人をおかしくさせるんだね。
とりあえず、あの、今すぐ寝袋出られるかわかんないけど、
頑張るからさ、一個だけ隠し持ってる看板があるから、
それちぎってあげるね。水で流し込んでみて。
私がこれまで喋ったことの中に一つだけ事実があります。
うん。このままだと脳がショートしちゃうから、
木星とかそういうこと考えるの一回やめようか。
今から私の子孫である木星人がやってきます。
はいはい。あと、
細かいけどそれじゃ事実二つだよ。
結局これから起こることを知っている隣人さんは、
どうしたって未来言ってることになるし。
せめてタイムトラベルと木星人云々はどっちかにしようね。
はい、これ。パサパサだけど、どうぞ。
ずっと隠し持ってたの。偉いでしょ。
あ、そっか。
初めて人に物あげるわ。意外と気分いいね。
ほら、早く取ってよ。
確かに。隣人さんから見たら事実は二つだね。
二つでした。ごめんなさい。
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難しいな。他の人から見れば未来に言ってないと説明がつかないのか。
何て言えば伝わるんだろう。
知っていることを知っている?事前に未来を知らされている?
まあ、もう時間だし、何でもいいか。
ねえ、ずっと何言ってるの?食べ物だよ。いらないの?
ああ、タルトの底。楽しみですね。
あのさ。
はい。
すっごいすっごい恥ずかしいんだけどさ。
はい。
バカになったふりして聞いてもいいかな。
何ですか?
本当に木星人来るの?
教えたら配給取りに行ってくれますか?
それ次第で今までにない意欲が湧くことだけは約束する。
大丈夫。未来の私を信じて。
寝返り、打ってみてください。
打ってみてください。
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