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ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード…ーーまたは、或るDJの「自伝」)ーー
2026-07-29 16:49

ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード…ーーまたは、或るDJの「自伝」)ーー

人生というものは、不思議なものである。

振り返ってみると、その時々では遠回りに思えた道が、実は一本の長い線になっていたことに気づく。

私にとって、その道にはいつも音楽があった。

1972年9月8日、午前0時5分。

山陰放送『わだひろとのミッドナイト・パートナー』最終回。

大学4年生だった私は、卒業と就職を目前に控え、深夜のマイクの前でリスナーに別れを告げていた。

当時、ラジオは若者にとって特別な場所だった。

顔も知らない誰かと、同じ音楽を聴き、同じ夜更かしをし、同じ時代を生きている。

そんな不思議な連帯感があった。

あれから半世紀以上。

まさか再び、人前でレコードを回し、マイクを握ることになるとは思ってもいなかった。

現在、私は福山市で「コーヒーとレコード音楽で愉しむ会」を続けている。

気がつけば10年以上。

参加費は無料。

商売でもなく、イベントビジネスでもない。

理由は実に単純だ。

「自分が飲むコーヒーを淹れて、みんなで一緒に飲んでいるだけ。」

それ以上でも、それ以下でもない。

好きな音楽を流し、美味しいコーヒーを淹れ、その時間を誰かと共有する。

その積み重ねが、地域の小さなコミュニティになっていった。

誤解されることがある。

レコードを聴き、コーヒーを自家焙煎していると、「昔ながらの人ですね」と言われる。

しかし、実際はそうでもない。

レコードは約3,000枚。

その管理はデジタルデータベース。

イベントの選曲ではAIも活用している。

開催日、会場、参加者の年代などを入力すると、AIはそれらしいキューシートを作ってくれる。

便利な時代になったものだ。

ただし、最後の最後だけは任せない。

実際にレコードへ針を落とし、自分の耳で確かめる。

その作業だけは、人間がやる。

AIは優秀だ。

しかし、どうしても「ベタ」なのである。

無難で、平均点が高い。

だからこそ、その日の空気、その場の匂い、人の表情までは拾えない。

最後の一枚を決めるのは、データではなく感覚だ。

そこだけは、まだ人間の仕事だと思っている。

コーヒーも同じだった。

豆の価格が高騰したことをきっかけに、自家焙煎を始めた。

使っているのはケニアAA。

焙煎がうまくいった瞬間、部屋いっぱいに甘い香りが立ちのぼる。

あの香りだけは、どんな最新の機械にも作れない。

レコードもそうだ。

盤を取り出し、ジャケットを眺め、針を落とす。

音だけではない。

紙の質感も、インクの匂いも、ターンテーブルが回り始める静かな時間も含めて、一枚のレコードなのである。

便利さだけを追い求める社会では、こうした「手間」は無駄と言われるかもしれない。

しかし私は逆だと思う。

人間を人間らしくしているのは、案外その無駄の部分なのではないか。

学生時代、私は落語研究会にも所属していた。

「風紋亭」という名前も、その頃につけた高座名である。

鳥取砂丘に風が描く模様、「風紋」。

現れては消え、また現れる。

そんな儚さに惹かれた。

レコード会では、曲を流すだけではない。

ジャケットを見せながら、その曲が生まれた時代やミュージシャンの物語を語る。

音楽を聴くというより、紙芝居のように物語を楽しんでもらいたいのである。

音楽は、背景を知ると何倍も面白くなる。

1972年の最終放送で、私はリスナーへこんなことを話した。

「大人になっても、何かを知りたいという気持ちだけは忘れないでください。」

あの頃は若者だった。

今では、その何倍もの年月を生きてきた。

けれど、自分ではあまり変わった気がしない。

AIを触るのも面白い。

コーヒーを焙煎するのも面白い。

新しいレコードを探すのも楽しい。

結局、人は歳を取るのではなく、好奇心を失った時に老いるのかもしれない。

人生は、一直線ではない。

寄り道もする。

迷子にもなる。

遠回りもする。

けれど、そのすべてが一本の「Long and Winding Road」だったのだと、今なら思える。

レコードの針を落とす音。

焙煎した豆から立ちのぼる甘い香り。

コーヒーカップを手に笑う人たち。

AIと向き合いながらも、最後は自分の耳と手を信じること。

そのどれもが、私にとっては同じ一本の道の上にある。

今日もまた、その道の続きを歩いている。

ゆっくりと。

遠回りをしながらも…


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