11月30日の土曜日、寒さがじんわりと身に沁みる早朝の「いつもの展望台」。集まった4人で湯気の立つ温かいコーヒーを手に、昇る太陽を待つひととき——そこで交わされたのは、穏やかな朝の空気とは対照的な、現代デジタル社会の急所を突く深い議論でした。
身近なスーパーで突如起きたキャッシュレス決済の障害から、日本の人口を遥かに超える3億件以上のデータ流出、そして「インターネットは半年以内に自滅崩壊する」という衝撃的な見立てまで。
物理的な世界の確かな温もりと、私たちが依存するデジタル社会の脆さ。そのコントラストの中で語られたテーマを、テクノロジーと暮らしの視点から紐解いてみたいと思います。
会話の口火を切ったのは、地域の身近なスーパー「エブリー」などで発生した、カード決済やプリペイドカードの突然の停止トラブルでした。
買い物客がいつものようにカードで支払おうとしたところ、システムエラーにより突如として現金決済しか受け付けられなくなり、チャージすらできずに混乱が生じたといいます。
「現金しか使えんようになったね」 「カードで払う思ったらね、現金って言われたけ……止まっとってチャージするつもりで行った者も困っとったよ」
普段、スマートで便利なキャッシュレス決済に頼り切っていると、インフラのバックエンドやネットワークの障害によって、一瞬にして自律的な購買行動が奪われてしまいます。さらに会話では、アプリやカード利用時に「不要な個人情報まで提出を求められ、隠し財産まで丸裸にされるのではないか」という懸念も示されました。
利便性と引き換えに、私たちは自らのプライバシーの主導権と、システム障害に対する耐性を無意識に手放しているのかもしれません。
話題はさらに、現代の重大なリスクであるデータ流出の問題へと深く踏み込んでいきました。現在、日本国内で流出した個人データの件数は、トータルで3億件以上に達していると語られます。
人口を大幅に超えるデータが流出しているというこの現実は、一人の人間に関する複数の属性情報が世間に漏洩し続けていることを意味します。
「トータルで日本国で3億件以上ですかね……国民の何倍ものデータ人数分が、もう世間へ世間へと言いますか、流出してます」
なぜ、これほどまでにデータ流出は止まらないのか。そこには「データを電子化してネットワークに投げる」という行為そのものの本質的なリスクが存在します。
「電子化されたデータというのは、もう完全に共有を基本としてますんで。プライバシー、パーソナルデータはありえないですよね。電子化された時点でもう公開されたものと、私は認識してますが」
本来、ネットワーク上でデジタル化された情報は複製と共有を前提として構造化されています。にもかかわらず、私たちは「暗号化されている」「管理されている」という幻想を抱き、プライバシーが守られていると思い込んでいるのではないでしょうか。データを電子化した時点で、それは実質的に「公開されたものと同義である」という指摘は、現代人の甘いデータ観に冷や水を浴びせるものです。
この日の会話で最も刺激的だったのは、「今の勢いで行くと、インターネットは半年以内に自滅崩壊するのではないか」という予言のような提起でした。
もちろん、これは厳密な統計的根拠に基づく予測ではなく、現在のネット環境の崩壊スピードに対する直感的な危機感の表れです。
「インターネット自滅崩壊という……個人的には半年以内ということで予測をお話ししてますが」 「でき始めの頃のインターネットは、みんな持ち寄りで回線も自前ですよね。隣のコンピューターとさえ繋がれば共有していた。それが商用化してからですね、こっちもなんか、もう一直線に崩壊に向かって進んできたような気がします」
初期のインターネットは、有志が自前で回線を用意し、互いのコンピューターを接続して知識やリソースを「持ち寄り、共有する」分散型の善意で成り立っていました。ユーザー主体の草の根ネットワークだったのです。
しかし、過剰な商用化と中央集権化が進んだ現代のインターネットは、巨大プラットフォームによるデータ囲い込みと収益至上主義に覆尽くされています。本来の共有精神を失い、肥大化しすぎたシステムが自らの重圧と歪みによって崩壊へと一直線に向かっているという分析は、あながち極論として片付けられない重みを含んでいます。
時計の針が6時29分を回る頃、展望台の下を流れる川の上流から、幻想的な「川霧(ガス)」が立ち上り始めました。冷え込んだ早朝の空気の中、肉眼でもはっきりと確認できる太陽がドラマチックに姿を現し、周囲の景色を優しく包み込んでいきます。
自然が織りなす圧倒的な美しさと、人間の作ったデジタルシステムの脆さ。
「画面の向こう側の便利さ」に身を委ねきった私たちの暮らしは、システムが一歩足元から崩れたとき、果たして立ち成り立ち得るでしょうか。ネットが本来持っていた健全な距離感や、自らのデータと暮らしを守る手触りのある手段について、今一度立ち止まって考えるべき時に来ているのかもしれません。
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