第三百七十二話『純粋さを失わない』-【日本の文豪篇】泉鏡花-
2022-10-15 12:14

第三百七十二話『純粋さを失わない』-【日本の文豪篇】泉鏡花-

その名を配した文学賞が、50周年を迎える文豪がいます。
泉鏡花(いずみ・きょうか)。
先日、50回目の受賞作が発表された泉鏡花文学賞は、金沢市が1973年に制定したもので、地方自治体が主催の文学賞は当時全国で初めてでした。
鏡花は、1873年11月4日、金沢で生まれ、この街を生涯愛し続けました。
ただ、16歳で上京してからは、転居の連続。
湯島、麻布、浅草、神田、本郷、鎌倉と、落ち着きません。
尾崎紅葉(おざき・こうよう)に憧れ、小説家を志し、意気揚々と東京の地にやってきた鏡花は、世間の厳しさに打ちのめされます。
食べるものもない、寝る場所もない。
1年間の放浪生活に見切りをつけるときがきました。
ただ、ひとつだけ心残りがありました。
憧れの大作家・尾崎先生に、せめてひと目会いたい。
明治24年10月19日。もうすぐ18歳になる泉鏡花は、早朝の神楽坂通りを、ひとり歩いていました。
木綿の着物に書生袴、色は白く、痩せていて小柄。
眼鏡は、興奮のためか曇っています。
目指すは、牛込横寺町にある、尾崎紅葉先生の家。
神楽坂を歩いていると、不思議と心が落ち着いていきました。
坂や路地の風景が、ふるさと・金沢に似ていたからかもしれません。
「食べるのにも困るありさまなので、もう故郷に帰ろうと思います。ただ、一度だけ先生のご尊顔を拝したく…」
鏡花がたどたどしくそう話すと、尾崎は言いました。
「おまえも、小説に見込まれたな。都合ができたら、世話をしてやっても良い」
少年・鏡花の純粋な小説への想いが、尾崎の心をうったのです。
玄関先のわずか二畳の部屋をあてがわれ、鏡花は、尾崎邸で暮らすことになります。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)、妖怪や化け物、異界との境界線を描く幻想小説を得意とした鏡花ですが、異形の者たちの人間らしさや、純真な人間への救いの手が印象に残ります。
彼は、いかにして自らの純粋さを守ったのでしょうか。
今もなお、多くのファンを魅了してやまない唯一無二の文豪・泉鏡花が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

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