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ストーリーとしての思想哲学
思想染色がお送りします。
前回、行動遺伝学の話、それから能力の遺伝率の話をしました。
そして、親の能力の遺伝率の話が面白おかしく誇張されて、
遺伝子が人生の大部分を決定してしまうんだという思想が、若い世代の間で流行りつつあるようです。
試しに、GoogleやXで、遺伝ガチャで検索してみると、それがわかるかと思います。
ちなみに、このような、全てはあらかじめ決められているんだっていう世界観のことを、決定論と言います。
でも、行動遺伝学は、遺伝決定論ではなく、
人間は遺伝と環境の相互作用によって作られるっていうのが、その大原則です。
にも関わらず、遺伝に関する話が若い世代の間で流行るということは、
遺伝決定論に納得してしまうだけの理由があると、まずは考えるべきでしょう。
なぜなら、いつの時代も若者っていうのは、最新の世相を敏感にキャッチするものだからです。
その辺りについても、実は前回紹介した
「運は遺伝する」という本の中で考察されていて、僕もそうだなと思ったんだけど、
様々な能力や特徴は、遺伝と環境によって規定されてくるということでしたよね。
で、若者が遺伝に価値を大きく感じるようになったのだとしたら、
それはみんな似たような環境で人生を送るようになったことで、
環境の影響度が小さくなったからだと思います。
つまり、例えば自由主義やリベラリズムなどが社会に浸透した結果、
若い世代はみんなが環境に縛られないようになったと。
昔は親と同じ仕事をする、
親が農家なら子供も農家をやるとか、
親が大学に行かせてくれないとか結構あったと思うんですけど、
今はそういうの減ったじゃないですか。
まあ今は今で、インスタグラムとかのSNSで、
富裕層の生活とかが買いまみれてしまうから、
不公平感とかは感じやすくなったかもしれないんだけど、
ただ昭和の時代とかより、
社会が自由主義的になってきているっていうのは間違いないだろうと思います。
社会が個人の自由をすごく尊重するようになったから、
人間は環境によってあんまり縛られなくなりました。
こうして環境要因が小さくなったことで、
相対的に遺伝要因が大きくなったんだっていうことです。
これを裏付けるものとして、
行動遺伝学者のターク・ハイマーという人がSESという指標について述べています。
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このSESは子供の家庭環境を捉える指標で、
親の収入や学歴などから算出されるものです。
で、SESが高いほど遺伝率が高くなり、
SESが低いと遺伝率も低くなるんだということです。
これは豊かになるほど経済的な制約などを受けにくくなるから、
生まれつきの潜在能力を発揮しやすくなるため、
遺伝率が上がるということを示唆しています。
また逆に、貧しいと経済的な制約など、
いろいろな面で環境の制約を受けやすくなるから、
環境要因に引っ張られて、遺伝率が下がるということも示唆されています。
だからやっぱ若者の感覚っていうのは結構纏いているんですよね。
はい。
では、やはりこれからますます親ガチャや遺伝ガチャの占める割合が上昇して、
良い人生を送れるかどうかは、生まれ育ちで決まるのかっていう話になりますよね。
だけど普通に考えて、そうは思いたくないです。
だって生まれ育ちで人生の大部分が決まるなんて不公平だし、
端的に不健全じゃないですか。
とはいえ、遺伝というものがあるということは事実だから、
そこから目を逸らしてもいけない。
遺伝と平等という本の著者、ハーデンという人もそのことを強調していて、
今の時代、遺伝の影響を語らないのは罪だとまで言ってます。
今回は一旦ここで切って、
次回、遺伝の影響というファクトを認識しつつ、
遺伝決定論に陥らないとはどういうことかという話をしたいと思います。
次回もよろしくお願いします。