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ストーリーとしての思想哲学
思想染色がお送りします。
前回のまとめから始めます。
人間の心というものを解き明かすには、主に二つの論点があるといえます。
一つ目は、人間のある感情は、どのような進化生物学的な要請により発生したのかという点。
例えば、汚いという嫌悪感は病原菌を避けるために生じたとか、そういう感じのことです。
二つ目は、個々人にはそれぞれ心理的特徴というものがあります。
恐怖とか嫌悪感とか喜びとか、そういうでっかい原始的な感情だけではなく、
人間にはもっと繊細な感情も備わっているし、感情といっても強弱や深さの広がりがあります。
これを心理的特徴と呼びますが、個人個人で少しずつ異なるはずの心理的特徴は、
遺伝するのか、遺伝するのであればどの程度遺伝するのかという点です。
人類学者のギグリエリの著書、「男はなぜ暴力を振るうのか?」という本によると、
いくつもの人間の行動が遺伝的性質に基づいていることがわかっているということです。
例えば、アルコールの消費量、自閉症、言語障害、パニック障害、接触障害などです。
また心理学者のジム・スティーブンソンの創生時、双子を最小にした研究によれば、
人格の特徴、特に行儀の良さでさえ、遺伝子の関連が50%以上に達していることを示しているということですが、
そういう感じのことです。
まず一つ目からいきましょうか。
端的な例を出すと、人間だけじゃないですが、愛という感情がありますね。
親子愛なんてわかりやすいですが、生物学的には、
親個体は自らの遺伝子を残したいという根源的欲求が備わっています。
というか、進化的には、自らの遺伝子を残したいという欲求が備わっている個体だけが淘汰されなかったといった方が正しいですね。
親が子供を保護して成長を助けることは、子孫を繁栄させることにダイレクトに繋がりますから、
親である個体が子供の個体に愛着を持つという挙動をすることは、繁殖の観点から有利であったからそうなったのだと言えます。
本当はもっと激烈な例がいくらでもあるんですけど、とりあえずマイルドな例を一つ紹介します。
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先ほどのギグリエリの、「男はなぜ暴力を振るうのか?」からの引用で、
アフリカのライオンの挙動を進化論的あるいは生物学的な観点から説明したものです。
まずライオン社会では、メスだけが生まれた群れに残り、若いオスは大人のオスライオンによって群れから追い出されます。
この追い出された若いオスは群れを出て、一緒に生まれた兄弟、半兄弟、いとこといった基本的に血族集団で移住して、彼らは基本的にずっと一緒にいます。
で、いずれこの若いオスたちは戦闘部隊として一緒に戦い、他の群れの大人のオスを襲ったり殺したりすることで、他の群れを乗っ取るようになります。
それでその乗っ取った群れにいる幼いライオンを殺すという挙動をします。
なぜこのようなことをするかというと、オスの血族集団は他の群れを乗っ取りますが、その支配は平均して33ヶ月しか続かないからです。
時間がないからできるだけ早く、自分らがやられる前に自分を父とする子の数が最大になるように振る舞っているというわけです。
まあそれ自体は合理的なんですが、一つ疑問が浮かびます。
血縁ベースの若いライオンの群れは、戦闘部隊として他の群れを襲うということでしたが、その中で命を落とすライオンも当然たくさんいます。
そうしたらもう自分の遺伝子は残せないわけですが、なぜわざわざ自分が戦いで死んでしまうリスクを犯すのか、もっと平和的な方法だってあるのではないのだろうかという疑問です。
そこで出てくるのが、集団遺伝学の包括適応度という概念です。
若いライオンの群れは基本的に血縁をベースとしていると言いました。
実は自分と遺伝子を共有している他の個体、兄弟がたくさん子孫を作れるならそれでもいいんですよ。
兄弟姉妹っていうのは確率的に2分の1の遺伝子を自分と共有する存在です。
自分を犠牲にして他個体を救う利他的行動において、その対象が兄弟姉妹であるならば、
もしその行動によって仮に自分が死んでしまったとしても、兄弟が2個体より多くの個体を繁殖させることに成功したとすれば、自然とうたを自分が生き延びたのと同じことになります。
これわかりますかね?
もちろんみんなで生き延びられればそれが一番いいけど、自然界って厳しいから、
自分を犠牲にしてでも兄弟を生き延びらせることが合理的になるということもあり得る。
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自分を含めた兄弟が全滅すれば残せる遺伝子はゼロですけど、
自分と同じ遺伝子を2分の1持っている兄弟が生き延びて繁殖できれば、少なくとも遺伝子は2分の1は残せます。
で、その兄弟の子供が2人以上いれば、期待値は1を上回りますから、
兄弟のために利他的行動ができる形質を持った個体群というのが理論上増え続けることになります。
このような理由から、包括適応度が上昇する挙動、あるいは小殺しのような挙動が生物には広く見られます。
これは人間も同じですね。
つまり生物というものは、とことん遺伝子に対して合理的だということです。
はい、このように兄弟愛・親子愛・友情・信頼・共感などの心理的な現象と、
遺伝学・生物学、さらには考古学や文化人類学などを絡めて総動員して包括的に説明していこうとする進化心理学の話でした。
あまりに多分野にわたる包括的な学問ですから、進化心理学の厳密な定義は結構難しい部分があります。
ですが、進化心理学が何を解明しようとしているのか、その設計質は何なのかというのはなんとなくわかったんじゃないでしょうか。
まだまだ次回に続きます。次回もよろしくお願いします。