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2024-04-18 20:30

021坂口安吾「足のない男と首のない男」

021坂口安吾「足のない男と首のない男」

タイトルは怖そうですが内容はそんなことありません。内容はすべて作者の空想でしょうか。最初の文章が「むかしむかし」だし。今回も寝落ちしてくれたら幸いです。


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寝落ちの本ポッドキャスト
こんばんは、Naotaroです。 このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、 それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。 作品はすべて青空文庫から選んでおります。
ご意見ご感想は、公式Xまでどうぞ。 さて今日は
坂口安吾さんの 足のない男と首のない男
というテキストを 読んでいこうと思います。タイトルが怖いですね。
坂口安吾さんは小説家で、代表作にダラクーロン、それから 風博士というのかな?
などがあるそうです。 タイトルは怖いですが、さらっと読んだ感じ
そんなことはないですね。 壮大な
嘘だと思って読むとちょっと面白いですね。 それでは参りましょう。坂口安吾。足のない男と首のない男
昔々去るところに奇妙な病院ができた。 熱療法と称するので、臨病の患者などが通う。
するとタンクの中へ人間を投げ込み、 首だけ出して全身をむすのだそうだが、
中村治平の弟子の日大の芸術家の生徒が ここへ駆けつけてタンクの中へ寝かされて、
ものの5分もむされると悲鳴をあげて、 「死んでしまうから出してくれ。今出ると治らないよ。」
治らなくとも死ぬよりいいよ。 方々の手で転がり出て帰ってきたという話がある。
一日タンクの中で唸って出てきた時に、 ビールを一本飲ましてくれるそうで、そのうまいことことさらだと言うけれども、
ビールのうまさにつられて、翌日も出かけようという 意思強そうなマスラオは少ないそうで、
このタンクへ日々参って無事病魔を退治する人物は、 他の日の人生のあらゆる魔物を退治できるに相違いないということである。
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こういう変わった病院であるから、 そこに働く人物も自らただ者ではないので、
昔杉山秀樹と郡山智夫という二人の事務員がいたのである。 ドクターでないから何も知らない患者にとっては大変良かったようなものだが、
この両名は天下に稀なオチョコチョイだから、 ドクトルの留守の時などには薄意をつけて、
もっともらしく患者をタンクへ詰め込んで、 首まで潜して面白がって、
患者を半殺しにするぐらいはやりかねないので、 この二人がここへ勤めていたというのは、
キチガイがキチガイ病院の院長を勤めているように自然であった。 そして二人は非常に仲が悪かった。
懸縁もただならずとは二人のことで、何がさて波の人間の十倍ぐらい 口のよく回転する両名だから、
悪口雑言。 よくまあこんないやらしい言葉を吐き溜めから吐き回して拾ってきたと思うようなことをお互いにかげで叩き合っていたのである。
五両名が仲が悪いのは最も先番で、 杉山秀樹という先生は
バルザックの世界 という大著述を残したが、
ちょっと読むとひどく面白いことが書いてあるようだが、 よく読むとなんだかさっぱりわからなくなるので、
多分杉山自身もよく考えるとわからんけれども、 ちょっと面白そうなことが
3行に1行ずつ書いてあるから、人間に読ませるならこれぐらいでたくさんだと思って、 威勢よく書きまくったのだろうと思う。
本質的なほら吹きであった。
何でも知らないということがない。 何か人が話をしていると、
うん、それは。 と言って横から膝を乗り入れてくる。
何でも知っている。 そしていかにももっともらしく真に迫って、
時々叱るべき文献なども現れて、 疑うべからざる論拠を明らかにしてくれるけれども、
これがみんな嘘っぱちのデタラメなのである。 叱るべき文献もデタラメだ。
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本の名前ぐらいは本当でも、 その中に彼の言っているようなことは決して書いてはないのである。
けれども彼の話は真実よりも真実に迫って、 もっともらしく語られる。
どこへでも旅行している。 誰とでも親友だ。
けれどもみんな嘘なのである。 彼は知らない親友について微細な描写や家庭生活や人となりやエピソードなど、
彷彿と目の当たりに見るがごとくに描写するが、 これはみんなその時不意に思いついた彼の一瞬のイマージュに過ぎない。
私がキリシタンの文献が手に入らなくて困っている時、 彼に会ってその話をすると、
その文献ならなんとか教会にあって、 そこのフランス神父は友達で、
先日まって何についてどんな話をしてきたなどと、 清流の流れるごとく語り出すから、
それはありがたい。早速神父に紹介してくれ。 これから行って本を読ませてもらうから。
と言うと、 うん。
ところが、 と、
彼はちっとも困らず、 今はその本は教会にはないね。
なぜ、なぜならばね、 もっかある人が借りている。
この借りた人がなぜに借りているかというと、 これには次のような面白い事情があって、
もちろん神父などは友達ですらないのである。 足のない幽霊みたいなところがあって、
つまり足のない一爪入道みたいな男だ。 鉄の棒を持っているが、この棒の先の方も幽霊的に足がなくて、
人をポカンと殴る。 よく命中するけれども、
鉄の棒の足がないから、 命中しても風が起こるばかりで、先方はポカンとするが、目は回さない。
彼の文学の論法はあらかたそういうものである。 ところが一方、郡山智夫という先生は、
足の方はひどく大きなけずねで、 年中ゴロゴロうるさく地球をひっかき回して歩いているが、
首から上が消えてしまってないのである。 大酒飲みだから首がないと困るけれども、
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彼はへそから飲む。 そしてそのへそで年中うるさいほど、
ガヤガヤごちゃごちゃ喋りまくっているのである。 郡山智夫の声は一種独特のしゃがれ声で、
的矢の声に熱い鉛のメッキをかけて、 年中ふいごで吹いているような声であるが、
交絡研究所で一番響きの悪い声で、 国民学校一年生のようにうるさくどなったり、拍手したり、
落ち着きなく見物しているのがこの男だ。 ところがこの男は、
毎日プロ野球を見物しているだけがNOかと思うと、 そうではないので、
バンザイも見ているし、 安木節の小屋で掛け声をかけていることもあるし、
何話節でもレビューでも何でも、 行儀の悪い見物人ののさばるところは、
どこでもこの男を見かけることができて、 その中で誰よりものさばって行儀が悪い。
小さい男で、あんまり落ち着きなくはしゃいでいるから、 国民学校の子供かなと思うけれども、
やっぱり大人で。 第一、声がジャングルの声だ。
ボルネオの子供かなと人が思ったりするので、 近頃郡山が鼻ひげを生やしたのはそのせいなのである。
彼は熱療法の病院を退職すると、 その次には浅草の安木節の雑記作者になって、
全くどうもこういうところにも脚本家などの必要があったのかね。 私は知らなかった。
威勢のいい姉さんのために大いに情熱を傾けて脚本を書いてやっていた。
そのうちに戦争が白熱してきて、 安木節もダメになると、
経済なんとか研究所、 名前はすごいが社長と郡山と2人しかいないところで、
これはつまり闇屋の品物をしかるべく取り継いでやる機関なのである。 この先生はつまりまともな仕事ができない本性なので、
病院へ勤めるにも松沢病院などという当たり前のところは気が向かない。 雑記作者になるにもインチキレビューとくるとまだ少しまともすぎて、
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安木節とこないとどうしても収まることができない。 闇屋なども当たり前の商売だとダメなので、闇屋の上前を跳ねる経済研究所とこないと収めることができないという
因果な先生なのである。 いよいよ空襲が始まる頃になると、
経済研究所もその筋につぶされてしまい、 私が神田の本屋を冷やかしていると、ぶらぶら向こうから歩いてくる郡山にぶつかり、
やあ、どうしている? そこの参考出版社本部に勤めているよ。
というので私は、 日本はもうダメだと思った。
私はそれまで世の中の詳しいことは知らないが、 内閣だの、情報局だの、
体制抑産会だの、 みんなそれぞれ筋の正しいもので、
参考出版というところなどもそうだろうと思っていた。 しかし郡山千冬が勤めているようでは、これはもうまともなところではない。
浅草の裏道と同じ人生の裏道で、 インチキな仕事をしている事務所に決まっているのである。
日本の堕落ここに至る。 私が安全として昔の旧正軍本部を仰いで、
祖国のために安累を流したのも無礼なるかな。 今日遂に敗北し、戦争10年の日本の腐敗、
慣海軍閥の堕落の跡を眺めれば、 郡山などは最もまともな紳士であったではないか。
大将だの、大臣だの、長官などというものは、 みんな無事なか生ずか何かであり、
郡山はボルネオの国民学校の優等生で、 全く裏も表もない、それだけの正真正銘の人間だったのである。
彼はこれだけ忙しい人生の合間合間に、 ゲーディだの、シラーだの、
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時にはゴッホの絵本などという、 どこから種本を見つけてくるのやら、
翻訳という仕事をやり、
私が小説の本を出したよりも、 たくさん翻訳の本を出しているのである。
大観洞書店が郡山の家へ、原稿を取りに行って、 飽きれて帰ってきて、翻訳の大先生だから、
たくさんの用書が、ぎっしり部屋に 詰まっていると思っていたのに、
空っぽの本箱に30冊ほどの本が、 ちょぼちょぼとあって、その大部分が、
講談クラブで、 用書は一冊もありませんでした。
と言ってため息を漏らした。 私もこの本箱のことならよく知っており、
全く講談クラブを入れて30冊、 それ以上のいかなる本も所持していないのである。
こういう渋い人物であるから、 杉山秀樹の玄学的大風呂敷とは、それは合わないので。
由来玄学者は田舎者であり、 郡山は最も意気好みの渋い男で、
うるさくて騒々しくて、 ひっきりなしの電車みたいで困るけれども、
当人が意気好みであるという精神においては、 変わりがない。
まともな商売はやれないという意気込みだから、 何とも騒々しいのは仕方がない。
足のない大乳頭の幽霊と、 首のない毛筋だけの地球をゴロゴロひっかいて走り回っている、
うるさい意気好みの男と。 昔の日本では騒々しいのが二人。
大変仲が悪かったのだが、 戦争が終わってみると、
気の毒に足のない大乳頭の幽霊の方が死んでしまった。 杉山が生きていれば、日本の文壇はもう一回りうるさくなり、
バルザックだの、サントブーブだの、 ボルテールだのと読まない本を何百冊も並べ立てて、
ともかく命中するのは風ばかりにしろ。 細い鉄棒を振り回して、低気圧の子供ぐらいは年中巻き起こしたはずであった。
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大将だの、大臣の正体が暴露されて檻につながれ。 世は変わり。
ここに、郡や町ふゆも魔人間となる時が来たので、 英社の編集記者となり、
この雑誌社は裏街道ではないようで、 どうやら人間の表街道へ現れるに及んで、
なるほど世の中は根底的に変わったんだなぁと私は彼を眺めて、 世のただならぬ大変天に気づいたのである。
先日、英社の座談会で、 私は喋る方であり、
郡山は喋らせる方で、 二本のウイスキーを取り出したから、
「おい、命の方は?」と私が大いに慌てると、 先生も決まり悪がって、
「冗談じゃないよ。英社が買うウイスキーじゃないか。 昔は郡山先生が手掛ける酒は命に関わるものに決まっていた。
しかし世は変わり、 あに世の変わりを信ぜざるべけんや。
すなわち私は、 新日本の生誕を信じるゆえに、
我前暗さをとってしたたかに煽り、 今日もなお生きており、
世の一大変天を命を懸けて実証するに至った。
郡山くん、口談クラブを焼きたまえ。 1998年発行、ちくま書房
坂口暗号全集04より読み終わりです。 事実なのかなぁ。
嘘っぽい感じもちょっとしますけどね。 フィクションだったらもう片方の方をあんなに先に殺さないか。
戦争が終わって世界は変わったというお話でした。 それでは今日はこのあたりで終わりにしたいと思います。
また次回お会いしましょう。 おやすみなさい。
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