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2024-12-11 04:03

絵のない絵本 第八夜

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朗読

アンデルセン作、青空文庫より

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絵のない絵本 第八夜
重い雲が空一面に垂れ込めて、月は全く姿を現しませんでした。
私は二重の寂しい思いに駆られながら、私の小部屋の中に立って、
いつも月が輝き出てくる辺りの空を眺めていました。
私の思いは広く駆け巡りました。
そして、あんなに美しい話を聞かせてくれたり、素晴らしい絵を見せてくれたりした、
偉大な友達のことに思いを呼びました。
そうです。今までにこの月の体験しなかったことがあるでしょうか。
私はノアの大洪水の時にも、その水の上をほばしったのです。
そして、ちょうど今私に微笑みかけているのと同じように、
箱舟の上に微笑みかけて、やがて花咲き出ようとする新しい世界の慰めをもたらしたのです。
イズラエルの人民が泣きぬれて、バビロンの川辺に立った時、
あの月は縦ごとのかかっている柳の木の間から、悲しげにそれを覗いたこともあるので、
ロメオが露台の上にのじのぼって、
誠の愛のせっぷんが天使の思いのように天へと昇って行った時、
丸い月は暗い糸杉の間に半ば隠れて、澄みきった空に浮かんでいたこともあるのです。
また、セントヘレナの島に遊兵された英雄が、高陵たる岩頭に立って、
胸に勇士を抱きながら、大海原を眺め合っている姿を見たこともあるのです。
そうです。月にとって話せないようなことが何かあるでしょうか。
この世界の生活は月にとっては一つのおとき話なのです。
03:06
懐かしい友よ、今夜私は君の姿を見ません。君の訪問の記念にどんな絵も描くことができません。
こうして私が無双にふけりながら雲の中を見上げますと、そこが明るくなりました。
それは一筋の月の光でした。けれども、その光はすぐまた消えてしまいました。黒い雲が滑って行ったのです。
しかし、それこそ挨拶でした。月が私に送ってくれた優しい晩の挨拶だったのです。
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