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茶話・道楽 ススキダ・キュウキン
郵便切手を集めるというと、なんだか子供じみたことのように思うものが多い。
また実際、ヨーロッパの子供には、切手を集めるに夢中になって、
日本人がたまに、故郷の郵便切手でもくれてやると、
親切なおじさんね。だから私、シナ人が好きなんだよ。
と、お世辞を振りまいてくれるのがある。
だが切手のコレクションは決して子供じみたことではない。
堂々たる帝王の授業で、その証拠には、
英国のジョージ王帝陛下が大の切手道楽であることを挙げたい。
およそ地球上で発行せられた切手という切手は、
残りなく陛下の手元に集まっている。
陛下が世界一の海軍とともに、世界一の郵便切手のコレクションを誇られても、
誰一人意義を申し上げるものはあるまい。
ジョージ陛下には今一つ道楽がある。
それはタイプライターを叩くことで。
この道にかけての陛下の手際は、ロンドンでナウテのタイピストに比べても決して引けは取らない。
だがタイピストとしての陛下にはたった一人、恐るべき相手がある。
それは、米国のウィルソン大統領で。
ウィルソン氏がタイピストとしての手際は、
大統領としての手腕よりも、学者としての見解よりも際立って優れている。
ウィルソン氏は暇さえあるとタイプライターに向かって、コツコツ指を動かしている。
ある忙しい会社の重役は、ひどく氏の手際に惚れ込んで、
タイピストとしてうちの会社に来てくれたら、七百ドルまでは出してもいい。
と言ったそうだ。
してみると、氏が若い御家さんを御才に持ったのは、
経済の立場から見ても間違ったことではなかった。