00:00
茶話 ススキダ吸菌
カイゼルの癖。カイゼルには妙な癖がある。 それは困ったことに出くわすと、自分の耳たぶを引っ張らずにはいられないということだ。
ずいぶん以前の話だが、カイゼルには、おばさんにあたる英国のビクトリア女王が亡くなられて、葬儀の日取りが電報でカイゼルのもとへ知らされてきたことがあった。
その折カイゼルは、六つになる老いを相手に、何か罪のない無駄話にふけっていた。 カイゼルは自重の手から電報を受け取ったが、中に何か気に入らぬことでも書いてあったものか、
カッコ。 カイゼルはイギリスとイギリス人とが大嫌いである。
すぐいつもの癖を出して、自分の耳たぶを嫌というほど引っ張った。 それを見てこましゃくれた老いは言った。
おじちゃん、何だってそんなに耳を引っ張るの? うん、
ちょっと困ったことができたでの。
いつも困るとおじちゃんは耳を引っ張るの? 老いは不思議そうに聞いた。
そうじゃそうじゃ。
カイゼルはじっと電報の文字に見どれながら答えた。 そんなら、もっともっと困ることがあったら、おじちゃんはどうするの?
その時はなぁ。 とカイゼルは電報をテーブルの上に投げ出して、
その手でいきなり老いの耳をつまむのだ。 その時はこうして人の耳を引っ張ってやるのじゃ。
講和問題でひどく弱り切っているカイゼルは、今度は誰の耳をつまんだものかとじろじろあたりを見回しているに沿いない。
正義のオオアキンド・ウィルソン氏など、よく気をつけないと、 ウサギのような耳たぶをちぎられるほど引っ張られるかもしれないて。