はじめに
前回は「トランプはアメリカの正常な産物なのかもしれない」という話をした。
今回はその続きとして、なぜそう言えるのかを、オバマ大統領という存在を軸に掘り下げていきたい。
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理想の大統領・オバマ——チャーチ的リベラリズムの体現者
2008年、バラク・オバマが黒人として初めてアメリカ大統領に就任した。
これは本当に歴史的な出来事だった。
オバマはハーバード大学ロースクールを主席で卒業した弁護士であり、言葉と対話を通じて問題を解決しようとする、リベラリズムの理想像のような人物だった。
「チェンジ(Change)」を掲げ「未来は変えられる」と訴えた。
前回の話でいう「チャーチ的な価値観」、つまり制度・法律・多様性の包摂を信じ、共同体への信頼を前提とした政治を体現していた。
ノーベル平和賞まで受賞したのも、その延長線上にある。
かっこいい。
本当にかっこいい大統領だったと思う。
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1970年代から続く、ラストベルトの空洞化
これから構造の話をする。
オバマ個人への批判ではないので留意してほしい。
アメリカ国内では1970年代から、製造業の空洞化が続いていた。
「ラストベルト(錆びた地帯)」と呼ばれる地域、デトロイトの自動車工場などがその象徴だ。
親が働いていた工場で自分も働く、そういう暮らしを送ってきた人たちの仕事が、じわじわと消えていった。
これはオバマのせいではない。
何十年も前から続いてきたことだ。
だがオバマが「変わることができる」と言い、グローバル化の波に乗れた人たちは確かに豊かになっていった。
一方で、製造業で生きてきた白人労働者層はそうではなかった。
結局、変わらなかった。
エリートに俺たちの何がわかるんだ——そういう鬱屈したものが、静かに積み重なっていたのだと思う。
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フロンティア規範から見ると、オバマの言葉は「否定」に聞こえた
オバマが訴えた「話し合いで解決する」「多様性を受け入れる」というリベラリズムは、前回紹介したフロンティア規範「やられたらやり返す」「力で決着をつける」という価値観を持つ人たちには、自分たちの誇りを否定されているように聞こえたのではないか、と僕は考えている。
アメリカにはもともと、エリートより「叩き上げ」を良しとする文化がある。
小屋で生まれ、独学で弁護士になり大統領になったエイブラハム・リンカーン。
西部劇出身の俳優から大統領になったロナルド・レーガン。
ブッシュ大統領にも、オバマのような「いかにも賢い」雰囲気はない。
でもああいうのもまた、アメリカなのだ。
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オバマに投票した人が、トランプに投票した
そして実際に、これは調査でも明らかになっている。
オバマに投票し、その後トランプに投票した有権者が、かなりの数いた。
彼らの行動を分析すると、こう読める「変化を求めてオバマに入れた。でも変わらなかった。一部の金持ちだけが得をして、移民が仕事を奪っていく。だったら今度は既存政治をぶっ壊す人間に入れる」。
だからある意味、「オバマがいたからトランプが生まれた」という側面がある。
時代の皮肉というやつだ。
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「TACOる」という言葉が示す、感覚のズレ
最近、TACOという言葉が話題になっている。
"Trump Always Chickens Out"の略で、「トランプはいつも最後には逃げる」というスラングだ。
日本人の感覚だと、「どうせTACOるんだから最初からやめとけばいいのに」と呆れる時に使う言葉だ。
でもアメリカのフロンティア規範を持つ人たちがトランプを「TACOった」と批判するときは、意味が全然違う。
強硬姿勢そのものは正しい。
ただ最後まで貫かないのはダメだという怒り方なのだ。
関税をかけること自体は批判していない。
「やり抜け」と言っているのだ。
この感覚のズレは、すごく大きいと思う。
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バグではなく、仕様である
ソフトウェアの世界に「それはバグではなく仕様です」という言葉がある。意図して設計されたものだ、という意味だ。
トランプという大統領は、まさにそれだと僕は考えている。
アメリカという巨大な社会システムの「仕様」として、条件が揃ったときに出てくるようになっている。
1970年代からの製造業の空洞化、白人労働者層の生活の停滞、オバマへの期待と失望、グローバル化の恩恵を受けた層との分断、そういったものが全部組み合わさって、このタイミングで「トランプ」という出力が出てきた。
もちろん、日本人の感覚からすれば意味がわからないし、言葉は荒っぽいし、外交もむちゃくちゃだと思う。
僕もそう思う。
ただ、僕が調べて考えた結果、現在のところそういう必然性が見えてくる。
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それでも、アメリカには修正する力がある
ただ、アメリカはトライアンドエラーの国でもある。
奴隷制を世界最後まで維持しながら、南北戦争という多大な犠牲を経て、それでも変わってきた。
日本はトラブルが起きないように事前に調整する文化が強い。
僕も元役人だから、その感覚はよくわかる。
でもアメリカは「とりあえずやってみて、違ったらやり直す」という国だ。
トランプは憲法の規定上、3期目はない。
今回の経験が教訓となって、またアメリカというシステムが変わっていくのだろうと思っている。
早くそうなってほしいというのが正直な気持ちだ。
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https://stand.fm/channels/664b04d7316143a77174b611
前回は「トランプはアメリカの正常な産物なのかもしれない」という話をした。
今回はその続きとして、なぜそう言えるのかを、オバマ大統領という存在を軸に掘り下げていきたい。
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理想の大統領・オバマ——チャーチ的リベラリズムの体現者
2008年、バラク・オバマが黒人として初めてアメリカ大統領に就任した。
これは本当に歴史的な出来事だった。
オバマはハーバード大学ロースクールを主席で卒業した弁護士であり、言葉と対話を通じて問題を解決しようとする、リベラリズムの理想像のような人物だった。
「チェンジ(Change)」を掲げ「未来は変えられる」と訴えた。
前回の話でいう「チャーチ的な価値観」、つまり制度・法律・多様性の包摂を信じ、共同体への信頼を前提とした政治を体現していた。
ノーベル平和賞まで受賞したのも、その延長線上にある。
かっこいい。
本当にかっこいい大統領だったと思う。
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1970年代から続く、ラストベルトの空洞化
これから構造の話をする。
オバマ個人への批判ではないので留意してほしい。
アメリカ国内では1970年代から、製造業の空洞化が続いていた。
「ラストベルト(錆びた地帯)」と呼ばれる地域、デトロイトの自動車工場などがその象徴だ。
親が働いていた工場で自分も働く、そういう暮らしを送ってきた人たちの仕事が、じわじわと消えていった。
これはオバマのせいではない。
何十年も前から続いてきたことだ。
だがオバマが「変わることができる」と言い、グローバル化の波に乗れた人たちは確かに豊かになっていった。
一方で、製造業で生きてきた白人労働者層はそうではなかった。
結局、変わらなかった。
エリートに俺たちの何がわかるんだ——そういう鬱屈したものが、静かに積み重なっていたのだと思う。
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フロンティア規範から見ると、オバマの言葉は「否定」に聞こえた
オバマが訴えた「話し合いで解決する」「多様性を受け入れる」というリベラリズムは、前回紹介したフロンティア規範「やられたらやり返す」「力で決着をつける」という価値観を持つ人たちには、自分たちの誇りを否定されているように聞こえたのではないか、と僕は考えている。
アメリカにはもともと、エリートより「叩き上げ」を良しとする文化がある。
小屋で生まれ、独学で弁護士になり大統領になったエイブラハム・リンカーン。
西部劇出身の俳優から大統領になったロナルド・レーガン。
ブッシュ大統領にも、オバマのような「いかにも賢い」雰囲気はない。
でもああいうのもまた、アメリカなのだ。
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オバマに投票した人が、トランプに投票した
そして実際に、これは調査でも明らかになっている。
オバマに投票し、その後トランプに投票した有権者が、かなりの数いた。
彼らの行動を分析すると、こう読める「変化を求めてオバマに入れた。でも変わらなかった。一部の金持ちだけが得をして、移民が仕事を奪っていく。だったら今度は既存政治をぶっ壊す人間に入れる」。
だからある意味、「オバマがいたからトランプが生まれた」という側面がある。
時代の皮肉というやつだ。
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「TACOる」という言葉が示す、感覚のズレ
最近、TACOという言葉が話題になっている。
"Trump Always Chickens Out"の略で、「トランプはいつも最後には逃げる」というスラングだ。
日本人の感覚だと、「どうせTACOるんだから最初からやめとけばいいのに」と呆れる時に使う言葉だ。
でもアメリカのフロンティア規範を持つ人たちがトランプを「TACOった」と批判するときは、意味が全然違う。
強硬姿勢そのものは正しい。
ただ最後まで貫かないのはダメだという怒り方なのだ。
関税をかけること自体は批判していない。
「やり抜け」と言っているのだ。
この感覚のズレは、すごく大きいと思う。
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バグではなく、仕様である
ソフトウェアの世界に「それはバグではなく仕様です」という言葉がある。意図して設計されたものだ、という意味だ。
トランプという大統領は、まさにそれだと僕は考えている。
アメリカという巨大な社会システムの「仕様」として、条件が揃ったときに出てくるようになっている。
1970年代からの製造業の空洞化、白人労働者層の生活の停滞、オバマへの期待と失望、グローバル化の恩恵を受けた層との分断、そういったものが全部組み合わさって、このタイミングで「トランプ」という出力が出てきた。
もちろん、日本人の感覚からすれば意味がわからないし、言葉は荒っぽいし、外交もむちゃくちゃだと思う。
僕もそう思う。
ただ、僕が調べて考えた結果、現在のところそういう必然性が見えてくる。
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それでも、アメリカには修正する力がある
ただ、アメリカはトライアンドエラーの国でもある。
奴隷制を世界最後まで維持しながら、南北戦争という多大な犠牲を経て、それでも変わってきた。
日本はトラブルが起きないように事前に調整する文化が強い。
僕も元役人だから、その感覚はよくわかる。
でもアメリカは「とりあえずやってみて、違ったらやり直す」という国だ。
トランプは憲法の規定上、3期目はない。
今回の経験が教訓となって、またアメリカというシステムが変わっていくのだろうと思っている。
早くそうなってほしいというのが正直な気持ちだ。
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