複数年予算という注目されなかった争点
今回は「複数年予算」について整理してみたい。
先日の選挙で、高市早苗さんが争点にしようとしていたテーマである。
しかし、結果的にほとんど争点にはならなかった。
マスコミも大きく取り上げなかった。
だが、僕はこれは非常に重要な論点だと思っている。
複数年予算とは何か。
そして何がメリットで、何が課題なのか。
今日はそこをわかりやすく整理してみたい。
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単年度予算という構造的インセンティブ
現在、日本の予算は原則「単年度予算」である。
つまり、年度ごとに予算を組み、その年度内に執行するという仕組みだ。
年末になると「予算消化のための工事が増える」とよく言われるが、これはあながち誇張ではない。
昔ほどではないにせよ、構造としては今も存在する。
なぜそうなるのか。
理由は単純である。
- 自ら必要だと要求した予算である
- 予算の成立は住民からの付託を受けている
- 予算事業を実施しないという選択は、原理的に正当化できない
「必要だと主張したのはお前だろう」という話になる。
さらに、仮に効率よく事業を進めてお金が余った場合は「その金額で足りたのなら、来年は今年使った分だけでいいよね」という議論になりやすい。
結果として、「使い切る」インセンティブが生まれる。
もちろん、すべてが無駄というわけではない。
しかし、制度設計として最適かと言われれば疑問が残る。
本来は、
少ないお金で最大の効果が出ればよい
はずなのだ。
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大型プロジェクトはどうしているのか
「では大型事業はどうしているのか」と疑問に思う人もいるだろう。
実は「債務負担行為」という仕組みによって、複数年契約は可能である。
例えば、エディオンピースウイング広島のような施設は、単年度では到底できない。
制度上、工夫すれば複数年対応は可能なのである。
しかし、これはあくまで例外的・技術的な処理であって、基本構造は依然として単年度主義である。
問題は、これから本格化する「インフラの維持管理」である。
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戦後インフラの老朽化という現実
日本のインフラの多くは戦後に整備された。
戦後80年を超えた今、60年、70年、あるいはそれ以上経過している構造物が大量に存在している。
当然、老朽化は進む。
広島市は川に囲まれた都市であり、橋が非常に多い。
これらの橋を定期的に点検・補修しなければならない。
実際、全国各地で陥没や老朽化事故は起きている。
埼玉県で発生した大規模な道路陥没も記憶に新しい。
インフラは「空気」のように存在しているが、維持しなければ確実に劣化する。
そしてある閾値を超えれば、もはや補修ではなく「架け替え」になる。
そのときの財政負担は一気に跳ね上がる。
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なぜ単年度では間に合わないのか
インフラ維持は、1年単位で完結する話ではない。
例えば、
- 5年単位での包括的な橋梁保守契約
- 10年スパンでの更新計画
- 地域単位での一括発注
こうした設計ができれば、施工業者も計画的に人員配置ができる。
現在は、4月から秋までに発注が集中し、年度末の3月までに終わらせるという形が多い。
その結果、工事時期が偏る。
人手不足が深刻化している中で、ピーク集中は大きな問題である。
複数年包括発注が可能になれば、
- 労務の平準化
- コスト低減
- 長期的視点での品質管理
が期待できる。
通常、長期契約の方が単年契約より合理的コストになる可能性が高い。
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水道事業の限界
さらに深刻なのは水道事業である。
電力は株式会社化されているが、水道は基本的に自治体事業だ。
人口減少が進む中で、例えば「5世帯しか住んでいない集落に新規水道管を敷設するか」という問題が生じる。
その工事費を回収できる見込みはあるのか。
将来その集落が存続している保証はあるのか。
日本では居住の自由が保障されている。
しかし、インフラ維持には莫大な固定費がかかる。
アメリカでは「ここから先はインフラ整備をしない」という線引きを明確にする地域もあるが、日本はそこまで割り切ってこなかった。
結果として、制度の枠内で現場が無理をする構図になっている。
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制度改正の壁
国が複数年予算を導入する場合、財政法改正で可能である。
しかし、地方自治体が本格的に導入するには、地方自治法の改正が必要である。
これは国、具体的には総務省が動かなければ実現しない。
つまり、国レベルでの制度改革がなければ、地方は動けない。
だが、国が本格導入すれば、自治体へ波及する可能性は高まる。
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複数年予算は「万能薬」ではない
誤解してほしくないのは、複数年予算を導入すればすべて解決するという話ではないということである。
これはあくまで「大きな枠組みの一つ」だ。
しかし、これが入るか入らないかで、インフラ維持の現実性は大きく変わる。
いま日本は、戦後整備したインフラが一斉に老朽化する転換点に立っている。
橋が落ちないことを祈る社会でよいのか。
陥没が起きないことを願う行政でよいのか。
アクティブな論点ではない。
人気が出にくいテーマでもある。
しかし、極めて重要なテーマだと僕は考えている。
僕は、国が複数年予算を導入し、さらに地方自治体にも展開されることを強く願っている。
インフラは空気ではない。
維持しなければ、必ず壊れる。
そして壊れてからでは遅いのだ。
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今回は「複数年予算」について整理してみたい。
先日の選挙で、高市早苗さんが争点にしようとしていたテーマである。
しかし、結果的にほとんど争点にはならなかった。
マスコミも大きく取り上げなかった。
だが、僕はこれは非常に重要な論点だと思っている。
複数年予算とは何か。
そして何がメリットで、何が課題なのか。
今日はそこをわかりやすく整理してみたい。
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単年度予算という構造的インセンティブ
現在、日本の予算は原則「単年度予算」である。
つまり、年度ごとに予算を組み、その年度内に執行するという仕組みだ。
年末になると「予算消化のための工事が増える」とよく言われるが、これはあながち誇張ではない。
昔ほどではないにせよ、構造としては今も存在する。
なぜそうなるのか。
理由は単純である。
- 自ら必要だと要求した予算である
- 予算の成立は住民からの付託を受けている
- 予算事業を実施しないという選択は、原理的に正当化できない
「必要だと主張したのはお前だろう」という話になる。
さらに、仮に効率よく事業を進めてお金が余った場合は「その金額で足りたのなら、来年は今年使った分だけでいいよね」という議論になりやすい。
結果として、「使い切る」インセンティブが生まれる。
もちろん、すべてが無駄というわけではない。
しかし、制度設計として最適かと言われれば疑問が残る。
本来は、
少ないお金で最大の効果が出ればよい
はずなのだ。
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大型プロジェクトはどうしているのか
「では大型事業はどうしているのか」と疑問に思う人もいるだろう。
実は「債務負担行為」という仕組みによって、複数年契約は可能である。
例えば、エディオンピースウイング広島のような施設は、単年度では到底できない。
制度上、工夫すれば複数年対応は可能なのである。
しかし、これはあくまで例外的・技術的な処理であって、基本構造は依然として単年度主義である。
問題は、これから本格化する「インフラの維持管理」である。
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戦後インフラの老朽化という現実
日本のインフラの多くは戦後に整備された。
戦後80年を超えた今、60年、70年、あるいはそれ以上経過している構造物が大量に存在している。
当然、老朽化は進む。
広島市は川に囲まれた都市であり、橋が非常に多い。
これらの橋を定期的に点検・補修しなければならない。
実際、全国各地で陥没や老朽化事故は起きている。
埼玉県で発生した大規模な道路陥没も記憶に新しい。
インフラは「空気」のように存在しているが、維持しなければ確実に劣化する。
そしてある閾値を超えれば、もはや補修ではなく「架け替え」になる。
そのときの財政負担は一気に跳ね上がる。
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なぜ単年度では間に合わないのか
インフラ維持は、1年単位で完結する話ではない。
例えば、
- 5年単位での包括的な橋梁保守契約
- 10年スパンでの更新計画
- 地域単位での一括発注
こうした設計ができれば、施工業者も計画的に人員配置ができる。
現在は、4月から秋までに発注が集中し、年度末の3月までに終わらせるという形が多い。
その結果、工事時期が偏る。
人手不足が深刻化している中で、ピーク集中は大きな問題である。
複数年包括発注が可能になれば、
- 労務の平準化
- コスト低減
- 長期的視点での品質管理
が期待できる。
通常、長期契約の方が単年契約より合理的コストになる可能性が高い。
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水道事業の限界
さらに深刻なのは水道事業である。
電力は株式会社化されているが、水道は基本的に自治体事業だ。
人口減少が進む中で、例えば「5世帯しか住んでいない集落に新規水道管を敷設するか」という問題が生じる。
その工事費を回収できる見込みはあるのか。
将来その集落が存続している保証はあるのか。
日本では居住の自由が保障されている。
しかし、インフラ維持には莫大な固定費がかかる。
アメリカでは「ここから先はインフラ整備をしない」という線引きを明確にする地域もあるが、日本はそこまで割り切ってこなかった。
結果として、制度の枠内で現場が無理をする構図になっている。
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制度改正の壁
国が複数年予算を導入する場合、財政法改正で可能である。
しかし、地方自治体が本格的に導入するには、地方自治法の改正が必要である。
これは国、具体的には総務省が動かなければ実現しない。
つまり、国レベルでの制度改革がなければ、地方は動けない。
だが、国が本格導入すれば、自治体へ波及する可能性は高まる。
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複数年予算は「万能薬」ではない
誤解してほしくないのは、複数年予算を導入すればすべて解決するという話ではないということである。
これはあくまで「大きな枠組みの一つ」だ。
しかし、これが入るか入らないかで、インフラ維持の現実性は大きく変わる。
いま日本は、戦後整備したインフラが一斉に老朽化する転換点に立っている。
橋が落ちないことを祈る社会でよいのか。
陥没が起きないことを願う行政でよいのか。
アクティブな論点ではない。
人気が出にくいテーマでもある。
しかし、極めて重要なテーマだと僕は考えている。
僕は、国が複数年予算を導入し、さらに地方自治体にも展開されることを強く願っている。
インフラは空気ではない。
維持しなければ、必ず壊れる。
そして壊れてからでは遅いのだ。
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