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2026-02-27 14:30

2026/02/17 湧き水のほとり #103 「立春の卵」2

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湧き水のほとり
エフエム八ヶ岳をお聞きのみなさん、各種インターネットからお聞きのみなさん、ご機嫌いかがですか。
開運商店です。
ここからの15分間は、聞く読書の番組、湧き水のほとりの時間です。
児童文学や、昔懐かしい物語、様々な文豪の短編などを、少しずつ読ませていただきます。
美味しいお水を召し上がりながら、一息ついてくださいね。
今月読んでいるのは、世界で初めて人工雪を作ることに成功した物理学者、中谷浮一郎が、昭和22年に書いた、立春の卵という作品です。
本日は、その2回目です。
当時、世間一般に、立春の日には卵が立つという情報があり、それを実験したニュースが各新聞に取り上げられました。
しかし、その報道に一石を投じたのが、中谷浮一郎でした。
それでは、続きをどうぞ。
もう少し親切な説明は、毎日新聞に出ていた気象台側の話である。
寒いと中身の濃度が濃くなって、重心が下がるから立つので、何も立春のその時間だけ立つのではない、というのである。
それもどうも少しおかしいので、ニューヨークのジャン・フジンの今なんか、きっとやかい服一枚でいいくらいに暖かくなっていただろうと考える方が妥当である。
もう一つは、どこかの大学の学部長か誰かの説明で、卵の内部が流動体であることが一つの理由であろうという意味のことが書いてあった。
そして立春の時でなくてもいいはずだということが付け加えられていた。
ラジオの説明は私は聞かなかったが、何でも寒さのために内部がどうとかして安定になったためだというのであったそうである。
それらの科学者たちの説明は、どれも一般の人たちを祝福させていないように思われる。
一番肝心なことは、立春の時にも立つが、その他の時にも卵は立つものだよとはっきり言い切ってない点である。
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それに重心がどうとかするとか、流動性がどうとか、安定云々とかいうのが、どれもはっきりしていないことである。
例えば流動性があればなぜ倒れないかをはっきり説明していない点が困るのである。
一番厄介な点は、皆さん今年はもうだめだが、来年の立春にお試しになってはいかがという点である。
しかしそういう言葉におじけてはいけないので、立春と関係があるか否かを決めるのが先決問題なのである。
それで今日にでもすぐ試してみることが大切な点である。
実はこの問題の解決は極めて簡単である。
結論を言えば、卵というものは立つものなのである。
朝飯の時にあの新聞を読んであまり不思議だったので。
おい、卵があるかい?と聞いてみた。
幸い一つだけあるという話で、早速それを持ってこさせて、食卓の上に立ててみた。
うまく重心をとると立ちそうになるが、なかなか立たない。
5分ばかりやってみたが、あまり足の強くない食卓の上ではどうも無理のようである。
それに登校前の気づかしい時にやるべき実験ではなさそうなので、途中で放り出して学校へ出かけてしまった。
この日曜日、幸い暇だったので、先日の卵を聞いてみるとまだ大事にしまってあるという。
今度は落ち着いて畳の上に座り込んで、毎日使っているかりんの机の上に立ててみると、3、4分でちゃんと立たせることができた。
シタンマガイのなめらかな机であるから少し無理かと思ったが、こんなに簡単に立つものなら何も問題はないわけである。
最後も別の机の上に立ててみると、これもわけなく立ってしまう。
なんだということになった。
それにしても考えてみればあまりにも変な話である。
卵というものがいつでも必ず立つものならば、コロンブスにまで工儀を持って行かなければならない始末になる。
それでやはりこの頃の寒さが何か作用をしているのかもしれないと思って、
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サイ君にその卵を固くゆでてみてくれと頼んだ。
ゆでた卵が簡単に立ってくれれば何も問題はない。
大いに楽しみにして待っていたら、やがて持ってきたのは割れた卵である。
子供が湯から揚げ品に落したもので、
と言う大いに腹を立てて早速買いに行って来いと命令した。
サイ君はだいぶ不服だったらしいが、仕方なく出かけて行った。
卵は案外容易に手に入ったらしく、二つ買って帰って来た。
もっとも当人の話では目星をつけた家を二軒も回って、
子供が病気だから是非分けてくれと嘘をついて、
やっと買って来たという大切な実験を中断させたのだから、
それくらいのことは仕方がない。
今度のは代償二つあって、
大きい方は尻の形が少し悪いらしく、なかなか立たない。
しかし小さい方はすぐ立たせることができた。
そこでその方を早速茹でてもらうことにして、
その間に大きい方に取りかかった。
なるべく垂直になるように立てて、
右手の指で軽く頭を支え、
左手で卵を少しずつ回転させながら、
尻の座りと机のわずかな傾斜とが
うまく折れ合うところを探しているうちに、
ちゃんと立ってくれた。
十分くらいかかったようである。
要するに少し根気よくやって中心を取ることさえできれば、
大抵の卵は立派に立つものである。
その間にゆで卵の方ができあがった。
水に入れないでそのまま持ってこさせたので、
熱いのを我慢しながら中心を取ってみた。
すると今度も前のように簡単に立てることができた。
寒さのための安定云々も流動性のなんとかも、
問題は全部あっさり片付いたわけである。
念のために殻を取り去って縦に二つに切ってみた。
黄身は真ん中にちゃんとあんざしていた。
なんの変わりもない。
黄身の直径33ミリ、
白身の厚さが上部で6ミリ、
底部で7ミリ、
重心が下がっているなどということもない。
要するにもっともらしい説明は何もいらないので、
卵の形はあれは昔から立つような形なのである。
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この場合と限らず、
実験をしないでもっともらしいことを言う学者の説明は、
大抵は間違っているものと思っていいようである。
物理学の方では釣り合いの安定・不安定ということを言う。
釣り合いの位置から少し動かした場合に、
元の位置に戻るような偶力が出てくる場合が安定なのである。
卵が立っているような場合は、
よく不安定の釣り合いと言われる。
しかし物理学の定義ではこの場合も安定なのであって、
ただ安定の範囲が非常に狭いのである。
物が立つのは、
重心から垂直に下ろした下層線が
底の面積内を通る場合である。
底は下の台に接しているので、
台から上向きに物体を支える力がその物体に働いて、
その力と物体に働く重力とが釣り合っているのである。
ところで日常生活で我々が常識的に使っている
安定・不安定という言葉には、
安定の範囲という要素が入っている。
物体を少し傾けても、
重心から下ろした垂直線が底面内を通る範囲内では
元の位置に戻るような方向に偶力が働き、
物体は元に戻る。
すなわち安定である。
ところがその垂直線が底面を外れると、
偶力はますます傾くような方向に働き、
物体は自分で倒れてしまう。
重心からの垂直線が底面を外れる時の傾きが大きい時を安定と言い、
少し傾いてもすぐ外れてしまう場合を不安定と言っているが、
これは素人風な言い表し方である。
本当は安定の範囲が広い、狭いという方が良いのである。
ピザの斜塔が良い例であって土台が悪かったために
あのように傾斜した形で落ち着いたのであるが、
あの程度の傾斜では重心からの垂直線はまだ十分底面内を通っているので、
あの形で安定な釣合いを保っている。
それで少しくらいの自信があっても倒れることはない。
ただ、あの塔がまっすぐに立っている場合よりも安定の範囲が狭いだけである。
卵を立てる場合はこの底面積、
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すなわち卵の殻と台の板との接触している面積が非常に狭い。
卵の表面が完全な急面で板が完全な平面ならば、
接触は幾何学的にはただ一辺である。
すなわち接触面積はほとんどゼロと言っていい。
しかし物理的に考えてみると卵が立った場合、
卵の目型は全部その一辺にかかるので圧力から言うと大変な大きさになる。
圧力というのは目型をそれが働いている面積で割ったものであるから、
卵の目型が50gしかないとしても面積がゼロに近かったら圧力は無限大となる。
物体に歪みを生じさせるのは力ではなくて圧力である。
棒で手のひらを押してみても何でもないが、
それと同じ力で張れてつけば突き刺さるわけである。
それで球を平面の上に乗せた場合には、
平面の接点付近がその圧力のために少し歪み、球の接点付近もまた少し歪む。
そして極めて小さい円形の面積で球の底と板とが接し、
その面積で球の目型を支えるのである、というところでお時間となりました。
中谷浮一郎の「立春の卵」を途中まで読んでまいりました。
続きはまた来週です。お楽しみに。
お送りしましたのは、開運商店でした。
この後も、FM八ヶ岳でお楽しみください。
本日もいい塩梅に過ごせますように。またお会いしましょう。
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