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2026/03/31 湧き水のほとり #109 室生犀星「音楽時計」2
2026-04-04 14:30

2026/03/31 湧き水のほとり #109 室生犀星「音楽時計」2

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サマリー

この放送では、室生犀星の「音楽時計」の続きが朗読されます。病気の女の子は、主人公に自分の音楽時計のネジを巻いてほしいと頼み、死んだら一緒に埋めてほしいと願います。主人公は女の子の願いを聞き入れ、彼女の最期を看取ります。女の子は化粧をしてもらい、音楽時計の音を聞きながら静かに息を引き取ります。番組の最後には、放送時間の変更と今後の更新情報が告知されます。

番組紹介と物語の始まり
湧き水のほとり。
エフエム八ヶ岳をお聞きのみなさん。
各種インターネットからお聞きのみなさん。
ごきげんいかがですか。開運小天です。
ここからの15分間は、聞く読書の番組、
湧き水のほとりの時間です。
児童文学や、昔懐かしい物語、
さまざまな文言の短編などを、
少しずつ読ませていただきます。
おいしいお水を召し上がりながら、
ひと息ついてくださいね。
先週から読んでおりますのは、
室生犀星の実体験かと思われる作品、
音楽時計です。
2階の部屋を曲がりしている主人公は、
絵画で闘病中の女の子の音楽時計のネジを、
たびたび巻いてあげています。
それでは続きをどうぞ。
女の子の願いと主人公の葛藤
あなたにも大変お世話になりましたわね。
あたしお礼を言いますわ。
女の子はそう言って、
私の目の色をよんで悲しそうにした。
そんなことを言わないほうがいい。
それより治ることを考えるといい。
今は雨が降っているけれど、
きっと晴れますよ。
そしたらどこへでも連れて行ってあげよう。
女の子は楽しそうに、
しかもどこか頼りなそうに聞いていた。
あたしね、
死んだら音楽時計を一緒に入れて下さいな。
音楽時計ってあれですか。
私は驚いてそう言うと、
女の子はすっかりうれしそうに、
ええ、あの時計よ、
そう言って静かに耳をすました。
時計はやはり鳴っていた。
同じ工夫を繰り返しては、
毎日のようになるこの時計を、
一緒に入れてくれというのが、
私にとってあまりに突然で、
悲しい気がしたのである。
そんなことを言わないほうがいい。
きっと治るから。
と言うと、
入れて下さらないの?
神経的にびくっと、
私の顔をやや厳しい目つきで眺めた。
ひんやりとしてすぐに答えた。
入れてあげますとも。
お母さんにも言って、
きっとそうしてあげますよ。
僕は嘘はつきませんよ。
そう慌てて答えると、
やや安堵したらしく微笑んで、
私大切にしていたのだから。
この間もお母さんにお願いしたんですが、
女の子はこう言うと、
激しく咳をして、
体をもがくようにした。
興奮しすぎたせいか、
今度は反対にうとうと眠りだした。
私は、
そのやみつかれた小さい体を、
さびしく眺めたが、
それはもう二度と、
健康な体になれそうにも思われなかった。
病状の悪化と母親の看病
しばらくしてから、
またぽっかりと目をあけたが、
すぐ閉ざされた。
お母さんが外へ出るごとに、
ちょいと薬をとりに行きますから。
お願いしますよ。
と言って出たあとになると、
女の子はきまったように、
れいの力のない声で、
お母さん、
お母さん、
と呼ぶのが、
妙に重いような響きをもって、
二階へ聞こえてくるのである。
私はそのたびごとに、
自分でも胸が痛むような気がして、
二階から降りて行くのであった。
どうしたの。
さびしいのかね。
一人だから。
そう言うと女の子は、
れいのまじまじした目で、
長い間私の顔を見つめていたが、
お母さんは、
と低い声で尋ねた。
いつものお薬をとりに行ったんですよ。
もうすぐ帰ってきますからね。
と言うと、
頭の毛をうるさそうに握って、
手で託しあげると、
私お薬なんかもういらないの。
そう言ってちょうだい。
とぎっぱり言った。
薬を飲まないとよくなりませんよ。
だっていくら飲んだって同じことですもの。
青じろい顔をそっと少女らしくほほえませて、
もう自分でも治らないことを感じているらしかった。
私はだまって部屋を出た。
最期の化粧と別れ
まもなくお母さんが帰ってきた。
医者はもう幾日ももたないと言ってしまってから、
ある日女の子は母親に、
私ね、
もうすぐ行けなくなるんですから。
そう言って小さい兄弟を指さした。
そこには女の子の持ちいるいろいろなおしろいや、
刷毛の類が引き出しにしまわれてあった。
母親はその指先と兄弟とを見つめていたが、
女の子が何を言っているのかわからなかった。
兄弟が見たいの?
と言うと女の子は、
いいえ、
と頭をふった。
ではどうしたらいいのかね?
と言うと、
私、
あの、
と言って恥ずかしそうに顔をあかめた。
その時母親は、
初めて女の子が化粧したいと言いよどんでいるのがわかったのであった。
母親はそれを感じると同時に、
女の子が死ぬ時きれいにお化粧をしてやるものであることを知っていたのである。
母親はまもなく女の子に、
温めたお白いを形ばかりに塗ってやっていた。
青白い顔は少しばかりの水気によってややうるおうたが、
その皮膚はもう冷たくなっていたのである。
小さい病人は形ばかりの化粧が済むと、
少女らしく満足げに、
美しいものが美しいものを保護するために、
こうした最後の化粧にほほえんでみせた。
小さい病人はまた突然にこう言って、
母親を悲しがらせた。
「お母さん。」
「今日は幾日?」
そう言っただけで母親ははっきりと、
娘の顔に何者かの冷たい影がはいかけたのを知った。
医者が来た。
すると女の子は、
じっと医者の顔を見つめていたが、
突然に微笑をうかべた。
医者はびっくりしたような顔をして女の子をながめた。
「おじさんは明日もまた来て下さるでしょうか。」
彼女はこう言うと、
淋しい細々とした微笑をもらした。
医者はすぐ元気そうな声で、
はっきりと病人の耳元でささやいた。
「明日もあさっても来ますよ。
それからずっと後もやって来ます。
あなたのすっかり治るまでは。」
「明日も、あさっても。」
弱々しい声で同じことを言うと、
医者はまた機械的に、
「明日もあさってもね。」
と言ったが、
医者の額には、
音楽時計と静かな別れ
悲しげな荒い筋があらわれた。
もうだめだと思われた。
医者は母親と目と目とでささやいた。
私はその時部屋へ入ると、
彼女は薬のせいで細々と眠って行った。
化粧をしましたね。
そうお母さんに言うと、
母親は湿った声をして、
自分でも、
もうだめだと思っているらしいんですね。
全国化粧をしてくれと言いましてね。
呼吸が、
静かに、
あるかないかの境を、
絶え絶えに続いていた。
しばらくすると、
また女の子はぽっかりと目を開けた。
「お母さん。」
「さっきからそこにいらしたの。」
と言って、
まんじりと母親の顔を眺めた。
「さっきからいたの。」
「何か欲しくないかね。」
「時計にね。」
と、だるい声で言った。
「ねじをかけるんですか。」
と、母親は時計のそばへ行くと、
「ええ。」
と、
うれしそうにほほえんだ。
時計にねじがかけられた。
と、
静かなしかし単調な音楽が、
静かにあたりに響いた。
番組情報とエンディング
女の子はうっとりとした目をして、
その音楽に聞きほれていたが、
母親はうつむいて、
静かに泣いていた。
そばにいた私もうつむいた。
時はだんだんに、
進んでいった。
むろう再生作
音楽時計
でした。
2026年4月から、
沸水のほとりの放送日が変更になります。
毎週月曜日、
11時半と17時半、
そして土曜日の12時半となります。
スプーンでは毎週火曜日更新、
リスンでは毎週土曜日更新です。
お聞きいただきありがとうございました。
お送りしましたのは、
開運商店でした。
この後も、
FM八ヶ岳でお楽しみください。
本日もいい塩梅に過ごせますように。
またお会いしましょう。
14:30

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