番組紹介と作者紹介
湧き水のほとり
FM八ヶ岳をお聞きの皆さん、各種インターネットからお聞きの皆さん、ご機嫌いかがですか。開運小天です。
ここからの15分間は、聞く読書の番組、湧き水のほとりの時間です。
児童文学や、昔懐かしい物語、様々な文豪の短編などを、少しずつ読ませていただきます。
美味しいお水を召し上がりながら、一息ついてくださいね。
今週来週2回に分けて、モーリス・ルベルの作品、ペルゴレーズ街の殺人事件を読んでいきます。
作者のモーリス・ルベルは、モーリス・レベルと呼ばれる場合もございます。
こちらの小説家は、1875年、明治8年、フランスで生まれました。
パリの新聞に定期的に短編小説を掲載していたほか、パリのグランギニオール劇場で上演されていた、
不気味で残酷な演劇作品の劇作家としても活躍していました。
1903年、明治36年以降は、アメリカでも人気を博します。
日本では、田中真由志の翻訳で有名となりました。
この翻訳された作品を読んで、江戸川乱歩にも影響を与えたと言われています。
田中真由は、明治17年に秋田県で生まれた男性の翻訳家です。
文学味の強い異常小説の翻訳を得意としており、
モーリス・ルベルだけでなく、ガストン・ルルなど様々な作品を日本へ紹介しました。
それでは早速読み始めましょう。
モーリス・ルベル作 田中真由訳
物語の始まりと登場人物
ペルゴレイズ街の殺人事件
列車は闇の中をひた走りに走っていた。
私の箱にいた三人の乗客、老人氏と若い男とごく若い女は誰も眠らなかった。
若い女が時々若い男に何か話しかけると、
男はみぶりで答えるばかりでまたひっそりと沈黙に落ちた。
二時ごろに速力をゆるめないである小さな駅をすどおりした。
駅灯がちらと窓をかすめると、やがて車体が転車台のところでガタガタ踊ったものだから、
うとうとしかけたばかりの若い女はその振動と音響で目をさました。
若い男は手袋をはめた指先で窓ガラスをふいて外をのぞき込んだが、
駅の時計もランプも駅名札ももう闇にかくれていた。
「ジャック、ここはどこなの。」
女が物売り声で聞くと若い男は懐中時計を出してちょっと考えて、
「はっきりわからんがね、時間からいうともうじきにポンタリエだろ。」
「いや、まだなかなかですよ。」
と老心者が口をはさんだ。
「まだトンネルも越しませんからな。」
若い男はお礼を言った。
女はため息をついて、
「本当にこの汽車はなんて長いんでしょうね。
私ちっとも眠れないのよ。
せめて新聞でも買っておいてくださればよかったのに。」
「失礼ですが。」
老心者はそう言って幾枚かの新聞を彼女の方へ述べた。
彼女はしとやかにそれを受けてにっこりした。
若い男はお礼心に薪煙草の箱を老心者の方へ差しのべて、
「一本いかがですか。」
「ありがとう。」
その若い男は三十ぐらいの苦み走った細表の高男子で、
殺人事件についての議論
ギリギリと引き締まった体に粋なみなりをしていて、
目つきはごく乳和で、
ことに細君を見る時の眼差しが優しかった。
細君は夢中になって新聞に読みふけているらしかった。
若い男はすべり落ちた膝掛けを直してやって、
細君の目が疲れぬようにランプのお湯をおろしてから、
ちょいと彼女の手をなぜて、
「これでいいだろう。」
細君はにっこりした。
そこで若い男は老心者の方へ向き直って、
「どうもありがとうございました。この記者は長くてつらいですね。
ことに家内は余儀者になれないものですから。」
すると老心者はあいそうよく答えた。
「この季節は夜明けが遅いもんだから、
バロブへついてもまだ暗いのに、
あそこでは税関の手続があるので三十分間の停車です。
あなた方はたぶんイタリアへいらっしゃるんでしょう?」
「いや、スイスへ出かけるところです。
家内が少し体が悪いので、
医者から山へ転地しろと言われたものですから。
しかし山が寒くてこれが困るようでしたら、
湖水の方へ降りるつもりです。
これはよほど大事に保養せねばならんのです。
それに私もこのごろくたびれているので、
ゆっくり静養したいと思います。」
若い細君は新聞を続けざまに、
みな読んでしまってから、
「何もありませんわ。
私の大好きな記事を書いてくれないんですもの。
私は小説なんかよりも、
あの事件の続きを待っているのよ。」
夫は肩をすぼめて、
「あの事件のどこにそんな興味があるのか不思議だね。」
「どこって全体が面白いのよ。
巧妙な殺人、謎の事件。
素敵じゃありませんか。」
すると老心師も我慢がしきれないと言ったふうで、
その話に口を出した。
「あなたのおっしゃるのは、
ベルゴレイズ街の殺人事件のことでしょう?
マダム。」
「ええ、あれは面白い事件じゃありませんか。」
「実に面白いですね。」
「それごらんなさい。
この方も同じご意見よ。」
男は目を伏せたなりで新聞を広げて、
「一体どうした事件だったかね。」
「あら、あなたも新聞を読んだくせに、
千番芝居の幕開にあんなに詳しく読んだではありませんか。
それに今朝だって立つ前にも。」
すると男は新聞を手から落して、
呆れたようにサイ君の顔を覗きながら、
「こら、お前は気でも狂ったか。
僕は読まないと言ったら読まないんだよ。」
と、いかにも素っ気なく、
ほとんど乱暴な口調で言った。
彼は見た所に言うまで優しそうだが、
決してサイ君の口応えを許しておくような
おめでたい兵士でなかったに違いない。
それにさっきあんなに優しかった青目が
急に険しくなってきたので私はハラハラした。
と彼もすぐ私の驚きに気づいたらしく、
気を変えてさりげなく言い直した。
「ああ、わかったよ。
遊び女が自分の家で夜中に担当で殺された
新たな展開と次回予告
とかいう事件だろう?」
「夜中じゃない。真昼間よ。」
と若いサイ君が訂正した。
「昼間だったかね。
賊は金や宝石をさらって行ったんだろう。
ザラにある事件さ。」
「どういたしまして。
もっともっとミステリーな事件ですわ。」
「お前のミステル好きには降参だよ。」
彼は短足して、また短詩を読み続けた。
若いサイ君は老心志の方へ向き直って、
その不幸な人が教皇に会っている最中に、
誰か戸口へお泊まっただろうという説もありますが、
どうもそうらしいですわね。
「あなたはどうしてそれを信ずるのですか。」
「ごく簡単な事でございます。
というのは、賊が入ったにもかかわらず、
宝石類が一つも紛失していません。
タンスの上には高価な指輪が二つと、
ダイヤ入りのブローチが一つ、
元のままに載っていて、
陳列ガラス箱の中の骨董品にも、
手を触れた形跡がなく、
部屋の中はきちんとなっていたそうです。
きっと犯人は突然戸口に人が来た物音に驚いて、
獲物を取り込む暇もなかったのでしょう。
ですからあの犯人は、
たいした得にもならなかったのです。
しかし老人師は首を振って、
「ところが、大儲けですよ。
あんな大儲けをした殺人事件は、
この数年来ありませんな。
おまけに賊は、ゆうゆうとやってのけたのです。
それは私が保証します。」
「そんなら、なぜ宝石を取らなかったでしょうか。」
「それは、賊が利口なやつで、
金や紙幣は無難だが、
宝石類は所持していても、
売っても足がつきやすいと考えたからです。
当節は電信や電話というものがあって、
犯罪者もうっかりできませんよ。
例えば会場で無線電話をかけると、
犯人は法律で引渡しを禁じられている
安全な国へ上陸する前に、
誤爆されますからね。」
「けれど今度の犯人は、
さっそく足がつかないように用心して、
抜け目なく立ち回ったんでしょうね。」
「それはそうですとも。
結局、捕まりっこありませんな。」
老心子はきっぱりと言い切った。
私はもう黙っていられなくなって、
「ところが皆さん、
それが怪しくなってきましたよ。」
と、つい口をすべらしてしまった。
若い妻君はびっくりしたふうであった。
老心子は新聞の陰からじろりと私の顔を見て、
「私はこの事件の関係記事を全部読みましたがね。」
と彼は言い出した。
「非常に注意して、
新聞を十紙も読んでいるが、
そんなような報道は
一つも出ていないじゃありませんか。」
「そのはずです。
今私が言ったことはごく最近にわかったので、
明日にならないと世間やは知れないんです。」
すると若い妻君は熱心に乗り出してきた。
「あなたは新聞社の方でいらっしゃいますか?」
「いや、マダム、しかし情報は詳しく知っていますよ。」
というところでお時間となりました。
本日はモーリス・ルベル作
ベルゴレーズ街の殺人事件を
途中まで読んでまいりました。
続きはまた来週です。
お楽しみに。
お聞きいただきありがとうございました。
番組では皆様からのリクエストや
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お送りしましたのは開運商店でした。
この後もFM八ヶ岳でお楽しみください。
本日もいい塩梅に過ごせますように。
またお会いしましょう。