ジスモンダの運命を変えた依頼
〔友宅の妻〕こんにちは、さて今日は,"アルフォンス―ミュシャの裏虹グラフポスター、「ジスモンダ frick xxiスモンダ」についてじっくり見ていきたいと思います。
〔ゲストの MR.Busho〕はい、よろしくお願いします。
〔友宅の妻〕 ああ、手元にある資料を見るとこの1枚のポスターが当時まだ無名だった画家の運命を、鬼をガラッと変えたと?
〔ゲストの MR.Busho〕いいえ、そうなんです。
〔友宅の妻〕しかも r奴という美術様式を代表する作品にまでなった、その背景を探るという感じですね。
まさに
なんか偶然の依頼がきっかけで美術史に残る傑作が生まれたっていう
ちょっとドラマチックな話がありそうですね
本当にドラマですよ
あの19世紀末のパリっていうとポスターが単なる広告じゃなくて
新しい芸術表現の場としてこう注目され始めていた時代なんですね
あーなるほど
そんな中でミューシャのこのジスモンダが出てきた
その縦長のちょっと他にはない構図とか
洗練された色使い
描かれた女性のなんていうか神々しさ
これが明らかに他とは一線を貸す革新的なものだったんです
では早速その物語からいきましょうか
舞台は1894年のクリスマス
パリですね
チェコ出身の画家アルフォンスミュシャ
この時点ではまだパリではほとんど知られていなかった
そうですね
鞘とかそういう仕事でなんとか生活していたという状況だったようです
決して順風満々なスタートではなかったわけですね
ええでもまさにそのある意味苦しい状況が
大きなチャンスを引き寄せることになるんですね
その運命の依頼ですね
そうです
当時のパリでもうものすごい人気だった大女優
サラ・ベルナールの舞台ジスモンダ
はいはいサラ・ベルナール
その新しい宣言ポスターを急遽新年までに作ってほしい
と印刷所から本当に突然依頼が来たわけです
え新年までにクリスマス直前に
そうなんですよ
しかも時期が時期だけに
パリで名の通ったイラストレーターとかデザイナーは
まあほとんどがクリスマス休暇で街を離れていた
あーなるほど
で印刷所も困って頼れる相手を探した結果
たまたま本当にたまたまパリで残って仕事を続けていた
ミューシャに声がかかったというわけなんです
うわぁ普通なら断られてもおかしくないような
タイトなスケジュールですよね
かなり無茶な依頼です
でもミューシャにとってはこれはもう人生を変えるかもしれない
潜在一偶のチャンスですよね
まさに彼がその場にいなかったら
もしかしたらその後の美術師も少し違ってたかもしれないと思うと
すごい巡り合わせですよね
本当にそう思います
でこの大変なプレッシャーの中でミューシャが生み出したのが
あのジスモンダーのポスターだったわけです
はい
そしてここが重要なんですが完成した作品を見た依頼主
つまりサラ・ベルナール本人がですね
あっ女優さん本人が
ええ本人がこのポスターに完全に魅了されたと
へえ
彼女はもうすでに有名だった画家のデザインではなくて
無名のこのミューシャのデザインを強く推した
才能をすぐに見抜いたんですね
ここすごいポイントですよね
ベルナールのなんていうか既存の権威にとらわれずに
ちゃんと本質的な美しさとか新しさを見抜く目があったっていうのが
まさに軽眼ですね
それがミューシャの才能をこう開花させる決定的な鍵になったんです
でベルナールはこのポスターをすごく気に入って
ミューシャと長期の専属契約を結んだんですよね
そうなんです
この契約によってミューシャの名前と彼のあの独特なスタイルは
ベルナールの名声と相まって
あっという間にパリ中にそして世界にまで広がっていくことになります
うわーすごい展開
へえ
一人の売れない再映画家が一夜にして時代の長寿になって
アール・ヌーボーを代表するグラフィックデザイナーとしての地位を確立していく
その劇的な転換点それがこのジス・モンダーだったということなんです
まさにシンデレラストーリーですね
ジスモンダのデザインと特長
でもそれは単なるラッキーだけじゃなくて
やっぱり卓越した才能とそれを見抜く目があったからこそなんですね
その通りだと思います
じゃあそのミューシャの運命を変えたジス・モンダーという作品自体を
もうちょっと詳しく見ていきましょうか
はいまず基本情報からですね
これは1894年にデザインされて発表
つまりパリの街に貼り出されたのは1895年の元旦です
新年早々だったんですね
ええ技法はリトグラフ、血管画ですね
素材は紙です
そして何よりまず寸法
寸法大きさですか?
そうです高さが約213センチ幅が約75センチあります
え2メートル越え?想像してたよりずっと大きい
大きいですよね
当時のポスターとしてはかなり異例のサイズ感じゃないですか
まさに異例です
普通のポスターに比べてすごく縦に長い
ほぼ等身体に近いサイズ感ですね
うわー
これが街角にずらーっと並んで貼られた時の視覚的なインパクトって
相当なものだったと思うんですよ
それは目を引きますよね絶対に
道行く人はもう嫌でも目に入ったはずです
この異例のサイズ感自体がまず一つの確信だったんですね
なるほど大きさからしても戦略的だったと
でこのスタイルがいわゆるアールヌーボーと呼ばれる様式なんですね
はいそうです
アールヌーボーって具体的にはどういう特徴があるんでしょうか
ちょっとおさらい的に
アールヌーボーフランス語で新しい芸術という意味ですけど
だいたい19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて
ヨーロッパ全体で流行した消食様式ですね
はい
特徴としては植物とか昆虫とか自然界にある有機的な形
特に流れるようなあるいは波打つような曲線をたくさん使う点ですね
今までのちょっとカチッとした様式的な肩苦しさから抜け出そうとした動きなんです
流れるような曲線ですかなるほど
確かにジスモンダにもそういう感じ随所に見られますね
では構図はどうなっているんでしょう
絵の中心にはもちろん舞台の主人公であるジスモンダが立っています
すごく騒音な雰囲気ででも静かにこう佇んでいる
なんていうか現実の女優さんというよりは
もっと神話の登場人物とか女神みたいなそういう存在感がありますね
そのジスモンダを取り囲むように背景にはアーチ状のフレームがありますね
でその中に細かい模様がびっしりと
ここが非常に面白いところでアーチの内側とかジスモンダの最後には
植物をデザイン化したような曲線的な模様とか
あるいは木画学的なパターンが本当に細かく描き込まれています
そしてこれらの装飾にはビザンチン美術からの影響があるんじゃないかって指摘されてるんですね
ビザンチン美術中世の当ローマ帝国のなぜここでビザンチンが
当時のポスターデザインとしてはかなり意外な感じがしますけど
いいところに気づかれましたね
ビザンチン美術例えば中世の教会のモザイク画とか
製造イコンとかに見られるような
ちょっと平面的で様式化された人物の描き方とか
金色の背景あと豊かな装飾性
人物を取り囲むような神聖な雰囲気
ああなるほどそういう要素
ええそういったものがこのジスモンダの装飾とか
全体のムードに取り入れられているんじゃないかと考えられるんです
なぜ武者がビザンチンを参照したのかはっきりした記録はないんですが
おそらく舞台が持つ歴史的とか宗教的な雰囲気を出すため
そしてジスモンダという人物に神聖さとか
時代を超えた普遍性みたいなものを与えるため
綺麗なだけじゃなくて作品に深みとか拡張を与えるための
戦略的な選択だったのかもしれないということですね
色彩と全体の雰囲気
面白いなポスターの下の方には文字情報が入ってますね
はい四部には演目のタイトルジスモンダっていう
これも特徴的な書体の文字があって
あとは劇場名とかサラ・ベルナールの名前なんかが記されています
ポスターとしての実用的な情報なんですけど
これも全体のデザインの一部として非常にうまく美しく組み込まれている
文字すらも装飾の一部という感じです
なるほどなあ
では次に中心人物であるジスモンダ自身に注目してみましょうか
表情がすごく印象的ですよね
何かこう内面的なものを感じさせます
ええジスモンダの表情はすごく静かで神秘的です
口元はキュッと結ばれてて視線は私たちと直接会うんじゃなくて
少し斜め上遠くを見ている感じですね
ああ確かに
これ瞑想的とも言える表情で
彼女の内面の深さとか精神性
あとある種の気折りがたい威厳神聖さみたいなものを感じさせますよね
単に綺麗な女性というだけじゃない強い意思みたいなものも感じられます
うん確かに美しさだけじゃなくて
精神的な高貴さみたいなものが伝わってきますね
髪型とか頭の飾りもすごく豪華ですね
長くて豊かにウェーブした髪が描かれてて
その上には金細工のような
あるいは花を編んだような豪華なヘッドドレスが乗ってます
これも彼女の高貴さとか役柄の地位を示す重要な要素ですね
そしてこの衣装とポーズ
片手には何か枝を持っていますね
これは何でしょう
おそらく白かオリーブの枝でしょうね
勝利とか栄光あるいは平和を象徴するもの
舞台の内容とか役柄を象徴する小道具だと思います
もう1個の手は軽く胸元に添えられていて
そして彼女が身につけているのは床もで届く長いローブですけど
ここにもやっぱり注目すべき点があります
この衣装のドレープ
服のたるみとか流れが本当に滑らかで美しい曲線で描かれてますね
これぞミュシャって感じがします
まさにこの流れるような有機的で優美な線
これこそがさっき触れたアールヌーボールの最大の特徴で
ミュシャが最も得意とした表現なんです
この線描の美しさが人物とか衣装に生命感とあと豊かな装飾性を与えている
当時の典型的な広告ポスターの表現と比べると
この線の使い方がどれほど新しかったか
当時の他のポスターと比べたら全然違ったでしょうね
ええ、街の喧騒の中でこの優雅な線というのはものすごく際立って見えたはずです
では色材についてはどうでしょうか
全体的にすごく柔らかくて調和の取れた色違いに見えますけど
その通りですね
金、白、緑、淡い紫といったパステリ調に近いような柔らかい色が
非常に洗練されたバランスで使われています
派手さとかケバケバッサっていうのは全然なくて
全体として上品で少しノスタルジックな
あるいは夢見るような雰囲気すら醸し出していますね
ジスモンダの肌の色も温かみのあるクリーム色で
柔らかい光が当たっているかのようです
髪の色も光沢のある金色に近いブラウンですね
衣装の白もただの白じゃなくて陰影とか装飾に
淡い紫とか金色が効果的に使われてて立体感がありますね
そうですね背景のアーチとか装飾部分は
やや緑がかかった落ち着いたトーンを基本にしつつ
そこに金とか白の模様がくっきり際立つように描かれています
この色彩の組み合わせが作品全体に統一感と
さっき話したビザンチン美術を思わせるような
ちょっと神秘的で高貴な雰囲気を与えているんですね
大衆向けの広告でありながら非常に高度な色彩感覚が伺えます
いやー色彩の選び方一つとっても
作品の誕生背景
ミューシャの才能が叱ってますね
さてここで改めてこの作品が生まれた時代背景と
その意義についてちょっと整理してみたいと思います
はい
1890年代後半のフランスパリ
ベルエポック予期時代と呼ばれた
文化が花開いた時代ですよね
ええまさにアールヌーボーが前世紀を迎えた時代です
新しい芸術新しいデザインが求められて
街は活気に満ちていました
そして忘れてはいけないのが
この時代がポスターアートの黄金期でもあったということですね
ああそうでしたね
リトグラフの技術が発達して
美しい多色摺りのポスターが比較的安く大量に作れるようになった
そうなんです
それによってポスターは単なる情報伝達の手段を超えて
例えばロートレックとかスタンランといったもう有名な画家たちも
積極的に手掛ける一つの独立した芸術分野として認識されるようになったんですね
街角がもう美術館みたいになったという
そんな感じです
そんな中で登場したミュシャのジスモンダのスタイル
つまりこの装飾性の高さ
流れるような曲線
理想化された美しい女性像というのは
まさに時代の気分
アールヌーボーの美意識とぴったり合っていたということですね
合っていたというだけじゃなく
それをある意味決定づけて引っ張っていくぐらいの力を持っていました
ジスモンダはアールヌーボー様式
そして当時のポスターアートを語る上では
もう絶対に欠かせない代表作になります
ジスモンダの意図
なるほど
ではミュシャ自身はこの作品にどういう意図を込めていたんでしょうか
まずはもちろん大女優サラベルナールの舞台の宣伝
これが第一の目的ですよね
もちろんです
それが大前提です
そして単に宣伝するだけじゃなく
ベルナールが演じるジスモンダという役柄が持つ神秘的で高貴なイメージ
これを視覚的にマクシマム魅力的に伝える必要があった
さらに言えば
サラベルナール自身の現実のスターとしてのカリスマ性
これもこの1枚の絵の中に凝縮する必要があったでしょうね
女優の魅力と役柄のイメージ
その両方を表現してさらに高めると
それに加えで
これがミューシャにとって自分自身の独自の芸術スタイル
あとにミューシャ様式
ルスティールミューシャ
なんて呼ばれるようになるスタイルを確立して
世に問うまたとないチャンスでもあった
この点も重要だと思います
ああなるほど
彼は依頼された仕事という枠を超えて
自分の芸術的な野心みたいなものを
この作品に注ぎ込んだんだと思います
だからこそ単なる広告にとどまらない力を持つ作品になったんですね
このジスモンナが登場した時
作品の影響と評価
当時の人々にはどう受け止められたんでしょうか
やっぱり衝撃的だった?
いや相当衝撃的だったようです
さっきも言いましたけど
まずその縦長のサイズと街中での存在感
それから今までのポスターにはあまりなかった
優美で装飾的なスタイル
女神のような女性像
これはパリ市民の心をわしつかみにしたんですね
人々はもうこのポスターを欲しがって
持ちに貼られたものを剥がして持って帰る人までいたなんて言われてるんですよ
ポスターが盗まれるほどの人気
それはすごいですね
ということは発表された当初からもう単なる広告じゃなくて
美術品としての価値を認められていたということですか?
まさにそこが画期的な点なんです
ジスモンナは商業的な広告でありながら
同時に高い芸術性を持つ美術品としても評価されて
収集の対象になった
すごい
これは広告と芸術の境界線をある意味曖昧にして
グラフィックデザインの芸術的な地位を大きく高めるきっかけになった
と言えると思います
うんうんうん
美術史の中でも
ジスモンナは広告デザインの芸術的重要性を再認識させた
記念碑的な作品として位置づけられているんです
消耗品であるはずのポスターな
後世に残る美術品になった
これは本当に大きな転換点ですね
そして武者自身のキャリアにとっては
まさに人生を変えた最大の出世作になったと
無名の画家から一役
アール・ヌーヴォーを代表するデザイナーへ
その後の彼の華々しい活躍の
まさに始まりとなった作品です
うーん
そして発表から100年以上経った今でも
その魅力は全く色褪せることなく
世界中の展覧会で展示されて
多くの人々を魅了し続けていますよね
いやーこのジスモンナの物語から
私たちもいろいろなことを感じ取れますね
予期せぬ偶然のチャンスが
時に人生を根底から変える力を持っているんだな
ということ
そして他にない独自のスタイル
オリジナリティを追求して確立することが
いかに人々を強く引きつけて
時代を作る力になるのかということですね
そうですね
これは美術師とかグラフィックデザインに
興味がある方はもちろんですが
何か新しいことに挑戦しようとしている方とか
自分だけの表現を見つけたい
なんて考えている方にとっても
すごくしさに富むエピソードじゃないかなと思います
入社自身も決して最初から恵まれた状況で
スタートしたわけではないですからね
またこの作品をより深く味わうには
アール・ノーボーっていう時代の空気感とか
あとサラ・ベルナールという
当時世界を魅了した大女優の存在
そういった背景を知ることも大事ですね
まさにその通りです
芸術作品ってそれ単体で存在するんじゃなくて
それが生まれた時代の熱気とか
関わった人々の情熱、社会的な文脈
そういうものと結びつくことで
より豊かに深く理解できるものだと思います
ジス・モンダは
芸術がいかに時代精神を映し出して
また時代そのものに影響を与え得るかを示す
非常に優れた例と言えるでしょうね
いや本当に一枚のポスターに
これほど豊かな物語と
時代を変えるほどの力が秘められていたとは
偶然の誕生秘話から
アール・ニューヴォーを象徴する革新的なデザイン
芸術と広告の融合
そして現代にまで続くその影響力
今日はジス・モンダの奥深い魅力に
触れることができました
最後にですね
これを聞いているあなたに
一つちょっと考えてみるきっかけみたいなものを
投げかけてみたいと思うんですが
何でしょう
このジス・モンダに代表されるミューシャのスタイル
つまり流れるような曲線
華やかな装飾
理想化された女性像
調和のとれた色彩
こういった美意識って
その後のグラフィックデザインとか広告
あるいはイラストレーションの世界に
どれほどの影響を与え続けていると思いますか
ほう
現代のデザインの中に
ミューシャの精神が生きているかもと
ええ
もしかしたらあなたが普段何気なく手に取っている
商品のパッケージとか
街で見かけるポスター
雑誌のイラストの中に形を変えながらも
ミューシャから受け継がれた美意識とか
表現の精神が今も息づいているのかもしれない
なるほど
そんな視点で
ちょっと身の回りのデザインを改めて眺めてみると
また何か新しい発見があるのではないでしょうか