ターナーの名作
さて、今回はですね、1枚の絵画の世界に、こう、ぐっと深く入っていきたいと思います。はい。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの、「雨、蒸気、スピード、グレート・ウエスタン鉄道」。
えー、名作ですね。お手元にある資料、これをガイドにして、この作品がどうしてこんなに人の心をつかむのか、
そして、美術史の上でどうして重要なのか、そのあたりを探っていきましょう。はい。
これ、単なる、まあ、綺麗な風景画っていうだけじゃないんですよね。全然違いますね。
1844年、まさにこう、時代が変わっていくその空気感。うんうん。産業革命が生んだスピードっていう新しい感覚とか、
熱気とか、もしかしたらちょっとした不安とか、そういう目に見えないものまで、こう、描き出そうとしたんじゃないかと。
えー、ターナーの野心を感じますね。感じますよね。さあ、この1枚の絵に何が込められているのか、一緒に見ていきましょうか。
はい、お願いします。まず、えーっと、基本的なところから、作者はジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー、イギリスの人ですね。
ええ、ロマン主義を代表する画家です。1775年生まれで、1851年持つ。で、この絵は1844年、だから、まあ、晩年の作品ということになりますか。
そうですね、かなり縁熟記の代表作の一つと言えます。
所蔵はロンドンのナショナルギャラリー。そして主題は、あの蒸気機関車がテムズ川にかかる鉄道橋。
おそらくメイデンヘッド橋だろうと言われていますね。
ああ、そうですか。そこをこう失踪している場面ということですね。
はい。これはもう、ターナーの画業の中でも非常に重要な作品ですね。
ほう。
あの、単に見たものを描くんじゃなくて、その場の、なんて言うんでしょう、空気感。
空気感。
ええ、湿った大気とか、雨とか、光の感じとか、それに、やっぱり産業革命の象徴である蒸気機関車のエネルギー。
エネルギーですか。
蒸気、スピード、あの、音まで聞こえてきそうな、そういう臨場感を描こうとしたんだと思うんです。
うわあ、臨場感。
ええ、なんか視覚だけじゃない体験を伝えようとしている感じがしますよね。
確かに、ただの風景じゃない、何かこう迫ってくるような力強さがありますもんね。
そうなんです。
じゃあ、その臨場感って、具体的に画面のどこから来てるんでしょう。構図を見ていくとわかりやすいですかね。
ええ、構図は非常に巧みですね。
中心、ちょっと右寄りですかね、蒸気機関車が。これがもうすごい存在感で。
はい、圧倒的ですね。
なんかこっちに向かって、こう飛び出してくるような。
ええ、ダイナミズムがあります。
で、その対象的に左側は田園風景。でもかなりこう霞んでますよね。
そうですね。雨とか霧で輪郭がすごく曖昧なんです。
粉かいところはまあほとんど描かれていなくて、まるでその新しい技術の象徴である機関車の速さとか力によってこう。
霞んじゃったみたいな。
ええ、そう見えるかもしれないですね。自然とその人工物の力関係みたいなものがちょっと示唆されているのかなと。
なるほど。で、右側はもっとこう抽象的?
そうですね。空間がブワーッと広がっていて、雨と霧に覆われた空がほとんどで、具体的な形はまあほぼない。
ないですね。
視線がこうどこまでも吸い込まれていくような、奥行きを出すためのいわゆる消失点みたいな役割もしているのかもしれないです。
ああ、なるほど。この曖昧さが逆に機関車を際立たせている感じもしますね。
おっしゃる通りです。そして遠くを見ると橋の向こうにかすかに建物が見えるんですよね。
あ、本当だ。見えますね。
資料にもありますが、これは当時の最先端、グレートウェスタン鉄道の先進性とか、あるいはその先にある都市の発展とか、そういうのを暗示しているのかなとも。
うーん。
ただ、ここでもやっぱり田原独特のあのぼやけた輪郭。
そう、それですよね。
雨、霧、蒸気、そして何よりスピード感、これらがもうごちゃっと一体になって風景全体が溶け合っているように見える。
溶け合っている。
ええ、この表現があるからこそ、単なる記録画とから風景画じゃない特別なものになっているんですね。
産業革命とスピード
その溶け合う感じって、色使いもかなり永久してそうですよね。
まさに色ですね。
全体を覆っているあの独特な雰囲気、あれはやっぱり色かなと。
ええ、そう思います。
全体をこう見てみると、暖かい金色っぽい色と冷たい感じの灰色がすごく複雑に混じり合っているじゃないですか。
はいはい。
あれは単に天気を描いているだけじゃなくて、光と影とか暖かさと冷たさ、そういうのがこう交錯することで見る人の感情に直接訴えかけるような、そんな雰囲気を作っているんです。
主役の機関車は結構暗い黒っぽい色ですよね。
ええ、対照的ですね。
でもそこから出る蒸気とか煙は逆に明るい白とか灰色で、すごく力強く動きがある感じで描かれている。
そうなんです。この明暗の対比がまた機関車のエールギーを強調してますよね。
それはもうただの灰色じゃなくて、なんか黄色っぽい色とか死後が混じってて。
ええ、複雑な表情がありますね。
光が透けてるみたいな、不安定だけどなんかドラマチックな天気。
そうそう。で、左側の田園風景は緑とか茶色が使われてるんですけど、これもやっぱり淡くて、雨と霧に溶け込んで、なんか色ですらスピードの中に消えていくような、そんな印象を受けます。
ああ、なるほど。この暖色と酸色が混じり合う感じ。
これって、もしかしたら当時の人たちが感じてた、その新しい技術への期待とか興奮と、逆にそれで失われるかもしれない自然とかへの不安とか、そういう両方の気持ちみたいなものを表しているのかも。
ああ、それはあるかもしれませんね。時代のアンビバレントな感情というか。
そうそう、アンビバレントな。単なる描写じゃなくて、感情的な風景みたいな。
ええ、まさにそこがこの絵の深みだと思うんですよ。写実を超えて、情景を描いて感情を呼び覚ます。ターナにとって、色は時代の空気を伝えるためのすごく大事な言葉だったんでしょうね。
うーん、そしてこの絵が描かれた時代、1844年っていうのを考えると、その色の意味ももっと深くわかってくる気がしますね。
そうですね。
イギリス産業革命のもう真っ盛りです。
まさに。
社会も風景も人々の暮らしも、もうものすごいスピードで変わっていった時代ですよね。
その通りです。19世紀の半分のイギリスって蒸気機関と鉄道網がもうあっという間に広がって、本当に今までの社会とは全く違う、そういう変革期だったわけです。
このグレートウェスタン鉄道っていうのは、首都のロンドンと西の重要な産業都市だったブリストルを結ぶ大同脈。
はい。
だから、当時のイギリスの技術力とか経済力とか、そういうものの象徴だったわけですね。
人々はさぞ驚いたでしょうね、この新しい乗り物に。未来への希望みたいな。
ええ、あったと思いますよ。
でもターナーはその時代の熱気をすごく敏感に感じてた。だけど、ただすごいぞ新技術って言ってるだけでも、なんかない気がするんですよね。
うんうん。
もっと複雑な自然というか、例えばさっきの霞んだ自然の描写、あれには急速な変化に取り残されるものへの寂しさみたいなのもちょっと入ってるのかなって。
ああ、それは非常に鋭い見方だと思います。ターナーが技術の進歩を手放しで喜んでたわけじゃないっていうのは、結構いろんな研究者が言ってますね。
やっぱりそうですか。
彼はもともと、自然の雄大さとか高さとか、時にはその怖さみたいなものをずっと描いてきた画家ですから。
この絵でも、圧倒的なスピードで自然の中を突き進んでいく人工物としての機関車と、それを包み込むあるいは退治するような雨とか霧とか、そういう自然現象との関係を描くことで、単なる技術賛美じゃない、もっと深い問いを投げかけてる。
自然と人間のこれからの新しい関係ってどうなるんだろうみたいな、そういう問いかけかもしれないですね。
なるほどな。じゃあいよいよ白心というか、ターナーはこの絵で一体何を一番伝えたかったんでしょうね。
感覚的な体験の追求
いくつか考えられますけど、まず今お話に出た自然と技術の退治、そして融合っていうテーマ。
人間が作った最新技術が、その雄大な自然の力とどう関わっていくのか、挑戦なのか、あるいは調和していくのか、それとも両方なのか、なんかはっきり答えを出すんじゃなくて、見る人にその関係を考えさせるみたいな。
なるほど、問いかけてる感じですね。
ええ、それからやっぱりスピード感そのものを描こうとしたっていう、これはもう前例のない試みですよね。
ですよね。絵って普通は止まってるものですけど。
そうそう、でもターナーは輪郭をぼかしたり、筆の勢いとか色の対比とか、もうあらゆるテクニックを使って、まるで目の前を列車がゴーって音を立てて走り抜けていくような、そういう動きと速さを表現しようとした。
うわぁ。
これって単に見たものを映すんじゃなくて、感覚的な体験を描こうとしてるんですよね。
感覚的な体験。
そう、体験を描こうとした点、これがめちゃくちゃ重要だと思うんです。
体験ですか。
ええ、見る人があたかもその場にいて列車に乗ってるか、あるいは線路の脇で見てるかのような、そういう感覚。
はぁ。
視覚だけじゃなくて、蒸気の暑さとか、鉄の匂いとか、レールのきしめ音、地面の揺れ、そういう五感全部に訴えかけるような要素を、絵っていう二次元の世界に何とか封じ込めようとしたんじゃないかなと。
すごい試みですね。
ええ、この感覚的なリアリティを追求したところが、この作品が今でも色褪せない理由の一番大きなところだと思います。
なんでそこまでして体験を描く必要があったんですかね。ただ機関車を描くだけじゃダメだったんでしょうか。
ターナーと新しい感覚
うーん、それはやっぱりターナーが時代の変化のその本質を捉えようとしたからじゃないでしょうか。
時代の本質。
ええ、産業革命って単に新しい機械とか風景の変化だけじゃなくて、人々の感覚そのものを変えたわけじゃないですか。
ああ、なるほど。
スピードっていう感覚は、それまでの時代にはなかった全く新しい体験だった。
確かにそうですね。
時間とか空間の認識を変えて、人々の生活とか心理にすごく大きな影響を与えた。
ターナーはその新しい時代の感覚、新しいリアルを絵でなんとか捉えて表現したかったんじゃないかと。
ああ。
だから単に見たままを描くんじゃなくて、体験そのものを描く必要があったんだと思います。
なるほど。時代の感覚を描く、深いなあ。
で、その革新的な表現っていうのは、やっぱり当時の人たちには相当な驚きだったんでしょうね。
ええ、それはもう。
評価っていうのはどうだったんですか、当時は。
いや、結構分かれましたね。
今でこそ、これはもうイギリスロマン主義の頂点、傑作だって言われてますけど、発表された1844年当時は、あまりにも大胆すぎて戸惑う声も結構あったみたいです。
やっぱり。
伝統的な絵画の価値観からすると、はっきりした輪郭線はないし、細かいところは描いてないし、なんか未完成みたいに見えたかもしれない。
未完成。
ええ、まさに前衛的すぎたっていう。
でもその前衛的だったからこそ、後の時代に大きな影響を与えたと。
まさにそういうことです。
ターナーの特に光とか大気とか動きとか感情とか、そういう目に見えないものを捉えようとした試みっていうのは、後の芸術家、特に印象派の画家たちにものすごく大きなインスピレーションを与えたんです。
印象派ですか。
例えば、モネなんかが光の変化とか水の揺らめきとかを描こうとした時に、ターナーの作品っていうのはすごく重要な洗礼になったと考えられてますね。
対象をそのまま映すんじゃなくて、画家の主観的な感覚とか印象を表現する方へ絵画の焦点を移していく、その流れを加速させたと言えるでしょうね。
ある意味、近代美術への扉を開いた一枚とも言えるかもしれないです。
印象派への影響、確かに光とか空気感の表現って通じるものがある気がしますね。
前衛的すぎると言われたものが次の時代のスタンダードになるっていうのは、なんか芸術の歴史の面白いところですよね。
本当にそうですね。
そして今もロンドンのナショナルギャラリーでたくさんの人を引き付けている。
180年以上経ってもこの絵のエネルギーは全く色褪せないですね。
実際に目の前にすると、その大きさとか光と色の洪水みたいな感じ、そして画面から伝わる圧倒的なスピード感に多分言葉を失うと思いますよ。
見てみたくなりますね。
さて、ターラーの雨、蒸気、スピード、その世界をいろいろと掘り下げてきましたがいかがでしたでしょうか。
はい。
単なる鉄道の絵っていうことではなくて、産業革命っていう激動の時代そのものとか、
自然と技術のダイナミックな関係、そしてスピードっていう新しい時代の感覚を今までになかったやり方で捉えようとした、本当に画期的な作品なんだなっていうのが伝わっていたら嬉しいです。
ターナーの革新性っていうのは、見たものをそのまま描くんじゃなくて、その裏にある力とか感情、そして体験そのものを描こうとした点にあるんですよね。
現代への影響
光と大気の表現、動きとスピード感の追求、色彩による感情の喚起、こういう試みがロマン主義の一つの到達点であり、同時にその後の芸術の可能性をものすごく大きく切り開いた、美術史の中での意味っていうのは本当に計り知れないものがあると思います。
180年以上も前に描かれたスピードの表現、情報がもう瞬時に世界中を駆け巡ってあらゆるものが高速化している現代に生きる私たちにとって、この絵はなんだかまた違う意味で響いてくるかもしれないですね。
そうですね。
ご自身の感覚とちょっと対話してみるのも面白いかもしれません。
ええ。
そして最後に一つちょっと想像を膨らませてみませんか。
はい。
ターナーは当時の最先端技術だった蒸気機関車に異形の念とか興奮とか、そしてたぶんちょっとした不安とか、そういう複雑な感情を抱いて、それを力強い芸術にしたわけですけど。
ええ。
じゃあほんなりで現代、私たちって例えばAIとかゲノミ編集とか宇宙開発とか、今の時代の先端技術に対してどういう感情を持っているんでしょうかね。
うーん、なるほど。
そしてもしそれを芸術として表現するとしたらどんな形になるんだろうか。
ターナーの時代と同じように、なんかこうワクワクする気持ちとちょっと怖い気持ちが入り混じったような、そういう複雑な感情を私たちは今の技術に対して持っているんでしょうか。
深い問いですね。
そしてその表現は100年後にどういうふうに見られるんでしょうね。
いや考えさせられますね。
というわけで今回の探究はこのあたりでおなりにしたいと思います。
はい。
次回もまた皆さんの知的好奇心をくすぐるようなテーマでお待ちしております。
ありがとうございました。
ありがとうございました。