1. ストーリーとしての思想哲学
  2. #42 ディストピア4
2023-11-05 04:53

#42 ディストピア4

みんな大好きディストピア。ディストピア概念の成り立ちからアーレントの「悪の不在」概念まで話します。

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ストーリーとしての思想哲学
思想染色がお送りします。
今回はディストピアにおける悪の不在という概念について話したいと思います。
前回最後に名前だけ出したハンナ・アレントは、1906年生まれで1975年まで生きていたドイツ系ユダヤ人の女性です。
彼女は、悪の陳腐さあるいは悪の凡庸さというフレーズが有名です。
アーレント、彼女はドイツ系ユダヤ人で、まさにナチスの被害を受けた当事者だったわけですが、
だからこそナチズムについてかなり凍結した分析を行うことができました。
ナチスのユダヤ人虐殺計画ですが、これは秩序だった政府の計画であって、指揮した人間がいたわけです。
アドルフ・アイヒマンという人で、いわゆる政府高官です。
当時のイメージでは、ものすごく悪いやつ、悪の親玉とか怪物悪魔だと思われていたアイヒマンなんですけど、
アーレントはね、アイヒマンを単なる退屈で凡庸な男だと分析しました。
アイヒマン本人は怪物どころか小柄で気弱そうな男なんです。
じゃあなんでそんな気弱な男が絶滅収容所のような恐ろしい計画を実行したのかというと、
官僚機構という指揮命令システムが効率的に駆動したからであって、
政府高官が上から降りてくる命令を忠実に実行し続けたからです。
官僚機構においては、上からの命令は絶対だから、上手くやんなくちゃいけないというプレッシャーが強いわけ。
だから、気弱な男だからこそ、めちゃくちゃ頑張って上手くやろうとするんです。
民族浄化のような人類史上でも最悪レベルの悪であっても、
めちゃくちゃ悪いやつが悪いことをしてやろうとしてその強悪を振るったわけではなくて、
上司の命令に忠実なサラリーマンから悪が出力されてきている点に注目せよと言っています。
人間が悪をなそうとしてやっているわけじゃなくて、
上司の人がプレッシャーを受けてヒーヒー言いながら働くことで、
気弱なサラリーマンから最悪の悪が出力されたという分析なんですが、
この分析は当時世界に大きな衝撃を与えました。
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と同時にめちゃくちゃ批判されました。
愛媛のような悪を普通の男だというのかけしからんってわけですね。
愛媛が本当に悪魔であったら楽なんだけどね。
でも愛媛はなぜ悪をなしたのか、それは愛媛が悪魔だからだって、
従来のこの理解は何も分析していないに等しいです。
あともう一個、これはアーレントの師匠であるヤスパースっていう哲学者が、
アーレントにあてた手紙に書いていることなんですが、
ナチスの中の人、アイヒマンのような人間を
過度に怪物だ悪魔だっていうのは、
彼らに対して悪魔的偉大さを与えてしまうから、
良くないよねとも言ってます。
相手を大きく見積もりすぎてしまうのは、
相手を偉大だと言っているのと同じだぞっていう話です。
はい、話をディストピアに引き戻しますと、
言いたかったのは、ディストピアの内部にも怪物や悪魔は存在しないということです。
よし、ディストピアを作ってやるぜって言って、
悪魔みたいなヤバいやつが裏で糸を引いているのではなくて、
むしろディストピアは善意で作られていくんです。
では、善意のディストピアという話が出たところで、次回に続きます。
次回もよろしくお願いします。
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