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ベッコブックス提供 ラジオドラマ 第1回 花明り
原作 里見臨 客食 ファンシーコー
いやー、めたっと。 何探してるの?
うーん、自粛生活のおかげで太っちゃって。
だから、何? ここだと思うんだけどなぁ。
ちゃんと探したら出てくるよ。母さん物持ちいいから。
あ、あったあった。反射出す気。
え?何するの?
ダイエットのために歩こうと思って。
へー、行ってらっしゃい。
何言ってんの。あんたも行くのよ。
中学校の桜満開よ。
えー。
でね、結局新人の面倒、私が見ることになってさ。
そりゃー、災難ね。
でしょ?
母さん、この前家出しようとしたんだけどね。
家出?
そう、家出。
仕事も休んで、3泊ぐらいホテルで何もせずに過ごそうと思って。
ホテルも探して。でもね、電車に乗れなくて。
なぜかね。で、結局諦めたんだけどね。
なんで?すればよかったのに。家出。
家出してもね、どうせ帰ってきたら洗い物と洗濯物の山でしょ。
荷造りだってね。考えたらすごくめんどくさくなっちゃって。
3泊って決めてるあたりで、それは家出って言わないと思う。
じゃあ、なんて言う?
うーん、旅行?
あれ?もう着いたの?ダイエットにならないわね。
綺麗ね、夜桜って。
夜はただ黒し、花あかり、土のいかだに流るるように、満開の桜の先を追うその長坂を。
それ毎年言ってるね。
そう?じゃあきっと来年も言ってるわね。
来年はちゃんとお花見に行こうよ。お弁当とお酒持って。
お弁当作るの、母さんでしょ。めんどくさ。
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そう言いながら張り切って作るくせに。
うわー、桜吹雪だ。
桜が一年中咲いていたらどう思う?
どうって?
見飽きちゃって綺麗だと思わないんじゃないかって思うのよ。
あー、そうかもね。
母さんのお弁当も毎日食べていたら飽きるでしょ。
でも年に一回なら美味しいと思うかも。
そりゃそうだね。
ありがとうとか美味しいとか一言言ってくれたら作りがいもあるのにね。
言ってなかったっけ?
うん、それにこのいっぱいの花びらをパーッと落としちゃうから桜はいいのよね。
古いものをずっと抱えているのは美しくない。
例えば父さんとか?
ねえ、本当に家でしたら?
え?
うちのことは問題ないからさ。
え?
タクシー!
どちらまで?
どこ行きたい?
どこでもいいよ。母さんの好きなとこ行ったらいいと思う。
ううん、家まで。
なんだ、つまらないな。
ああ、これじゃダイエットにならないわね。
