1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #038 答えを待つ人
2025-03-08 10:03

#038 答えを待つ人

幸せの答えがますますわからない時代になりました。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

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#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本 #モノエフ朗読 #小説
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サマリー

このエピソードでは、妊娠に関する選択とその影響が主人公たちの会話を通じて表現されます。彼らの思いや未来への不安を通じて、子供を持つことの意味について考えさせられます。

00:01
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
妊娠の報告
もしかしたら、妊娠したかもしれない。
ほー、それはどういう反応?
予想外の報告に戸惑っている反応。
そうだよね。予想外だよね。
行方のほうが予想外でしょ。
うん、予想外。どうしよう。
とりあえず明日、病院行って、それから考えよう。
小山さん、何かありました?
業務中にもかかわらず、ついついぼーっとしてしまい、飯田から声をかけられた。
あ、ごめん、ぼーっとしてて。
いや、俺は別にいいんですけど、珍しいなって思って。
飯田はさ、結婚決まったんだろ?
そうなんすよ。おかげさまで。
子供欲しいって思う?
そりゃそうですよ。子供いたら絶対楽しいじゃないですか。
そうだよな。それが普通の感覚だよな。
小山さんちは、お子さんいないんですよね。
結婚も遅かったし、奥さんが欲しくないって言うから。
小山さんはそれでいいんですか?
俺は別に。奥さんが幸せならそれでいい。
武士みたいですね。
飯田の言っていることはよくわからなかったが、褒めてくれているんだろうということはわかった。
ただいまー。
家に帰ると、いつも通りゆきえいが出迎えてくれた。
おかえり。
ただいま。どうだった?
やっぱり、妊娠してた。
そっか。どうしよう。
とりあえず飯にしよう。今すぐ決めなきゃいけないことじゃないし。
ゆきえいはすっかり落ち込んでいた。
妊娠したことに落ち込んでいるのか、妊娠を喜べないことに落ち込んでいるのか、
しばらく様子を見る必要がありそうだ。
子供を持つことの選択
ご飯、作り置きでいい?
もちろんだよ。むしろ座ってな。俺出すから。
ありがとう。
冷蔵庫からタッパーをいくつか出す。
ゆきえいはいつも土日に作り置きをしている。
そのおかげでお互い仕事で遅くなっても、毎日ゆきえいの手料理が食べられる。
結婚してよかったとつくづく思う。
お待たせ。テーブルに作り置きの炒め物とポテトサラダを出す。
ご飯は冷凍を温めたもの。
味噌汁はインスタントだが、か不足のない食卓の完成だ。
ありがとう。作ったのはゆきえいだよ。
確かに。ゆきえいがようやく笑顔になった。
やっぱりご飯は幸せを呼ぶんだと思う。
もしも、卸したいって言ったらどうする?
食事が半ばまで進んだところで、ゆきえいが言った。
反対しないよ。
どうして?
だって、結婚するときからゆきえいは子供は欲しくないって言っていたし、
産むのはゆきえいだから、ゆきえいの決めたことに賛成するよ。
たかゆきの子供なのに?
うん、俺たちの子供だから。
じゃあ、産みたいって言ったら?
うーん、とりあえず貯金頑張るかな。
急に現実的だね。
そりゃそうでしょ。守るものが増えるんだから。
そのとき、ゆきえいは少し驚いた顔をしたような気がした。
風呂に入り、ベッドに入ってしばらくすると、ゆきえいが話しかけてきた。
どうして子供が欲しくないのか聞かないの?
ん?
まあ、気にならないと言ったら嘘になるけど、
言いたくないのに言わせるのも違う気がするし、たかゆきは優しいね。
俺はね、一生一人で生きていくんだって思っていたの。
一生誰かを好きになったり、誰かから好きになってもらうこともなく、一人で生きていくんだろうって。
だから、俺の人生にゆきえいが現れて、俺のことを好きだって言ってもらったときに、俺の人生に温度が生まれた気がした。
だから、ゆきえいが幸せならそれでいいんだ。
ありがとう、たかゆき。
次の土曜日、ゆきえいと役所に妊娠届を出しに行った。
おめでとうございます。元気な赤ちゃん、産んでくださいね。
妊娠届を受け付けてくれたのは若い女の子だった。
くったくのない満面の笑みである。
妊娠届を出す全ての人にこの笑顔を振りまいているのだろうか。
そうか。一般的には妊娠って手放しで喜ぶことだもんな。
あ、ありがとうございます。
ゆきえいはたどたどしくお礼を言った。
彼女の罪悪感がえぐられている音が聞こえた気がした。
やっぱり、おろそうと思う。
そっか、家に帰って母子手帳を眺めながらゆきえいが言った。
いいの?
だって、妊娠を喜べない女が母親になる資格はないでしょ?
そんなことはないと思うけど、むしろ無責任に産む親の方が資格なくない?
たかゆき、たまに辛辣だよね。
そう?
私、この子を幸せにしてあげる自信がない。
そうなの?
42歳で健康に産んであげられるかわからないし、
このひどい世の中でこの子に幸せな人生を用意してあげられるとは思えない。
それはどうだろう?
え?
確かにひどい世の中だよ。
真面目に頑張ってもずるいやつに先を起こされたり、
他人を簡単に攻撃したり、暴力振るったりするやつもいるし、
税金や社会保険料は高いし、給料は上がんないし。
ひどいけど、だからといって必ず不幸になるとは限らない。
でも、幸せになれる保証もない。
そもそも、他人に幸せを用意してあげられるって傲慢じゃない?
傲慢?
だって、その子が何に喜びを見出すのか俺たちまだ知らないし、
子供といっても他人でしょ?
確実に俺たちの方が先に死ぬし、ずっとは一緒にいてあげられない。
だから、俺たちにできるのは土台を用意してあげることぐらいじゃない?
土台?
そう、人生の土台。
自分の力でしっかり生きていける力を身につけさせてあげること。
それは精神面かもしれないし、勉強の面かもしれないし、体力の面かもしれないけど、
俺たちがしてあげられることはそういうことじゃないの?
たかゆき、意外にしっかりしてるのね。
気づいた?
ていうか産みたくない理由ってそこなの?
え、そうだよ。幸せにしてあげられないって思って。
俺てっきり痛いのが嫌とか、自分の時間が減るからとかかと思ってた。
そこは別にあんまり気にしてないかな。
そうだったんだ。
もうちょっと考えてみたら?
親子連れのいるところとか行ってみてさ、
みんながどんなふうに過ごしているのか見てみてもいいと思う。
そうだね。
ありがとう。
ゆけいはそう言うと、母子手帳の表紙をそっと撫でた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。
10:03

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