失恋と家出
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、様々な人がいることをテーマにお送りいたします。
それでさ、レイナがさ、花火大会に彼氏と一緒に来るっていうのよ。
へぇー。
セイジ君は、ベッドで寝転びながら、スマホをいじっている。
私は鏡の前で、念入りに髪を溶かす。
セイジ君の前では、いつだって一番かわいい私でいたい。
だからさ、セイジ君もさ、一緒に行こうよ。
えぇ、やだよ。俺、行く意味なくない?
あるよ。レイナに紹介したいし。
ナルミはさ、俺の職業知ってる?
セイジ君は、げんなりした様子でそう言った。
知ってるよ。舞台で活躍中の若手イケメン俳優。
そんなんが人混みに行くわけないじゃん。
えぇー、つまんない。
それにさ、俺たち付き合ってないじゃん。
え?
俺たち付き合ってないでしょ?
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
え?私たち付き合ってるよね?
付き合ってないよ。俺、そんなこと一言も言ってないじゃん。
だって、私何回もこの部屋来てるし。
他にも来てる女の子はいるよ。
俺は女の子には誠実なんだって言ってたじゃない。
そうだよ。俺は誠実だよ。
誠実だから誰とも付き合ってないんだよ。
誠実とは何なんだろう。
セイジ君とは一年前、友達に誘われた飲み会で出会った。
ギャラ飲みというほどのものではないが、
ただで飲み食いできるしイケメンもいるよって誘われた。
そこでセイジ君はヘラヘラ笑いながら隅っこで飲んでいた。
他の人たちとちょっと距離がある感じがして、ミステリアスな雰囲気に惹かれた。
もう最悪だよ。私の一年を返してほしい。
なにそれ。誠実ってなんだと思ってるの。
本当だよ。誠実だから付き合わないとか意味がわからない。
ねえ、キョウカ。また飲み会誘ってよ。飲まないとやってられない。
オッケー。何かいい飲み会あったら誘うよ。
ありがとう。よろしくね。
キョウカとの電話を切った途端、涙がぶわっとこみ上げてきた。
私は何でいつも一番になれないのだろう。
泣いて泣いて泣いて、気がついたら眠っていた。
外は空がオレンジ色になっている。今は朝なのだろうか夕方なのだろうか。
家族との軋轢
リビングに行くと母親がいた。
あら、あんたいたの。
それが母親の第一声だった。
ボサボサの頭でみっともない。顔もどうしたの。まさか今まで寝ていたの。今何時だと思ってるの。
母親が早口で何か言っている。
どうした騒がしい。
父親が書斎から出てきた。
あなた、なるみが今起きたみたいなの。
お前は23にもなって何をやっているんだ。休日だからって夕方まで寝るなんて。
そもそも今仕事は何をしているんだ。早く就職しろ。
オレたちが恥ずかしくないところにしろよ。
父親も何か言っている。
私はリビングを出て、自分の部屋に戻り、スマホを起動する。
連絡の試みと断念
今日かに電話したが出なかった。
とりあえずメッセージを送る。
他にもリナにメッセージをする。
今日止めてくれない。
意外にすぐに返事が来た。
今日は残業だから無理。
そうだ、リナは大学を卒業して商社に就職したんだった。
次は、そうだ、レイナにメッセージをする。
レイナからもすぐに返事が来た。
今日は彼氏が来てるからごめんね。
ほら、私は誰の一番にもなれない。
私はとりあえずクローゼットの服をカバンに詰め込んだ。
ネットカフェでの一夜
お一人様でラクラクパックご利用ですね。
退室時はこちらの電票をお持ちください。
寝カフェの個室に入り、とりあえず寝っころがる。
お父さんとお母さんは昔からずっとああだ。
いつもいつも正しいことを求めてくる。
私は正しいことなんて興味ない。
じゃあ、私はどういう状態になったら満足できるんだろう。
無料のお笑いライブとの出会い
ありがとうございました。
翌朝、寝カフェを出て目的もなく歩き出す。
お金もないし、ファストフードですら入ろうか悩む。
ベンチに座り、ぼーっとしていると、突然男の人に声をかけられた。
お姉さん、こんなところで何やってるの。
その男はひょろりと背が高く、マッシュカットが特徴的だった。
暇をつぶしているの。
お姉さん、暇なの。ちょうどいい。お姉さんにおすすめだよ。
男はそう言うと、手に持っていたボードを私に見せてきた。
お笑いライブ、無料だよ。どう?
無料?
無料という言葉につられ、男についていった。
雑居ビルの2階に通されると、フリースペースのような空間にパイプ椅子が10客くらい並んでいた。
客は私の他に2人しかいなかった。
どうもー。
さっき私を連れてきた男が相方と一緒にステージに出てきた。
100段ベッドというコンビ名らしい。どういう意味なんだろう。
漫才の内容は難しくてよくわからなかったが、男がオーバーリアクションで何かを叫んだ後、相方に頭をどつかれていて、それがなんだかおかしくて、フフッと笑ってしまった。
その時、ステージ上の男と目があった気がした。
姉さん、この後も暇なの?
ライブが終わった後、会場を出ようとしたら、さっきの男に声をかけられた。
暇といえば暇だけど、
じゃあ打ち上げ来てよ。今日の感想とか聞きたいし。
私なんかが行っていいのか迷ったが、他に行くところもないし、ついていくことにした。
新たな居場所へ
改めまして堀口凌介です。100段ベッドのボケやってます。今日はいきなりだったのに本当にありがとうね。
凌介がいきなり女の子連れてくるからびっくりしたよ。どこからさらってきたって。
あ、お礼。100段ベッドのツッコミやってます。吉川俊です。
はあ、どうも。
俺たち毎週無料ライブやってるんだけど、お客さん集めるのがなかなか大変でさ、今日は来てくれて助かったよ。
堀口さんはそう言うとビールをグビッと飲んだ。
私以外のお客さんも一人来ていて、芸人さんたちと楽しそうに飲んでいた。
なるみちゃんはさ、なんであんなところに座っていたの?
家にいたくなくて。
家でってこと?
もう大人だからそういうわけじゃないんだけど。
もしかして泊まるところないの?
今夜も寝カフェかな?
じゃあ、俺んち来る?
堀口さんは優しく微笑みながら私の顔を覗き込んできた。
よく見ると二重がはっきりとしていてかっこいい気がした。
うん、行く。
気がつくと私はそう答えていた。
エンディング
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。