突然の誘い
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、様々な人がいることをテーマにお送りいたします。
ユーナとカフェでしゃべっていたら、スマホが鳴った。
画面には、とっさんと表示されている。
電話?誰?
誰だろう?
とりあえず、出てみることにした。
もしもし?
もしもし?まいかちゃん?
俺、そういちろうだけど。
あー、そうちゃん?
久しぶり。どうしたの?
ちょっとお願いがあってさ。
そうちゃんは、昔バイト先が一緒だった。
確か、彼女さんと同棲していたはず。
いきなりで申し訳ないんだけど、
今日、夜空いてたりしない?
夜?空いてるけど。
じゃあさ、ちょっと飯行こうよ。
いいけど、彼女さんは?
別れた。
別れたの?
ふーん。
私が電話を切ると、ユーナがけげんそうな顔をしている。
何?
誰だか思い出せないような人とご飯行くの?
彼女と別れたって言ってたし。
急に怪しくない?
いいじゃん、別に。声かけてもらえるって嬉しいじゃん。
ユーナは納得してなさそうな顔をしていた。
ジンギスカンと相談
まいかちゃん、久しぶり。
待ち合わせた駅まで行くと、そうちゃんがすでに待っていた。
ヘラヘラとした笑顔は変わっていなかった。
久しぶり。突然だったからびっくりしたよ。
何かあったの?
まあまあまあ、とりあえずどこか入ろうよ。
そうちゃんはそう言って歩き出した。
まいかちゃんは今何してるの?
歩いていて見つけたジンギスカン屋さんに入った。
そうちゃんは運ばれてきた肉や野菜を焼き始めた。
んー、今はお昼はパチンコ屋さんでバイトして、
週に何回か夜にガールズバーでバイトしてるよ。
へー、めっちゃ働き者じゃん。
そうだよ。そうちゃんは?
今は人生の休憩中。
人生の?どういうこと?
次のステップを模索中ってこと。
つまり、無職ってこと?
もう、そんなはっきり言わないでよ。
そうちゃんは照れ笑いをしながら言った。
でも、その目の奥はちょっと苛立っているような気がした。
人生の休憩中の人が、なんで私とジンギスカン食べてるの?
実はさ、ちょっと相談があるんだけど。
相談?
今日さ、止めてくれない?
今日?
そう、急で申し訳ないんだけど。
なんで?彼女に追い出されたの?
んー、ちょっと違うけど、
まあ、それに近い。
へー、大変だね。
そう、頼れるのはマイカちゃんだけなんだ。
そうちゃんは私の顔を覗き込んでそう言った。
マイカだけ?
そうだよ、マイカちゃんだけ。
じゃあマイカ、バイト行ってくるから。
同居生活の始まり
帰るとき、この鍵で閉めて、ポスト入れといて。
はいはい、いってらっしゃーい。
そうちゃんは、ベッドから眠たげな声でそう言った。
そうちゃんは今日、この後どこへ行くのだろう。
今夜もありがとねー。
店の前で最後の客を見送る。
今日は昼と夜と合わせて13時間も働いた。
体力的にはしんどいと思うこともあるが、
こうでもしないと家賃も払えないし、
友達とカフェに行ったり洋服買ったりもできない。
家に帰ると、私の部屋の電気がついていた。
鍵を開けて入ると、そうちゃんがテレビを見ていた。
まだいたの?
私が驚いてそう聞くと、そうちゃんは立ち上がった。
おかえりー。遅かったじゃん。大変だったねー。
今日も泊まるつもりなの?
ごめんだけど、お願いできないかなー。
えー。
マイカちゃんしか頼る人がいないんだよ。お願いだよー。
そうちゃんはそう言いながら、私を抱きしめた。
そのまま気がつけばそうちゃんは1ヶ月に座っていた。
そうちゃん、お風呂入ってきたら?
髪を拭きながらそう言うと、
そうちゃんはいじっていたスマホをローテーブルに置いて立ち上がった。
家から出てないけど、一応入るかー。
そうちゃんは資格の勉強がしたいけど、お金がないというのでテキストを買ってあげた。
ローテーブルの上にいつも置いてあるけど、ページを開いているところを見たことはない。
資格を取って転職したら、生活費も全部倍にして返すと言われたけど、
転職活動をしている様子もない。
ふとローテーブルを見るとスマホがついたままだった。
疑念と対立
珍しいと思い覗き込むと、メッセージの到着のポップアップが表示された。
そこには、ガールズバーの女なんて読み解きなって、そうちゃんには似合わないよ、と書いてあった。
どうしたの?
髪を乾かさないままぼーっとしていたら、
お風呂から出てきたそうちゃんが不思議そうに言った。
別に、ここにいたくないなら出て行っていいんだからね。
何の話?
私とそうちゃんは別に何の関係もないんだし。
関係ない関係じゃないだろ?もう1ヶ月も一緒に暮らしているんだぜ。
望んでそうなったわけじゃない。
ごめん、俺が不甲斐ないせいで。
他に女がいるならそっちに行って。
何言ってるんだ?毎回外の女なんているわけないじゃないか。
でも、メッセージしてる人はいるんでしょ?
スマホを見たのか?
ポップアップが見えただけ。わざわざ中なんて見てない。
なんでそんな卑怯なことするんだよ。卑怯なのはそうちゃんでしょ?
私がそう言うと、そうちゃんは私を抱きしめた。
そんなひどいこと言うなよ。俺にはマイカしかいないんだ。
そうちゃんはそう言いながら、濡れたままの私の頭を優しくなでた。
だったら、ちゃんとマイカだけのものになって。
エンディング
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それでは、あなたの1日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。