S4E1 進化の袋小路
2026-05-21 26:28

S4E1 進化の袋小路

クローン動物からクローンを作る連続クローンは永遠に続けられるのか?マウスの実験ではその限界が示された一方、自然界にはクローンだけで10万年生き延びてきた種が存在します。ミュラーのラチェットと呼ばれるゲノム劣化理論とDNA配列が変化する仕組みについて話します。


マウスの連続クローン:

https://www.nature.com/articles/s41467-026-69765-7

アマゾンモーリー:

https://www.nature.com/articles/s41586-026-10180-9


お知らせ

シーズン4では、隔週の新エピソードの公開になります(時々、間の週でボーナスエピソードの公開を予定しています)。


感想

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クローン生物っていうのがいますよね。
通常、動物では父親と母親の遺伝子が合わさって新しい個体が生まれます。
そうした遺伝子の混ざり合いなしに、一つの個体のコピーのような形でできた個体をクローンと言います。
ですから、クローン同士は同じ遺伝情報、DNAを持っているっていうことになります。
初めて一つの個体から人工的にクローンが生み出されたのが、1997年のクローン羊、ドリーになります。
ドリーは、体細胞核移植と呼ばれる方法によって作られました。
この方法では、まず一つの個体の体の細胞から核を取り出します。
核の中にはDNAが含まれているんですね。
さらに別の個体から卵子を用意します。 この卵子から核を取り除くんです。
この核のなくなった卵子に、先ほどの体の細胞から取った核を移植します。
通常の受精卵、精子と卵子が融合してできた細胞には、父親と母親のDNAが半分ずつ入っているわけなんですけれども、
このように、体細胞核移植によってできた卵には、
ドナーである個体の体細胞のDNAだけが入るということになるわけです。 この卵を発生させると、
ドナーと同じDNAを持ったクローンの個体が生まれてくるということになります。
クローン羊の後は、マウス、牛、ヤギ、豚、さらには猫、犬と、様々な動物で体細胞核移植によるクローンが生み出されています。
クローン動物のメリットなんですが、同じ遺伝子を持つ個体をそのまま増やせるっていうものがあります。
畜産だと、ミルクや肉の生産量の多い個体だけを増やせますし、
絶滅器具種を増やすっていう目的も考えられます。 また、研究では遺伝的に同一な動物を試験することで、
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より正確な実験ができるっていう利点があります。 でも、
畜産とかペット業界で一部実用化されているんですが、 クローン技術は広くは実用化されていません。
この理由としては、クローンの成功率が低いことがあります。 体細胞はその役割がプログラムされているんですね。
例えば、皮膚の細胞は皮膚の細胞としてのプログラムがされているわけです。
このために、DNAに小さな分子が結合していたりするんですが、 こういうのをエピジェネティックな収縮と言います。
これをリセットしないと、受精卵からの発生がうまくいかないっていうのが、 クローンの成功率が低い原因だと考えられているんです。
実際、初期のクローン研究では、クローンのクローンを作ろうとすると、 数世代でクローンが生まれなくなってしまうと報告されていました。
この問題をクリアする方法を示したのが、 山梨大学の若山輝彦らの研究です。
マウスの体細胞核移植は、1998年に若山らによって初めて実現しました。
さらにこのグループは、エピジェネティックな制御、細胞分化のプログラムを調節することで、 クローンマウスからクローンマウスを作る効率を向上させる方法を発表しています。
2013年に発表された論文では、25世代の連続クローンマウスの作成に成功するという、 連続クローンは無限に可能であることを思わせる結果を示しています。
しかし最近、同じグループから続報があって、連続クローンの限界が再検討されました。
またそれとは別に、自然界にはクローンを繰り返す動物がいます。
今日は、クローンの限界について話していきたいと思います。
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ホットサイエンティストへようこそ、里志です。
今日紹介する最初の論文は、山梨大学の若山沙耶からによる、 2026年3月のネイチャーコミュニケーションズの論文です。
マウスでは、エピジェネティックな影響を抑えることで、 クローン化の効率を上げる方法が開発されていたわけですが、
エピジェネティックな問題を除いても、 クローンには問題があることが指摘されていました。
遺伝子には有害な変異が起きることがあるんですが、 連続クローンでは、それが除けなくて生きていられなくなるっていう考えがあるんです。
通常、動物の細胞は遺伝子、DNAを2セット持っているんですね。
片方が父親、片方が母親から来たものです。
生殖細胞を作るときには、減数分裂と呼ばれる過程が起きて、 DNAを1セット持った細胞が作られます。
これが精子と卵子なんですが、 DNAを1セット持った精子と卵子が融合することで、 2セットDNAを持った受精卵ができます。
この細胞が分裂することで、体が作られていくわけです。
この減数分裂の過程では、 2コピーのDNAがシャッフルされます。
相同組替って言うんですが、 同じような配列を持った2本のDNAが並んでいて、
所々でDNAが切れて、もう一方のDNAと繋がります。
これによって、元の父親由来、母親由来のDNAが混ざったDNAが作られるんです。
こういうふうに減数分裂でDNAがシャッフルされることが、 有害な遺伝子変異を取り除くのに重要だと考えられているんです。
有害な変異が何個もあったとしても、 こういうふうに組み替えられることで、
有害な変異を持たない精子や卵子を少しは作り出せる可能性があって、
そこから生まれた子供はより健康であるということになります。
だから正常な子供を産む可能性がずっと維持されるんです。
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しかしクローンの場合には、 基本的に親と同じ遺伝子を持った子供が生まれます。
なので、一度有害な変異が入ると、 シャッフルすることによって除くということができません。
変異が除かれることなく蓄積し続け、 最終的には子供が産めなくなってしまうだろうという考えなんです。
この考えは、提唱者にちなんでミュラーのラチェットと呼ばれます。
ラチェットっていうのは、 一方向にしか回らない歯車のことなんですね。
クローンでは変異が蓄積するだけなので、 後戻りできずいずれ破綻するっていう考えなわけです。
さて、若山らのグループは2013年に、 25世代の連続クローンは生まれるっていう報告をしていたわけですが、
今回の論文ではさらに連続クローンを継続しています。
トータルで20年以上かけたこの実験の結論ですが、 世代を重ねるごとにクローン作成の成功率は落ちていって、
58世代に達した時点で、 クローン個体からのクローン作成はできなくなったというものでした。
では、何世代もクローンを作ったマウスの何がおかしくなっているのかですが、
最も顕著な違いは、DNAの配列にみられました。
まず、クローン系統では、 DNAの変異が通常のマウスよりも早く増えていっているということでした。
特に多くの世代を重ねたマウスでは、 DNAの一部がごそっとなくなっていたり、移動していたりするなどの、
大きな構造変化が蓄積していました。
こういった変異が取り除かれることなく蓄積することで、
ラチェットが回るようにDNAが劣化していき、 最終的にはクローンが作れなくなるだろうっていうことでした。
というわけで、この研究では、 クローンには限界があることを示唆しています。
体細胞核移植によるクローン作成は実験室で行われるわけですが、
自然界に目を向けてみると、動物を含めて進化生物は、 多くが有性生殖を行います。
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つまり、原数分裂によって生子乱子を作って生殖をしていて、 その過程でDNAのシャッフルを行うものが多いということです。
クローンによって増える生物も存在しているんですが、 例えばミジンコは通常はクローンで急速に増えます。
しかし環境が悪化すると、メスとオスが生まれて有性生殖に切り替わります。
このように、時々は有性生殖を行っている動物が大半なんです。
これもやはり、クローンを繰り返すことには限界があるからなのかもしれません。
しかし例外的に、全く有性生殖を行わないで、 クローンだけで増える動物が知られています。
このような動物では、何が起きているんでしょうか。
次に紹介するのが、水売大学のエドワード・ライス・メイヤーらによる、 2026年のネイチャーの論文です。
この研究では、アマゾンモーリーという、 メキシコ北東部からテキサス南部の淡水域に生息する小型の魚を対象にしています。
アマゾンモーリーは最初に見つかった無性生殖の脊椎動物で、メスのみが存在します。
この魚は、約10万年前に、2種の近縁の魚、P.mexicanaとP.latypinnaの交雑によって生まれた ハイブリッドが起源だと考えられています。
だから、アマゾンモーリーは、メキシカーナのDNA1セットと、 ラティピンナのDNA1セットを持っているということになります。
2セットのDNAがあんまり似ていないので、 うまく元素分裂が進行しなくて、正常な生殖と卵殖が作れないんです。
通常、こういう2種のハイブリッドは子供が残せないんですが、
アマゾンモーリーの場合は、元素分裂をしないで、 自身のDNA2セットがそのまま残って卵ができて、
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それが自身と同じDNAを持った個体となるという形で、 クローンを生み出していることがわかっています。
クローンですから、ミュラーのラチェットの理論の通り、 変異が蓄積していくと予測できます。
理論的には、どれくらいで生存できないほど変異が蓄積するかが計算することができて、
1万年もすれば死に絶えるという計算結果があるんです。
しかし実際には、アマゾンモーリーが生まれてから、 つまり最初のハイブリッドが生まれてから10万年程度経っていると、
DNA配列の変化量などから予測されています。
ですからミュラーのラチェット理論でいくと、 アマゾンモーリーは存在し得ないわけです。
この矛盾の答えは長年不明でした。
この論文では、アマゾンモーリーとその親種、 P. mexicana と P. latipina のゲノム配列を高精度で解析し、
DNA配列がどのように変化していったかを解析することで、 この謎に迫っています。
解析の結果ですが、まず4種類の配列情報を得ました。
原孫のメキシカーナの配列、原孫のラティピンナの配列、
さらにアマゾンモーリーが持っているメキシカーナの配列と、 アマゾンモーリーが持っているラティピンナの配列です。
この情報を使えば、最初のハイブリッドの配列をある程度推定することができます。
つまり10万年前にハイブリッドを生んだメキシカーナと、 ラティピンナのゲノム配列を推定することができるわけです。
次はこの祖先のゲノム配列を基準として、 現在の配列はどれだけ変化したのかというのを特定することができます。
これによって、アマゾンモーリーではどのような遺伝子の変異が起きたり、 起きなかったりしているかがわかるということになります。
ラチェット理論では、アマゾンモーリーには有害な遺伝子変異が蓄積していると予測されます。
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でも普通に有性生殖をしている親種、メキシカーナとラティピンナでは、 そのような蓄積はないと予測されるわけです。
しかし実際調べてみると、有害変異の蓄積は、 アマゾンモーリーでは親種と比べて増加しておらず、予測と一致しないという結果でした。
ということは、発生した有害な変異を除去する仕組みが存在するのではないかと考えられます。
しかしアマゾンモーリーでは減数分裂は起きていないので、 減数分裂時の遺伝子組み替えはこの答えではないはずです。
この論文の結論は、ジーン・コンバージョン、 遺伝子変換がその仕組みだろうというものでした。
遺伝子変換は相同組み替えほど有名ではないですが、 多くの生物に備わる遺伝子修復の仕組みです。
DNAの一箇所に切れ目が入ったとします。
何かしらの外的な要因で切れ目が入ることがありますし、 減数分裂の時には積極的に切れ目を入れる機構というのが働きます。
この切れ目を直す仕組みの一つが遺伝子変換です。
ただDNAを繋ぐのではなくて、 同じような配列をしているDNAを使って修復します。
通常の細胞にはDNAが2セットあるということでした。
一本のDNAに切れ目がある時に、 同じような配列のもう一個のDNAを使って、
これを胃型、テンプレートにして、 切れた部分の前後を少し作り直しながら修復するということが行われます。
通常の生物では細胞の中にある2本のDNAの配列はかなり似ています。
父親由来のDNAと母親由来のDNAということになるわけですが、
父親由来のDNAが切れた時に母親由来のDNAを使って直すという感じです。
アマゾンモーリーの場合は、 一方はメキシカーナ、一方はラティピンナ由来ですから、
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例えばメキシカーナ由来の方が切れた時に、 ラティピンナ由来のDNAで直すという感じになります。
直す時には胃型になった方の配列が作られますから、
修復した場所はメキシカーナの配列だったものが、 ラティピンナの配列に変わります。
そうすると結果としては、メキシカーナ由来の長いDNAに、 一部だけラティピンナの配列に置き換わった部分が見られることになります。
今回の研究でアマゾンモーリーのDNAを詳しく見ていくと、 このような遺伝子変化による修復の跡がたくさん見られました。
特に遺伝子の重要な領域、壊れていては困る部分で修復の跡が見られていたんです。
ですから、有害な変異を直す方向に遺伝子変化が働いているのではないか、 というのがこの論文の結論になります。
この研究では、近年可能になった高精度なゲノム解析により、 進化に関する長年の謎に対して一つの答えを出しています。
ハイブリッド由来のクローンで増える動物は、 アマゾンモーリーの他にもいくつかいるんですが、
その由来となった親種がすでに絶滅しているケースが多く、 そのような場合では比較解析ができません。
アマゾンモーリーのケースでは、親種が両方とも減損だったので、 このような解析を行うことができたということになります。
そしてその結果、減数分裂ができずにクローンの繰り返しを行うという、 進化的な袋工事に入り込んだ生物が、
遺伝子変換という別の仕組みを利用することで、 ゲノムの劣化を遅らせている可能性を示しています。
新覚生物の進化においては、突然変異と減数分裂時の騒動組み替えが主役であると考えられてきました。
今回の研究は、遺伝子変換も役割を果たす、 特に減数分裂が起きないときには重要であることを示唆していると言えます。
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それから、マウスを含め哺乳類でも遺伝子変換は起きているんですが、 クローンマウスでは変異の蓄積が起きているということでした。
肺形成の過程の違いなどに原因があるのではないかと想像されますが、 その理由はまだ不明ということになります。
今回がシーズン4の最初のエピソードになります。
ですので改めて簡単に番組説明をすると、 この番組ポッドサイエンティストは、
大学教員の私、佐藤氏が人に話したくなった科学論文を 専門的な知識は前提としない形で紹介している番組です。
他に番組作成には青井さん、なあちゃんの2人が参加していて、 今回とは違う形式のエピソードも時々公開しています。
それからお知らせなんですが、これまでのシーズンでは、 週1回エピソードを公開するという形でやってきました。
でも今年度は例年より本業の仕事が多いことが分かっていて、 同じペースでエピソードを作ることができなそうなので、
ポッドキャストは各週、2週に1度の公開としたいと思います。
おそらくそれよりはもう少しは多くできそうなので、
所々間の週に追加のエピソードを公開するという形でやっていこうと考えています。
楽しみにしている人には心苦しいんですけれども、 今後もお聞きいただけると嬉しいです。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。 今シーズンもぜひお付き合いください。
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