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【朗読】燈籠|太宰治|えびす朗読まつり
2026-08-31 23:21

【朗読】燈籠|太宰治|えびす朗読まつり

先日の「えびす朗読まつり」で朗読した、
太宰治「燈籠」を配信します。

朗読まつり当日の音声をそのまま収録したものです。

会場の空気とともに、
太宰治の「燈籠」をお楽しみいただけたら嬉しいです。


📖 太宰治「燈籠」テキスト(青空文庫)
https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1568_19909.html


#朗読
#燈籠
#太宰治
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00:22
言えば言うほど、人は私を信じてくれません。 会う人会う人、みんな私を警戒いたします。
ただ、懐かしく顔を見たくて訪ねて行っても、 何しに来た、というような目つきで持って迎えてくれます。
たまらない思いでございます。 灯籠|太宰治|
もう、どこへも行きたくなくなりました。 すぐ近くのお湯屋へ行くのにも、きっと日暮れを選んで参ります。
誰にも顔を見られたくないのです。 真夏の自分には、それでも夕闇の中に、私の浴衣が白く浮かんで、
恐ろしく目立つような気がして、 死ぬるほど唐握いたしました。
昨日今日、めっきり涼しくなって、そろそろ セルの季節に入りましたから、早速黒地の人へに聞かえるつもりでございます。
こんな身の上のままに、秋も過ぎ、冬も過ぎ、 春も過ぎ、またぞろ夏がやってきて、再び白地の浴衣を着て、
歩かなければならないとしたなら、それは甘いのことでございます。 せめて来年の夏までには、
この朝顔の模様の浴衣を臆することなく着て歩ける身分になっていたい。 縁日の人混みの中を薄化粧して歩いてみたい。
その時の喜びを思うと、今からもう胸がときめき致します。 盗みを致しました。
それに違いはございません。 いいことをしたとは思いません。けれども、
いいえ、はじめから申し上げます。 私は神様に向かって申し上げるのだ。
私は人を頼らない。 私の話を信じられる人は信じるがいい。
私は貧しい下駄屋の、それも一人娘でございます。 夕べお台所に座ってネギを切っていたら、
裏の腹っ端で、「姉ちゃーん!」 と泣きかけて呼ぶ子供の声が哀れに聞こえてきましたが、
03:03
私はふっと手を休めて考えました。 私にもあんなにしたって泣いて呼びかけてくれる
弟か妹があったならば、こんな侘しい身の上に ならなくてよかったのかもしれない。
と思われて、ネギの匂いのしみる目に熱い涙がわいて出て、
手の甲で涙を拭いたら、いっそネギの匂いに刺され、
あとからあとから涙が出てきて、どうしていいかわからなくなってしまいました。
あのわがまま娘が、とうとう男ぐるいを始めた。 と神井さんのところから噂が立ち始めたのは、
今年の葉桜の頃で、なでしこの花やあやめの花が、 縁日の夜店に出始めて、
けれどもあの頃は本当に楽しいございました。 水野さんは日が暮れると私を迎えに来てくれて、
私は日の暮れぬ先からもうちゃんと着物を着替えて、お化粧も済ませ、
何度も何度も家の門口を出たり入ったりいたします。 近所の人たちはそのような私の姿を見つけて、
それ、芸体屋の佐紀子の男ぐるいが始まった。 などそっと指さし、ささやき交わして笑っていたのが、
あとになって私にもわかってまいりました。 父も母もうすうす勘づいていたのでしょうが、それでも何も言えないのです。
私は今年二十四になりますけれども、それでもお嫁に行かず、おむこさんも取れずにいるのはうちの貧しいゆえもございますが、
母はこの町内での顔ききの地主さんのおめかけだったのを私の父と話し合ってしまって、 地主さんの恩を忘れて父の家へ駆け込んできて、
まもなく私を生み落とし、私の芽花立ちが地主さんにもまた私の父にも似ていないとやらで、いよいよ世間を狭くし、
一時はほとんどひかげ者扱いを受けていたらしく、 そんな家庭の娘ゆえ、遠慮いのも当たり前でございましょう。
もっとも、こんな器量ではお金持ちの家族さんの家に生まれてみても、 やっぱり遠慮い定めなのかもしれませんけれど。
06:01
それでも私は私の父を恨んでいません。 母をも恨んでおりません。
私は父の実の子です。 誰が何と言おうと、私はそれを信じております。
父も母も私を大事にしてくれます。 私もずいぶん両親をいたわります。
父も母も弱い人です。 実のこの私にさえ何かと遠慮いたします。
弱い、おどおどした人をみんなで優しくいたわらなければならないと存じます。
私は両親のためには、どんな苦しい寂しいことにでも耐えしのんでいこうと思っていました。
けれども、みずのさんと知り合いになってからは、
やっぱり少し親孝行を怠ってしまいました。
これは申すも恥ずかしいことでございます。
みずのさんは私より5つも年下の商業学校の生徒なのです。
けれども、お許しください。私には他にしようがなかったのです。
みずのさんとは今年の春、私が左の目を患って近くの名社へ通って、
その病院の待合室で知り合いになったのでございます。
私は一目で人を好きになってしまうたちの女でございます。
やはり私と同じように左の目に白い眼帯をかけ、深いげに眉をひそめて、
小さい辞書のページをあちこちくって調べておられる御様子は、大変おかわいそうに見えました。
私もまた眼帯のためにうつうつ気が失して、
待合室の窓から外の市井の若葉を眺めてみても、
市井の若葉がひどい陽炎に包まれて、めらめら青く燃え上がっているように見え、
外界のものがすべて遠いおとぎ話の国の中にあるように思われ、
水野さんのお顔があんなにこの世のものならず美しく尊く感じられたのも、
きっとあの私の眼帯の魔法が手伝っていたと存じます。
水野さんは身なし子なのです。誰も親身になってあげる人がいないのです。
もとはなかなかの薬酒どんやで、お母さんは水野さんが赤ん坊のころに亡くなられ、
またお父さんも水野さんが十二のときにお亡くなりになられて、それから家が行けなくなって、
09:03
兄さん二人、姉さん一人、みんなちりじりに遠い親戚に引き取られ、
末子の水野さんはお店の番頭さんに養われることになって、
今は商業学校に通わせてもらっているものの、それでもずいぶん気づまりな、
わびしい一日一日を送っておられるらしく、
私と一緒に散歩などしているときだけが楽しいのだ、とご自分でもしみしみそうおっしゃっていたことがございます。
身のまわりについてもいろいろとご不自由のことがあるらしく、
今年の夏、お友達と海へ泳ぎに行く約束をしちゃったとおっしゃって、
それでもちっとも楽しそうな様子が見えず、かえって打ちしおれておられて、
その夜、私は盗みをいたしました。
男の海水着を一枚盗みました。
町内では一番手広く飽きなっている大丸の店へすっと入って行って、
女の簡単服をあれこれ選んでいるふりをして、
後ろの黒い海水着をそっと手繰り寄せ、脇の下にぴったり抱え込み、
静かに店を出たのですが、二三元歩いて後ろから、
もし、もし、と声をかけられ、
わーっと大声発したいほどの恐怖にかられて、きちがいのように走りました。
泥棒という太い喚き声を後ろに聞いて、
ガンと肩を打たれてよろめいて、
ふっと振り向いたら、ピシャンと頬を殴られました。
私は交番に連れて行かれました。
交番の前には黒山のように人がたかりました。
みんな町内の見知った顔の人たちばかりでした。
私の髪はほどけて、浴衣の外からは膝こそ抑えれていました。
浅ましい姿だと思いました。
おまわりさんは私を交番の奥の畳を敷いてある狭い部屋に座らせ、
いろいろ私に問いただしました。
色が白く細表の金縁の眼鏡をかけた
二十七八のいやらしいおまわりさんでございました。
12:03
一通り私の名前や住所や年齢をたずねて、
それをいちいち手帳に書き取ってから、急ににやにや笑い出して、
今度で何回目だね、と言いました。
私はちょっと寒気を覚えました。
私には答える言葉が思い浮かばなかったのでございます。
孫孫していたら牢屋へ入れられる、重い罪名を負わされる、
何とかしてうまく言い逃れなければと、
私は必死になって弁解の言葉を探したのでございますが、
何と言い張ったらよいのか、ごり夢中をさまよう思いで、
あんなに恐ろしかったことはございません。
叫ぶようにしてやっと言い出した言葉は、
自分ながら無様な唐突なもので、
けれども一言言い出したら、
まるで狐に疲れたように止めどもなくおしゃべりが始まって、
なんだか狂っていたようにも思われます。
私を牢へ入れてはいけません。私は悪くないのです。
私は二十四になります。
二十四年間私は親孝行いたしました。
父と母に大事に大事に仕えてきました。
私は何が悪いのです。
私は人様から後ろ指一つ刺されたことがございません。
水野さんは立派な方です。
今にきっとお偉くなるお方なのです。
それは私にわかっております。
私はあのお方に恥をかかせたくなかったのです。
お友達と海へ行く約束があったのです。
人並みの支度をさせて海へやろうと思ったんだ。
それがなぜ悪いことなのです。
私は馬鹿です。馬鹿なんだけれど、
それでも私は立派に水野さんを仕掛けてご覧に入れます。
あのお方は上品な生まれの人なのです。
他の人とは違うのです。
私はどうなってもいいんだ。
あの人さえ立派に世の中へ出られたら、
それでも私はいいんだ。
私には仕事があるのです。
私を牢に入れてはいけません。
私は二十歳になるまで何一つ悪いことをしなかった。
弱い良心を一生懸命いたわってきたんじゃないか。
15:01
嫌です。嫌です。私を牢に入れてはいけません。
私は牢へ入れられるわけはない。
二十四年間勤めに勤めて、
そうしてたった一晩、
ふっと間違って手を動かしたからって、
それだけのことで二十四年間、
いいえ、私の一生をめちゃめちゃにするのは、
いけないことです。間違っています。
私には不思議でなりません。
一生のうち、たった一度、
思わず右手が一尺動いたからって、
それが手癖の悪い証拠になるのでしょうか。
あんまりです。あんまりです。
た一度、ほんの二三分の事件じゃないか。
私はまだ若いのです。これからの命です。
私は今までと同じように、
つらい貧乏暮らしを辛抱して生きてゆくのです。
それだけのことなんだ。
私は何にも変わってやしない、
昨日のままのサキ子です。
買いすいぎ一つで、
大丸さんにどんな迷惑がかかるのか。
人をだまして千円、二千円と絞り取っても、
いいえ、一身代潰してやって、
それでみんなに褒められている人さえあるじゃございませんか。
牢は一体誰のためにあるのです。
お金のない人ばかり牢へ入れられています。
あの人たちは、きっと他人をだますことのできない、
弱い正直なたちなんだ。
人をだましていい生活をするほど悪賢くないから、
だんだん追い詰められて、あんな馬鹿げたことをして、
二円三円を強奪して、
そうして五年も十年も牢へ入っていなければいけない。
はははは、おかしい、おかしい、なんてこった、
ああ、馬鹿馬鹿しいのね。
私はきっと狂っていたのでしょう。
それに違いございません。
おまわりさんは青い顔をしてじっと私を見つめていました。
私はふっとそのおまわりさんを好きに思いました。
泣きながらそれでも無理して微笑んで見せました。
どうやら私は精神病者の扱いを受けたようでございます。
おまわりさんは腫れ者にさわるように大事に私を警察署へ連れて行って下さいました。
18:01
その夜は留置場に留められ、朝になって父が迎えに来てくれて、
私は家へ帰してもらいました。
父は家へ帰る途中、
殴られやしなかったか、と一言そっと私に尋ねたきりで、他には何も言いませんでした。
その日の夕刊を見て私は顔を耳まで赤くしました。
私のことが出ていたのでございます。
万引きにも三分の利。
変質の左翼少女、とうとうとビジレイクという見出しでございました。
知辱はそれだけでございませんでした。
近所の人たちはうろうろ私の家のまわりを歩いて、
私もはじめはそれが何の意味かわかりませんでしたが、
みんな私の様を覗きに来ているのだと気づいた時には、私はわなわな震えました。
私のあのちょっとした動作がどんなに大事件だったのか、だんだんはっきりわかってきて、
あの時私の家に毒薬があれば、私は気楽に飲んだことでございましょうし、
近くに竹やぐでもあれば、私は平気で中へ入っていって首をつったことでございましょう。
二、三日の間、私の家では店を閉めました。
やがて私は水野さんからもお手紙をいただきました。
僕はこの世の中で佐紀子さんを一番信じている人間であります。
ただ、佐紀子さんには教育が足りない。
佐紀子さんは正直な女性なれども、環境において正しくないところがあります。
僕はそこの箇所を直してやろうと努力してきたのであるが、やはり絶対のものがあります。
人間は学問がなければいけません。
先日、友人と共に海水浴に行き、海品にて人間の向上心の必要について長いこと論じ合った。
僕たちは今に偉くなるだろう。
佐紀子さんも、以後は行いを慎み、犯した罪の万分の一にても償い、深く社会に沈舎するよう。
社会の人、その罪を憎みてその人を憎まず。
21:02
水野三郎、読後必ず焼却のこと、封筒もともに焼却してください。
必ず。
これが手紙の全文でございます。
私は水野さんがもともとお金持ちの育ちだったことを忘れていました。
針のむしろの一日一日が過ぎて、もうこんなに涼しくなってまいりました。
今夜は父が、「どうもこんなに電灯が暗くては気がめいていけない。」と申して、六畳間の電球を五十色の明るい電球と取り替えました。
そうして親子三人、明るい電灯の下で夕食をいただきました。
母は、「ああ、まぶしいまぶしい。」と言っては、箸持ち手を額にかざして大変うきうきはしゃいで、私も父にお釈をしてあげました。
私たちの幸せは、所詮こんなお部屋の電球を買えることくらいのものなのだ、とこっそり自分に言い聞かせてみましたが、そんなにわびしい気も起こらず、
かえって、このつつましい電灯をともした私たちの一家が、ずいぶんきれいな走馬灯のような気がしてきて、
ああ、のぞくならのぞけ、私たち親子は美しいのだ、と庭になく虫にまでも知らせてあげたい静かなよろこびが、胸にこみあげてきたのでございます。
23:21

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