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こんばんは、今夜もまた、おやすみ歴史ラジオの時間がやってきました。ベッドに入って、一番リラックスできる姿勢で聞いてね。
今夜から新しく始まるのは、第7走者、春日局の物語です。 昨日の第6走者だった真田幸村は、戦国最後の大きな戦いで、自分の誇りと知恵を信じて最後の最後まで美しく命を燃やし尽くしました。
そのすさまじい輝きを見た徳川家康は、二度とこのような戦を起してはならないと平和への決意を固め、誰も戦わなくていい江戸の世の中が本格的に始まっていくのでしたね。
さて、戦国という激しい男たちの戦いが終わり、新しく始まった江戸幕府。しかし、平和になったからといって、すべての戦いが消えたわけではありませんでした。
今度は、お城の奥深く、後に大多くと呼ばれる女性たちのプライドと意地がぶつかり合う、もう一つの激しい戦いの舞台が生まれようとしていたのです。
その中心に立ち、徳川の未来を裏から支配することになる一人の強い女性。それが今夜の主役である春日局、後野福です。
お福がまだ幼い頃、彼女の人生は、これ以上ないというほどの過酷な底辺から始まりました。
お福のお父さんは、明智光秀の筆頭家老であった斎藤利光です。本能寺の辺において、織田信長を討つ実質的な最前線に立った男でした。
しかし、山崎の戦いで明智光秀が豊臣秀吉に敗れると、お福のお父さんも捕らえられ、無惨に処刑されてしまいました。
昨日までは、名門の霊場として何不自由なく暮らしていたお福。しかし次の日からは、一転して天下の大逆襲の娘として、日本中から追われる身になってしまったのです。
親戚たちの家をこそこそと転々としながら、周囲からは明智の生き残りなど置いておいたら、我が山で秀吉様に滅ぼされてしまうと、まるで腫れ者に触るかのように厄介者扱いされる屈辱の日々が始まりました。
しかし、お福の心は奈美の男たちよりも遥かに気高く、そして強かったのです。それもそのはず彼女の母方は、頑固一徹という言葉の語源にもなった美濃の猛将、稲葉一徹の血筋であり、その強烈な気骨が脈々と流れていたからです。
お福の胸の奥には、お父さんの無念と一族から受け継いだ乱世を生き抜く強靭な意思が秘められていました。お福はどんなに冷たい世間の目に晒されても、じっと唇をかみしめてこう心に誓っていました。
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私はただの裏切り者の娘として歴史の闇に埋もれて終わるつもりは絶対にない。どんなに泥水をすすることになろうとも、いつか必ず自分の力でこの運命をひっくり返してみせる。お福は生き残るための武器として必死に強要を身につけました。
茎の血を引くお母さんから文字や歴史だけでなく、お城での高度な礼儀作法、和歌、さらには政治や経済の仕組みまで大人の男たちに負けない知識を、貪欲にその頭脳に叩き込んでいったのです。
やがて大人になったお福は、稲葉正成という武将と結婚しました。三人の男の子にも恵まれ、夫の領地での暮らしは、ようやく手に入れた穏やかな幸せのように見えました。しかし、お福の胸の奥にある情熱の火はまだ消えてはいませんでした。
そんなある日、彼女のもとに運命の歯車を大きく動かすニュースが飛び込んできます。それは、天下の権力を完全に握った徳川家康の孫に、新しい男の子の赤ちゃんが生まれた、という知らせでした。
しかも、その赤ちゃん、後の三大将軍となる徳川家康の恩婆、つまりお母さんの代わりに未来の将軍を育て上げ、教育する絶対的なリーダーを京都や大阪中から広く募集しているというのです。これを聞いた瞬間、お福の瞳の奥に鋭い光が宿りました。
これだ、このチャンスをつかめば、私は歴史の表舞台に立てる。徳川の未来のトップを、私の手で育てるのだ。しかし、恩婆になるということは、今ある家族や子供たちをすべて置いて、一人で江戸へ行かなければならないことを意味していました。
当然、夫の政成は大反対します。何を馬鹿なことを言っているんだ。大逆心の娘であるお前が徳川の恩婆になれるわけがない。おとなしくここで暮らすんだ、お福はじっと夫の目を見つめました。その眼差しには、誰にも曲げられない凄まじい覚悟が満ちていました。
いいえ、私は行きます。これは、私が私の力で運命を変える、一生に一度の戦いなのです。お福は、なんとその場で夫に利縁を突きつけ、住みなれた家を飛び出しました。気の見きのまま幼い我が子たちを置いて、一人で徳川の恩婆の面接へと突撃していったのです。
お福が面接会場に現れたとき、周りの人々は一瞬、耳をぎしました。おい、あそこにいる女性は、明智光秀の家老だった斎藤利光の娘ではないか、天下を揺るがした裏切り者の血を引く者を、徳川のしかも未来の将軍の恩婆にするなど、正気の沙汰ではない会場には、そんな冷ややかな視線とひそひそ話が飛び交っていました。
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並の女性なら、その場に居続けることすら耐えられなかったでしょう。しかし、お福は背筋をピンと伸ばし、堂々とした態度で面接の席へと進みました。彼女の前に座っていたのは、徳川家康の絶大な信頼を得ていた、京都のトップである京都書支代の板倉勝重という厳しい役人でした。
勝重は、お福の経歴書をじっと見つめ、鋭い眼光で問いかけました。お福殿、お前の実家がどのような家系か、自分でもよくわかっているはずだ。なぜ、その身でありながら、徳川の恩婆に応募したのだ、お福は少しもひるむことなく、勝重の目を真正面から見据えて、静かにしかし力強い声で答えました。
私の父、斉藤利光は、戦の世を終わらせようとして敗れました。私は裏切り者の娘として生きてきたのではありません。乱世の厳しさと、人の心の脆さを、誰よりも間近で見て学んできたのです。
今、徳川様が作ろうとされている新しい平和の世、その未来を担うお子様を育てるには、甘い環境で育ったお姫様ではなく、地獄を見て、なお生き抜いてきた私の知恵こそが必要でございます。その言葉には、ただの野心ではなく、これまでの苦難の人生すべてを懸けた圧倒的な説得力がありました。
面接官であった板倉勝茂は、おふくの強要の高さ、そして何よりその強靭な精神力に深く感銘を受けました。この女は、ただものではない、徳川の未来を預けるに足る本物の器だ、こうして、おふくは見事にその大抜擢を勝ち取ったのです。
大逆襲の娘という最悪のスタートから、ついに彼女は、江戸城という日本の中心へと足を問い入れることになりました。しかし、江戸城にあがったおふくを待っていたのは、想像を絶するような、もう一つの孤独な戦いでした。
おふくが預けられたのは、まだ生まれたばかりの小さな赤ちゃん、後の三大将軍となる竹千代でした。おふくは、我が子と離れてまで選んだこの戦いで、竹千代を立派な後継ぎに育てあげることを誓います。しかし、事態はすぐに暗雲が立ち込めました。竹千代のみのお母さんである大江戸様。
彼女は、安尾田信長の妹の娘という、これ以上ない名門の生まれです。大江戸様にとって、大逆襲の娘であるおふくが、我が子の恩馬として我が物顔で城にいることが、どうしても面白くありませんでした。さらに悲しいことに、竹千代は生まれつき体が弱く少し人見知りで、言葉もうまく話せないところがありました。
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一方で、数年後に生まれた弟の邦松は、元気いっぱいで頭の回転も早く、容姿も堪齢。みのお母さんである大江戸様は、次第に頼りない兄の竹千代を避け、優秀で可愛い弟の邦松ばかりを出来合いするようになっていったのです。
お城の家来たちも、お母さんの顔色をうかがって、邦松ばかりを持ち上げるようになりました。次の将軍になるのは、お兄様の竹千代様ではなく、弟の邦松様に違いない、城内にはそんな噂が流れ始めます。
まだ幼い竹千代は、広いお城の中で、誰からも愛されない孤独に震えていました。部屋の片隅で寂しそうにうつむく竹千代の姿を見て、おふくの胸は激しく痛みました。この寂しさは、かつて周りから厄介者扱いされていたあの頃の私と同じだ。
おふくは、竹千代をぎゅっと抱きしめ彼の目を見つめて力強く言いました。竹千代様、お安じめされるな。このおふくが命に変えてもあなた様をお守りいたします。あなた様こそが、この徳川の正当な跡継ぎ、未来の将軍になられるお方なのです。ここからおふくの本当の戦いが始まります。
身のお母さんや城内の大勢の家来たちを敵に回してでも、孤独な少年を王にするための女一人の執念の戦いが幕を開けたのです。今夜のお話は、これでおしまいです。どんな逆境の中でも、決して自分の覚悟をまげなかったおふくの強い信念のぬくもりを感じながら、心地よい布団の中でゆっくりと深い眠りについてくださいね。それでは、おやすみなさい。