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こんばんは。今夜もまた、おやすみ歴史ラジオの時間がやってきました。
ベッドに入って、一番リラックスできる姿勢で聞いてね。
さて、今夜から新しく始まるのは、この歴史レースの本編グランドフィナーレを飾る、最後の第14走者、徳川慶喜の物語。
その第1話をお届けします。
前回まで駆け抜けた厚姫が、江戸城の中から命がけで守り抜こうとした徳川の家。
その激動の幕末において、日本の歴史上、最後となる第15代将軍の座につき、
全ての歴史の重荷を背負って新時代への扉を開いた人物の、孤独と格闘に満ちた生涯を辿っていきましょう。
時代は、黒船の来航によって日本中が大きく揺れ動き、誰もが明日の行方を見通せずにいた頃のことです。
吉信は、水戸徳川家という、徳川一族の中でも取り分け格式が高く、
同時に水戸学という非常に熱い愛国心と尊能の教えを重んじる特別な家系に生まれました。
彼の父親である徳川成明は、非常に厳格な教育者として知られていました。
吉信は幼い頃から、甘やかされることなど一切なく、
冷たい寝床で眠り、徹底した文武領導の教育を受けさせられました。
寝相が悪ければ、枕の両脇に髪剃りを置かれるという、すさまじいまでの厳しさの中で育てられたのです。
しかし、吉信はそんな過酷な環境の中で、ひねくれるどころか、
誰もが目を見張るほどの波外れた天才児へと成長していきました。
勉強をさせれば一度読んだ書物はすべて暗記し、
武芸をやらせれば弓も剣も大人の達人を驚かせるほどの腕前を見せる。
さらに、物事の本質を瞬時に見抜き、
論理的に相手を説得する驚異的な知性を、十代前半にしてすでに備えていたのです。
その圧倒的な才能は、すぐに周囲の大人の知るところとなりました。
江戸の幕府を良い方向へ変えたいと願う人々、
そして、あの薩摩藩の命君である始末成明らや、
後に福井の健康と呼ばれる松平春学といった国を売れる一流のリーダーたちが、
こぞってこの若い天才に大きな期待を寄せるようになったのです。
この吉信こそが、古い式たりで凝り固まった江戸幕府を改革し、
日本を外国の脅威から守ることができる唯一無二の救世主である。
そう確信した大人たちは、吉信を将軍の後継候補として、
一橋家という将軍家に非常に近い名門の養子へと送り出しました。
すべては彼を次の将軍にし、日本を変えようとする壮大な計画の始まりでした。
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しかし、当時の将軍の身の回りを固めていた幕府の保守派の大人たちにとって、
あまりにも賢く、自分の考えをはっきりと主張する吉信という存在は、
恐るべき脅威でしかありませんでした。
もっと扱いやすく、自分たちの思い通りになる人物を将軍に据えたい。
そう願う幕府の権力者、大郎の言い直すけらとの間で、
吉信をめぐる激しい権力の綱引き、将軍啓示問題と呼ばれる嵐のような政治闘争が巻き起こったのです。
吉信を新しい将軍に立てて幕府の古い体質を根本から変えようとする、
始末成明らをはじめとした改革派の大人たち。
一方で、これまで通りの絶対的な権力を守ろうとし、
幼い徳川家持を次の将軍に押す保守派の筆頭、大郎の言い直すけ。
この二つの勢力の対立は、やがて日本の未来を二つに引き裂くほどの激しい嵐へと発展していきました。
圧倒的な武力と権力を持つ言い直すけは、自分に歯向かう者たちを徹底的に弾圧し始めました。
これがいわゆる安政の大国と呼ばれる地の弾圧です。
吉信を支持していた優れた思想家や志士たちが次々と捉えられ、厳しい処刑に処されていきました。
そして、その派はついに吉信自身にも向けられたのです。
言い直すけの命令によって、吉信はすべての役職を奪われ、
自宅の一室に閉じ込められて一歩も外に出ることを許されない厳しい窒挙という処分を下されてしまいました。
まだ二十代という若さの絶頂期にありながら、吉信は昼でも薄暗い部屋の中でじっと息を潜めて過ごすことを余儀なくされたのです。
自分の意思とは関係なく、大人たちの都合で救世主と崇められ、今度は同じ大人たちの手によって罪人のように闇に葬られる。
この理不尽な現実を前にして、吉信の心には政治というものの冷酷さと人間という存在の身勝手さに対する深い不信感と諦めのような感情が静かに芽生えていきました。
しかし、歴史は彼をいつまでも眠らせてはくれませんでした。
あの桜田門外の変によって井伊直助が倒れると、幕府は再び激しい混乱に陥りました。
押し寄せる外国の軍艦、そして幕府を倒そうと立ち上がる全国の志士たちの勢いを前に腰を抜かした幕府の役人たちは、再びあの天才の力を借りようと吉信の処分を説いたのです。
処分が解かれた吉信に与えられた任務は、将軍後見職という、まだ若い将軍家持を院から支える、事実上の幕府の最高司令官という重大なポジションでした。
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さらに彼が赴くように命じられたのは、世界で最も危険な火薬庫と化していた天皇の暮らす都、京都でした。
当時の京都は、幕府を倒そうと行きまく過激な志士たちが全国から集まり、毎日あちこちで血なまぐさい暗殺が繰り返される、まさに無法地帯となっていました。
かつて自分を闇に葬った幕府の都合で、最も危険な最前線へと切り出された吉信。
しかし、彼は冷ややかな瞳の奥に天才特有の鋭い光を宿らせながら、再び歴史の表舞台へと静かに歩みを進めました。
不気味な殺気が漂い、いつ誰に命を狙われるかわからない混沌の都、京都。
この地へ足を踏み入れた吉信を待ち受けていたのは、武力で幕府を倒そうと目論む薩摩藩や長州藩、
そして自分たちの権力を取り戻そうと裏で複雑に糸を引く朝廷の公家たちという、一筋縄ではいかない強敵ばかりでした。
しかし吉信の天才的な頭脳は、この窮地においてこそ恐るべき輝きを放ちました。
彼は浪いる諸藩の代表や公家たちを相手に、ある時は流れるような美しい言葉で相手の矛盾を鋭く突き、
またある時は激しい怒りを見せて相手を威圧するなど、変幻自在の交渉術を見せました。
そのあまりにも頭が良く、何を考えているのか読めない油断のならなさに、
あの薩摩の最後を高森でさえも、一橋のあの男は恐ろしい怪物であると深く警戒したほどでした。
吉信は混沌としていた京都の政治を瞬く間に自分の首中に治め、実質的な最高指導者としての地位を確立していったのです。
しかし戦いの嵐はさらに激しさを増していきました。
幕府に反旗を翻した長州藩との激しい戦争、
そして将軍家持ちの突然の死、
誰もがもう徳川の時代は終わったと絶望し、幕府という泥舟から逃げ出そうとしていました。
その引き引きの状況の中で全ての重荷を背負う者として、ついにその時がやってきました。
みんなが逃げ惑う中で最後を託せるのはこの点さえしかいない。
朝廷や家臣たちから次の将軍になってほしいという懇願を何度も受けた吉信。
しかし彼はその要請を何度も冷ややかに断り続けました。
吉信はわかっていたのです。
今将軍になるということは何百年も続いて崩壊しかけている古い体制のすべての責任を押し付けられ、燃え盛る火の中に自ら飛び込むようなものであると。
それでも押し寄せる時代の運命からこれ以上逃げることはできませんでした。
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覚悟を決めた吉信はついに第十五代征夷大将軍の座へと就任しました。
日本の歴史上最後となる将軍の誕生でした。
それは決して天下を制した栄光の瞬間ではなく、徳川という巨大な家の終焉をその手で見届けるための孤独な戦いの始まりに過ぎなかったのです。
しかしそのお話はまた次のお話。
今夜のお話はこれでおしまいです。
自分の意思とは裏腹に時代の中心へと引きずり出されながらも、その鋭い知性で戦い抜いた吉信の圧倒的な姿を思い浮かべながら、
今夜はどうか全ての重荷を下ろして温かい布団の中で深く心地よい眠りについてくださいね。
それではおやすみなさい。