坂本龍馬の幼少期と家族の愛情
こんばんは、今夜もまた、おやすみ歴史ラジオの時間がやってきました。 ベッドに入って、一番リラックスできる姿勢で聞いてね。
前回は、幾重もの重圧と持病の痛みに耐えながら、あえて悪役の仮面をかぶって日本の扉を叩いた アメリカの老軍ジンペリーの孤独な生涯を見てきましたね。
彼が命を削って残していった新しい時代の風は、大平の眠りについていた日本を揺らし、次なる若き主役たちの心を熱く突き動かしていくことになります。
その風を誰よりも敏感に感じ取り、後に誰も成し遂げられなかった大きな奇跡を起こすことになるのが、今回の主人公である坂本龍馬です。
今や幕末で最も人気のある、誰もが知る大英雄の龍馬ですが、その少年時代は、後の輝かしい活躍からは想像もつかないほど頼りないものでした。
高知の豊かな自然に囲まれた土佐の町で、龍馬は裕福な松下の一族である坂本家の次男として生まれました。
幼い頃の彼は、体が小さくていつもおどおどしており、近所の子供たちにいじめられては、すぐに泣きべそをかいて家に逃げ帰ってくるような器用な少年だったのです。
勉強も苦手で、塾の先生からは、これほど物覚えの悪い子は見たことがないとさじを投げられてしまうほどでした。
そんな泣き虫で不器用だった龍馬を、誰よりも温かく、そして深く愛してくれたのが母の幸でした。
母は、どれほど周囲から出来損ないと言われようとも、龍馬の優しい心をいつも信じ、その小さな体をぎゅっと抱きしめてくれました。
しかし、そんな優しい母は、龍馬がまだ十二歳という若さの時に、思い病によってこの世を去ってしまうのです。
心の支えを失い、一人で泣きじゃくる龍馬の手を、代わりに強く握りしめてくれたのが、三歳年上の姉である乙女でした。
乙女は、とても体が大きくて力強く、男まさりな性格をした、まさに太陽のような女性でした。
彼女は、悲しみに暮れる弟を厳しく、しかし誰よりも深い愛情で励まし、
お前はいつか必ず大きな男になるのだから、泣いてばかりいてはいけないと、剣術の稽古へと連れ出したのです。
姉の乙女による熱血な指導と、厳しくも温かい坂本家の家族の愛情に包まれて、泣き虫だった龍馬は少しずつその才能を開花させていきました。
江戸への剣術修行と黒船来航
体はいつしか見違えるほど大きくたくましくなり、剣術の腕前もめきめきと上達していったのです。
やがて19歳になった龍馬は、さらなる強さを求めて、生まれ育った土佐の地を離れ、
はるばる大都会である江戸へと剣術修行に旅立つことになりました。
初めて見る江戸のにぎわいや、全国から集まってきた腕自慢の若者たちとの出会いに、龍馬の心はこれまでにない興奮で満ちあふれていました。
ところが、その江戸に到着して間もないある日のこと、日本の歴史を根本からひっくり返すような、あの大事件が起こったのです。
それこそが、アメリカからやってきたペリーの率いる、あの漆黒の巨大な黒船の襲来でした。
江戸の街はまるで蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、龍馬の通う剣術道場にも幕府から海岸を守るようにとの命令が下されました。
重い鎧を身にまとい、刀を握りしめて浦賀の海岸へと向かった龍馬は、そこで水平線の向こうに浮かぶ本物の黒船の姿を、その大きな瞳に焼きつけることになります。
煙を吐きながら不気味に佇む巨大な鉄の塊と、それに怯えて右往左往するばかりの大人たちの姿、それまで自分の生まれ育った土佐という世界しか知らなかった龍馬にとって、異国の圧倒的な科学技術の力は、頭を激しく殴られたかのような凄まじい衝撃でした。
このままでは日本は異国に飲み込まれてしまうかもしれない。しかし、ただ怖がって刀を振り回しているだけでは、この国を守ることなど絶対にできない。
海岸の冷たい風に吹かれながら、龍馬は故郷の姉に向けて驚きと興奮の入り混じった手紙を書き送っています。
戦いになれば異国の首を切り落してみせます、と威勢のいい言葉を並べながらも彼の胸の奥には、これまでの古い常識が通用しない全く新しい時代の足音が確かに鳴り響いていました。
剣術の強さだけでは測れない、もっと大きな世界が海の向こうに広がっている。
この黒船との出会いこそが、一人の素朴な若者だった龍馬を、世界の海へと目を向けさせる、大きな運命の別れ道となったのです。
新たな時代への目覚めと旅立ちへの決意
江戸での激動の修行期間を終え、一度は故郷の土佐へと戻った坂本龍馬。しかし、彼の心の内に宿った新しい時代への火種は、もはや消えることはありませんでした。
土佐に戻った彼は、親戚や仲間たちとこれからの日本の未来について熱く語り合いましたが、その瞳は土佐の山々を越えて、常にあの広大な世界の海へと向けられていたのです。
かつてはいじめられっこで泣き虫だった少年は、大切な家族の愛情に支えられ、そして黒船という時代の荒波に直面したことで、誰よりも大きな視野を持つ一人の立派な青年へと成長を遂げていました。
自分の生きるべき道は、この狭い土佐の中だけに留まるものではない。この国全体を、そして世界を相手にするような大きな仕事を成し遂げたい。
龍馬の胸の中で古い仕組みに縛られた藩という枠組みを飛び出し、たった一人で自由な旅へと踏み出すための大きくて固くなな覚悟が静かに、しかし力強く固まりつつありました。
ここから一人の何者でもなかった若者が、歴史の主役へと踊り出る、波瀾万丈の旅路がいよいよ始まっていくのです。
さあ、大きな志を胸に抱いた龍馬は、これからどのような出会いを経て、日本の運命を動かしていくのでしょうか。
それはまた次のお話、今夜のお話はこれでおしまいです。
泣き虫だった少年時代を乗り越え、新しい時代の風を感じて、未知なる未来へと力強く歩み出そうとした龍馬の優しく自由な情熱にそっと思いを馳せながら、
今夜はどうか、すべての重荷を下ろして、心地よいお布団の中でゆっくりと深い眠りについてくださいね。
それでは、おやすみなさい。