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今晩は、今夜もまた、おやすみ歴史ラジオの時間がやってきました。 ベッドに入って、一番リラックスできる姿勢で聞いてね。
前回は、若き日の高森が、尊敬する主君の旧姿や親友との悲しい別れを経験し、 絶望の中で南の果ての奄美大島へと流されていくところまでを見てきましたね。
一度は海へ投げた命、それを島の貧しい人々の優しさに触れる中で、これからは民のために捧げようと静かに魂を磨き直した高森。
そんな彼に、ついに故郷の薩摩藩から、歴史の表舞台へと戻って来いという待ちに待った命令が下されたのです。
島へと流されてから、およそ3年という月日が流れていました。
京都や江戸では、ますます幕府と諸藩の対立が激しくなり、もはや高森のような実力のある男の力を借りなければ、薩摩藩としても時代の波を乗り切ることができなくなっていたのです。
島を離れる日、高森は見送りに来てくれた島の人々一人一人と固く手を握り合い、この恩は決して忘れないと涙を流して約束し、再び荒れる幕末の本土へと帰還しました。
しかし、ようやく復帰を果たした高森を待ち受けていたのは、新しい主君との決定的な亀裂というさらなる過酷な現実でした。
当時の薩摩藩の実権を握っていたのは、亡くなった島津成明の弟である島津久光という人物でした。
久光は偉大な兄の意思を継ぎ、自分が大軍を率いて京都へ上り、朝廷と幕府を仲立ちして新しい国を作ろうという壮大な計画を胸に秘めていました。
しかし、京都の生々しい政治の現実を誰よりもよく知る高森は、久光のこの計画に対して真っ向から反対の意見を突きつけたのです。
じっくりと地元の足元を固めることなく、ただ大軍を連れて京都へ乗り込んでも、他の藩や幕府から警戒されるだけで何の成果も得られないばかりか、かえって薩摩を危険にさらすことになります。
高森は、久光の目の前ではっきりとその無謀さを指摘しました。
そればかりか、命訓だった兄の成明らと比べ、まだ政治の経験が浅い久光のことを、ただの田舎の頑固者であるかのようにみなす、極めて無礼な態度を取ってしまったと伝えられています。
自分の意見を真っ向から否定され、さらに家柄の低い下級武士である高森から無礼な態度を取られた始末久光の怒りは凄まじいものでした。
久光は、命令を無視して京都へ先回りした高森の行動を退却罪とみなし、即座に捕らえて薩摩へ送り返すよう命じたのです。
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せっかく歴史の表舞台に戻ってきたのも束の間、高森はわずか数か月で、再び罪人として南の島へと流されることになってしまいました。
しかも、今回の処分は前回の奄美大島の時とは比べ物にならないほど冷酷で過酷なものでした。
前回はまだ主君を亡くした高森を保護するという名目がありましたが、今回は完全に、行かれる最高権力者からの処罰としての旅刑だったのです。
高森はまず徳之島という島へ送られ、そこからさらに南にある沖の選ぶ島という小さな古島へと移されました。
この沖の選ぶ島での生活はまさに地獄そのものでした。
彼に与えられたのは、吹きさらしの海岸沿いに建てられた、およそ大人がまともに横たわることもできないほどの、狭くて粗末な木製の牢屋でした。
屋根と格子があるだけのその牢屋は、夏の強烈な太陽の光が容赦なく照りつけ、冬には冷たい潮風がそのまま吹き込んできました。
体の大きな高森は、その狭い牢の中でまともに足を伸ばすこともできず、ただじっと耐え続けるしかありませんでした。
ろくな食事も与えられず、不衛生な環境の中で彼の狂犬だった体はみるみるうちに衰えていきました。
激しい栄養失調と過酷な暑さ寒さによって、高森は重い熱病にかかり、生死の境をさまようほどの渋滞になってしまいます。
あまりの苦しさに牢の格子を握りしめながら、いっそのことここで死んでしまえればどれほど楽だろうかと、何度も意識を失いかけたと伝えられています。
これほどの仕打ちを受ければ、誰であっても主君を恨み、世界を呪い、心をすさませてしまってもおかしくありません。
しかし、この生死をさまようような極限の苦しみの中で、高森の心の中に不思議な変化が生まれ始めていました。
極限の飢えと病に苦しみ、狭い牢屋の中で命の灯火が消えかけていた高森。
しかし、そんな彼を救ったのは、またしても島の心優しい人々でした。
高森のあまりにも無惨な姿を見かねた地元の名主や島民たちが、役人の目を盗んで栄養のある食事を差し入れ少しでも風雨をしのげるようにと、牢屋の周りに囲いを作ってくれたのです。
人の情けの温かさに触れ、再び奇跡的に一命を取り留めた高森は、その狭い牢の中で、ただひたすらに学問に打ち込み、自分の心と向き合いました。
なぜ自分はこれほどまでに過酷な運命を歩まねばならないのか、その問いの果てに彼は一つの境地に達します。
それこそが、後に彼の代名詞となる、敬天愛人という思想でした。
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天を敬い、人を愛する、自分をこのような苦境に追い込んだ島津久光のことも、この過酷な運命も、全ては天が自分をより大きな人間に育てるために与えてくれた試練なのだと、
高森は全てを受け入れたのです。
恨みや怒りは消え去り、彼の心はまるで南国の海のように深く、穏やかに澄み渡っていきました。
そうして沖の選ぶ島での生活がおよそ一年半に及ぼした頃、日本の歴史は高森の予想を遥かに超えるスピードで狂い始めます。
京都で薩摩藩の武士たちが多藩の過激派と衝突し、もはや国全体がいつ大きな戦争になってもおかしくない一触即発の事態に陥ったのです。
あの頑固な島津久光も、ついに認めざるを得ませんでした。
この南極を乗り切り、朝廷や多藩と対等に渡り合える交渉力と人望を持った男は、あの牢の中にいるたか森しかいないということを、
ついに薩摩藩から二度目の召喚状が届きます。
島にやってきた迎えの船に乗り込むたか森の体はすっかり痩せ細り、島での過酷な生活の傷跡が深く刻まれていました。
しかしその鋭い眼光と全てを包み込むような穏やかな微笑みは、かつて潜密に暴言を吐いた頃の尖った若者のそれではありませんでした。
地獄の島で生死をさまよい、本当の王者の器となって帰ってきた不屈の男。
再び日本の中心へと舞い戻ったたか森は、ここから坂本龍馬を始めとする運命の男たちと巡り合い、時代をひっくり返す巨大なうねりを作っていくことになります。
しかしそのお話はまた次のお話。
今夜のお話はこれでおしまいです。
どれほどの不条理や苦しみに見舞われても、決して心をすさませず、全てを包み込む優しさへと変えていったたか森の強い魂に守られながら、今夜はどうか心も体もゆったりとゆるめて、暖かい布団の中で深い眠りについてくださいね。
それではおやすみなさい。