ここでこの番組でずっと扱ってきたテーマと正面からぶつかる話をします。
希少性の話です。
この番組ではこれまで推し勝つの影の部分を何度も取り上げてきました。
コラボカフェの予約戦争と転売、フラワースタンドの高額化、ポケモンを含むハッピーセットの騒動など全部、根っこにあるのは数が足りないということなんですよね。
今回配られるエコバッグ、エボバッグと言うんですけど、これが100万個。
しかも非売品です。
表側にクラブのポケモンとエンブレム、裏側にクラブカラーを背景にしたピカチュウ、リサイクル素材で作られた環境に配慮したバッグでもあります。
100万個ってどれくらいの規模だと思いますか?
Jリーグの1年間の挿入乗車数が去年で1350万人なんです。
その約13分の1に当たる数を8月から9月のたった2ヶ月弱でばらまくわけです。
ここで当然疑問が出てきますよね。
そんなに配ったらありがたみがなくなるんじゃないの?
これめちゃくちゃ重要な問いだと思うんです。
しかも歴史上実際にそれで失敗した例があるんですよ。
一つの例がビックリマンチョコです。
少し上の世代では覚えてる方も多いかもしれません。
1980年代後半の大ブームで最盛期にはなんと年間4億個も売れてシリーズ類型の出荷額は1000億円を超えたと言われています。
でもシール目当てでチョコを捨てる子が続出して社会問題になって1988年厚生取引委員会がロッテに自粛を求めたんです。
その内容がシールごとの価値の差をなくせレアがあると宣伝するなという内容だったんですね。
その結果何が起きたか。
ロッテが主導に従ってレアシールも普通のシールも同じ素材にした。
そしたら当たりの喜びが消えてシール全体の価値まで暴落してファンが一気に離れてしまったんですね。
売上は最盛期の半分以下100億円を超えていたのが40億円まで落ちたという記録もあります。
希少性を無理やり消したらコレクションそのものの価値がなくなってしまったという事例でもあるんですね。
じゃあポケモンとJリーグのコラボも同じ道をたどってしまうのか。
ここでアメリカのプライオ休業研究サロン文がすごく面白い答えを出しているんです。
MLBって来場者にグッズを配るギブアウェイの文化が根付いてるんですね。
その配布と観客動員の関係を全30球団について何年分も分析した研究があるんです。
結論がこうです。
たくさん配る球団ほど1試合あたりの動員の伸びは小さい。
配布が控えめな球団は動員がおよそ11%増えたのに対し、たくさん配る球団は6%増に留まった。
効率だけ見れば配りすぎは損なんですよ。
でもここからが面白いんです。
そのたくさん配る球団の方がファンの忠誠度を測る指標でははっきり高かったんですね。
論文の著者はこう解釈しています。
たくさん配る球団は目先の動員ではなくファンが生涯にわたってもたらす価値に投資をしていると。
しかも分析ではその動員が増えたという結果が他の日の試合の観客を送っている形跡も近隣の球団から奪っている形跡もなかったんです。
つまりまるごと新しい需要だったんですね。
これまさに今回のJリーグの立ち位置だと思うんです。
100万個を集中投下して目先の集客効率を最大化しにいっているわけじゃない。
シーズン以降という最大の勝負の年に新しいお客さんを一人でも多くスタジアムに入れてその人たちに10年通ってもらう。そこに欠けてるんですね。
もう一つ今回の設計で私がうまいなぁと思ったポイントがあります。
ではそうやって連れてこられた人はその後どうやってファンになっていくのか。
これ実は綺麗な階段があるんです。
まずポケモン目当てで来る。そこで選手を好きになる。そして最後にチームのファンになる。この3段階です。
まずこの階段が本当に存在するのか、それを示すデータがあるんです。
スポーツ観戦をしている人を対象にした調査で、特定の個人を推している人に絞って聞いたものなんですけど、
推し活をしている人の81.7%がその推しが所属しているチームも応援しているんですね。実に8割です。
そしてここからが本題です。そのうちの約7割が個人への推し活から入ってチーム全体も応援するようになったと答えているんですよ。
逆方向、つまり先にチームを好きになってそこから推しの選手を見つけた人は実は3割しかいないんですね。
入り口はいつも個人なんです。しかもお財布の動きも全然違うんです。
特定の推しがいる人の年間支出は約32,000円。チーム全体だけを応援している人は約18,000円。倍近い差があるんですよね。
誰か一人を好きになることがそのままお金の動きにも直結しているんです。
そしてこの番組でも以前何度かお話ししたことがあるんですけど、Jリーグって実はこの選手のアイドル化にかなり前から本気で取り組んでいるジリーグなんですね。
選手一人一人の人柄を出していく、SNSで発信させる、メディアに出す、勝ち負けだけに頼らないファンの作り方をずっと磨いてきたんです。
つまりこういうことです。ポケモンのエコバッグをもらいにスタジアムへ行く。せっかく来たから試合を見る。
そこでたまたま目についた選手がいる。その選手のことをちょっと調べてみる。また次の試合が気になる。気づいたらそのクラブのファンになっているということですね。
Jリーグが100万個ばらまいているのはこの階段の1段目なんですよ。
1段目さえ登ってもらえれば2段目と3段目は選手たちが自分の魅力で連れて行ってくれる。そういう設計になっているんです。
しかもこれを裏付けるデータもあって、Jリーグの招待スタッフで来た新規のお客さんは既存のファンより平均年齢が約5歳若くて女性の比率が10ポイント高いそうなんです。
これ狙った層にちゃんと当たってるんですよね。
そしていわきFCというクラブが公表した分析では年間16回以上通う一番熱心な層のおよそ2割がその年に初めて来場した人だったんです。
1回目のお客さんがその年のうちに常連に化ける。ちゃんと起きてるんですね。
ただここは公平にお話ししておきたいんですけど、アニメやキャラクターとコラボすれば必ずお客さんが増えるというほど甘くはないんです。
まず前提として、今のポケモンの経済規模がすごいことになってるんです。
株式会社ポケモンの2026年2月期の決算が官報で公表されてるんですけど、売上高が5,314億円。しかも純利益が前の年から7割も増えている。
カードゲームの累計製造枚数に至っては850億枚以上なんです。
そして2026年はポケモンにとっても特別な年でした。
1996年2月27日に赤緑が出てからちょうど30周年なんですね。
この30周年、テーマが面白いんですよ。これ何だと思いますか?
動詞なんです。株式会社ポケモンの仕様を宇都宮貴人さんが発表会でこう説明してるんですね。
捕まえる、育てる、交換する、戦う、こうした動きこそがポケモンの本質だから、今年は動詞を軸に体験を提供していくと。
実際、月替わりでテーマが公開されていて、始まるから始まって、歌う、食べる、会う、出かけると続いているんですよ。
お気づきでしょうか?このJリーグのキャッチコピー、Jリーグは進化するでしたね。
あれも動詞なんですね。ポケモンが30周年をかけて掲げているテーマと綺麗に噛み合っているわけです。
さて、ここからが今日、私が一番驚いた部分です。
2026年のポケモンはスポーツを集中的に攻めているんですね。
30周年のキックオフ発表会が、2026年の2月26日に開かれました。
ポケモン30周年始まるという発表会なんですけど、そこで壇上に上がった顔ぶれがすごいんです。
まずは、穴。特別塗装のポケモンジェットを3機、シリーズの原点である赤、緑、青のカラーで就興させる。
そして、日本プロ野球と日本オリンピック委員会。
まず、プロ野球です。
ポケモンベースボールフェスタ2026、30年の思いをボールに込めて、という企画で、これがなんと、セパの垣根を超えた全12球団なんですね。
各球場でポケモン特別演出試合、オリジナルグッズ販売、ポケモンGOのスペシャルイベント。
ここ、よく聞いてほしいんですけど、その中身が今回のJリーグ版と全く同じ形なんです。
球団のユニフォームを着せてもらったピカチュウが球場に登場する。
そして、各球団がそれぞれの思いで選んだ12種類の球団パートナーポケモンがグッズやキービジュアルになる。
で、これ聞き覚えありませんか?
リーグ全体のピカチュウとチームごとのパートナーポケモン、Jリーグでやっていることと構造が完全に一致しているんです。
ちなみに球団の組み合わせも凝っていて、北海道日本ハムはアローラの姿のロコン、東北楽天はウォーグル、
埼玉西部はカエンジシ、千葉ロッテはキャモメ、オリックスはパルデアの姿のケンタロス、福岡ソフトバンクはムクホーク。
この地域性やチーム名を踏まえた選び方はJリーグ版と全く同じ発想ですね。
そしてもう一つ、日本オリンピック委員会です。
ポケモンがJOCキッズスポーツアバサダーに就任したんです。
競技ごとに応援ポケモンが決められていて、テニスはニャオハ、空手は打撃、フェンシングはネギガナイト、そしてサッカーはエースバーンなんですね。
このエースバーン、今回のJリーグのスペシャルフェス7試合に登場するストライカーポケモンなんです。
つまり、2月にJOCでサッカーの応援ポケモンに就任したエースバーンが、7月にはJリーグのピッチに立つ。
ポケモン側の中でサッカー担当はこの子という線がずっと通ってるんですよね。
さらに言うと、JOCの太田専務理事が発表会でこう触れているんです。
ポケモンはこれまでも日本サッカー協会や日本テニス協会、全日本スキー連盟といったJOCの関係団体と取り組みをしてきた。
つまりサッカー界とポケモンの関係は今年いきなり始まったものではなかったんですね。
時系列に並べるとこうです。
2月にプロ野球12球団とJOC、6月にはメジャーリーグ、そして7月にJリーグの60クラブ。
2026年のポケモンは日本のスポーツ工業を端から順に抑えに行っている。
Jリーグの60クラブはその総仕上げだったわけです。
さっきJリーグは3年かけてこの形を磨いてきたとお話しましたよね。
実はポケモンの側にも型があったんです。
2月にプロ野球12球団で走らせたフォーマットを5倍の60クラブに広げた。
両側から持ち寄った型が噛み合った企画だったというのが正確なところなんだと思います。
1つ目は進化という一言が制度の変更をみんなの物語に翻訳したこと。
Jリーグにとって8月開幕への移行は経営上どうしてもやらなければいけない。
けれどサポーターには必ずしも歓迎されない変革でした。
それを進化という一言で包み直して、しかもその言葉を国民的なキャラクターの口から語らせた。
推しの世界でも変化をどう伝えるかでファンの受け止め方はまるごと変わりますよね。
言葉選びはそれ自体が戦略なんだと私は改めて思いました。
2つ目に大量に配るは希少性の敗北ではなく障害活性の投資だった。
100万個という数字は目先の集客効率だけを見れば決して最適解じゃないんです。
配れば配るほど一人当たりの効率は落ちる。
でもたくさん配る球団の方がファンの忠誠度が高かった。
今日の一人ではなく10年通ってくれる一人を取りに行っているんですね。
そして今回の設計が上手なのは自分では選べないのにランダムの不快感はゼロという点です。
ランダム商法が9割の人が嫌いと答えるこの時代にコレクション性だけを綺麗に残していると思います。
3つ目に推し勝つは個人から始まる。だからこそ最初の一段目を誰かが差し出さないといけない。
これが一番言いたかったことなんです。
アイドルもアニメも推しってこう自分で選びますよね。
でもスポーツはちょっと違います。
生まれた場所で人生で一番最初に応援するクラブがある程度決まってくるパターンなんですね。
もちろん好きなチームを応援することが前提なので途中で変わったりもしますし、他の地域のチームを応援しちゃいけないなんてことはないんですけどね。
なんとなく自分の地域のチームって応援の入り口にはなりますよね。
Jリーグはチーム名に必ず地域名を入れる決まりもあるので、いわばスタートが決まっている推しの世界でもあるんです。
そこに今回初めて自分で選べる入り口が外付けされたみたいなイメージです。
例えば、うちの地元はカメックスなんだ。隣の県はゲンガーらしい。
ポケモンというみんなが自分の好みを持っている世界を経由して地元クラブに出会い直す設計になってるんですね。
そしてさっきお話しした階段です。
ポケモンで来て選手を好きになってチームのファンになる。
8割の人が推しの所属チームも応援していて、そのうち7割が個人から入ったと答えている。
入り口はいつも個人なんです。選手でもマスコットでもポケモンでも。
そこからチームへ地域へ広がっていく。
ちなみに財務省が推し活の支出を公式消費、自主消費、付随消費、コラボ消費の4つに分類したコラムを出してるんですけど、今回の企画、実はこのどれにも当てはまらないと私は思ってるんです。
だってまだ推しがいない人に推しと出会うきっかけを、タダで渡してるんですから。
5つ目の累計が生まれた瞬間なのかもしれません。