ラスタースコアの社会
Rapademics
♪ 2042年、この国では、すべての人間に"らしさ"スコアが割り振られていた。
SNSの発言、日常の会話、服の色、注文するコーヒーの種類、歩き方までもが、AIによって解析される。
自分らしさを保つことは、社会的信用と同義だった。
スコアは常に可視化され、取引先、友人、恋人、誰もがその数字を確認できる。
カワハラ・リン、29歳、フリーランスのデザイナー。
彼女のスコアは常に高水準。フォロワー10万人のSNSでは、
彼女らしい柔らかな色彩と、ユーモアに満ちた投稿が人気だ。
「リンらしさ」が彼女のブランドであり飯の種だった。
ある日、企業から依頼されたロゴデザインで、彼女はふと大胆な作風に挑戦したくなった。
モノクロームの硬質な構成、これまでの柔らかい雰囲気とは真逆のテイストだ。
納品直後、視界の端に赤い通知が浮かび上がる。
〈らしさ逸脱警告〉高高度はあなたらしくありません。修正を推奨します。
Rapademics
最初は笑い飛ばした。だがその日を境に、警告は次々と届くようになる。
Rapademics
キャラメルラテじゃなく、今日はエスプレッソですか?
〈らしさ逸脱警告〉今日は派手なブルーのワンピース。
〈らしさ逸脱警告〉SNSで少し狩りを込めた政治的コメントを投稿した夜。
〈らしさ逸脱警告〉そして未確保クライアントからメッセージが届く。
最近、リンらしくない行動が多いですね。大丈夫ですか?
アイデンティティーポリスから、企業アカウントにも通知が送られていたのだ。
依頼はキャンセルされ、フォロワー数も減り始めた。
河原琳の挑戦
Rapademics
耐えかねたリンは、アイデンティティーポリスオフィスに乗り込む。
白く無技術な部屋の奥から、少しに座るのは人間のように作られたAI監督官。
「"らしさ"は、あなたを守るための制度です。」
淡々とした声で監督官は過去10年間のリンの行動、発言
表情を時系列で再生してみせた。
そこには、リンが忘れていたはずの喜びや笑顔までもが精密に保存されていた。
「これが、あなたです。」
モニターに映し出されたのは、リンらしい完璧なアーカイブ。
その瞬間、リンは悟った。
ここから逸脱することは、彼らにとって自分を捨てる行為なのだと。
帰り道、スマートグラスが青く点滅した。
〈らしさ、逸脱警告〉
「あなたの歩き方が普段と異なります」
リンは立ち止まり笑い出した。
——もう、どうでもいい。
Rapademics
彼女は抵抗を辞めた。
通知を受ける度、少しずついつものリンに戻すよう努力した。
言葉、笑い方、すべてがAIの記録と一致するように。
スコアは回復、仕事も戻ってきた。
周囲はやっぱりリンらしいねと笑顔を向ける。
ただ心の奥は静まり返っている。
Rapademics
——私は、私らしさを失わないために、私を失った
ブク美
はい、毎日未来創造へようこそ!
本日も、まだ見の未来のプロトキャスト、その可能性を探っていきましょう。
今週のテーマは、With AIの未来です。
今日はですね、提供いただいた近未来SFショートショーと、
らしさ警察を深く読み解いていきたいと思います。
これ、チルなラップで語るっていう、なんか新しい表現スタイルで。
いやー、ラップもいいですね。
んー、新鮮です。
この物語の舞台なんですけど、2042年の日本。
AIがですね、個人のあらゆるデータ、SNS投稿から歩き方まで、
全部解析して、"らしさスコア"っていうのをつける。
それが、社会的信用になるっていう世界ですね。
まさにあなたらしさが通貨みたいになっちゃう。
ノト丸
うーん、この設定自体がもう非常に示唆に富んでますよね。
個人のアイデンティティが、なんていうか、外部のアルゴリズムによって
常に評価されてスコアリングされるっていうのは、
これ、現代のSNSにおける評価経済とか、
自己ブランディングの在り方ありますよね。
それをさらに先鋭化させた未来像とも言えるかなと。
らしさっていう本来すごく曖昧なものが、
もう生存を左右する指標になっちゃうっていう点に、
この物語の核心の一つがありますね。
ブク美
うーん、なるほど。
主人公は河原凛、フリーランスのデザイナーです。
彼女はリンらしいとされるスタイルで高いスコアを保っていて、
それが仕事にもつながっているわけです。
でもある時、いつもの作風と違う、
モノクロの高質なデザインに挑戦したら、
AIから〈らしさ逸脱警告〉が届いちゃうんですね。
ノト丸
ああ、ここが面白いんですよね。
AIが定義する"らしさ"の、なんていうか、硬直性。
AIってやっぱり過去のデータパターンから逸脱することを許さないわけですよ。
でも人間って気分が変わったり、新しいことに挑戦したり、成長したり、
常に揺らぎながら変化する存在じゃないですか。
ブク美
そうですよね。
ノト丸
だから作中でエスプレッソを飲んだり、
普段と違う色の服を着たりするだけでも警告が来るっていうのは、
非常に窮屈な社会を描いてますね。
ブク美
その警告も最初は些細なことからなんですけど、
正義的なコメントをしたら更に警告が来ちゃって、
ついにはクライアントにまでリンらしくないって通知が行ってしまってですね、
結果仕事はキャンセルされるし、フォロワーも離れていくし、
らしさから外れることのペナルティが、もうあまりにも大きい。
ノト丸
ええ、そうなんです。
個人の内面的な変化とか、自由な表現っていうものが、
そのまま社会的な不利益に直結してしまう。
アルゴリズムによる安定化への要求と、
人間本来の変化する自由との間の根本的な対立が、
リンの状況を通して浮き彫りになってきますね。
ブク美
うーん、それで追い詰められたリンは、
IDP、通称らしさ警察のオフィスへ行くんです。
そこでAI担当官に見せられたのが、
過去10年間のリンらしい完璧なアーカイブ。
これがあなたですと。
もうAIが規定した過去の自分から一歩も外に出られないんだって、
悟る瞬間ですよね。
ノト丸
まさに記録された過去が未来を規定するという、
デジタル社会の持つパラドックスというか、
自己を失う結末
ノト丸
自分らしさを守ろうとすればするほど、
現在のそして未来の自分である可能性を失っていく。
変化する権利、間違う権利みたいなものが奪われていくわけですね。
ブク美
はい。結局リンは抵抗を諦めて、
AIの示すらしさに自分を合わせる。
それでスコアを回復させて仕事も日常も取り戻すんですけど、
周りはやっぱりリンらしいねって安心する。
でも本人は私らしさを失わないために、
私を失ったって感じてるんですよね。
この結末、静かですけどすごく重いですよね。
ノト丸
本当に考えさせられます。
この物語は、AIと共生する未来におけるアイデンティティの在り方、
それから社会システムと個人の関係性について、
非常に鋭い問いを投げかけていると思います。
そもそも"自分らしさ"って一体何なのか、
そしてそれは誰が決めるのか。
外部からの評価とか期待に応え続けることで、
本当の自分を見失ってしまうんじゃないかと。
まあそういう問いですよね。
ブク美
もしあなたのらしさがスコア化されて、
そこからの逸脱が警告されるとしたら、
あなたならどうしますか?
どこまで自分を貫こうとするでしょうか?
それともやっぱり社会の期待値に自分を合わせていきますか?
ノト丸
ちょっと24時間以内に試せる未来リトマスとして、
こんなのはどうでしょう?
今日一日、自分が無意識にらしい振る舞いとか、
選択をしている瞬間を一つでいいので、
意識的に見つけてみるんです。
例えば自分らしい服装とか、
自分らしい意見の言い方とか、
何でもいいんですけど、
それが本当に自分の内側から来ているのかな?
それとも周りからこうあるべきって思われている視線を、
内面化しちゃってるのかなって。
ほんの少しだけ立ち止まって考えてみるのはどうでしょうか?
なるほど。面白いですね。
ブク美
明日もwith AI の未来をテーマに、
まだ見ぬ未来のプロトキャストをお届けします。
今日の気づきはぜひ、
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