00:07
寝落ちの本ポッドキャスト
こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、
実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。
ご意見・ご感想・ご依頼は公式Xまでどうぞ。
寝落ちの本で検索してください。
また別途投稿フォームもご用意しました。
リクエストなどお寄せください。
まだ投稿していない方は、ぜひ番組のフォローをよろしくお願いします。
最後に、おひねりを投げてもいい方は、
概要欄のリンクよりご検討いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
さて、今日は
宮沢賢治さんの
セロヒキノゴーシュです。
教科書に載ってましたね、たぶんね。
子供の頃読んだんでしょうが、
ちょっと忘れてしまっているので、
新鮮な気持ちで読み上げられそうかな。
文字数は
12930
かかんないぐらいですかね。
どうかお付き合いください。
それでは参ります。
セロヒキノゴーシュ
ゴーシュは町の活動写真館でセロをヒク係でした。
けれども、あんまり上手でないという評判でした。
上手でないところではなく、
実は仲間の学種の中で一番下手でしたから、
いつでも学長にいじめられるのでした。
昼過ぎ、みんなは楽屋に丸く並んで、
今度の町の音楽会へ出す
第六公共曲の練習をしていました。
トランペットは一生懸命歌っています。
バイオリンも二重露風のようになっています。
クラリネットもぼうぼうとそれに手伝っています。
ゴーシュも口を輪と結んで、
目を皿のようにして楽譜を見つめながら、
もう一度一心に弾いています。
にわかにパタッと学長が両手を鳴らしました。
みんなピタリと曲を止めてしんとしました。
学長がどなりました。
セロが遅れた。
トーテテイテテテイ。ここからやり直し。
はい。みんなは今のところの少し前のところからやり直しました。
ゴーシュは顔を真っ赤にして額に汗を出しながら、
やっと今言われたところを通りました。
ほっと安心しながら続けて弾いていますと、
学長がまた手をパッと打ちました。
セロ、糸が合わない。
困るな。
僕は君にドレミファを教えてまでいる暇はないんだがな。
みんなは気の毒そうにして、
わざと自分の譜を覗き込んだり、
自分の楽器を弾いてみたりしています。
ゴーシュは慌てて糸を直しました。
これは実はゴーシュも悪いのですが、
セロもずいぶん悪いのでした。
03:02
今の前の小説から。
はい。
みんなはまた始めました。
ゴーシュも口をまげて一生懸命です。
そして今度はかなり進みました。
いい塩梅だと思っていると、
学長が脅すような形をして、
またパタッと手を打ちました。
またかとゴーシュはドキッとしましたが、
ありがたいことに今度は別の人でした。
ゴーシュはそこで、
さっき自分のときみんながしたように
わざと自分の譜へ目を近づけて、
何か考えるふりをしていました。
では、すぐ今の次。
はい。
そらと思って引き出したかと思うと、
いきなり学長が足をドンと踏んで
怒鳴り出しました。
だめだ。まるで鳴ってない。
この辺は曲の心臓なんだ。
それがこんなガサガサしたことで。
諸君、演奏までもうあと十日しかないんだよ。
音楽を専門にやっている僕らが、
あの金櫛舵だの里親のデッチなんかの
寄り集まりに負けてしまったら、
一体我々の面目はどうなるんだ。
おい、ゴウシ君。
君には困るんだがな。
表情ということがまるでできてない。
誇るも喜ぶも感情というものが
さっぱり出ないんだ。
それにどうしてもピタッと
他の楽器と合わないもな。
いつでも君だけ溶けた靴の紐を引きずって
みんなの後をついて歩くようなんだ。
困るよ。しっかりしてくれないとね。
後期ある我が金櫛音楽団が
君一人のために悪評を取るようなことでは、
みんなへ全く気の毒だからな。
では、今日は練習はここまで。
休んで6時にはかっきりボックスに入ってくれたまえ。
みんなはお辞儀をして、
それから煙草を加えてマッチを吸ったり、
どこかへ出て行ったりしました。
ゴウシはその粗末の箱みたいなセロを抱えて、
壁の方へ向いて口を曲げて
ぼろぼろ涙をこぼしましたが、
気を取り直して自分だけたった一人
今やったところを始めから静かに
もう一度弾き始めました。
その晩、おさく、ゴウシは何か大きな黒いものを
取って自分の家へ帰ってきました。
家といってもそれは町外れの川端にある
壊れた水車小屋で、
ゴウシはそこにたった一人で住んでいて、
午前は小屋の周りの小さな畑で
トマトの枝を切ったり、
キャベツの虫を拾ったりして、
昼過ぎになるといつも出て行ったのです。
ゴウシが家へ入って明かりをつけると、
さっきの黒い包みを開けました。
それは何でもない、
あの夕方のごつごつしたセロでした。
ゴウシはそれを床の上にそっと置くと、
いきなり棚からコップを取って
バケツの水をごくごく飲みました。
それから頭を一つ振って椅子へかけると、
まるで虎みたいな勢いで
昼の符を弾き始めました。
符をめくりながら弾いては考え、
考えては弾き、
一生懸命シマイまで行くと、
また始めから何遍も何遍も
ゴウゴウゴウゴウ弾き続けました。
夜中もとうに過ぎて、
シマイはもう自分が弾いているのかも
わからないようになって、
顔も真っ赤になり、
目もまるで血走って、
とてもものすごい顔つきになり、
今にも倒れるかと思うように見えました。
その時、誰か後ろのとうを
トントンと叩くものがありました。
06:01
「ホウシュ君か。」
ゴウシュは寝ぼけたように叫びました。
ところがすると、とうを押して入ってきたのは、
今まで五六遍見たことのある
大きなミケネコでした。
ゴウシュの畑から取った半分熟したトモトを
さも重そうに持ってきて、
ゴウシュの前におろして言いました。
「ああ、くたびれた。
なかなか運搬はひどいやな。」
「なんだと。」
ゴウシュが聞きました。
「これ、おみやです。
食べてください。」
ミケネコが言いました。
ゴウシュは昼からのむしゃくしゃを
いっぺんに怒鳴りつけました。
「誰が貴様にトマトなど持って来いと言った。
第一、俺が貴様らの持ってきたものなど
食うか。
それか、そのトマトだって、
俺の畑のやつだ。
なんだ、赤くもならないやつをむしって。
今までもトマトの茎をかじったり
けちらしたりしたのはお前だろう。
言ってしまえ、猫め。」
すると、猫は肩を丸くして
目をすぼめてはいましたが、
口のあたりでにやにや笑って言いました。
「先生、
そうお怒りになっちゃお体にさわります。
それより、シューマンの
トロメライをひいてごらんなさい。
聞いてあげますから。」
「生意気なこと言うな、猫のくせに。」
セロヒキは尺にさわって、
この猫のやつをどうしてくれようとしばらく考えました。
「いや、ご遠慮はありません。
どうぞ。
私はどうも先生の音楽を聞かないと
眠られないんです。」
「生意気だ、生意気だ、生意気だ。」
ゴーシャはすっかり真っ赤になって、
昼間、学長の下ように足踏みしてどなりましたが、
にわかに気をかえて言いました。
「うん、では、引くよ。」
ゴーシャは何と思ったか、
戸に鍵を買って、
窓もみんな閉めてしまい、
それからセロを取り出して、
明かしを消しました。
すると外から、
20日過ぎの月の光が部屋の中へ半分ほど入ってきました。
「何を弾けと?」
「トロメライ。
ロマンチックシューマン作曲。」
猫は口をふいてすまして言いました。
「そうか、
トロメライというのはこういうのか。」
セロヒキは、
何と思ったか、まずハンケチを引き裂いて、
自分の耳の穴へぎっしり詰めました。
それからまるで嵐のような勢いで、
インドのトラ狩りという風を
引き始めました。
すると猫はしばらく首を曲げて聞いていましたが、
いきなりパチパチパチっと目をしたかと思うと、
パッと扉の方へ飛び抜きました。
そしていきなり
ドンッと扉へ体をぶっつけましたが、
扉は開きませんでした。
猫はさあ、これはもう一生一台の
失敗をしたという風に慌て出して、
目や額からパチパチ火花を出しました。
すると今度は
口のひげからも鼻からも出ましたから、
猫はくすぐったがって、
しばらくくしゃみをするような顔をして、
それからまたさあ、こうしてはいられないぞというように
馳せ歩き出しました。
語章はすっかり面白くなって、
ますます勢いよくやり出しました。
先生、
たくさんです。たくさんですよ。
語章ですからやめてください。
これからもう先生のタクトなんか取りませんから。
だまれ。
これからトラを捕まえるところだ。
猫は苦しがって羽があって回ったり、
壁に体をくっつけたりしましたが、
09:00
壁についた後はしばらく青く光るのでした。
姉妹は猫はまるで風車のように
ぐるぐるぐるぐる語章を回りました。
語章も少しぐるぐるしてきましたので、
さあ、
これで許してやるぞと言いながら
ようようやめました。
すると猫もけろりとして、
先生、今夜の演奏はどうかしてますね
と言いました。
せろひきはまたぐっと
尺に触りましたが、
何気ない風で薪煙草を一本出して口にくわえ、
それからマッチを一本取って、
どうだい?
具合を悪くしないかい?舌を出してごらん。
猫は馬鹿にしたように
尖った長い舌をべろりと出しました。
はは、少し荒れたね。
せろひきは言いながらいきなり
マッチを舌でシュッと吸って
自分の煙草へつけました。
さあ、猫は驚いたのなの。
舌を風車のように振り回しながら
入口の塔へ行って、
頭でどんとぶっつかっては、
よろよろとしてまた戻ってきて、
どんとぶっつかっては、
よろよろまた戻ってきて、
またぶっつかっては、
よろよろ逃げ道をこさようとしました。
ゴーシュはしばらく面白そうに見ていましたが、
出してやるよ。
もう来るなよ、馬鹿。
せろひきは塔をあけて、
猫が風のように蚊帳の中を走っていくのを見て
ちょっと笑いました。
それからやっとせいせいしたというように
ぐっすり眠りました。
次の晩もゴーシュがまた黒いせろの包みを
担いで帰ってきました。
そして水をごくごく飲むと、
そっくり夢の通りぐんぐんせろを
ひき始めました。
十二時はまもなく過ぎ、
一時も過ぎ、二時も過ぎてもゴーシュはまだやめませんでした。
それからもう何時だかもわからず、
ひいているかもわからず
午後をやってみますと、
誰か屋根裏をコッコッと叩くものがあります。
猫、
まだ来れないのか。
ゴーシュが叫びますと、
いきなり天井の穴からポロンと音がして、
一匹の灰色の鳥が降りてきました。
床へ止まったのを見ると、
それはカッコウでした。
鳥まで来るなんて、
何のようだ。
ゴーシュが言いました。
音楽をおそわりたいんです。
カッコウどりはすまして言いました。
ゴーシュは笑って、
音楽だと。
おまえの歌はカッコウ、
カッコウというだけじゃないか。
するとカッコウがたいへんまじめに、
ええ、それなんです。
けれどもむずかしいですからね。
と言いました。
むずかしいもんか。
おまえたちのたくさん泣くのがひどいだけで、
泣きようはなんでもないじゃないか。
ところがそれがひどいんです。
たとえばカッコウとこう泣くのと、
カッコウとこう泣くのとでは、
聞いていてもよほど違うでしょう。
ちがわないね。
ではあなたにはわからないんです。
私らの仲間なら、
カッコウと一番言えば一番みんな違うんです。
勝手だよ。
そんなにわかっているなら、
何も俺のところへ来なくてもいいではないか。
ところが私はドレミファを正確にやりたいんです。
ドレミファもクソもあるか。
ええ。
外国に行く前にぜひ一度いるんです。
外国もクソもあるか。
先生、どうかドレミファを教えてください。
12:01
私はついて歌いますから。
うるさいな。
それは三弁だけ弾いてやるから、
済んだらさっさと帰るんだぞ。
ゴーショはセロを取り上げて、
ボロンボロンと糸を合わせて、
ドレミファソラシドと弾きました。
するとカッコウはあわてて羽をバタバタしました。
ちがいます。
そうなんでないんです。
うるさいな。
ではお前やってごらん。
こうですよ。
カッコウは体を前に曲げてしばらく構えてから、
カッコウと一つ泣きました。
なんだい、それがドレミファかい?
お前たちにはそれでは
ドレミファも大陸公教学も同じなんだな。
それは違います。
どう違うんだ。
難しいのは
これをたくさん続けたのがあるんです。
つまりこうだろう。
セロ弾きはまたセロを取って、
カッコウカッコウカッコウカッコウカッコウ
と続けて弾きました。
するとカッコウは大変喜んで、
途中から
カッコウカッコウカッコウカッコウ
とついて叫びました。
それももう一生懸命体を曲げて
いつまでも叫ぶのです。
ゴーショはとうとう手が痛くなって、
ほら、いい加減にしないか。
と言いながらやめました。
するとカッコウは残念そうに
目をつりあげてまたしばらく泣いていましたが、
やっと
カッコウカックク
ウカカカカカカ
と言ってやめました。
ゴーショがすっかり怒ってしまって、
ほら鳥、もう用が済んだら帰れ
と言いました。
どうかもう一遍弾いてください。
あなたのはいいようだけれども少し違うんです。
なんだと。
俺が貴様に教わってるのではないんだぞ。
帰らんか。
どうかたったもう一遍お願いです。どうか。
カッコウは頭を何分も
コンコン下げました。
ではこれきりだよ。
ゴーショは弓を構えました。
カッコウはクッと
一つ息をして、
ではなるべく長くお願いいたします。
と言ってまた一つお辞儀をしました。
いやになっちまうな。
ゴーショはにが笑いしながら弾き始めました。
するとカッコウはまた
まるで本気になって
カッコウカッコウカッコウ
と体を曲げて実に一生懸命叫びました。
ゴーショははじめはむしゃくしゃしていましたが
いつまでも続けて弾いているうちに
ふっとなんだかこれは
鳥のほうが本当のドレミファに
はまっているのかなという気がしてきました。
どうも弾けば弾くほどカッコウのほうが
いいような気がするのでした。
えぇこんなバカなことをしていたら
俺は鳥になってしまうんじゃないか。
とゴーショはいきなりピタリとセロをやめました。
するとカッコウはドシンと頭を叩かれたように
ふらふらっとしてそれからまたさっきのように
カッコウカッコウカッコウ
カッカッカッカッカッカッカッ
と言ってやめました。
それから恨めしそうにゴーショを見て
なぜやめたんですか。
僕らならどんな育児のないやつでも
のどから血が出るまでは叫ぶんですよ
と言いました。
何は生意気な。
15:00
こんなバカな真似をいつまでもしてやれるか。
もう出て行け。見ろ。夜が明けるんじゃないか。
ゴーショは窓を指差しました。
東の空がぼーっと銀色になって
そこを真っ黒の雲が
北の方へどんどん走っています。
ではお日様の出るまでどうぞ。
もう一遍。ちょっとですから。
カッコウはまた頭を下げました。
だまれ言い気になって。
このバカ鳥め。
出ていかんと虫って朝飯に食ってしまうぞ。
ゴーショはどんと床を踏みました。
するとカッコウはにわかにびっくりしたように
いきなり窓をめがけて飛び立ちました。
そしてガラスに激しく頭をぶっつけて
バタッと下へ落ちました。
なんだガラスへ。
バカだな。
ゴーショはあわてて立って窓をあけようとしましたが
がんらいこの窓はそんなにいつでも
スルスル開く窓ではありませんでした。
ゴーショが窓の枠を
しきりにガタガタしているうちに
またカッコウがバッとぶっつかって下へ落ちました。
見るとくちばしの付け根から
少し血が出ています。
いまあけてやるから待っていろったら。
ゴーショがやっと
にすんばかり窓をあけたとき
カッコウは起き上がって
何がなんでも今度こそというように
じっと窓の向こうの東の空を見つめて
あらん限りの力を込めた風で
パッと飛び立ちました。
もちろん今度は
前よりひどくガラスにつきあたって
カッコウは下へ落ちたまましばらく見動きもしませんでした。
つかまえてドアから飛ばしてやろうと
ゴーショが手を出しましたら
いきなりカッコウは目を開いて飛びのきました。
そしてまたガラスへ飛びつきそうにするのです。
ゴーショは
思わず足をあげて窓をバッとけいりました。
ガラスは
2、3枚ものすごい音して砕け
窓は枠のまま外へ落ちました。
そのガランとなった窓の後
カッコウは矢のように外へ飛び出しました。
そしてもうどこまでもどこまでも
まっすぐに飛んでいって
とうとう見えなくなってしまいました。
ゴーショは
しばらくあけれたように外を見ていましたが
そのまま倒れるように部屋の隅へ転がって
眠ってしまいました。
次の晩もゴーショは夜中すぎまでセロをひいて
疲れて水をいっぱい飲んでいますと
また塔をコツコツ叩くものがあります。
今夜は何が来ても
夕べのカッコウのようにはじめから脅かして
追い払ってやろうと思って
コップを持ったまま待ち構えておりますと
塔が少し開いて一匹のタヌキの子が入ってきました。
ゴーショはそこで
その塔をもう少し広く開いておいて
どんと足を踏んで
こらタヌキ
お前はタヌキジルということを知っているか
とどなりました。
するとタヌキの子はぼんやりした顔をして
きちんと床へ座ったままどうもわからないというように
首を曲げて考えていましたが
しばらくたって
タヌキジルって僕知らない
と言いました。
ゴーショはその顔を見て
思わず吹き出そうとしましたが
まだ無理に怖い顔をして
では教えてやろう。
タヌキジルというのはな
お前のようなタヌキをキャベツや塩と混ぜて
クタクタと煮て俺様の食うようにしたもんだ
と言いました。
するとタヌキの子はまた不思議そうに
だって僕のお父さんがね
ゴーショさんはとても良い人で
怖くないから言って習えと言ったよ
18:00
と言いました。
そこでゴーショもとうとう笑い出してしまいました。
何を習えと言ったんだ
俺は忙しいんじゃないか
それに眠いんだよ
タヌキの子は
にわかに勢いがついたように一足前へ出ました。
僕は
小太鼓の係でね
スローへ合わせてもらってこいと言われたんだ
どこにも小太鼓がないじゃないか
そらこれ
タヌキの子は
背中から棒切れを2本出しました。
それでどうするんだ
ではね
愉快な馬車屋を
弾いてください
なんだ愉快な馬車屋って
ジャズか
あーこの譜だよ
タヌキの子は背中からまた1枚の譜を取り出しました。
ゴーショは手に取って笑い出しました。
あー変な曲だな
よしさあ
弾くぞ
お前は小太鼓を叩くのか
ゴーショはタヌキの子がどうするのかと思って
ちらちらそっちを見ながら弾き始めました。
するとタヌキの子は棒を持って
スローの駒の下のところを
拍子を取ってポンポン叩き始めました。
それがなかなか上手いので
弾いているうちにゴーショは
これは面白いぞと思いました。
おしまいまで弾いてしまうと
タヌキの子はしばらく首を曲げて考えました。
それからやっと考えついたように
言いました。
ゴーショさんはこの2番目の糸を
弾くときは期待に遅れるね
なんだか僕がつまづくようになるよ
ゴーショははっとしました。
確かにその糸はどんなに手早く
弾いても少し立ってから出ないと
音が出ないような気が
昨夜からしていたのでした。
いやそうかもしれない
このセロは悪いんだよ
とゴーショは悲しそうに言いました。
するとタヌキは気の毒そうにして
またしばらく考えていましたが
ノコが悪いんだろうな
ではもう一回弾いてくれますか
いいとも弾くよ
ゴーショは始めました。
タヌキの子はさっきのように
トントン叩きながら時々頭を曲げて
セロに耳をつけるようにしました。
そしておしまいまで来たときは
今夜もまた東がぼーっと明るくなっていました。
ああ夜が明けたぞ
どうもありがとう
タヌキの子は大変慌てて
符や棒切れを背中へ背負って
ゴムテープでパチンと留めて
お辞儀を2つ3つすると急いで外へ出ていってしまいました。
ゴーショはぼんやりして
しばらく夕べの壊れたガラスから
入ってくる風を吸っていましたが
街へ出て行くまで眠って元気を取り戻そうと
急いで寝床へ潜り込みました。
次の晩もゴーショは
夜通しセロを弾いて明け方近く
思わず疲れて楽譜を持ったまま
ウトウトとしていますとまた誰か
戸をコツコツと叩くものがあります。
それもまるで聞こえるか聞こえないか
くらいでしたが毎晩のことなので
ゴーショはすぐ聞きつけてお入りと言いました。
すると戸の隙間から
入ってきたのは一匹の野ネズミでした。
そして
大変小さな子供を連れて
ちょろちょろとゴーショの前へ歩いてきました。
そのまた野ネズミの子供と来たら
まるで消しゴムのくらいしかないので
ゴーショは思わず笑いました。
すると野ネズミは
何を笑われたろうというように
キョロキョロしながらゴーショの前に来て
青い栗の実を一粒前に置いて
21:01
ちゃんとお辞儀をして言いました。
先生、この子が安倍が悪くて
死にそうでございますが
先生、お慈悲に治してやってくださいまし。
俺が医者などやられるもんか。
ゴーショは少しむっとしていました。
すると野ネズミのお母さんは
下を向いてしばらく黙っていましたが
また大目切ったように言いました。
先生、それは嘘でございます。
先生は毎日あんなに上手に
みんなの病気を治しておいでになるではありませんか。
何のことだかわからんね。
だって先生、先生のおかげで
うさぎさんのおばあさんも治りましたし
たぬきさんのお父さんも治りましたし
あんな意地悪の耳づくまで
治していただいたのに
この子ばかりお助けをいただけないとは
あんまり情けないことでございます。
おいおい、
それは何かの間違いだよ。
俺は耳づくの病気など
治してやったことはないからな。
もっともたぬきの子は
言うべきで学体の真似をしていったがね。
ゴーショはあきれて
その子ネズミを見下ろして笑いました。
すると野ネズミのお母さんは
泣き出してしまいました。
ああ、この子はどうせ病気になるなら
もっと早くなればよかった。
さっきまであれくらい
ゴーゴーと鳴らしておいでいなったのに
病気になると一緒にピタッと音が止まってしまって
もうあとはいくらお願いしても
鳴らしてくださらないなんて
なんて不幸せな子供だろう。
ゴーショはびっくりして叫びました。
なんだと
僕がセロをひけば耳づくやうさぎの病気が
治ると。どういうわけだ
それは。
野ネズミは目を片手でこすりこすり
言いました。
はい、ここらのものは病気になるとみんな
先生のおうちの床下に入って
治すのでございます。
すると治るのか
はい、体中とても血の周りが
良くなって大変いい気持ちですぐ
治る方もあれば家へ帰ってから
治る方もあります。
ああ、そうか。
俺のセロの音がゴーゴー響くと
それがアンマの代わりになって
お前たちの病気が治るというのか。
よし、わかったよ。やってやろう。
ゴーショはちょっとぎゅうぎゅうと
糸を合わせてそれからいきなり
ネズミの子供をつまんでセロの穴から
中へ入れてしまいました。
私も一緒についていきます。
どこの病院でもそうですから。
おっかさんの野ネズミは
きちがいのようになってセロに飛びつきました。
お前さんも入るかね。
セロひきは
おっかさんの野ネズミを
セロの穴からくぐしてやろうとしましたが
顔が半分しか入りませんでした。
野ネズミはバタバタしながら
中の子供に叫びました。
お前、そこはいいかい。
落ちるときいつも教えるように
足をそろえてうまく落ちたかい。
いい、うまく落ちた。
子供のネズミはまるで
蚊のような小さな声で
セロの底で返事をしました。
大丈夫さ、だから
鳴き声出すなと言うんだ。
ゴーショはおっかさんのネズミを下に下ろして
それから弓をとって
なんとかラフソリーとかいうものを
ゴーゴーガーガーひきました。
それとおっかさんのネズミはいかにも心配そうに
その音の具合を聞いていましたが
とうとうこらえきれなくなったふうで
もうたくさんです。どうか
出してやってくださいと言いました。
24:02
なんだ、これでいいのか。
ゴーショはセロを曲げて
穴のところに手を当てて待っていましたら
まもなく子供のネズミが出てきました。
ゴーショはだまって
それをおろしてやりました。
見るとすっかり目をつぶって
ブルブルブルブル震えていました。
どうだったの、いいかい気分は。
子供のネズミは少しも返事もしないで
まだしばらく目をつぶったまま
ブルブルブルブル震えていましたが
にわかに起き上がって走り出しました。
ああ、よくなったんだ。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
おっかさんのネズミも一緒に走っていましたが
まもなくゴーショの前に来て
しきりにおじぎをしながら
ありがとうございます。ありがとうございます。
ととうばかり言いました。
ゴーショはなんだかかわいそうになって
おい、
おまえたちはパンは食べるのか
と聞きました。
するとのネズミはびっくりしたように
きょろきょろあたりを見まわしてから
いえ、もう
おパンというものは小麦の粉を
こねたり蒸したりしてこしらえたもので
ふくふくふくらんでいて
おいしいものなそうでございますが
そうでなくても私どもは
おうちの戸棚などへ参ったこともございませんし
ましてこれくらいお世話になりながら
どうしてそれを運び難道に参りましょう
と言いました。
いや、そのことではないんだ。
ただ食べるのかと聞いたんだ。
では食べるんだな。
ちょっと待てよ。
その腹の悪い子供はやるからな。
ゴーショはそれを床へ置いて
戸棚からパンをひとつまみむしって
野ネズミの前へ置きました。
野ネズミはもうまるでバカのようになって
泣いたり笑ったりおじぎをしたりしてから
大事そうにそれをくわえて
子供を先に立てて外へ出ていきました。
ああ、
ネズミと話しするのもなかなかつかれるぞ。
ゴーショは寝床へどっかり倒れて
すぐにぐーぐー眠ってしまいました。
それから6日目の晩でした。
金星音楽団の人たちは
街の公会堂のホールの裏にある控室で
みんなパッと顔をほてらして
めいめい楽器を持って
ぞろぞろホールの舞台から引き上げてきました。
首尾よく
第6公共曲を仕上げたのです。
ホールでは拍手の音がまだ
嵐のようになっております。
楽長はポケットで手を突っ込んで
拍手なんかどうでもいいというように
のそのそのみんなの間を歩き回っていましたが
実はどうしてうれしさでいっぱいなのでした。
みんなタバコをくわえて
マッチを吸ったり楽器をケースへ
入れたりしました。
ホールはまだパチパチ手が鳴っています。
そういうところではなく
いよいよそれが高くなって
なんだか怖いような手がつけられないような音になりました。
大きな白いリボンを
胸につけた司会者が入ってきました。
アンコールをやっていますが
何か短いものでも
聞かせてやってくださいませんか。
すると楽長がキッと鳴って
答えました。
いけませんな。
こういう大物の後で何を出したって
こっちの気の済むように行くものではないんです。
では楽長さん出て
ちょっと挨拶してください。
だめだ。
おいゴーシュ君
何か出て弾いてやってくれ。
私がですか。
27:00
ゴーシュは
あっけいに取られました。
君だ君だ。
バイオリンの一番の人がいきなり顔を上げて
言いました。
さあ出て来たまえ。
楽長が言いました。
みんなもセロを無理に
ゴーシュに持たせて扉を開けるといきなり
舞台へゴーシュを押し出してしまいました。
ゴーシュがその穴の開いたセロを持って
実に困ってしまって舞台へ出ると
みんなは空見ろというように
一層ひどく手を叩きました。
わーと叫んだものもあるようでした。
どこまで人をバカにするんだ。
よし見ていろ。
インドの虎狩りを引いてやるから。
ゴーシュはすっかり落ち着いて
舞台の真ん中へ出ました。
それからあの猫が来た時のように
まるで怒った象のような勢いで
虎狩りを引きました。
ところが長州は死因となって一生懸命聞いています。
ゴーシュはどんどん引きました。
猫が切ながってパチパチ火花を
出したところも過ぎました。
とえ体を何遍もぶっつけた
ところも過ぎました。
曲が終わるとゴーシュはもうみんなの方
などは見もせずちょうどその猫のように
素早くセロを持って楽屋へ逃げ込みました。
すると楽屋では
楽長はじめ仲間がみんな
火事にでもあった後のように目をじっとして
ひっそりと座り込んでいます。
ゴーシュはやぶれかぶれだと思って
みんなの間をさっさと歩いていって
向こうの長い椅子へどっかりと
体を下ろして足を組んで座りました。
するとみんなが
いっぺんに顔をこっちへ向けてゴーシュを見ましたが
やはり真面目で別に笑っているよう
でもありませんでした。
今夜は変な晩だな
ゴーシュは思いました。
ところが楽長は立って言いました。
ゴーシュ君
よかったぞ。あんな曲だけれども
ここではみんなかなり本気になって
聞いていたぞ。一週間か十日の間に
ずいぶん仕上げたな。十日前と比べたら
まるで赤ん坊と兵隊だ。
やろうと思えばいつでもやれたんじゃないか君。
仲間もみんな立ってきて
よかったぜとゴーシュに言いました。
いや体が丈夫だから
こんなこともできるよ。普通の人なら
死んでしまうからな。楽長が
向こうで言っていました。
その晩遅くゴーシュは
自分の家へ帰ってきました。
そしてまた水をガブガブ飲みました。
それから窓を開けて
いつかカッコウの飛んでいったと思った
遠くの空を眺めながら
ああカッコウ
あの時はすまなかったな
俺は怒ったんじゃなかったんだ
と言いました。
1989年発行
新庁舎
新庁文庫
新編銀河鉄道の夜
より読了
読み終わりです
はい
これは子供の頃読まされるやつですよね
僕何も思わないんだけどこれ
心が死んでるかしら
上手になったのねっていう
ここから何を学べとれという
意味で教科書に載せてるんだろうか
うーん
どういう解釈なんですかね
人それぞれなのかな
30:00
日本の教育はなんかみんなで
ふんわり集約させようと
する感じがあるそうですけど
本来は受け取ったその人
そのなりのままでいいはずですよね
はい
以上有名どころでした
では終わりにしていきましょうか
無事に寝落ちできた方も
最後までお付き合いいただけた方も
大変にお疲れ様でした
といったところで今日のところはこの辺で
また次回お会いしましょう
おやすみなさい