00:04
もし、あなたの財布の中にあるお金がですね、野菜とか果物みたいに、時間が経つにつれて腐って価値が減っていくとしたら、どうしますか?
いやー、それ直感的にはちょっと受け入れがたいですよね。
ですよね。
だって私たちは、物心ついた時から、お金っていうものは価値を永遠に保持してくれる安全な箱だって信じて疑わないですからね。
そうなんです。でもこれ単なるとっぴな試行実験ってわけじゃないんです。
今日の深掘りのテーマは、あなたも日常的に使っているものにつながるお話でして、
100年以上前に提唱された腐るお金、つまり経済学でいうところの減価通貨という奇抜な理論について、今日は資料をひも解いていきたいなと。
非常に興味深いテーマですね。
しかも驚くべきことに、この過去の遺物みたいなアイディアが、今あなたのスマホの中に入っているポイントとか地域クーポンの裏側で、ものすごく高度なアルゴリズムとして生き続けているんですよね。
そうなんです。実は現代のシステムにがっつり組み込まれているんです。
よし、じゃあこれらを一つ一つひも解いていきましょう。
まずは、そもそもなんでわざわざお金を腐らせようと考えたのかっていう根本的なところからですよね。
時計の針を1916年に戻してみましょうか。シルビオ・ゲゼルという人物がいまして。
100年以上前ですね。
彼が自然的経済秩序という本の中で提唱した自由貨幣という概念が全ての出発点になります。
彼の問題意識の根底には、ある決定的な非対称性があったんですね。
非対称性というと。
現実のあの物理的な世界をちょっと想像してみてほしいんですけれども。
例えば農家が丹精込めて育てたトマトとか、大工さんが建てた木造の家とか、
こういう実態のあるものって時間が経てば必ず劣化して腐敗して価値が落ちていきますよね。
確かに放っておくとダメになっちゃいますからね。
維持するだけでもコストがかかるわけです。
でも法廷通貨、つまりお金だけは例外なんですよ。
あーなるほど。
1万円札って、タンスの奥に10年間しまっておいても、物理的に劣化してボロボロになることはあっても、
額面としての1万円の価値はそのままですよね。
腐らないですね、お金は。
ゲゼルは、このお金だけが腐らないっていう特質が、
経済システム全体に致命的なバグというか、歪みをもたらしていると考えたんです。
ちょっと待ってくださいね。
それってつまり、実体経済で汗水流してトマトを売る人は、
商品が腐る前に何としても手放さなきゃいけないっていう時間制限付きのプレッシャーを常に背負っていると。
その通りです。
でも一方でお金を持っている人は有効期限のないBIPパスを持っているようなもので、
ただ座って待っているだけで、お金を貸してやるから利子を払えって要求できる立場にあるということですか?
03:04
いやまさにその対比は非常に的確だと思います。
お金が腐らないからこそ人々はそれを使わずに貯め込むことができるわけです。
退増するって言うんですけども。
退増、はい。
ゲゼルの分析によれば、この貯め込みこそが経済の血流を止めてしまって、
富の集中を招いて結果的に深刻な不況を引き起こす根本原因だったんです。
血液がドロドロになって止まっちゃうみたいな感じですね。
ええ、だからこそ彼はお金にもトマトと同じように有効期限とか価値が減っていくルールを設けようと主張したんです。
いやー面白い発想ですよね。
ここからがまたすごいんですけど、実際にこの腐るお金を現実の世界で試してしまった街があるんですよね。
はい、オーストリアのベルグル市という小さな街です。1932年から1933年のことです。
1930年代ってことは世界恐慌の真っ只中じゃないですか。
そうなんです。当時のベルグルはもう失業者が溢れかれていて税収も激減して街として破綻寸前だったんですよ。
絶望的な状況ですね。
そこで当時の市長がゲゼルの理論を応用して独自の地域通貨を発行するという一種の捨て身の行動に出たんです。
これが本当に腐るシステムだったんですよね。確か毎月スタンプを貼らなきゃいけないとか。
ええ、毎月そのお札の額面の1%に相当するスタンプを役所で買ってお札の裏に貼り付けないとお金としての価値を失ってしまうというルールにしたんです。
1%のスタンプ代?それ払いたくないですよね。
誰も払いたくないですよ。だから住民たちは当然スタンプを貼らなければいけない月末が来る前に早くこのお金を使ってしまおうって考えますよね。
なるほど。誰も手元に置いておきたくないからみんな急いで買い物をするわけだ。
まるで熱圧のジャガイモを投げ合うみたいにお金が街中をものすごいスピードで駆け巡り始めたんです。
熱圧のジャガイモ、わかりやすいです。早く誰かに渡さなきゃ火傷しちゃうみたいな。
ええ、お金の流通速度がもう爆発的に上がったことで街は劇的な変化を遂げました。住民は次々と地元の商店で買い物をして、滞納していた借金を返して。
お金がぐるぐる回り始めたんですね。
さらには手元に置いておいて価値が減るくらいならって言って翌年分の税金まで前倒しで納める人まで現れたんですよ。
税金の前払いですか。それは行政からしたらめちゃくちゃ助かりますよね。
そうなんです。その資金をもとに、ウェルグル市は橋の修繕とか道路の舗装といった公共事業を次々と打ち出すことができて、失業率は瞬幕にも激減したんです。
それが経済学の歴史で言われるウェルグルの奇跡ですね。
はい。まさに奇跡的な大成功でした。
でもここからが本当に面白いというか皮肉なところなんですけど、この大成功した奇跡のシステム、たった1年ちょっとで強制的に停止させられちゃったんですよね。
そうなんです。裁判で負けてしまったんです。
06:01
それ、訴えたのは誰だったんですか。
オーストリアの中央銀行です。
表向きの理由は通貨を発行する独占的な権利の侵害ということだったんですが。
権利の侵害、なるほど。
でもその背景には、中央銀行側のものすごく強烈な危機感があったんです。
危機感ですか。でも街が一つ救われたわけじゃないですか。なんで権力側はそこまで恐れる必要があったんでしょうか。
マクロ経済のコントロールを失うからです。
コントロールを失う。
もし、ベルグルの大成功を見て、オーストリア中のすべての街が勝手に独自のふさるお金を発行し始めたらどうなると思いますか。
みんなが自分たちでルールを作り始めちゃうと。
そうなると、中央銀行がいくら金利を上げ下げしたり、法定通貨の発行量を調整したりしても、国家全体のインフレ率とか経済政策を全くコントロールできなくなってしまうんですよ。
なるほど。つまり国家の経済的な支配権が根本から崩れ去るリスクがあったわけですね。自分たちのコントロール外で下の下流が良くなっていくのは許せなかったと。
そういう見方もできますね。システムを管理する側からすれば、緩和できない脅威だったわけです。
ただここでちょっと別の疑問が湧いてくるんですけども、専門家の視点から見てどうですかね。
はい、なんでしょう。
お金持ちの蓄財を批判して、お金を使わないことに対してペナルティーを与えるっていうこのゲゼルの思想、これって見方によっては単なる社会主義とか共産主義の言い換えなんじゃないかって思いませんか?
ああ、なるほど。富裕層を罰して、社会全体でお金のルールを強制するなんて、なんか自由市場に反しているように聞こえちゃうんですけど、マルクス主義とは何が違うんですか?
これ非常に混同されやすいポイントなんですが、ゲゼルとマルクスのアプローチって実は水と油くらい全然違うんですよ。
え、違うんですか?
ええ。まずマルクス主義は資本家が生産手段、つまり工場とか土地とかを独占していること自体を問題視して、市場システムとか私有財産そのものを否定しましたよね。
はい、すべてを国家の管理下に置く計画経済というか、自由な競争は悪だみたいな。
そうです。でもゲゼルの自由貨幣主義は全く違います。彼は自由な商売とか市場競争は素晴らしいものだって全面的に肯定していたんですよ。
あ、市場経済はOKなんですか?
ええ。個人が私有財産を持つことも、起業して利益を上げることも全然問題視していません。彼が問題視したのはただ一つだけなんです。
ただ一つ?
流動性の独占です。
流動性の独占?ちょっと難しくなってきましたね。
つまりですね、お金という取引の仲介に絶対に欠けせないツールが腐敗するという特権を持っているせいで、それを握っている人間が不当に強い力を持ってしまうこと。これだけを問題にしたんです。
はは、なるほど。
ゲゼルにとって資本主義そのものは悪じゃなくて、単にお金というOSに致命的なバグがあるだけだったんです。だからそのバグさえパッチを当てて修正してしまえば、市場は一部の権力者に支配されることなく、もっと健全に機能するはずだと。
09:07
これ目から鱗ですね。富裕層を憎んだわけじゃなくて、システム上のバグを直したかっただけだと。
そういうことです。
国家が全てを管理する重たいシステムに変えるんじゃなくて、ただお金の仕様を少しだけいじる。いやー全然違う思想ですね。
ええ、ただ思想としては非常にスマートなんですけれども、これを国レベルで導入するにはやっぱり巨大なリスクが伴うんです。
まあそうですよね。
もし仮にあなたの銀行口座にある老後資金とか全財産が毎月確実に1%ずつ減っていくルールになったとしたらどうですか?
いやパニックになりますよ絶対。将来のための長期投資なんて誰もやらなくなるし、住宅ローンを組んで何十年もかけて家を買うなんてどう考えても不可能になりますよね。
ええ、経済の安定性が完全に崩壊してしまいます。
だとすればやっぱりこの不去るお金っていうアイディアはベルグルの実験と一緒に歴史の闇に消えてしまったということなんでしょうか?
いや決して死んではいません。
え?
むしろ現代社会において制作担当者たちがゲゼルの理論から美味しいところだけを抽出して極めて巧妙な形で復活させているんですよ。
美味しいところだけ?
はい、それがプレミアム付き地域クーポンとか期間限定のデジタルポイントという形です。
ああ、ここで現代の私たちの日常につながってくるわけですね。
ええ、全財産を腐らせるから絶望とかパニックが起きるわけですよね。ならばこれを局地的なミニ通貨として応用すればいいじゃないかという発想の転換です。
局地的なミニ通貨?
例えば1人当たり数万円程度の生活費の一部にだけこの減価する仕組み、つまり有効期限を適用するんです。
確かに全財産が毎月減っていくって言われたら絶望しますけど、この3万円分のポイント来月末で消えちゃいますよっていう状況なら絶望感はないですね。
ないですよね。
むしろ早く使ってお得ね楽しもうっていうちょっとポジティブな消費の焦燥感だけが生まれますよね。
その通りです。既熟通貨である日本円とかの法定通貨は将来の貯蓄とか企業の長期投資のために腐らない安全な資産としてそのままキープしておく。
はいはい。
その一方で地域経済の末端の消費を一時的に加速させるブースターとして有効期限付きのクーポンを投下するわけです。
なるほど。これなら中央銀行の存在とかマクロ経済のコントロールを脅かすことなくピンポイントで景気刺激策を打てるってことですね。
非常に現実的なソリューションなんです。
完璧ないいとこ取りのシステム設計じゃないですか。いやー頭いいですね。
ふふふ。そう見えますよね。
ん?と言いたいところなんですけど、ここからが人間の面白いところですよね。
もし私がそのクーポンをもらう側の消費者だとしたらこう考えちゃうんですよ。
どう考えますか?
よし数万円の地域クーポンをもらったぞ。
12:03
じゃあこれで普段スーパーで買うはずだった洗剤とかトイレットペーパーとかお米を全額クーポンで払ってしまおうと。
ええ。よくある行動ですね。
そうすると本来必要品に使う予定だった現金が手元に浮くじゃないですか。
その現金はそのまま使わずに銀行口座にチャリーンと貯金しちゃおうって。
なるほど。
これじゃ結局お金の出どころがすり替わっただけで社会全体のお金が回る量って全然増えてないですよね。
いや素晴らしい視点です。それこそがまさにこのシステムが直面する最大の壁なんですよ。
経済学ではこれを代替効果と呼んでいます。
代替効果ですか?
はい。地域クーポンが単なる現金の代わりとして使われてしまって浮いた現金が結局は貯金につがに体増に回ってしまうという現象ですね。
やっぱりみんなそう考えますよね。
ええ。だからこそ現代のデジタル技術が本当にすごいのはまさにこの貯金への迂回をプログラミングの力でいかに防ぐかっていう点に全力を注いでいるところなんです。
人間の賢い抜け道探しをデジタル技術で塞いでるってことですか?具体的にどうやってるんですか?
第一に首都の制限です。多くの地域振興クーポンではあえて大型スーパーとかドラッグストアみたいな生活必需品を扱う店舗を対象外に設定していますよね。
ああ確かに使えないお店結構ありますよね。
ええ。地元の飲食店とかレジャー施設マッサージ店とかそういったところでしか使えないように裏側でコードで縛りをかけているんです。
なるほど。生活必需品に使わせて現金の節約につながるのをブロックして普段なら行かないちょっといいランチとかそういう追加的な消費を強制的に引き出してるんですね。
そういうことです。そしてさらに強力なのがマッチング型還元という手法です。
マッチング型?
単にポイントを無料で配るんじゃなくて自分の現金を1万円チャージしてくれたら2000円分のプレミアムポイントを上乗せしますよっていう仕組みですね。
ああペイペイのキャンペーンとかでよくあるやつですね。完全に罠じゃないですかそれ。
罠って言うと聞こえが悪いですけど要衆に財布とか銀行口座の奥深くで眠っている腐らないお金を無理やり外に引っ張り出すためのトリガーとしてプレミアムというエサをぶら下げているわけです。
まんまとエサに釣られてチャージしちゃってますよ私。
さらに最近ではですねマイナンバーみたいな個人認証と紐付けて特定の行動をトリガーにする高度な設計も増えてきています。
特定の行動っていうのは?
例えば健康診断を受診したり地域のボランティアに参加したりエコな家電に買い替えたりそういった行動をした時にだけポイントが付与されるようにするんです。
へーただお金をばらまくんじゃなくて社会にとって望ましい行動を人々に取らせるための目に見えないインセンティブの意図としてデジタルポイントを使ってるんですね。
そうなんです。そして極めつけは付与されてからわずか2週間で消えてしまったり毎月末に自動的に失効してしまう超短期の自動失効アルゴリズムです。
15:03
あ、それってまさにベルグルの街の人々が恐れたあの1%のスタンプの現代版じゃないですか。
まさにその通りなんですよ。これらすべてがいかに人間に現金を貯め込ませないか、そしていかに特定の方向へ消費を向かわせるかという目的のために緻密に計算された現代のデジタルスタンプなんです。
いやーなんか自分のスマホに入っているポイントアプリが急に壮大で恐ろしい経済コントロールの装置に見えてきましたよ。
ふふ、そうかもしれませんね。
でもなんでシステム側がこれほどまでに高度なプログラモグで抜け道を塞ごうとしても、私たち人間はあの手この手で貯め込もうとしちゃうんでしょうか。
ここにはなんか単なる経済理論を超えた人間の本能との終わらない葛藤みたいなものを感じますね。
ええ、そこが経済学の最も人間ぐしくて深い部分だと思います。私たちは蓄財とか貯め込むって聞くとどうしても業欲さとか意地ごささをイメージしがちなんですけど、本質は違うんです。
違うんですか。
人間がお金を貯め込もうとするのは病気とか老い、失業あるいは突然の災害といった将来の不確実性に対する安心感を得るためなんです。
安心感ですか。
はい。厳しい冬を乗り越えるための備蓄であり、嵐の海に投げ出された時のための言ってみればライフジャケットなんですね。
ライフジャケット。はあ。確かに明日何が起きるかわからない世界で生きている以上、少しでも手元に価値を確保しておきたいっていうのは生き物としての当然の防衛本能ですよね。
だからこそ、もしシステム側がお金の貯め込みをデジタル技術で完全にブロックしたとしても、人間は必ず別のふからないものを見つけて貯め込もうとする生き物なんです。
別のふからないもの。
例えば金、ゴードなどの貴金属を買ったり、不動産を所有したり、あるいは人脈という無形の資産を築いたり、極端なインフレとか戦時史の状況なんかだとタバコとか缶詰といった闇打ちの物資が通貨代わりに貯め込まれたりもしましたから。
なるほど。どんなに成功で完璧なデジタル通貨のゲームデザインを作ったとしても、人間の将来の不安に備えたいっていう本能との摩擦は絶対に消えないわけですね。
消えないですね。
システムが抜け道を防げば、人間はまた新しい抜け道を探す。これはもう永遠のいたちごっこですね。
そうですね。現代のあらゆるデジタル経済施策も、この効率的なシステム設計と不安を抱える人間心理との摩擦の中で、綱渡りのように絶妙な均衡点を探り続けている真っ最中なんですよ。
いやー、非常にスリリングなお話でした。さて、今日あなたと一緒に深掘りしてきた不去るお金の世界、いかがでしたでしょうか。
1932年のオーストリアの小さな町で起きたスタンプを貼るお金の奇跡。そこから今、あなたのスマホの中でチカチカと有効期限を警告しているポイントアプリまでが、実は同じ経済的心理学的な地続きにあるという事実。
18:04
次にあなたがですね、ポイントの期限が今今週末で切れるから急いで駅前のカフェに行こうと行動を起こした時、少しだけ立ち止まって思い出してみて欲しいんです。
はい。
自分自身がこの100年以上続く壮大な経済実験のアルゴリズムの上で踊られている、やその一部に組み込まれているということ。
日常の景色が少し違って見えそうですよね。
そうですね。
最後に、今日この深掘りをお聞きいただいたあなたに、ご自身で考えてもらうための新しい問いを投げかけて終わりにしたいと思います。
はい。
今、世界中の中央銀行が現金に代わる中央銀行デジタル通貨、いわゆるCBDCの開発を猛スピーダで進めていますよね。
もし将来経済が深刻な不況に陥った時、政府があなたの銀行口座にある普通の預金をプログラミングによって毎時1%ずつ去るように中央からボタン一つで設定変更できるようになったとしたら。
なかなか恐ろしいシナリオですね。
ええ。あなたは社会全体の経済を回すためにそのシステムをすんなり受け入れますか?
それとも嵐に備えるための新たなライフジャケットを探し始めますか?
次回の深掘りもどうぞお楽しみに。