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おしゃべり本棚。 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
赤い婚礼 後編
小泉役も林田生命役。 太郎がおよしと話しているのを見かけた老農夫は、実は店に客として来ていたのではなかった。
彼は実際の家業のほかに、名コードや縁結びもしている。 あの時は、岡崎八一郎という金持ちの豚屋のためにそうしていた。
岡崎は、およしを見かけた時見染めて、この売釈人に、娘とその家族の身の上や事情をできるだけ調べてほしいと頼んでいたのだった。
岡崎なる人物は、農民たちからも、また村の中の近所の者たちからも、ひどく嫌われていた。
彼は年もとって太った、また妊娑も悪くて声が大きい、王兵な態度の男であった。
太郎の父は、息子がおよしと結婚することになればいいと心から願っている。
そしてそれを慣例のやり方で運んだのだが、宮原家からは、はっきりとした返事がないことに驚いた。
太郎はある朝、およしと話す機会があるかもしれないと思って、弟を連れて神社の境内に行った。
およしと会って、自分は何だか不安だと彼女に心のうちを明す。
というのは、幼い頃自分の母が首にかけてくれた小さな木のお札が布袋の中で割れているのに気がついたからだ。
それは縁起が悪い知らせじゃないわ。
およしが答える。
それは尊い神様があなたを守ってくれたしるしに過ぎないのよ。
村で病気があった時、あなたは熱を出したけれど、もう元気になった。
聖なる神様があなたをお守り下さったんだわ。
だから割れたのよ。
そうか主さんに言いなさい。
もう一つ別のをくれるはずだから。
彼らはとても不幸だった。
しかし、別に誰に害をくわえたということもなかったから、
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おのずと自分たちの前世や天道についての話になった。
太郎は言った。
たぶん前世で僕たちは互いに憎しみ合っていたんだ。
おそらく僕が君に親切じゃなかったか、君が僕にはそうだったからだよ。
だからこれは僕たちへの罰なんだ。
お坊さんはきっとそう言うさ。
およしは少し冗談めかして答える。
私はその時男だったのよ。
あなたは女で。
私はあなたを好きで好きでたまらなかったんだけど。
あなたは私に全く気がなかった。
私はそれをよく覚えているわ。
太郎はすまなさそうにほほえみながら。
君は菩薩じゃないよと返答した。
だから君は何にも覚えていることなんてできないんだよ。
僕たちが覚えているのは菩薩堂の十階のうちの最初の階においてだけらしいんだ。
どうしてわかるの?私が菩薩じゃないって。
君は女だからさ。女は菩薩にはなれないんだ。
観音菩薩は女性ではないの?
そうだね。それはそうだ。
でも菩薩はお経のほかは愛することができないんだよ。
お釈迦様には奥さんや子供もいたでしょう?
お釈迦様は妻や子を愛さなかったの?
そうじゃないけど。
でもお釈迦様は妻や子を捨てなければならなかったんだって。
知ってるよね?
それはとてもいけないことだわ。
たといお釈迦様が行われたことだとしても。
私この話全部は信じない。
あなた、私を奥さんにしたら私を捨てる?
二人はこんな風に教えや道理を言い合っては議論し、
時折は笑い合った。
二人一緒にいられることが何よりも楽しかったのである。
けれども、小吉は急に真面目になると話し始めた。
ねえ、聞いてよ。
私、夕べ夢を見たの。
どこかわからない川と、それに海を見た。
川のそばに私が立っているような気がした。
その川は海に注いでいる。
私、とても怖かった。
本当に怖かったんだけど、なぜだかはわからなかった。
見てみると、川にも海にも全然水がないことに気がついたの。
けれど、仏様の骨だけがあって、それが全部動いているの。
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ちょうど水のようによ。
そしたら、今度は私は家にいるような気がしたわ。
そして、あなたが私に着物を作るようにとくれたきれいな短物を仕立てて、
私がそれを着てみたの。
そしたら、なんだか不思議な気がしたの。
だって、まずそれにはいろんな色の模様があったはずだと思っていたけど、
いつの間にやら、白むくの着物になっていたの。
そして、私はなんと、死んだ人の着物のように左前にして着ていたんだわ。
それから、私は親類の家をみんな訪ねて行って、お別れをするの。
私、メイドに行きますとみんなに言ったわ。
みんなはどうしたのと訪ねたけれど、答えられなかった。
それはいいよ、戸太郎が言った。
死者の夢を見るのはきっと縁起がいいんだ。
たぶん、それは僕たちが目音になるという印だよ。
今度は乙女は答えなかったし、微笑みもしなかった。
太郎はしばらく黙っていたが、それから付け加えた。
もし、君が良い夢じゃないと思うんだったら、
よし、庭の南天の木にそれを囁いておこう。
そしたら、それは真実とはならないからね。
その日の夕刻。
太郎の父は、宮原のおよしが、
岡崎八一郎の嫁になるという知らせを受けた。
早朝に京都からの一番列車が入ってきた。
小さな駅は、急ぐ人と音で満ちあふれている。
下駄のカランコロンという音、話し声、
それに、菓子と弁当を売る少年の途切れ途切れの呼び声。
菓子はいかがですか?
寿司はよろしいか?
弁当いかが?
五分も過ぎると、下駄の響きも止み、
列車のドアもバタンと閉じられた。
物売りの少年たちの感高い声も止んだ。
笛が鳴り、列車がガタンゴトンと動き始める。
それはゴトゴトと音を立て、
白い蒸気を吹き出すと、ゆっくりと北へ向って走り出した。
小さな駅にはすっかり誰もいなくなった。
改札口のドアを閉めると、
巡査は静かな水田地帯を眺めながら、
プラットホームをこちらから向こうへとゆっくりと歩き始めた。
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朝の空気がとてもきれいに澄みきっていたので、
巡査は北のほうの線路のはるか向こうに、
何かにはっと気づいて、手をかざしてよく見ようとした。
それから時計に目をやった。
村の駅で巡査が見たものは、そして後日の報告によると、
駅の北方八百メートルばかりの地点で二人の者が、
明らかに村の北にある農家から水田地帯を横切って、
踏切に近づいてきた。
うちの一人は、その着物や帯からして、
とても若い女性だろうと思われた。
東京発の早朝の急行列車が、
数分後には到着するはずである。
その勢いのよい煙は、駅のホームからも望むことができる。
二人の姿は、
汽車が接近している線路に沿って、急いで走り出した。
カーブを曲がったところで、二つの人影は見えなくなった。
この二人とは、太郎と吉である。
彼らが急いで走っていたのは、巡査の目を避けるためと、
できるだけ駅から離れた遠くで、汽車を待ち受けるためである。
カーブを通り過ぎたところで、二人は走るのをやめて歩いた。
というのは、煙がこちらへやってくるのを見たからである。
二人は汽車が見えると、すぐに線路から離れた。
それは、機関手を驚かしてはいけないと思ったからだ。
そして互いに手に手を取り合って待っていた。
次の瞬間を待って、低い轟音が聞こえたときに、
今だ!と二人は思った。
再び線路に戻ると、互いに振り向き、
腕を互いに回して必死と抱き合う。
ほうとほうとを寄せ合って、そっとまた急いで、
レールの上に二人は横たわった。
レールはすでに全速力で接近してくる汽車の振動で、
かなとこのように唸っている。
若者は微笑んだ。
乙女は彼の首にしっかり腕を巻きつけて、
耳元にささやいた。
来世も、また来来世も、私はあなたの妻。
あなたは私の夫よ、太郎さま。
太郎に答えるいとまはなかった。
というのは、空気圧式ブレーキの装置もなく、
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速度の出た汽車を100メートルもない距離で緊急停止させようとした、
次の刹那。
鉄輪は二人の上を大きく空を切って回った。
ちょうど巨大なハサミのように。
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