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おしゃべり本棚 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
赤い婚礼 前編
小泉役も林田生命役 太郎が6歳になると両親は村の外れに新しく建てられた小学校に太郎を入れた
太郎のおじいさんは筆を何本かと紙や本、それに石板を買ってやり、ある朝早くに太郎の手を引いて学校まで連れて行った。
太郎は石板などまるでたくさんの新しいおもちゃをもらったようで嬉しかった。
周りのみんなも、学校はいっぱい遊べる楽しいところだと言ってくれたので、とても大喜びである。
さらに母は学校から帰ったらうんとお菓子をあげますよと約束してくれた。
学校に太郎とおじいさんがつくと、業務員さんがすぐに大きながらんとした部屋に案内してくれた。
そこにはいかめしい顔つきの男が机の前に座っている。
おじいさんがこの男にお辞儀をして先生と呼びかけて、幼いこの子に優しく教えてくださるようにと丁寧に頼んだ。
先生は立ち上がってえしゃくをすると、おじいさんにていちょうに話しかけた。
先生はまた太郎の頭に手を置いて、よく来たねと言った。
けれども太郎はすっかりおびえてしまった。
おじいさんがじゃあねと言うとますます不安になってきて、今にも家へ走って帰りたい気がする。
しかし校長先生が天井の高い大きな白い部屋の行道に連れて行くと、そこには長いすに腰かけたたくさんの男の子や女の子がいる。
みんなが太郎の方を振り向くと、互いにひそひそとささやいて笑っている。
太郎は自分が笑われていると思うと、とてもみじめに感じた。
鐘の音が大きく鳴り響いた。
すると円壇に立った校長先生が、
「静粛に。」とぴしゃりと言ったが、それは太郎をおびえさせてしまった。
先生が話を始めたが、なんだか話し方が親しめない感じがした。
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太郎は校長先生の話のうちほんの一部を聞いただけだった。
彼の幼い心は、自分がこの部屋に入ってきたときにみんなの視線をいっせいに浴びて、笑われたことでほとんどいっぱいだった。
笑われたのが何であるかもわからず、とても傷ついていたので、ほかのことを考える余裕はなかった。
それで自分の名前が呼ばれたときには、まったく何の心構えもしていなかった。
「内田太郎君、君は世の中で何が一番好きかね?」
太郎は起立すると思ったとおりに、「お菓子だよ。」と答える。
するとみんながこちらを見て声をあげて笑っている。
校長先生が咎めるような感じで尋ねた。
「内田太郎君、君は両親よりもお菓子が好きかね?君は陛下への忠誠よりも菓子のほうが好きか?」
それでやっと太郎は自分が大きな間違いをしていることに気がついた。
顔がとてもほてってきた。みんなが笑っている。たまらず彼は泣き出した。
このことがまた笑いを誘った。先生が静かにと言って同じような質問を次の児童にするまでみんなの笑い声がしていた。
太郎は着物の袖で目を覆ってすすり泣いている。鐘が鳴った。
みんなは一斉に部屋の外に走り出てしばらく遊んでいる。
みんなは校庭に出て行ってしまったが太郎には全く気がつかない。
太郎は自分がみんなの注目の的になっていたときに感じたことよりもこうしてみんなから無視されていることのほうに驚いた。
先生を除けば誰からも一言も話しかけられなかった。
突然に肩に手が置かれたのを感じてはっとした。すると優しい声がした。
振り向くとそこには今まで見たことのないようなとても温かい瞳があった。
自分より一つばかり上級の愛らしい女の子がいた。
どうしたの。
少女は穏やかに話しかけた。太郎はしばらくすすり泣いていた。やっと次のように答えた。
こんなところにいたくないよ。僕もうお家に帰りたい。
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どうして。
彼の首に優しく腕を回しながら言った。
みんな僕を嫌いなんだよ。だって誰も話しかけてくれないし、遊んでもくれないんだ。
そうじゃないわ。誰もあなたのこと嫌いなわけじゃないの。あなたのことをよく知らないだけよ。
私だって去年学校に初めて来たときはそうだったんだから。気にしちゃダメ。
だけどみんな外で遊んでいるよ。僕だけここに残っているんだもの。
と太郎が不満そうに答えた。
いいえ違うの。あなたはそうじゃない。私と一緒においで。そして遊ぼうよ。
遊んであげるから。さあおいで。
太郎はまた大きな声をあげておえつし始めた。
太郎の小さな心は自己憐憫や感謝の念、それに新しく同情を得たことに気がついて、今度は喜びでいっぱいになった。
それで本当に泣きたいのだった。泣けばなだめられて可愛がられるのはとてもうれしいことに違いなかった。
けれど少女はにっこりとしているだけだった。
太郎を急いで部屋から連れ出した。というのも小さな母性本能がすべての状況を察したからだった。
泣きたいんだったら泣けばいい。でも遊ばなくちゃね。
二人して一緒に遊んだのはなんと楽しかったことだろうか。
学校が終わると家に連れて帰るためおじいさんが迎えに来た。
太郎はまた涙ぐんだ。今度は彼の幼い遊び友達とお別れしなければならなかったからだ。
おじいさんは笑って大きな声で言った。
なんだよしもじゃないか。宮原のおよしだ。よしも一緒に帰ろう。家に寄って行けばいい。およしもどうせ帰り道の途中だしな。
太郎の家で遊び友達と約束の菓子を一緒に食べた。
およしが校長先生のいかめしい口真似をしていたずらっぽく聞いた。
内田太郎君、私より菓子のほうが好きかね。
太郎とおよしはとても仲の良い友達になった。
一緒に勉強したり遊んだりしたし、また互いの家を行き来した。
けれど、およしが十一歳になった時に、学校を辞めて義母の手伝いをするように言われた。
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それ以来、太郎はおよしとめったに会うこともなくなった。
太郎も十四歳になって弁学を終えると、家の仕事の見習いをし始めた。
小さな弟が生まれると母は亡くなった。
またその年には、自分を初めて学校に連れて行ってくれた祖父も亡いした。
これらのことがあって、太郎にはこの世は以前のようには輝かしいものとは思えなくなっている。
十七歳になるまで彼の生活は変わらなかった。
時々宮原の家を訪ねては、およしと話をした。
彼女はすらりとしたきれいな女性へと成長している。
けれど、太郎にとって彼女は、今もなお昔のより幸福だった日々の楽しい遊び仲間であることに変わりはなかった。
春ののどかな陽気の日だったが、太郎はひどくもの寂しかった。
こんな時には、およしと会えたら楽しいだろうという思いが脳裏をよぎった。
そこで彼は小さな店へと出かけた。
店の近くまで来ると、およしの笑い声が聞えて、とても甘美に響いている。
そして彼女は老農夫の客を横待していたが、この親父さんもにこやかに、また饒舌におしゃべりしている。
太郎は待たなければならなかったし、およしと話しできるのをひとりじめにできないのがじれったい。
せめても彼女のそばにいることで、太郎はいくらか幸せな気分になった。
じっとおよしを見つめているうちに、ふいに、どうして以前にはそんなにきれいだと思わなかったのかと不思議に感じた。
そして太郎は世の中の誰よりもみめうるわしくて、感じがとてもよいと確信するに至ると、
およしにそんな気持をもう今すぐにでも告げたいという思いが募っている。
いつまでも老農夫がおよしと話し込んでいるので、姉妹には腹立たしくさえ思えてくる。
数分のうちに世界は太郎のために全く変化しているはずだったが、まだ彼は知るよしもない。
わかっているのは、この前会ったときとちがって、およしが高豪しいようになったことである。
やっと話す機会がめぐってくると、すぐに自分の恋しい胸のうちを彼女に告白した。
およしもまた打ち明ける。
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それから二人は不思議に思った。
というのは、自分たちの思いがほとんど同じであったからだ。
だが、それは大きな災いの始まりであった。
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