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おしゃべり本棚。 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
トーマスマン作 サネヨシハヤオ役
鉄道事故 第3話
いろんな知らせがそこからくる。 事態についてのいろんな報道をもって興奮した人たちがやってくるのだね。
僕らはレーゲンスブルグから少し手前のある小さな駅のすぐそばにいたのだ。 そして点鉄機の故障から僕らの急行列車は違った線路に乗り込んでしまって、そこに止まっていた貨物列車に全速力で追突すると、その列車を停車場の外へ突き飛ばした上、その後部を粉砕して、こっちもひどく損害をこぼむった、というわけだったのさ。
ミュンヘンのマッファイ製の急行機関車が真っ二つに壊れてしまった。 その価格七万マルク。
それから前方の車はみんなほとんど真横に倒れていて、中には腰掛けが両方から組み合わさってしまったものもある。 いや、人賃にはありがたいことになかったらしい。
ばあさんが一人引きずり出されたとか何とかいうことだったが、誰もそのばあさんを見たものはなかった。 何にしても入り口はみんなごちゃごちゃにぶつかりあって、子供なんぞは荷物の下に渦まってしまったというのだから、驚愕は大したものだった。
貨物車は粉々になってしまった。
貨物車がどうなったって?
粉々になってしまったのだ。
僕はそこに突っ立っていた。 役人が一人帽子もなしで列車に沿って走って行く。
駅長だ。 乱暴にしかも泣きそうな声で乗客に命令を下している。
みんなを制御して線路から車内へ入れてしまおうというのだ。
しかし帽子もなければ威厳もないので、誰一人耳を貸すものはない。
哀れむべき男じゃないか。
責任は大方この男にかかるのだろう。
この男の経歴はこれでおしまいかもしれない。
この男にあの大荷物のことを聞くのはどうも具合が悪い気がした。
また一人役人がやって来た。
その早朝ひげを見れば誰だということはわかる。
あの車掌さ。
番にいたあのむっつりと油断のない車掌さ。
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われわれの父なる国家なのさ。
身をかがめて片手を膝に突っ張ったまま足を引きずっている。
そしてその片膝より他には何事も眼中にないのだ。
ああ痛い痛いと車掌は言う。
おやおや一体どうしたんですか。
いやはやどうも間に挟まれたんですよ。
胸をうんとやられたんですよ。
何しろ屋根を越して逃れて来たんですからな。
ああ痛い。
この屋根を越して逃れて来たには新聞記事めえた味があったね。
この男は平成決して逃れるなんという言葉は使わないに決まっている。
だからこの男は不良の難を経験したというより
むしろその災難に関する新聞記事を経験したわけなのだよ。
しかし僕にとってそんなことが何の役に立とう。
この男は僕の現行がどうなったか
それを知らせてくれるような心持ちじゃないのだからね。
そこで僕は破片の砂漠から元気よくもったいぶって
はしゃぎながらやって来た一人の若い人間に
あの大荷物のことを聞いてみた。
さあね。そんなものがあそこでどんなになっているか
そりゃ誰にもわかったものじゃありませんよ。
しかもその話し方はけがもしないで助かったのを
喜ぶがいいじゃないかと安に言っているのだ。
何もかもごちゃごちゃでさ。
女の靴がねえ。
とその男は乱暴な打ち壊すような仕草をしながら言って
鼻にシワを寄せた。
その荷物は取り片付けの時でなければわかりますまいよ。
女の靴がねえ。
僕はそこに突っ立っていた。
まったく一人ぼっちの気持で夜夜中線路の間に突っ立っていたのさ。
そして自分の心を吟味してみたのだね。
取り片付けか。
僕の原稿の取り片付けが行われるわけなんだな。
じゃあもうだめになっているんだな。
おおかたずたずたにもみくちゃになっているのだろう。
僕の三つ鉢の巣。
きれいに折り上げた折物。
上手に作った狐の穴。
僕の埃と真空。
僕の最上の柵。
もし本当にそうなってしまったのなら、僕はどうしたものだろう。
あそこにすでに書いてあるもの。
もうちゃんと組み合わせて鍛え上げてあるもの。
すでに生きて響いているもの。
それの写しは一つもとっていないのだ。
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それからいろんな覚書や研究。
何年もかかって山ネズミのようにかき集め苦しんで獲得し、
ひそかに聞き取りそっと手に入れ悩んで求めたあの多くな貴重な材料。
まあそれは多くとしてもだね。
さてどうしたものだろう。
僕は自分の気持ちを司祭に調べてみて、
またはじめから書き直す気でいることがわかった。
そうだ、僕は動物的な根気で、
ある下等動物が小さな葬名と金弁とで作り上げた不思議な複雑な老作を壊されたときの
あの粘り強さでもって、
命乱と婚却の瞬間の後には全体を再びはじめからやり直すだろう。
そしてもしかすると今度は前よりも少しは楽にいくかもしれない。
ところがそのうちに消防隊が到着した。
松明を持ってね。
それが破片の砂漠の上に赤い光を投げている。
で僕は貨物車の様子を見ようと思って前の方に行ってみると、
それはほとんど無事で、
鞄はどれもどうもなっていないのがわかった。
その辺に散らばっているいろんな荷物や商品は、
例の貨物列車に乗っていたものなのだね。
中でも唐毛縄のもつれたのが数限りもなく海のようになって
あたり一面を覆っていたっけ。
それを見ると僕は気が軽くなってね。
そこに突っ立ったり喋ったり、
この不運をきっかけに友達になったり大げさなことを言ったり、
もったいぶったりしている人たちの仲間入りをしてしまったのだ。
機関手が立派な働きをした。
大樹を未然に防いだ。
危機一髪というところで非常ブレーキを引いたのだということだけは確からしかった。
みんなの話じゃ、もしそうでなかったら、
それこそ必ず大変なことに立ち至ったに違いない。
列車は左手のかなり高い崖から転がり落ちたろうというのだね。
なんと称賛に値する機関手じゃないか。
機関手はどこにも見えない。
誰もその姿を見たものはない。
しかしその名声は全列車を通じて広まった。
僕らはみんなその男のいないところでその男を褒め添やしたのだ。
あの男が。
とある紳士は言いながら手を伸ばして闇の中をどこともなく指さした。
あの男が我々全てを救ってくれたのですな。
それを聞くと一人残らずうなずいたのさ。
ところで僕らの列車は入ってはならない線路に入っているのだから、
他の列車が追突しないように後ろの方を守っておく必要がある。
そこで消防隊の人たちは歴戦の松明を持って最後の客車のそばに並んだ。
するとさっき女の靴女の靴と言って僕をあんなに不機嫌がらせた
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あのはしゃいだ若い男も松明を一本ひっつかんで信号のように振り回しているのだ。
どこを見ても列車なんぞは見えないのにね。
やがてだんだんと一体の様子に秩序らしいものが立ってきた。
我々の乳なる国家は再び面目と威厳を回復したわけなのだ。
電砲が撃たれてあらゆる対策が講ぜられた。
レーゲン・スブルグからの救援列車が用心深く停車場へ進み入ると、
反射鏡のついた大きなガラス照明機がいくつも荒れ跡に立てられた。
ところで僕たち旅客は宿替えをさせられて、
先へ行けるようになるまで駅の構内で待っていろというお出しだ。
そこで手荷物をたくさん抱えたり、ある者は頭に包帯をしたりしたまま、
僕らは物見高い土地の人たちのずらりと並んだ中を抜けて、
小さな待合室へ入って行って、その中へできるだけぎゅうぎゅう詰めに押し詰まった。
そしてさらに一時間後には、みんなでたらめに倫理列車の中へ積み込まれたのだ。
僕は一等の切符を持っていた。旅費は無効持ちなのだからね。
しかしそれは何の役にも立たない。
なぜといって誰でも一等が一番いいものだから、
一等の箱は他のところよりもなおいっぱいになってしまったわけさ。
それでもどうやら席を見つけてね。
見ると、隅っこに押し込められて誰がいたと思う?
あのハンゲートルの威張った言葉遣いの紳士だ。
わが主人公なのだ。
子犬はもう連れていない。
取り上げられてしまったのだね。
今じゃ強者の権利もすっかり台無しで、
犬は機関車のすぐ次の暗い穴蔵みたいなところに座って鳴いているのだ。
紳士もやっぱり役に立たない黄色い切符を持っている。
そしてぶつぶつ言いながら、
災難の尊厳を前にしての大きな均等に対して反抗を試みようとした。
ところが一人の男が律儀な声でこう答えたのだね。
座ってられるんなら、あんたいいじゃないかね。
すると苦笑いをしながら紳士はこの桁外れの状態に甘んじてしまった。
そこへ二人の消防婦に助けられながら、誰が入ってきたろう。
小さな老婦人だ。
ぼろぼろの肩掛けをしたおばあさんだ。
みょんへんで危うく二刀に乗りかけたのと同じおばあさんなのだ。
これが一刀ですかい。
としきりに繰り返し尋ねている。
これがあの本当に一刀なんですかい。
そうしてみんながその通りだと受け合って席を譲ってやると、
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やれやれありがたいと言いながら荒火ロードのクッションの上にぺったり腰をおろした。
今やっと助かったというふうでね。
抱負に来たときはもう五時で明るくなっていた。
この駅で朝飯を済ませて、この駅で急行列車に乗りかえて、
僕は僕の荷物と一緒に三時間遅れてドレスデンに着いたのさ。
そう、これが僕の経験した汽車の事故だ。
一度はこんな目にも会わなければならなかったのだろうね。
これで僕は論理学者は異議を唱えても、
そうすぐには二度とこんなことにぶつからないだけの幸運を持っていると思うよ。
次回お送りしているガールズパンツ
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