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夢十夜 第四夜と第五夜
2024-09-28 16:11

夢十夜 第四夜と第五夜

0105 240928 夏目漱石 夢十夜の内第四夜と第五夜 朗読:龍山康朗
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おしゃべり本棚。 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
夏目漱石 夢十夜
第四夜 広い土間の真ん中にすずみ台のようなものを据えてその周りに小さい将棋が並べてある
台は黒光りに光っている。片隅には四角な禅を前に置いて、じいさんが一人で酒を飲んでいる。
魚は西目らしい。じいさんは酒の加減でなかなか赤くなっている。
その上、顔じゅうツヤツヤして、シワというほどのものはどこにも見当たらない。
ただ、白い髭をありだけ生やしているから、年寄りということだけはわかる。
自分は子供ながら、このじいさんの年はいくつなんだろうと思った。
ところえ、裏の家計から手桶に水を汲んできた上さんが前だれで手を拭きながら、
おじいさんはいくつかね、と聞いた。
じいさんはほうばった西目を飲み込んで、
いくつか忘れたよ、とすましていた。
上さんは拭いた手を細い帯のあいだにはさんで、横からじいさんの顔を見て立っていた。
じいさんは茶碗のような大きなもので酒をぐいっと飲んで、
そうして、ふーっと長い息を白い髭のあいだから吹き出した。
すると上さんが、
おじいさんの家はどこかね、と聞いた。
じいさんは長い息を途中で切って、
へその奥だよ、と言った。
上さんは手を細い帯のあいだにつっこんだまま、
どこへ行くのかね、とまた聞いた。
するとじいさんが、
また茶碗のような大きなもので熱い酒をぐいっと飲んで、
前のような息をふーっと吹いて、
あっちへ行くよ、と言った。
まっすぐかい、と上さんが聞いたとき、
ふーっと吹いた息が、
障子を通り越して柳の下をぬけて河原のほうへまっすぐに行った。
じいさんが表へ出た。
自分もあとから出た。
じいさんの腰に小さいひょうたんがむらさがっている。
03:03
肩から四角な箱を脇の下へつるしている。
あさぎのももひきをはいてあさぎの袖なしを着ている。
たびだけが黄色い。
なんだか川でつくったようなたびのように見えた。
じいさんがまっすぐに柳の下まで来た。
柳の下に子供が三、四人いた。
じいさんは笑いながら腰からあさぎの手ぬぐいを出した。
それを肝心よりのように細長くよった。
そうして地びたのまんなかに置いた。
それから手ぬぐいのまわりに大きなまるい輪をかいた。
しまいに肩からかけた箱のなかから
真鍮でこしらえた飴屋の笛を出した。
いまにその手ぬぐいがへびになるから
見ておろう、見ておろうとくりかえしていった。
子供は一生けんめいに手ぬぐいを見ていた。
じぶんも見ていた。
見ておろう、見ておろうよいかといいながら
じいさんが笛をふいて輪の上をぐるぐるまわり出した。
じぶんは手ぬぐいばかり見ていた。
けれども手ぬぐいはいっこううごかなかった。
じいさんは笛をぴいぴいふいた。
そして輪の上をなんべんもまわった。
わらじをつまだてるようにぬきあしをするように
手ぬぐいにえんりょうするようにまわった。
こわそうにもみえた。おもしろそうにもあった。
やがてじいさんは笛をぴたりとやめた。
そうしてかたにかけたはこのくちをあけて
手ぬぐいのくびをちょいとつまんでぽっとほおりこんだ。
こうしておくとはこのなかでへびになる。
いまにみせてやる、いまにみせてやるといいながら
じいさんがまっすぐにあるきだした。
やなぎのしたをぬけてほそいみちをまっすぐにおりていった。
じぶんはへびがみたいからほそいみちをどこまでもついていった。
じいさんはときどきいまになるといったり
へびになるといったりしてあるいていく。
しまいにはいまになる、へびになる、きっとなる、
ふえがなるとうたいながらとうとうかわのきしへでた。
はしもふねもないからここでやすんで
はこのなかのへびをみせるだろうと思っていると
じいさんはざぶざぶかわのなかへはいりだした。
はじめはひざくらいのふかさであったが
だんだんこしからむねのほうまでみずにつかってみえなくなる。
それでもじいさんは
ふかくなる、よるになる、まっすぐになるとうたいながら
どこまでもまっすぐにあるいていった。
06:02
そうしてひげもかおもあたまもずきんも
まるでみえなくなってしまった。
じぶんはじいさんがむこうぎしにあがったときに
へびをみせるだろうと思って
あしのなるところにたってたったひとり
いつまでもまっていた。
けれどもじいさんはとうとうあがってこなかった。
だいごやこんなゆめをみた。
なんでもようほどふるいことで
かみよにちかいむかしと思われるが
じぶんがいくさんをしてうんわるくまけたために
いけどりになっててきのたいしょうのまえにひきすえられた。
そのころのひとはみんなせがたかかった。
そうしてみんなながいひげをはやしていた。
かわのおびをしめて
それへぼうのようなつるぎをつるしていた。
ゆみはふじずるのふといのをそのままもちいたようにみえた。
うるしもぬってなければみがきもかけてない
きわめてそぼくなものであった。
てきのたいしょうはゆみのまんなかをみぎのてでにぎって
そのゆみをくさのえへついて
さかがめをふせたようなもののうえにこしをかけていた。
そのかおをみると
はなのうえでさゆうのまゆがふとくつながっている。
そのころかみそりというものはむろんなかった。
じぶんはとりこだからこしをかけるわけにいかない。
くさのうえにあぐらをかいていた。
はしにはおおきなわらぐつをはいていた。
このじだいのわらぐつはふかいものであった。
たつとひざがしらまできた。
そのはしのところはわらをすこしやみのこしてふさのようにさげて
あるくとばらばらうごくようにしてかざりとしていた。
たいしょうはかがりびでじぶんのかおをみて
しぬかいきるかときいた。
これはそのころのしゅうかんで
とりこにはだれでもいちおうはこうきいたものである。
いきるとこたえるとこうさんしたいみで
しぬというとくっぷくしないということになる。
じぶんはひとことしぬとこたえた。
たいしょうはくさのうえについていたゆみをむこうへなげて
こしにつるしたぼうのようなけんをするりとぬきかけた。
それへかぜになびいたかがりびがよこからふきつけた。
じぶんはみぎのてをかえでのようにひらいて
たなごころをたいしょうのほうにむけてめのうえへさしあげた。
09:03
まてというあいずである。
たいしょうはふといけんをかちゃりとさやにおさめた。
そのころでもこいはあった。
じぶんはしぬまえにひとめおもうおんなにあいたいといった。
たいしょうは
よがあけてとりがなくまでならまつといった。
とりがなくまでにおんなをここへよばなければならない。
とりがないてもおんながこなければ
じぶんはあわずにころされてしまう。
たいしょうはこしをかけたままかがりびをながめている。
じぶんはおおきなわらぐつをくみあわしたまま
くさのうえでおんなをまっている。
よるはだんだんふける。
ときどきかがりびがくずれるおとがする。
くずれるたびにうろたえたようにほのうがたいしょうになだれかかる。
まっくろなまゆのしたでたいしょうのめがぴかぴかとひかっている。
するとだれやらきてあたらしいえだをたくさんひのなかへなげこんでいく。
しばらくするとひがぱちぱちとなる。
くらやみをはじきかえすようないさましいおとであった。
このときおんなはうらのならのきにつないであるしろいうまをひきだした。
たてがみをさんどなでてたかいせにひらりととみのった。
くらもないあぶみもないはだかうまであった。
ながくしろいあしでふとばらをけるとうまはいっさんにかけだした。
だれかがかがりをつぎたしたのでとうくのそらがうすあかるくみえる。
うまはこのあかるいものをめがけてやみのなかをとんでくる。
はなからひのはしらのようないきをにほんだしてとんでくる。
それでもおんなはほそいあしでしきりなしにうまのはらをけっている。
うまはひずめのおとがちゅうでなるほどはやくとんでくる。
おんなのかみはふきながしのようにやみのなかでおおひいた。
それでもまだかがりのあるところまではこられない。
するとまっくらなみちのはたでたちまち、
コケコッコーというとりのこえがした。
おんなはみをそらざまにりょうてににぎったたずなをうんとひかえた。
うまはまえあしのひずめをかたいいわのうえにはしときざみこんだ。
コケコッコーとにわとりがまたひとこえないた。
おんなはアッといってしめたたずなをいちどにゆるめた。
うまはもろひざをおる。
のったひととともにまともへまえへのめった。
いわのしたはふかいふちであった。
12:04
ひずめのあとはいまだにいわのうえにのこっている。
とりのなくまねをしたものはあまのじゃくである。
このひずめのあとのいわにきざみつけられているあいだ、
あまのじゃくはじぶんのかたきである。
16:11

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