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主計はは忙しい その1
2026-08-01 16:35

主計はは忙しい その1

0200 260801 山本周五郎 主計はは忙しい その1 朗読:冨士原圭希
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サマリー

山本周五郎作「主計は忙しい」の朗読。主人公の牧野一恵は、原田道場の師範代兼会計係として多忙な日々を送っている。彼は常に時間に追われ、友人からの借金の依頼すら忘れてしまうほどだが、その実力は確かで、他の門人たちからも一目置かれている。

牧野一恵の多忙な日常
おしゃべり本棚 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
山本周五郎作 数えは忙しい
その一 牧野一恵は非常に多忙である
彼の日常を見ればわかるがこっちの頭がチラクラするほど忙しい
もちろんそういう位置にもいたわけだが 性分がもう少しどっちかへずれていたらそれほど忙しがらずとも済んだはずである
とにかくまずご紹介するとして赤坂日川下まで来ていただきたい そこに原田一郎在門の大きな町道場がある
門の前にお手伝いさんが二人いてしきりにはいたり水をまいたりしているが何か見つけ たとみえ一人が高ぼう気を控えて笑いながらこう言った
おい皆またイダテンが飛んでくるぜ いやはやどうも
片方も苦笑する 足元から土煙が立ってる
どうしてまああんなに忙しいのだろう 避けろ避けろ引き殺されるぞ
向こうから走ってくる者がある 色の白いやや太った体で背丈は五尺八九寸
形のいい眉にキュッと引き締まった唇ちょっと下三拍だが品のいい目でなかなか抜きん でた風格である
これがご紹介する牧野一恵だ 父は長居一沢の神直信の家臣で950国の江戸屋敷環状武業
彼はその次男で歳は25になる 3年前から原田道場の師範大を務め同時に会計も事務も引き受けていた
それは師範の一郎在門が病気がちなのに 織江という娘が一人しかなくそれらのことを託すものがなかったからである
で彼は走ってきた まさにお手伝いさんのいうごとく足元から土煙を立てて
だがこれは今朝に限ったことではなくいつもこの通りだからご承知が願いたい
おはようございます 二人は道をよけて挨拶した
いいお日寄りでございます 一恵は彼らの眉を風のように錯覚した
ああおはよういい日寄りだなぁいつも精が出るなぁ ご苦労
こう答えたのであるが二人の耳には あいうえおというふうにしか聞こえなかった
一恵は脇の入り口から飛び込んで自分に当てられた着替え部屋へ入った 八一郎という13歳になる内門人の少年が手に何か持って口をもぐもぐさせながら追ってきた
牧野先生おはようございます 木下さんが来て待っておいでですよ
木下 どこの木下だ
目玉ですよ目玉の木下さんです そういうことを言ってはいかんと言ってあるだろう
何を食べてるんだ一つよこせ 少年の持っている紙袋へ手を入れ二つ三つつまんで口へ放り込む
まっなんだ消火道の玉露灯じゃないが こんな贅沢なものをどうしたんだ
買い食いをする暇があったら少しは稽古しろ いいえ買い食いなんて
少年はひどく狼狽した これはもらったんですよ本当です竹田さんにもらって
友人との約束と借金
だが一恵はもう廊下へ出ていた 一度道場を覗いて
すぐ始めるぞと声をかけそのまま接待へ入っていった 木下六郎兵衛は河越の秋元田島の上の家臣で
牧野とは桃園にあたっていたし一恵とはごく幼い頃からの親しい友だった 一人息子で父が去年亡くなってから家徳を継いで母と二人で暮らしている
木下も母親ものんきな性分で時たまたずねる一恵には自分の家より気楽で居心地が良かった
やあ待たせてすまなかった 馬鹿に暑いじゃないか春でも来たようじゃないか
こう言いながら一恵は座る大変待ったがね しかし馬鹿に早くどうしたんだ
相変わらず落ち着かないな 六郎兵衛はニヤニヤする
第一に暑くなんかないむしろ今朝は冷えるよ 寒いと言ってもいいくらいだ
第二に相対して待っちゃーしない つい今しがた来たばかりさ
第三に早く来ることは知っているはずだ 昨日ちゃんとそう言ってあるんだから
昨日だってお前が 俺にこう
おい冗談じゃないぞ 六郎兵衛は口をへの字なりに曲げた
それじゃあ頼んでおいたことも忘れたのか ああそうかああそうかあれは今日かね
一恵はニヤッと笑う 相手もニヤッと笑う
だが一恵はまだ頼まれた要件というのを思い出せない そこで話を転じようと一種の表情をする途端に六郎兵衛はちゃんと察して答えを出してやった
忘れたんだな 金だよ
ああ金 一恵はびくっとした
金だって おいおい金って何の金だい
お前が忙しい人間でなければ俺は殴るところだぜ 六郎兵衛は原骨を握ってみせた
7日の式の費用がどうしても足らない すまないが5枚だけ頼むと
ああわかったわかったそうかあれはお前か 同じような話が3つあったんでどれがどれだかつい目移りがしちゃって
へえそういうのも目移りかね まあ怒るなよ確かに5枚引き受けた
しかし明日じゃいけないかね忘れたというわけじゃないが何があれして何なもんだからね ついあれして何がその
明日でもいいさしかし早くないと困る 俺が届けるよ暗いうちならいいだろう
明るくなってからでもいいさ じゃあ忙しいだろうから帰る
六郎兵衛はこう言って立ち上がった 金5枚妙想帳今度忘れたら本当に怒るぞ
もちろん大丈夫心得たが おい指揮をやるって何の指揮だい
六郎兵衛は振り返って大きな目玉を向いてこっちを睨みつけた そして何も言わずにさっさと玄関の方へ出て行った
梶江は部屋へ戻るとすぐ稽古儀になって道場へ飛び出した その頃原田道場といえば江戸でも指寄りの存在でないない合わせると300人余りの門人を
道場での稽古と一恵の実力
要し 梶江を筆頭に3人の師範代が教えていた
ある時一郎財門は今病弱のためほとんど教授をしないが 鍛冶派一刀流では遠近に知られた武道家である
彼の氏は鍛冶新財門といって尾野二郎江門 忠勝の直系であるがその尾野派一刀流から出て新しく自分で鍛冶派を立て
将軍家の手直し番にまで上った人物である その鍛冶派の二代を継いだのが原田一郎財門なのだから筆頭師範代を務める
牧野梶江もそうありふれた腕でないことは確かだ 道場では武田平之介と渡り又十郎が稽古をつけていった
もう一人の師範代は座って見ていたが梶江が来ると目で招いた 杉原氷後之介といって三人のうちでは一番腕が立ち教え方が柔らかいので
門人たちに好かれていた あれを見て下さい武田の
氷後之介はこうささやいた また嫌なことを始めました
梶江はそっちを見合った 武田平之介は一郎財門の子がいからの門邸で一頃は筆頭師範代に越せられたほどであったが
この一二年酒を覚えたためか手筋がすさんで荒々しくなり どうかすると無法な奇手を編み出して一郎財門の怒りを買うようなことがたびたびだった
今も井上という上位の門人と立ち合っているが 体の構え足の踏み方が異様である
確かに何か法外れな手を案じ出したらしい 梶江は眉をしかめると声を上げながらそっちへずかずか近寄っていった
ちょっと厳しそうじゃないか 井上には無理だ俺が変わろう
厳しそうだって 平之介は竹刀を下げてこっちを見た
そんなことがあるものか ほんのちょっとした工夫だよ
見せてもらおう いいけれどもやるなら銅を付けてくれないか
平之介はこう言って唇で笑った 自分より上を使うものに銅を付けるというのはそれだけの自信があってのことだろうが礼儀ではない
むしろ傲慢とも言うべきでこういう修行をする者としては極めて不心得な態度である 梶江はそれならと言って素直に銅を付けた
二人は暗い撮りをした互いに中断である 極当たり前な中断にとって呼吸5つばかり
後ろへ引いた梶江の右足のきびすがすっとわずかに浮いたが 同じ刹那に平之介の竹刀がこう描いて左から梶江の腰を切り上げた
もちろん軽い手である しかし切り上げた竹刀はそのまま電光のように返って梶江の逆刀を箸と切って取った
まいった 梶江は二剣ばかり飛びすさってこう叫んだ
それからすぐ相手のそばへ行ってずいぶん厳しいなと低い声でささやいた 少し厳しすぎる
他の者にはいけないな やるときは俺を相手にするがいい
間違うと飛んだことになるよ
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