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戦争はぼくをおとなにした 後編
2026-04-25 16:15

戦争はぼくをおとなにした 後編

0186 260425 小川未明 戦争はぼくをおとなにした 後編 朗読:高見心太朗
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サマリー

戦争で家を失った静吉は、泣いているおばあさんを慰める。おばあさんは、静吉が自分をおばけだと思ったと聞き、少しだけ笑顔を見せる。静吉は戦争の悲劇を思い出し、弟や母と共に避難した夜の光景を回想する。母の悲しみと弟の無邪気さに触れ、静吉は自分がもう大人なのだと決意を新たにする。

おばあさんとの出会い
おしゃべり本棚。 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
小川美名作 戦争はぼくを大人にした
後編 けれどおばあさんは黙って泣き続けています。
下を向いて目からにじみ出る涙を痩せた手で拭いていました。 小さくてまだ何にもわからないのだよ。
と、 彼は同じことを繰り返すより言うことを知りませんでした。
私も家を焼かれて寄りはなし、 知り合いのところで厄介になっているが、
寒さのため、治病の隆町が出てお薬を買いに行った。 と、後の言葉はよく聞こえず、また泣いていました。
静吉におばあさんの心持ちがわかるような気がしました。 だから自分の言葉に力を入れて、さも自信ありげに、
「ねえ、おばあさん。 おばあさんが黒い頭巾をかぶって杖をついているので、おばけと思ったのだよ。
きっとそうだよ。 いくら寒くても、こっちではめったに頭巾なんかかぶらないから。」
こう静吉が言うと、 果たしておばあさんは胸のわだかまりが溶けたらしく、やっと顔を上げました。
その顔にはシワがよって目は落ち込んでいましたが、 かすかに口のあたりへ笑いを浮かべて、
「そうかいな。 わしの田舎では、
冬になるとみんな頭巾をかぶるが、 ああ、
それでおわけといったのかいな。」
と力のない声で言いました。
「おばあさん、きっとそうですよ。 だから堪忍しておやり。」
と、 静吉は彼の精いっぱいの知恵を絞って慰めました。
「そうだったかいな。」
と、 おばあさんはもう一度しなびた手で目のあたりをこすると、
再び杖をつきつき腰を曲げて歩き始めました。
霜の溶けかけたチカチカと光る一筋の道が、
はるか彼方の煙突や木立の黒い棒切れを立てたごとく霞む、 地平線の方へと伸びていました。
おばあさんはどこまで行くのであろうか。 その道をだんだんと遠ざかってしまいました。
静吉はぼんやり一ところに立って、 その哀れな影を見送ったのでした。
避難の夜の回想
「戦争が悪いのだ。」
彼の口から自然にこの言葉がついて出ました。
彼は空想にふけりながら、あちこちと道を曲がって歩くうち、
いつしか電車の通る幅の広い道へ出たのでありました。
あの夜、ここを通ったのだ。
彼は逃げた日のことを思い出しました。
小さな弟を追っている母に手をひかれて、 日に追われながらこの道を通ったのでした。
やはり町から郊外へ逃れる人々の群れと混じって逃げたのでした。
もうここまで来れば大丈夫だ。
小高い丘のようなところへたどり着くと、 みんなはこう言って休みました。
一方では、火の鞭で撃たれて激しい風が暗く青ざめた夜の空を、 苦しそうな叫びをあげて吹いていました。
風は少しの間ひと息入れると、 その後はかえってすさまじい勢力をあらわしました。
その度に、田んぼの麦や周りに茂る木立の枝が、 今にもちぎれて闇の中へさらわれそうに見もたえしたのです。
焼け崩れる町では、花火のごとく、 火の粉が高く舞い上がり、
ぴかりぴかりとして外火をあげるごとく、 誇らしげに踊っていました。
人々は、あちらの木の下にひと塊、 こちらのやぶかげにひと塊、
いずれもおしだまって、ただ眼だけを 赤く焼ける町の方へ向けて、
恐ろしいありさまを見守っていました。 そのうちひとりが、違ったところをさすと、
みんながその方を向きました。 蛇の舌のように赤い炎が、
ちろちろと黒い建物の間から、 上がりはじめたばかりです。
と思ううちに、みるみる裾をひろげて、 一方の人がし、たちまちあたりは、
火の海となってしまいました。 もうさっきからどれほど焼けたろう。
さぞ人がたくさん死んだろうな。
こんな話し声が聞こえました。 聖吉はいくら我慢しても、
からだがふるえて、ぞくぞく寒気がしました。 彼はこんな育児のないことでどうしようと、
自分を励ましました。 お母さん、
あっちの空をごらん。 と、
突然気を転じようと、聖吉は叫びました。
どうしたの? と母は聞きました。
あそこに星が出ているよ。 そこだけが、いつもの静かな夜の景色と、
変わりがなかったからです。 そこだけを見るなら、地上で今、
町が焼け、人が死んでいるということが、 信じられない気がしました。
そして、このすさまじい嵐にも、炎にも、 無関心でいられる星の世界が、
あまりにも不思議に見えたのです。 色とりどりの星が互いに仲良くして、
楽しいことでもあるのか、ささやき合うような、 またおどけて瞬きをしたり、
目と目で物を言ったりしているようなのが、 なんとなく羨ましかったのでした。
自分たちも星の都へ行ったら、 お父さんは戦争に行かなくてもよかったし、
いつもみんなが一緒に楽しく暮らすことが できたであろうにと思いました。
ちょうど丘の下は麦畑でした。 ふさふさした頬が、風のためになみうっていました。
「坊や、なにしてるの?」 母の背中で目をさました小さな弟が、
頭と一緒に体をゆり動かしているのに気づいて、 星吉は弟の方をばみました。
すると麦畑で破れ傘をかぶって手足を広げた 鳥よいのカカシが、
夜も休まずに晩をするのを弟がまねているのでした。 人がこんなに心配しているのに、
坊やはわからないんだよ。 と母は目をふいていました。
こう聞くと星吉は、なんだか弟がかわいそうになりました。 いたわってやらなければならぬと思いました。
夜明けと決意
次第に東の空が黄色みを帯びて、 夜明けが近づいたのであります。
この時分から、どこか小川のふちでなく、 カエルの声が高く茂くなりはじめて、
さながら雨がふる音のように絶え間なく聞えてきました。 一人去り、二人去り。
忍びやかに立ち去る人たちが続きました。 星吉もこうしているのが心細くなって、
母親のたもとにつかまり、 もう帰ろうよと言いました。
母はいつまでも泣いていました。 お前、帰ろうてどこへ帰るの?もうおうちはないんだよ。
と母の声は小さくふるえました。 そうだったか。
と星吉は思った。 そしてこの時ほど自分の母を痛ましく感じたことはなかったのでした。
吉尾ちゃんのおじいさんが、焼けたらいつでも来いと言ったよ。 僕は何でもして、これからお母さんのお手伝いをするから。
と彼は胸の中が熱くなって母を元気づけようとしても、 わずかにこれだけしか言えなかったのでした。
しかし母は何とも答えず、いつまでも泣いていました。 彼はこれではならぬと知って、
お父さんが帰れば新しい家をこしらえてくれるよと続けていました。 しばらくすると母は泣きやんで袖で顔を拭きながら、
お前があるからお母さんはもう決して泣きませんよ。 と母は言ったのでした。
星吉はあの日のことを思い出しました。 もしそうでなかったら今日おばあさんを見ても慰めようとしなかったでしょう。
僕はもう大人なんだから。 彼は張り切った気持ちで胸をそらし、両足に力を入れて電車道を歩いていったのでした。
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