1. おしゃべり本棚
  2. 戦争はぼくをおとなにした 前編
戦争はぼくをおとなにした 前編
2026-04-18 16:32

戦争はぼくをおとなにした 前編

0185 260418 小川未明 戦争はぼくをおとなにした 前編 朗読:高見心太朗
Learn more about your ad choices. Visit megaphone.fm/adchoices

感想

まだ感想はありません。最初の1件を書きましょう!

サマリー

幼い聖吉は、染物屋の窓に飾られたキューピー人形に夢中になる子供たちを目撃する。その後、子供たちがおばあさんを「お化け」と罵る場面に遭遇し、聖吉は子供たちを叱り、泣いているおばあさんを慰めようとする。おばあさんの悲しみと自身の過去の経験が重なり、聖吉は戦争がもたらした過酷な現実を垣間見る。

染物屋のキューピー人形
おしゃべり本棚。 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
小川美名作 戦争は僕を大人にした
前編 まだ昼前であまり人通りのない自分でした
道の片側に一軒の染物店がありました 表面したガラスのはまった飾り窓には若い女の人が着るような派手な短物がかかっていました
それだけでも通る人々の足を止めて目を引くに十分と言えますが もう一つ
この窓の内へセルロイド製の大きな裸のキューピーが飾られて 一層の注意を引きました
キューピーの体の色は薄赤く2つの目は丸く真っ黒でした この健康そうな赤んぼほどもある人形は
そのひょうきんな顔つきでは今にも足音に驚いて目をくるくるさし 通りかかる人に何か悪口を言っていたずらをしかねまじき風に見えました
つい無心で聞かかる人までその笑いに吊り込まれるくらいだから わんぱく盛りの子供らが何でこれを見て何とも言わぬはずがありましょう
いずれはこの近所の子供たちでした 2人連れの男の子がどこからか往来へ出てきました
どちらも6つか7つぐらいです キューピーに目を止めるとたちまち窓のそばへ寄ってきました
何と思ったか 一人の子はいきなり両足を開いて大きな目を怒らし
キューピーの真似をして人形とにらめっこをしました 他の一人はまた自分の顔をガラスに押しつけてできるだけよく見ようとしていました
しかし 何をしても
キューピーには手応えがありませんでした 2人はこれではこちらが馬鹿にされるような気がして腹立たしくなりました
やーい キューピーのバカ
と 一人は手を振り上げて殴る真似をして見せました
それでもキューピーは黙っています こら
石ぶつけるぞ この時
突然もう一人の男の子が このキューピーお隣のユーボーみたいだよ
と笑い出しました ユーボーってお利口
うんうん しょうべんたれのうんこたれなの
はっはっは そう言って
2人は顔を見合ってさも面白そうに笑いました 青い空は爽やかによく晴れています
深い深い水色がかって垂れ下がるあちらには 遠く木立の枝が黒く大きな森の頭に刺しているかんざしのごとく見えました
そして昨夜の霜がまだ光って枝先に凍りついているのが 日の光りに銀のごとく輝いていました
こうして冬の間じっとして眠っていた自然だけれど もうどことなく
時期に目を覚ましそうな気配がしました この時
子供たちとおばあさん
突然店の大きな戸が開いて おかみさんが顔を出しました
みんないい子だから土の乾くまであっちへ行ってお遊びなさい しもどけで転ぶと着物が汚れますからね
と言いました2人はこれをしようにここを離れ 道ぶしんの砂利が積んである方へ歩いていきました
その時 聖吉はちょうど染物屋の前を通りかけていました
彼はまだ10歳ぐらいの少年であります この朝母の言いつけで用たしに行く途中でした
今愉快そうに飛んで行った小さな子供たちの姿を見て 彼は自分にもかつてあんな時代があったと思うと
その頃のことが一つ一つ目に浮かんですべて楽しいことばかりだったような気がしました ことに父親が戦争に行かず家で働き
また家も焼けなかったらその楽しい生活は今でも続いて 自分は幸せであったろうと思うのでした
彼は昔遊んだ友達の顔などをぼんやり記憶から呼び戻していると ふいに
お化けが来た というさっきの子供たちの高い声がしてその空想は破られたのでした
聖吉は顔を上げて声のする方を見ました お化けが来た
怖いよお化けが来た
2人の子供は道の上で出会ったおばあさんに向かって ちょうど臆病犬が遠吠えをする時のように罵っているのでした
これを見た聖吉は何事だろうと思い できるだけ早くそこへと近づいたのでした
ああ おばあさんが泣いている
彼はそう悟ると胸がドキドキとして急に目頭が熱くなりました 一体どうしたことだろう
と聖吉は立ち止まってこの有様を見つめたのです 寒いけれど
空気は音の跳ね返るほど澄んで冴え切っていました また2人の子供はピチピチとしてこれから伸びようとする盛りだったから
何を見ても面白く見慣れぬ姿はおかしかったのです 美しいものにはすぐ飛びついたであろうし
醜いものはすべてお化けに見えたのでありました 2人の子供のみずみずしさに比べて
このおばあさんはまたなんと暗くしなびきって惨めでありましたでしょう 誰でも年を取るとこれが自然の姿であり
この姿はやがて果てしない暗い方へ向かって歩くものだということを 少なくともこの子供らには知りようがなかったのです
どこか森の中のお墓からでも出てきたお化けのようにしか見えませんでした やー
聖吉の介入とおばあさんの悲しみ
お化けが泣いてるぞ 泣いたりしておかしいなぁ
この時 聖吉は
こらー と遠くからどなりました
なんでおばあさんに悪口を言うのだ 彼は顔を真っ赤にして大きな声で叱ると
子供は驚いてあちらへ逃げて行ってしまいました おばあさんはお化けだと言われたのが悔しいのか
それとも自分の姿がそんなに見られるのはもう先が長くないからであろうと悟って 悲しいのか
聖吉はおばあさんの覚め覚めとして泣く有様を見ただけで 自分までが罪を犯したように体へ冷たい水をかぶるような思いがしました
彼は大人のこうして泣くのを見る記憶がこれで2度あります その一つはお母さんでした
お母さんがあちらの赤い空を見ながら自分の家が焼けてしまったと言って しくしく泣いた時です
それからもう一つは 今おばあさんがこうして泣くのを見たことです
彼はおばあさんのそばへ近づくのに勇気が入りました おばあさん
堪忍しておやり まだ小さいんで何にもわからないのだから
と聖吉はかろうじて言いました こう言っておばあさんを慰めるつもりでした
けれどおばあさんは黙って泣き続けています 下を向いて目からにじみ出る涙を痩せた手で拭いていました
小さくてまだ何もわからないのだよ と
彼は同じことを繰り返すより言うことを知りませんでした 私も
家を焼かれて身寄りはなし 知り合いのところで厄介になっているが
寒さのため治病の龍町が出てお薬を買いに行った
と後の言葉はよく聞こえずまた泣いていました 聖吉におばあさんの心持ちがわかるような気がしました
だから自分の言葉に力を入れてさも自信ありげに ねえおばあさん
おばあさんが黒い頭巾をかぶって杖をついているのでお化けと思ったのだよ きっとそうだよ
いくら寒くてもこっちでは滅多に頭巾なんかかぶらないから 厚生吉が言うと
果たしておばあさんは胸のわだかまりが解けたらしく やっと顔を上げました聞きたいラジオ番組何にもない
ポッドキャスト宣伝
そんな時間はポッドキャストで過ごしませんか rkb では毎週40本以上のポッドキャスト番組を配信しています
あなたのお気に入りの声にきっと出会えるはず ラジコスポティファイアップルポッドキャスト
amazon ミュージック youtube ミュージックで rkb と検索してフォローしてくださいrkb オンラインのポッドキャストまとめサイトもチェック
16:32

コメント

スクロール