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羅生門 後編
2024-08-31 15:21

羅生門 後編

0101 240831 芥川龍之介 羅生門 後編 朗読:植草俊
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おしゃべり本棚。 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
芥川龍之介 羅生門
後編 この時
誰かがこの芸人に さっき門の下でこの男が考えていた
飢え死にをするか 盗人になるかという問題を
改めて持ち出したら おそらく芸人は
何の未練もなく飢え死にを選んだことであろう それほど
この男の悪を憎む心は 老婆の床に刺した松の木切れのように
勢いよく燃え上がり出していたのである 芸人にはもちろん
なぜ老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった したがって
合理的にはそれを善悪のいずれに片付けてよいか知らなかった しかし芸人にとっては
この雨の夜にこの羅生門の上で 死人の髪の毛を抜くということが
それだけですでに許すべからざる悪であった もちろん芸人はさっきまで自分が
盗人になる気でいたことなどはとうに忘れていたのである そこで芸人は
両足に力を入れて いきなりはしごから上へ飛び上がった
そうしてひじり塚の太刀たちに手をかけながら 大股に老婆の前へ歩み寄った
老婆が驚いたのは言うまでもない 老婆は一目芸人を見ると
まるで石弓にでも弾かれたように飛び上がった おのれどこへ行く
芸人は 老婆が死骸につまずきながら慌て
ふためいて逃げようとする行く手を塞いでこう罵った 老婆はそれでも芸人を突き抜けて行こうとする
芸人はまたそれを生かすまいとして押し戻す 二人は死骸の中でしばらく無言のままつかみ合った
しかし勝敗は初めからわかっている 芸人はとうとう老婆の腕をつかんで無理にそこへねじ倒した
03:05
ちょうど鶏の足のような骨と皮ばかりの腕である
何をしていた いいえ
言わぬとこれだぞよ 芸人は老婆を突き放すといきなり鶏の鞘を払って白い鋼の色をその目の前へ突きつけた
けれども老婆は黙っている 両手をわなわな振るわせて肩で息を切りながら
目を目玉が外へ出そうになるほど見開いて しゅうねく黙っているこれを見ると
芸人は初めて明白にこの老婆の生死が全然自分の意思に支配されているということ を意識した
そうしてこの意識は 今まで険しく燃えていた憎悪の心を
いつの間にか覚ましてしまった後に残ったのは ただある仕事をしてそれが円満に成就したときの安らかな得意と満足とがあるばかりである
そこで芸人は老婆を見下しながら少し声を和らげてこう言った 俺はけびいしの腸の役人などではない
今しがたこの門の下を通りかかった旅のものだ だから
お前に縄をかけてどうしようというようなことはない ただ今自分この門の上で何をしていたのだか
それを俺に話さえすればいいのだ すると老婆は
見開いていた目を一層大きくして じっとその芸人の顔を見守った老婆の赤くなった肉食腸のような鋭い目で見たのである
それからシワでほとんど鼻と一つになった唇を何かものでも噛んでいるように動かした 細い喉で尖ったのどぼとけの動いているのが見える
そのときその喉からカラスの鳴くような声があえぎあえぎ 芸人の耳へ伝わってきた
この髪を抜いてなあ この髪を抜いてなあ
かつらにしようと思ったのじゃ 芸人は老婆の答えが存外平凡なのに失望した
06:04
そうして 失望すると同時にまた前への象が冷ややかな分別と一緒に心の中へ入ってきた
するとその景色が先方へも通じたのであろう 老婆は
片手にまだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり 引きのつぶやくような声で口籠りながら
こんなことを言った なるほどなあ
死人の髪の毛を抜くということは 何ぼ悪いことかもしれぬ
にゃがここにいる死人どもはみなそのくらいのことをされてもいい人間ばかり だぞよ
現にわしが今髪を抜いた女などはなあ 蛇を四寸ばかりずつに切って干したのを
干し魚だと言うて 縦脇の人間売りにいんだわ
えやみにかかって死ななんだら 今でも売りにいんでいたことであろう
それもよう この女の売る干し魚は味が良いと言うて
縦脇どもが欠かさず最良に買っていたそうな わしは
この女のしたことが悪いとは思うていぬ せねば
飢え死にをするのじゃて仕方がなくしたことであろう されば
今またわしのしていたことも悪いこととは思わぬぞよ これとてもやはりせねば
飢え死にをするじゃて仕方がなくすること じゃわいの
じゃてその仕方がないことをよく知っていた この女は
おおかたわしのすることも多めに見てくれる であろう
老婆はだいたいこんな意味のことを言った 下人は
太刀を鞘におさめて その太刀の束を左の手でおさえながら
冷然としてこの話を聞いていた もちろん右の手では赤くほうに
海をもった大きなにきびを気にしながら 聞いているのである
しかしこれを聞いている中に下人 の心にはある勇気が生れてきた
それはさっき門の下でこの男には かけていた勇気である
09:06
そうしてまたさっきこの門の上へ のぼってこの老婆をつかまえた
ときの勇気とはぜんぜん反対な 方向に動こうとする勇気である
下人は飢え死にをするか盗人になる かに迷わなかったばかりではない
そのときのこの男の心もちから 言えば飢え死になどということは
ほとんど考えることさえできない ほど意識の外に追い出されていた
きっとそうか老婆の話が終わる と下人はあざけるような声で念
をしたそうして一足前へ出ると ふいに右の手をにきびから離して
老婆の襟髪をつかみながら噛み つくようにこう言った
では俺がひやぎをしようとうら むまいなあ俺もそうしなければ
飢え死にをするからだなのだ下人 は素早く老婆の着物をはぎ取った
それから足にしがみつこうとする 老婆を手荒く死骸の上へ蹴倒した
はしごの口まではわずかに五歩 を数えるばかりである下人ははぎ
取ったひわだいろの着物を脇に かかえてまたたくまに急なはし
ごを夜の底へかけおいたしばらく 死んだように倒れていた老婆が
死骸の中からその裸のからだを 起したのはそれから間もなくの
ことである老婆はつぶやくような うめくような声をたてながらまだ
燃えている火の光を頼りにはしご の口まで這っていったそうして
そこから短い白髪を逆さまにして 門の下をのぞき込んだ外にはただ
刻刻とうとうたる夜があるばかり である下人の行方は誰も知らない
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