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先生の顔
2024-10-12 15:59

先生の顔

0107 241012 竹久夢二 先生の顔 :武田早絵
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おしゃべり本棚。
この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
竹久夢次、先生の顔。それは火曜日のチリの時間でした。
森先生は教壇の上から、陽子がフズの影に隠れてノートへいたずら書きをしているのを見つけた。
陽子さん、そのノートを持ってここへおいでなさい。
ふいに森先生がおっしゃったので、陽子はびっくりした。
陽子は日頃から成績の悪い生徒ではありませんでした。
けれど、鉛筆と紙さえ持つと、いつでも、授業の時間でさえも絵を書きたがる癖がありました。
今もチリの時間に森先生の顔をそっと写生していたのでした。
そして陽子は森先生を大変好きでした。
森先生に呼ばれて、陽子はそのノートを先生の前へ出した。
先生は少し怖い顔をしてノートを開けてご覧になった。
するとそこには先生の顔が書いてあった。
森先生はそれをお読みになって、笑いたいのを我慢してやっとこうおっしゃった。
今日は許してあげますけれど、これからは他の時間に絵を書いてはいけませんよ。
これは私が預かっておきます。
陽子はお辞儀をして静かに自分の席へ着くと、教団の方を見上げた。
けれど森先生は決して陽子の方をご覧にならなかった。
陽子にはそれが心配でならなかった。
やがて授業時間が済むのを待ちかねて、生徒たちは急いで家へ帰って行った。
陽子は一番最後に学校の門を出て、たった一人帰ってきた。
道々にも今日の塵の時間のことが心を離れなかった。
次の日、陽子は少し早めに家を出て、森先生のいつも通っていらっしゃる橋の上で先生を待っていた。
やがて先生は三子という同級の生徒と連れ立って歩いていらした。
03:04
陽子は丁寧にお辞儀をした。
先生は何事もなかった前のようににこやかに、「おはよう。」をおっしゃった。
それで陽子はほっと安心した。
そして嬉しさに忙しくて、悪い気ではなく三子におはようを言うのを忘れていた。
「陽子さん、おはよう。」
三子はわざと意地悪く陽子の前へ突っ立ってお辞儀をした。
そして、「陽子さん、今日は回り道をしていらしたのね。」と三子は咎めるように言った。
陽子は日頃から意地の悪い三子が好きでなかった。
と陽子はおとなしく答えた。
森先生は陽子のリボンを直してやりながら、
「陽子さんのお家は山のほうでしたね。
お家の近所の野原にはたくさんに草花が咲いていて、どんなにかいいでしょうね。」
「先生はあんな田舎のほうがお好きですか?」
「ええ、毎日でも行きたいと思いますわ。」
「先生、私の家へいつかいらっしゃいましな。そりゃあきれいな花があるの。
だって陽子さんのお家の庭よかずっと広いんですもの。」
三子が意気よい込んで言ったけれど、誰もそれには答えなかった。
次の日もその次の日も、
陽子は森先生を橋の上で待ち合いして学校へ行った。
けれど、ノートのことについては何にもおっしゃらなかった。
陽子もそれを聞こうとはしなかった。
三子は陽子が先生と一緒に学校へ来るのがねたましくてならなかった。
その週間も過ぎて、次のチリの時間が来た。
陽子が忘れようとしていた記憶はまた新しくなった。
陽子はおずおずと先生の方を見た。
先週習ったところは幾度となく復習してきたから、
どこを聞かれても答えられたけれど、
先生は陽子の方を決して見なかった。
そして三子に向かって、
パリーはどこの都ですか?とお尋ねになった。
すると、
と三子が嬉しそうに答えた。
チリの時間が終わると運動場のアカシアの木の下へ行って、
06:01
陽子はぼんやり足元を見つめていた。
なんということなしに悲しかった。
陽子さん。
そう言って後から陽子の肩を軽く叩いた。
それは陽子と仲良しの浅子であった。
浅子は陽子の顔を覗き込んで、
どうしたの?と聞いた。
どうもしないの。
そう言って陽子は笑って見せた。
そんならいいけど、なんだか考え込んでいらっしゃるんですもの。
言っていいことなら私に話してちょうだいな。
いいえ、そんなことじゃないの。
私、少し頭痛がするの。
そう、そりゃあいけないわね。
陽子はじっと思い入って浅子を見つめて、
浅子さん。
え?
あなた、森先生を好き?
ええ、好きよ。大好きだわ。
私も好きなの。
でも先生は私のことを怒っていらっしゃるようなの。
そんなことはないでしょう。
陽子は浅子に心配の種を残らず打ち明けた。
それから二人は森先生の優しいことや、
先生はどこの生まれの方だろうということや、
先生にもお母様があるだろうかということや、
もし先生が病気なさったら毎日そばについて
看病してあげましょうねということや、
もしや死んでしまっても先生のお墓のそばに
小さい家を建てて先生のお好きな花をどっさり植えましょう
ということなどを語り合った。
それから三日目の朝。
学校へ行くと森先生が病気だという掲示が出ていた。
陽子は学校から帰ると大急ぎで野原へ出て、
いつぞや森先生がおっしゃったお好きな花を
抱えきれないほどたくさんに積み取った。
陽子はいつか森先生に出会った橋のところまで来ると、
向こうから三つ子が来るのに会った。
どこへ行くの?
三つ子がいきなり聞いた。
森先生のとこへと言えば、
また何か意地悪いことを言われるのが嫌さに、
それとなくちょっとそこまでと答えた。
隠したって知っててよ。森先生のとこでしょ。
先生のところへ行ったってだめよ。
先生はあなたのこと怒っていらしてよ。
09:01
そしてあなたを大嫌いだって。
さも憎らしそうに三つ子は言って、
陽子の持っている花を見つけた。
まあ、それを先生のとこへ持っていらっしゃるの。
そうでしょ。
先生のとこにはもっときれいな花が山のようにあってよ。
だって温室から取って行ったんですもの。
でもいらっしゃりたいなら勝手に行くといいわ。
そんな汚い花を先生はお喜びになるかもしれないわ。
あばよ。
そう言い捨てて三つ子は行ってしまった。
後に残された陽子は橋の欄間にもたれて、
じっと唇を噛んでこらえたが、
熱い涙がハラハラと水の上に落ちた。
陽子はしばらく橋の上から川の水を眺めていたが、
手に持っていた花束を水の中へ投げ捨てて、
一目散に家のほうへ走った。
その日の夕方、森先生の使いが陽子のもとへ一つの包みを届けた。
陽子は何事かと思いつつ包みを解くと、
中からいつぞやのノートが一冊出てきた。
陽子は恐る恐るノートを開けた。
すると森先生の主席で次のことが書かれてあった。
陽子さん、あなたの愛らしいノートをお返しするときがきました。
絵を書くことは少しも悪くなかったのです。
ただ書くときでないときに書いたことだけがいけなかったのです。
あなたが私のために花を摘んでくださったことも、
橋の上から川へ流したことも、みんな私は知っています。
あなたの心尽くしの花束は、
私の病室の窓の下へ流れる水に送られて私の手に入りました。
私はどんなにあなたの優しい親切を感謝したことでしょう。
安心してください。私の病気はほんの風邪に過ぎません。
次の月曜日からまた競馬でお目にかかりましょう。
陽子さん、どうぞこれからはもっといい子になってください。
他の稽古のときに絵を書いたりしないような。
そして、お友達に何を言われても、
良いと思ったことを迷わずするような、
12:03
強い子になってください。
それでは、さようなら。
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