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夢十夜 第一夜と第二夜
2024-09-28 16:22

夢十夜 第一夜と第二夜

0104 240921 夏目漱石 夢十夜の内第一夜と第二夜 朗読:龍山康朗
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おしゃべり本棚。 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
夏目漱石 夢十夜
第一夜 こんな夢を見た
腕組みをして枕元に座っていると 仰向きに寝た女が静かな声でもう死にます
と言う 女は長い髪を枕に敷いて輪郭の柔らかな
うりざね顔をその中に横たえている 真っ白な頬の底に温かい血の色が程よく差して
唇の色は無論赤い 到底死にそうには見えない
しかし女は静かな声で もう死にますとはっきり言った
自分も確かにこれは死ぬなと思った そこで
そうかね もう死ぬのかねと上から覗き込むようにして聞いてみた
死にますともと言いながら女はぱっちりと目を開けた 大きな潤いのある目で
長いまつげに包まれた中はただ一面に真っ黒であった その真っ黒な瞳の奥に自分の姿が鮮やかに浮かんでいる
自分は透き通るほど深く見えるこの黒目の艶を眺めて これでも死ぬのかと思った
それで年頃に枕のそばへ口をつけて 死ぬんじゃなかろうね
大丈夫だろうねとまた聞き返した すると女は黒い目を眠そうに見張ったまま
やっぱり静かな声で でも
死ぬんですもの仕方がないわと言った じゃあ私の顔が見えるかい
と一心に聞くと 見えるかいってそらそこに映っているじゃありませんか
と にこりと笑ってみせた
自分は黙って顔を枕から話した 腕組みをしながらどうしても死ぬのかなと思った
03:02
しばらくして女がまたこう言った死んだら埋めてください 大きな真珠貝で穴を掘って
そうして天から落ちてくる星の影を墓印に置いてください そうして墓のそばに待っていてください
また会いに来ますから 自分はいつ会いに来るのかねと聞いた
日が出るでしょ それから日が沈むでしょ
それからまた出るでしょ そうしてまた沈むでしょ
赤い日が東から西へ東から西へと落ちていくうちに あなた
待っていられますか 自分は黙ってうなずいた
女は静かな調子を一段張り上げて 100年待っていてください
と思い切った声で言った 100年私の墓のそばに座って待っていてください
きっと会いに来ますから 自分はただ待っていると答えた
すると黒い瞳の中に鮮やかに見えた 自分の姿がぼーっと崩れてきた
静かな水が動いて映る影を見出したように 流れ出したと思ったら
女の目がパチリと閉じた 長いまつげの間から涙が頬へ垂れた
もう死んでいた 自分はそれから庭へ降りて真珠貝で穴を掘った
真珠貝は大きな滑らかな縁の鋭い貝であった 土をすくうたびに貝の裏に月の光がさしてキラキラした
湿った土の匂いもした 穴はしばらくして掘れた
女をその中に入れた そうして柔らかい土を上からそっと掛けた
掛けるたびに真珠貝の裏に月の光がさした それから星の掛けの落ちたのを拾ってきて軽く土の上にのせた
星の掛けは丸かった 長い間大空を落ちている間に角が取れて滑らかになったんだろうと思った
抱き上げて土の上に置くうちに 自分の胸と手が少し温かくなった
自分は苔の上に座った これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら
06:06
腕組みをして丸い墓石を眺めていた そのうちに女の言った通り日が東から出た
大きな赤い日であった それがまた女の言った通りやがて西へ落ちた
赤いまんまでのっと落ちていった 一つと自分は感情した
しばらくするとまたからくれないの点灯がのそりとのぼってきた そうして黙って沈んでしまった
二つとまた感情した 自分はこういうふうに一つ二つと感情していくうちに赤い日をいくつ見たかわからない
感情しても感情してもしつくせないほど赤い日が頭の上を通り越していった それでも百年がまだ来ない
ちまいには苔の生えた丸い石を眺めて自分は女に騙されたのではなかろうかと思い出した すると
石の下から端に自分の方へ向いて青い茎が伸びてきた 見る間に長くなって
ちょうど自分の胸のあたりまで来て止まった と思うと
すらりと揺らぐ茎の頂に心持首を傾けていた細長い一輪のつぼみが ふっくらと花びらを開いた
真っ白な百合が花の先で骨に応えるほど匂った そこへ遥か上からぽたりと梅雨が落ちたので
花は自分の重みでふらふらと動いた 自分は首を前へ出して冷たい梅雨の滴る白い花びらに節分した
自分が百合から顔を放す様子に思わず遠い空を見たら 暁の星がたった一つ
またたいていた100年はもう来ていたんだなぁとこの時初めて気がついた 第2やこんな夢を見だ
和尚の室を下がって廊下伝いに自分の部屋へ帰ると安藤がぼんやり灯っている 薄間の絵は武尊の筆である
焚き残した線香が暗い方で未だに匂っている 広い寺田から新館として人気がない
黒い天井に差す丸安藤の丸い影が仰向く途端に生きているように見えた お前は侍である侍なら悟れぬはずはなかろうと和尚が言った
09:16
そういつまでも悟れぬところを持ってみるとお前は侍ではあるまい と言った人間のクズじゃと言った
はっはー怒ったねと言って笑った 悔しければ悟った証拠を持ってこい
と言ってぷいっと向こうを向いた けしからん隣の広間の床に据えてある沖時計が次の時を打つまでには
きっと悟ってみせる悟った上で今夜また入室する そうして和尚の首と悟りと引き換えにしてやる
悟らなければ和尚の命が取れない どうしても悟らなければならん自分は侍である
もし悟れなければ辞人する 侍が恥かしめられて生きているわけにはいかない
綺麗に死んでしまう こう考えた時
自分の手は思わず布団の下へ入った そうして取材屋の担当を引きずり出した
ぐっと束を握って赤い鞘を向こうへ払ったら 冷たい歯が一度に暗い部屋で光った
担当を鞘へ収めて右脇へ引きつけておいて それから善歌を組んだ
上宗曰く無徒 無徒は何だ
クソ坊主めと鋼をした 掛物が見える安藤が見える畳が見える
和尚のヤカン頭がありありと見える ワニ口を開いて嘲笑った声まで聞こえる
けしからん坊主だ どうしてもあのヤカンを首にしなくてはならん
悟ってやる 無駄
無駄と舌の根で念じた 無駄というのにやっぱり線香の匂いがした
何だ線香のくせに 自分はいきなり原骨を固めて自分の頭を嫌というほど殴った
そうして奥歯をギリギリと噛んだ 膝の継ぎ目が急に痛くなった
膝が折れたってどうあるものかと思った けれども痛い苦しい
無はなかなか出てこない 出てくると思うとすぐ痛くなる
腹が立つ 無念になる非常に悔しくなる
涙がほろほろ出る 一思いに身を大岩の上にぶつけて
骨も肉もめちゃめちゃに砕いてしまいたくなる そのうちに頭が変になった
安藤も武尊の絵も畳も違い棚も 合ってないようななくてあるように見えた
12:06
と言って無はちっとも厳然しない ただいい加減に座っていたようである
ところへ突然隣座敷の時計が チーンと鳴り始めた
はっと思った 右の手をすぐ担当にかけた
時計が二つ目を チーンと打った
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16:22

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