1. おしゃべり本棚
  2. うた時計 後編
うた時計 後編
2023-10-21 15:25

うた時計 後編

0056 231021 新美南吉 うた時計 後編 朗読:井口謙
Learn more about your ad choices. Visit megaphone.fm/adchoices

感想

まだ感想はありません。最初の1件を書きましょう!

00:00
おしゃべり本棚 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
新南吉 うた時計後編
あの薬屋のおじさんはね そのうた時計をとても大事にしていてね
僕たち子供になかなか触らせてくれないよ あれっ
また止まっちゃった もういっぺん鳴らしてもいい
キリがないじゃないか もういっぺんキリ
ねっ おじさんいいだろう
ねっねっ あっ
鳴り出しちゃった こいつ自分で鳴らしといてあんなこと言ってやがる
ずるいぞ 僕知らないよ
手がちょっと触ったら鳴り出したんだもん あんなこと言ってやがる
それで坊は その薬屋へよく行くのか
うん 時期近くだからよく行くよ
僕そのおじさんと仲良しなんだ
でも なかなかうた時計を鳴らしてくれないんだ
うた時計が鳴るとね おじさんは寂しい顔をするよ
どうして おじさんはね
うた時計を聞くとね どういうわけか
修作さんのことを思い出すんだって
修作っておじさんの子供なんだよ 不良少年になってね
学校が済むとどっかへ行っちゃったって もうずいぶん前のことだよ
その薬屋のおじさんはね その修作とかいう息子のことを
なんとか言っているかい 馬鹿な奴だって言ってるよ
そうかい そうだなぁ
馬鹿だなそんな奴は
あれ もう止まったなぁ
坊 もう一度だけ鳴らしてもいいよ
ほんと
いい音だなぁ 僕の妹の秋子がねとってもうた時計が好きでね
死ぬ前にもう一遍あれを聞かせてくれって 泣いてぐずったのでね
03:04
薬屋のおじさんのとこから借りてきて聞かしてやったよ 死んじゃったのかい
うん おととしのお祭りの前にね
矢部の中のおじいさんのそばにお墓があるよ 瓦からお父さんがこのくらいの丸い石を拾ってきて立ててある
それが秋子のお墓さ まだ子供だもんね
それでね 明日に僕がまた薬屋から歌時計を借りてきて矢部の中で鳴らして
秋子に聞かせてやったよ 矢部の中で鳴らすと涼しいような声だよ
二人は大きな池の旗に出た 向こう岸の近くに
黒く二三羽の水鳥が浮かんでいるのが見えた それを見ると少年は
男の人のポケットから手を抜いて 両手を打ち合わせながら歌った
ひーよめひーよめ 団子やるにくぐれ
少年の歌うのを聞いて男の人が言った 今でもその歌を歌うのかい
うん おじさんも知ってるの
おじさんも子供の自分 そう言ってひーよめにからかったものさ
おじさんも小さい時よくこの道を通ったの うん
町の中学校へ通ったもんさ おじさん
また帰ってくる
どうかわからん 道が2つに分かれているところに来た
坊はどっち行くんだ こっち
そうか じゃ
さいなら さいなら
少年は一人になると自分のポケットに手を突っ込んで ピョコンピョコンハネながら行った
おー ちょっと待てよー
遠くから男の人が呼んだ 少年はケロンと立ち止まってそっちを見たが
男の人がしきりに手を振っているのでまた戻っていった ちょっとなぽ
男の人は少年がそばに来ると 少し決まりの悪いような顔をしていった
06:01
実はなぁ坊 おじさんはゆうべその薬屋のうちで止めてもらったのさ
ところが今朝出るとき慌てたもんだから間違えて 薬屋の時計を持ってきてしまったんだ
坊 すまんけど
この時計とそれからこいつも と街灯の内隠しから小さい懐中時計を引っ張り出して
間違えて持ってきちまったから 薬屋に返してくれないか
な いいだろう
うん 少年は歌時計と懐中時計を両手に受け取った
じゃあ 薬屋のおじさんによろしく言ってくれよ
さようなら さようなら
坊 なんて名だったっけ
精錬潔白のレンだよ うんそれだ
坊はその精錬 なんだっけな
潔白だよ うん潔白
それでなくちゃいかんぞ そういう立派な正直な大人になれよ
じゃあ 本当にさようなら
さようなら 少年は両手に時計を持ったまま男の人を見送っていた
男の人はだんだん小さくなり やがて稲積みの向こうに見えなくなってしまった
少年はテクテクと歩き出した 歩きながら何か腑に落ちないものがあるようにちょっと首をかしげた
間もなく少年の後ろから自転車が一台追っかけてきた あ
薬屋のおじさん おっ
レンボー お前か
襟巻きで顎をうずめた年寄りのおじさんは自転車から降りた そしてしばらくの間咳のためものが言えなかった
その咳は 冬の夜枯れ木の群れを鳴らす風のごとのようにヒューヒュー言った
レンボー お前は村からここまで来たのか
うん それじゃあ
今しがた 村から誰か男の人が出てくるのと一緒にならなかったか
一緒だったよ あ
その時 お前はどうして
老人は少年が手に持っている歌時計と懐中時計に目を止めていった その人がね
09:06
おじさんの家で間違えて持ってきたから返してくれって言ったんだよ 返してくれろって
うん そうか
あのバカめが あれ誰なのおじさん
あれか そう言って老人はまた長く咳いった
あれは うちの秀作だ
えっ 本当
昨日十何年ぶりで家へ戻ってきたんだ 長い間悪いことばかりしてきたけれど
今度こそ改心して 真面目に町の工場で働くことにしたからと言ってきたんで一晩止めてやったのさ
そしたら今朝 わしが知らんでいる間にもう悪い手癖を出して
この二つの時計をくすでて出かけやがった あの極童めが
おじさんそれでもね 間違えて持ってきたんだってよ
本当に取っていくつもりじゃなかったんだよ 僕にね
人間は精錬潔白でなくちゃいけないって言ってたよ そうかい
そんなことを言っていったか 少年は老人の手に二つの時計を渡した
受け取る時老人の手は震えて歌時計のネジに触れた
すると時計はまた美しく歌い出した 老人と少年と
立てられた自転車が 広い枯れ野の上に影を落として
しばらく美しい音楽に聞き入った 老人は目に涙を浮かべた
少年は老人から目をそらして さっき男の人が隠れていった
遠くの稲積みの方を眺めていたのの果てに 白い雲が一つ浮いていた
落語家の立川翔子です 1週間のニュースの中から気になる話題を題材に
12:03
新作落語をお送りしているポッドキャスト番組 立川翔子のニュース落語
もう聞いていただきましたか 政治家の問題発言や動物たちの微笑ましいエピソードなどなど
落語の世界でお楽しみください
アップル、スポティファイ、アマゾンの各ポッドキャストで 立川翔子で検索してフォローお願いします
またYouTubeでも聞くことができますよ
さらに生放送でいち早く番組をチェックしたい方は
ラジコでRKBラジオ立川翔子キーサイトを聞いてください
毎週金曜朝6時半から10時まで生放送中です
さらにこの立川翔子ニュース落語は本で読むこともできます
お近くの書店ネット通販でお買い求めください
本と音声両方で立川翔子のニュース落語
どうぞご引きに
15:25

コメント

スクロール