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うた時計 前編
2023-10-14 16:38

うた時計 前編

0055 231014 新美南吉 うた時計 前編 朗読:井口謙
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おしゃべり本棚。この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
にいみなんきち うた時計
前編 2月のある日
野中の寂しい道を 十二三の少年と
川の鞄を抱えた三十四五の男の人とが 同じ方へ歩いていった
風が少しもない暖かい日で もう霜が溶けて道は濡れていた
枯草に影を落として遊んでいるカラスが 二人の姿に驚いて
土手を向こうに越える時 黒い背中が
キラリと日の光を反射するのであった 坊
一人でどこへ行くんだ
男の人が少年に話しかけた 少年はポケットに突っ込んでいた手をそのまま2、3度前後にゆすり
人懐こい笑みを浮かべた 街だよ
これは変に恥ずかしがったり 嫌に人を恐れたりしない
素直な子供だなと 男の人は思ったようだった
そこで二人は話し始めた 坊
なんていうのだ 蓮っていうんだ
蓮? 蓮兵か
ううん と少年は首を横に振った
じゃあ 蓮市か
そうじゃないよおじさん ただね
蓮っていうのさ
どういう字書くんだ 連絡の蓮か
違う 点を打って1を書いてのを書いて
2つ点を打って 難しいなぁ
おじさんはあまり難しい字は知らんよ 少年はそこで
地べたに気切れで蓮と大きく書いてみせた
難しい字だなぁやっぱり 二人はまた歩き出した
03:07
これねおじさん 清廉潔白の蓮って字だよ
なんだいその 清廉潔白ってのは
清廉潔白というのは何にも悪いことをしないので 神様の前へ出ても
巡査に捕まっても平気だということだよ
巡査に捕まってもな そう言って男の人はにやりと笑った
おじさんのオーバーのポケット大きいね
そりゃ大人のオーバーは大きいから ポケットも大きいさ
あったかい ポケットの中かい
そりゃあったかいよ ポコポコだよ
こたつが入っているようなんだ 僕手を入れてもいい
変なことを言う小僧だなぁ 男の人は笑い出した
でもこういう少年がいるものだ 近づきになると相手の体に触ったり
ポケットに手を入れたりしないと承知ができぬという 風変わりな人懐こい少年が
入れたっていいよ 少年は男の人の街灯のポケットに手を入れた
なぁんだ ちっともあったかくないね
はっはっは そうかい
僕たちの先生のポケットはもっとぬくいよ 朝僕たちは学校へ行くとき
代わりバンコに先生のポケットに手を入れていくんだ 木山先生というのさ
そうかい おじさんのポケット
なんだか固い冷たいものが入ってるねー これ何?
なんだと思う? 金でできてるねー
大きいねー 何かネジみたいなもんがついてるねー
するとふいに 男の人のポケットから美しい音楽が流れ出したので
二人はびっくりした 男の人は慌ててポケットを上から押さえた
しかし音楽は止まらなかった それから男の人はあたりを見回して
少年の他には誰も人がいないことを知ると ほっとした様子であった
06:05
天国で小鳥が歌ってでもいるような美しい音楽は まだ続いていた
おじさんわかった これ時計だろ
うん オルゴールってやつさ
お前がネジを触ったもんだから歌い出したんだよ 僕この音楽大好きさ
そうかい お前もこの音楽知ってるのかい
うん おじさん
これポケットから出してもいい? 出さなくてもいいよ
すると音楽は終わってしまった おじさん
もう一遍鳴らしてもいい?
うーん 誰も聞いてやしないだろうなぁ
どうしておじさんそんなにキョロキョロしてるの だって誰か聞いてたらおかしく思うだろう
大人がこんな子供のおもちゃを鳴らしていては そうねぇ
そこでまた男の人のポケットが歌い始めた 二人はしばらくその音を聞きながら黙って歩いた
おじさんこんなものをいつも持って歩いてるの うん
おかしいかい おかしいなぁ
どうして 僕がよく遊びに行く薬屋のおじさんのうちにも歌時計があるけどね
大事にして店の陳列棚の中に入れてあるよ なんだぼう
あの薬屋へよく遊びに行くのか うんよく行くよ
僕のうちの親類だもん おじさんも知ってるの
うーん ちょっとおじさんも知っている
あの薬屋のおじさんはね その歌時計をとても大事にしていてね
僕たち子供になかなか触らせてくれないよ あれ
また止まっちゃった もう一遍鳴らしてもいい
キリがないじゃないか もう一遍キリ
ねっ おじさんいいだろう
ねっねっ あっ鳴り出しちゃった
こいつ自分で鳴らしといてあんなこと言ってやがる ずるいぞ
僕知らないよ 手がちょっと触ったら鳴り出したんだもん
あんなこと言ってやがる
09:03
それでぼうは その薬屋へよく行くのか
うん 時期近くだからよく行くよ
僕そのおじさんと仲良しなんだ
でもなかなか歌時計を鳴らしてくれないんだ
歌時計が鳴るとね おじさんは寂しい顔をするよ
どうして おじさんはね歌時計を聞くとね
どういうわけか 修作さんのことを思い出すんだって
えっ
修作っておじさんの子供なんだよ 不良少年になってね
学校が済むとどっかへ行っちゃったって もうずいぶん前のことだよ
その薬屋のおじさんはね その修作とかいう息子のことを
なんとか言っているかい 馬鹿な奴だって言ってるよ
そうかい そうだなぁ
馬鹿だなぁそんな奴は あれ
もう止まったな ぼう
もう一度だけ鳴らしてもいいよ 本当
ああ いい音だなぁ
僕の妹の秋子がね とっても歌時計が好きでね
死ぬ前にもう一遍あれを聴かしてくれって 泣いてぐずったのでね
薬屋のおじさんのとこから借りてきて 聴かしてやったよ
死んじゃったのかい うーん
一昨年のお祭りの前にね 矢部の中のおじいさんのそばにお墓があるよ
瓦からお父さんがこのくらいの丸石を拾ってきて立ててある それが秋子のお墓さ
まだ子供だもんね それでね
毎日に僕がまた薬屋から歌時計を借りてきて 矢部の中で鳴らして秋子に聞かせてやったよ
矢部の中で鳴らすと涼しいような声だよ
うーん 二人は大きな池の旗に出た
向こう岸の近くに黒く二三羽の水鳥が浮かんでいるのが見えた それを見ると少年は
男の人のポケットから手を抜いて 両手を打ち合わせながら歌った
ひーよーめひーよーめ 団子やるにくぐれ
12:08
少年の歌うのを聞いて男の人が言った 今でもその歌を歌うのかい
うん おじさんも知ってるの
おじさんも子供の自分そう言ってひよめにからかったものさ おじさんも小さい時よくこの道を通ったの
うん 町の中学校へ通ったもんさ
おじさんまた帰ってくる
どうかわからん 道が2つに分かれているところに来た
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