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花宵 その2
2025-05-17 15:58

花宵 その2

0137 250517 山本周五郎 花宵 その2 朗読:武田伊央
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おしゃべり本棚。
この時間は、福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
山本周五郎作 花宵
第2回 武家は朝が早い。
兄弟はずっと幼い頃から、真冬でも4時には起こされる。
水で体を清め、庭へ出て汗の流れるまでぼっけんを振る。
それからもう一度洗面して食事を取り、
武術の稽古と学問の勉強にそれぞれの師匠のもとへ行く。
帰るのは大抵午後3時過ぎであった。
武術や学問の稽古に通うときは、
必要な道具に弁当を持つために、
使用人が一人友をして行くのが習慣であったけれど、
父が亡くなってから間もなく、
兄弟は友なしで通うようになった。
それは家計を切り詰めるためであった。
父の森脇六郎兵衛は掛川藩、今の静岡県掛川市の御勝頭で、
250こくほどの食録であったが、
父が亡くなるとともに食録が半分になった。
長男静之助が15歳になると家徳を相続することができる。
そうすれば元通り250こく全部もらえるのだが、
相続するまでは半分だけしか下がらないのが定まりだった。
そして静之助が15歳になるまであと2年あった。
その間家計をよほど切り詰めなければならないので、
使用人は男女一人ずつ残してみんな暇を出してしまった。
静之助がお城へ上がれるようになるまでは、
みんなできるだけ辛抱して奸役をしましょう。
母はそう言って稽古がよいの友を辞めさせたのである。
03:04
それはよくわかっていた。
けれどそれ以来英三郎は自分の道具や弁当のほかに、
兄の分まで持たされることになった。
弟が兄のものを持って歩くのは当たり前だ。
静之助は威張ってそう言うし、
母もそれが当然のことのように言った。
はじめからそうしていたのなら別だけれど、
今まで使用人の役だったのを自分がするのだと思うと、
これまた英三郎にとっては悲しく辛いことの一つだった。
前の晩、老けてから母に呼び起こされて叱られたので、
あくる朝いつもの時刻に起きたけれど、
英三郎は寝足りないようで目が渋かった。
「おい、英三郎、来てみろ。満開になったぞ。」
先に井戸端へ出て元気に体を拭いていた静之助は、
弟が庭へ降りてくるのを待ちかねて叫んだ。
庭の隅にある桜の老木が、
まだほの暗い朝の光の中で、
見事に満志の花を咲かせていた。
英三郎は眠い目がいっぺんに覚めたように思い、
「本当ですね。ずいぶんよく咲きましたね。」
と言いながら兄の方へ近寄って行った。
「あの花の下で試合をしないか、英三郎。」
静之助はいいことを思いついたというように
生き生きと目を輝かせながら、
ただぼっけんを振るだけじゃつまらない。
今朝は二人で試合をしよう。
満開の花の下で武術の稽古をするなんて、
官衛武士みたいでいいじゃないか。
でも道具を汗にしてしまうと。
道具なんかつけやしない。ぼっけんでやるんだ。
だってそれではけがをしますもの。
よせよ。俺とお前では段が違う。
どんなことがあったって、
お前にけがをさせるようなヘマはしないよ。
さあ、やろう。」
言い出したら聞かない兄だし、
段違いと言われたこともしゃくだった。
いつもの稽古肌着にタンクをつけた英三郎は、
鉢巻きをきっと締めると、
言われるままに桜の木の下へ進んで行った。
静之助はにやっと笑った。
「よし、その元気だ。
遠慮はいらないから思う存分打ち込んで来い。
いいか?」
いざ、英三郎はぼっけんをとって身構えをした。
06:03
ひっそりとした朝の空気をぬって、
どこか裏のほうで鶏の鳴く声がした。
空は次第に明るくなり、
頭上の雲が茜色に染まりだした。
頭の上へ高くぼっけんを振りかぶった兄の姿を
じっと睨みつけていた英三郎は、
やがて、「えいっ!」と叫びながら、
地面を蹴立てて打ち込んだ。
「おおっ!」と答えて静之助は右へよけた。
英三郎はすさまじい姿でそれを追った。
ぼっけんとぼっけんとが打ち合って激しい音をたてて、
二人の位置は右へ左へと変わった。
「そうだ、その調子だ。元気で来い!」
静之助は弟のぼっけんを巧みにそらしながら、
自由に飛び回った。
英三郎は逆上してしまった。
自分の腕の立たないのも口惜しく、
まるでこっちをからかっているような兄の態度は
さらに口惜しかった。
それでついには、
頬も肩もなくめちゃくちゃに打ってかかった。
「おっと危ない。そらこっちだ。しっかりしっかり!」
静之助は面白がって中央に弟を引き回していたが、
やがてぼっけんを取り直すと、
「今度はこっちから打ち込むぞ!」と言い様、
えいと叫んで踏み出し、
激しい力で下から跳ね上げた。
英三郎のぼっけんは、
咲き誇る桜の中へ跳ね飛び、
パッと雪のように花びらを散らせながら、
遠くの方へ落ちた。
「参った!」英三郎が呆然として叫ぶと、
「まだまだ!今度は組打ちだ!」と言いながら、
静之助はぼっけんを投げ出して飛びついてきた。
「参った!兄上、私の負けです!」
「何?勝負はこれからだ!」
「えい!そら元気で来い!」
「もう嫌です!」
振り放そうとするのを静之助はかまわずひっくんで投げ、
ぐっと馬乗りになると、
「元兵すまのうらの戦だ!」
「俺は熊貝の二郎直実、
お前は武官の大優厚森だ!」
「組伏せたら動けまい!」
「参った!」
「待て、今印をあげるところだ!」
「えい!」
静之助は右手で首を掻く真似をすると、
ようやく弟の上から飛びのき、
09:01
「あつ森を打ち取ったぞ!」
と大声に名乗りをあげた。
英三郎はすぐに跳ね起きた。
そして体についた泥を払おうともせず、
まっすぐに駆け出して行って広苑へあがり、
自分の居間へ入ったと思うと、
すぐに刀を持って飛び出してきた。
するとその様子を見ていたのであろう、
母が走ってきて素早く前へ立ちふさがった。
「英三郎、お待ち!」
「お前、刀を持ち出してどうするつもりです?」
「兄上と、兄上と果たし合いをします。」
英三郎の顔は青白くひきつっていた。
「お黙りなさい。何ということを言うのです?
兄様と果たし合いをするなどといって、お前!」
「行かせてください。兄上は今、
私の首を掻く真似をしたんです。
いくら兄上だってあんまりです。
武士の子が自分の首を掻く真似をされて、
黙ってはいられません。
お願いです、母上。どうか果たし合いをさせてください。」
「なりません。どうしても果たし合いをするというのなら、
この母を切ってからになさい。」
母上、思いもかけぬ言葉を聞いて、
英三郎はびっくりしたように母を見た。
本当にびっくりしたような目つきだった。
そしてしばらくは物も言えずに母の顔を見上げていたが、
急にわっと泣きながら、そこへ座ってしまった。
「そんなに、そんなに母上は兄上だけが可愛いんですか?
英三郎は憎いんですか?
英三郎は母上の子ではないのですか?」
彼は泣きながら訴えた。
「兄上はどんなことをしたって叱られない。
どんな時でもお叱りを受けるのは私です。いつでもそうです。
英三郎のすることはみんなお気に召さないんですか?
それは、それは母上、
英三郎が母上の本当の子ではないからではないのですか?」
「お前、何を言いだ?」
「私はそう思います。」
「英三郎?」
「私はいつか聞いたんです。」
彼は夢中で言った。
12:01
「ずっと前にご老人のお客が私と兄上の遊んでいるところを見ながら、
本当の兄弟のようだと言っていました。
本当の兄弟のようだというのは、
おだまり、おだまり英三郎。」
母は顔色を変えてさえぎった。
それからじっと英三郎を見つめながら、
「こちらへおいで。」
と言って仏間へ入っていった。
英三郎も涙を拭いながら、
後から立っていって母の前へ座った。
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