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藪の中 その1
2026-05-16 15:50

藪の中 その1

0189 260516 芥川龍之介 藪の中 その1 朗読:植草俊
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サマリー

芥川龍之介の「藪の中」その1では、ある死体が発見された現場の状況と、関係者の証言が語られます。最初に現れた木こりは、死体の状況や周囲の遺留品について証言しますが、馬の存在については否定します。次に現れた旅人は、死んだ男が馬に乗った女と一緒だったこと、男が武具を携えていたことを証言します。続いて現れた法師は、死んだ男が盗賊の多丈丸であり、女を連れ去った可能性を指摘します。最後に現れた娘は、死んだ男が自分の許嫁である武士・竹広であり、多丈丸に殺されたと証言しますが、女の行方は不明だと語ります。多丈丸自身も現れ、男を殺したことを認めますが、女の行方は知らないと主張します。彼は、女を奪うためには男を殺す必要があったと述べ、権力や金で人を殺す者たちと比較し、自身の罪の深さを問いかけます。

死体発見の状況
おしゃべり本棚。 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
藪の中 芥川龍之介作
1回目 蛇石に問われたる木こりの物語
左様でございます あの死骸を見つけたのは
私に違いございません 私は今朝いつもの通り
浦山の杉を切りに参りました すると
山陰の藪の中に あの死骸があったのでございます
あったところでございますか それは
山品の駅路からは四五丁ほど隔たっておりましょう 竹の中に
痩せすぎの混じった人気のないところでございます 死骸は花田の水管に宮古風のサビエボシをかぶったまま
仰向けに倒れておりました
何しろ人肩なとは申すものの 胸元の突き傷でございますから
死骸の周りの竹の落ち葉は 須宝に染みたようでございます
いえ血はもう流れてはおりません 傷口も
乾いておったようでございます おまけにそこには
ウマバエが一匹 私の足元も聞こえないように
べったり食いついておりましたっけ たちか何か見えなかったか
いえ 何もございません
ただ そのそばの杉の根形に縄が一筋落ちておりました
それから そうそう縄の他にも串が一つございました
死骸の周りにあったものは この二つ入りでございます
が 草や竹の落ち葉は一面に踏み荒らされておりましたから
きっとあの男は殺される前に よほど手痛い働きでも致したのに違いございません
なにウマはいなかったか あそこ一帯はウマ謎には入れないところでございます
旅人の証言
何しろ ウマの通う道とは
やぶ一つ隔たっておりますから 蛇石に問われたる
旅放しの物語 あの死骸の男には確かに昨日あっております
昨日の さあ昼頃でございましょう
場所は 関山から山品へ参ろうという途中でございます
あの男は ウマに乗った女と一緒に関山の方へ歩いて参りました
女は虫を垂れておりましたから 顔は私にはわかりません
見えたのはただ萩重ねらしい絹の色ばかりでございます ウマは月毛の確か
宝石神のウマのようでございました 竹でございますか
竹は 予期もございましたか
何しろ舎門のことでございますから そのあたりははっきりと存じません
男は いえ
太刀も帯びておれば弓矢も携えておりました ことに黒い縫いえびらへ二重あまりそやを刺したのは
ただ今でもはっきり覚えております あの男が火葬になろうとは
夢にも思わずにおりましたが 誠に人間の命などは
にょろやく如伝に違いございません やれやれ
なんとももしようのない 気の毒なことをいたしました
法師の証言
蛇石に問われたる 方面の物語
私が絡めとった男でございますか これは確かに
多丈丸という名高い盗人でございます もっとも私が絡めとった時には
馬から落ちたのでございましょう 淡田口の石橋の上に
うんうん唸っておりました 時刻でございますか
時刻は昨夜の初行頃でございます いつぞや私が捕え損じた時にも
やはりこの金の水管に打ち出しの太刀を 履いておりましたただ今はその他にも
ご覧の通り弓矢の類さえ携えております 左様でございますか
あの死骸の男が持っていたのも では人殺しを働いたのはこの多丈丸に
違いございません 皮を巻いた弓
黒塗りの絵びら 鷹の羽のそやが17本
これは皆 あの男が持っていたものでございましょう
はい馬もおっしゃる通り 法師神の月毛でございます
その畜生に落とされるとは何かの因縁に 違いございません
それは 石橋の少し先に
長いはずなを引いたまま ロバタのアオススキを食っておりました
この多丈丸という奴は 落虫に徘徊する盗人の中でも
女好きの奴でございます 昨年の秋
鳥ベデラのビンズルの後ろの山にモノモーデに 行きたらしい女房が一人目のアラマと一緒に殺されていたのは
こいつの仕業だとか申しておりました その月毛に乗っていた女も
こいつがあの男を殺したとなれば どこへどうしたかわかりません
差し出がましゅうございますが それもご遷疑くださいまし
ケビー氏に問われたる オーナの物語
娘の証言と多丈丸の告白
はい あの死骸は
手前の娘が片付いた男でございます が
都のものではございません 若さの国父の侍でございます
名は金沢の竹広 歳は26歳でございました
いいえ 優しい気立てでございますから
異婚なぞ受けるはずはございません 娘でございますか
娘の名はまさこ 歳は
19歳でございます これは
男にも劣らぬくらい勝気の女でございますが まだ一度も竹広の他には男を持ったことは
ございません顔は 色の浅黒い左の目尻にほくろのある
小さい売り座寝顔でございます 竹広は昨日娘と一緒に若さへ立ったのでございますが
こんなことになりますとは 何という因果でございましょう
しかし娘はどうなりましたやら 無婚のことは諦めましても
これだけは心配でなりません どうか
この馬が一生のお願いでございますから たとい行き先を分けましても娘の行方をお尋ねくださいまし
何に致せにくいのはその多丈丸とか何とか申す 盗人の奴でございます
無婚ばかりか 娘までも
多丈丸の白状 あの男を殺したのは私です
しかし女は殺しません ではどこへ行ったのか
それは私にもわからないのです まあお待ちなさい
いくら拷問にかけられても 知らないことは申されますまい
その上私もこうなれば卑怯な隠し立てはしないつもりです 私は昨日の昼少し過ぎ
あの夫婦に出会いました その時風の吹いた表紙に虫のたれぎぬが上がったものですから
チラリと女の顔が見えたのです チラリと
見えたと思う瞬間には もう見えなくなったのですが
一つにはそのためもあったのでしょう 私には
あの女の顔が女暮殺のように見えたのです 私はその咄嗟の間に
たとい男は殺しても 女は奪おうと決心しました
何 男を殺す謎は
あなた方の思っているように大したことではございません どうせ女を奪うとなれば必ず男は殺されるのです
ただ私は殺す時に腰の太刀を使うのですが あなた方は太刀を扱わない
ただ権力で殺す 金で殺す
どうかするとおためごかしの言葉だけでも殺すでしょう
なるほど血は流れない 男は立派に生きている
しかしそれでも殺したのです 罪の深さを考えてみれば
あなた方が悪いか 私が悪いか
どちらが悪いか わかりません
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