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よだかの星 後編
2024-03-02 16:53

よだかの星 後編

0075 240302 宮沢賢治 よだかの星 後編 朗読:本田奈也花 
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おしゃべり本棚。この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
よだかの星 宮沢賢治
後編、よだかはまっすぐに弟の河蝉のところへ飛んで行きました。
きれいな河蝉も、ちょうど起きて、遠くの山火事を見ていたところでした。
そして、よだかが降りてきたのを見て、言いました。
河蝉もあんな遠くにいるんですし、 僕一人ぼっちになってしまうじゃありませんか。
それはね、どうも仕方ないのだ。 もう、今日は何も言わないでくれ。
そしてお前もね、 どうしても取らなければならない時の他は、
いたずらにお魚を取ったりしないようにしてくれ。 ねっ。
さよなら。 兄さんどうしたんです。まあ、もうちょっとお待ちなさい。
いや、いつまでいてもおんなじだ。 八雀、後場をよろしく言ってやってくれ。
さよなら。 もう会わないよ。
さよなら。 八雀は泣きながら、自分の家へ帰って参りました。
短い夏の夜は、もう明けかかっていました。 八雀の葉は、夜明けの霧を吸って、青く冷たく揺れました。
八雀は高く、キシキシキシと泣きました。
そして巣の中をきちんと片付け、 きれいに体中の羽や毛をそろえて、
また巣から飛び出しました。霧が晴れて、 星様がちょうど東から上りました。
03:05
八雀はぐらぐらするほどの眩しいのをこらえて、 矢のようにそっちへ飛んでいきました。
「おひさん、おひさん。 どうぞ私をあなたのところへ連れて行ってください。
焼けて死んでもかまいません。私のような醜い体でも、 焼けるときには小さな光を出すでしょう。
どうか私を連れて行ってください。」 行っても行っても、
星様は近くなりませんでした。 かえって、だんだん小さく遠くなりながら、
星様が言いました。
「お前は、八雀だな。 なるほど、ずいぶんつらかろう。
今度空を飛んで、星にそう頼んでごらん。 お前は昼の鳥ではないのだからな。」
八雀はお辞儀を一つしたと思いましたが、 急にぐらぐらして、とうとう野原の草の上に落ちてしまいました。
そしてまるで夢を見ているようでした。 体がずっと赤や黄の星の間を登って行ったり、
どこまでも風に飛ばされたり、 また鷹が来て体をつかんだりしたようでした。
冷たいものがにわかに顔に落ちました。 八雀は目を開きました。
一本の若いススキの葉から梅雨が滴ったのでした。 もうすっかり夜になって、
空は青黒く、 一面の星が瞬いていました。
八雀は空へ飛び上がりました。 今夜も山焼けの日は真っ赤です。
八雀はその日のかすかな照りと、 冷たい星明かりの中を飛びめぐりました。
それからもう一ぺん飛びめぐりました。 そして思い切って、
西の空のあの美しいオリオンの星の方に、 まっすぐに飛びながら叫びました。
06:05
「お星さん、西の青じろいお星さん。 どうか私をあなたのところへ連れてってください。
焼けて死んでもかまいません。」 オリオンは勇ましい歌を続けながら、
八雀などはてんで相手にしませんでした。 八雀は泣きそうになって、
よろよろと落ちて、 それからやっと踏み止まって、もう一ぺん飛びめぐりました。
それから南の大犬座の方へ、 まっすぐに飛びながら叫びました。
「お星さん、南の青いお星さん。 どうか私をあなたのところへ連れてってください。
焼けて死んでもかまいません。」 大犬は青や紫や黄や、
美しくせわしく瞬きながら言いました。 「馬鹿を言うな。お前なんか一体どんなもんだい。
たかが鳥じゃないか。 お前の羽でここまで来るには、億年長年億長年だ。
そしてまた別の方を向きました。 八雀はがっかりして、よろよろ落ちて、
それからまた二へん飛びめぐりました。 それからまた思い切って、
北の大熊星の方へ、まっすぐに飛びながら叫びました。
「北の青いお星さま、どうかあなたのところへ私を連れてってください。」 大熊星は静かに言いました。
「余計なことを考えるものではない。 少し頭を冷やしてきなさい。
そういう時は氷山の浮いている海の中へ飛び込むか、 近くに海がなかったら、
氷を浮かべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。」 八雀はがっかりして、よろよろ落ちて、
それからまた四へん空をめぐりました。 そしてもう一度、
東から今のぼった天の川の向こう岸のわしの星に叫びました。
「東の白いお星さま、どうか私をあなたのところへ連れてってください。 焼けて死んでもかまいません。」
09:03
わしは大風に言いました。 「いいや、とてもとても話にも何にもならん。
星になるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。 また、よほど金もいるのだ。
八雀はもうすっかり力を落としてしまって、 羽を閉じて、
地に落ちていきました。 そしてもう一着で、地面にその弱い足がつくという時、
八雀はにわかに、のろしのように、 空へ飛び上がりました。
空の中ほどへ来て、 八雀はまるでわしが熊を襲うときするように、
ぶるっと体をゆすって毛を逆立てました。 それから、
「きしきしきしきし!」と高く高く叫びました。 その声はまるで鷹でした。
野原や林に眠っていた他の鳥は、 みんな目を覚まして、
ぶるぶる震えながら、 いぶかしそうに星空を見上げました。
八雀はどこまでもどこまでもまっすぐに、 空へのぼっていきました。
もう山やけの日は、 たばこのすいがらのくらいにしか見えません。
八雀はのぼってのぼっていきました。
寒さに息は胸に白く凍りつきました。 空気が薄くなったために、
羽はそれはそれはせわしく動かさなければなりませんでした。 それなのに、星の大きさはさっきと少しも変わりません。
つく息はふいごのようです。 寒さや霜が、まるで剣のように八雀を刺しました。
八雀は羽がすっかりしびれてしまいました。 そして涙ぐんだ目をあげて、もういっぺん空を見ました。
そうです。 これが八雀の最後でした。
もう八雀は落ちているのか、のぼっているのか、 逆さになっているのか、上を向いているのかもわかりませんでした。
12:07
ただ心持ちは安らかに、 その血のついた大きなくちばしは横に曲がってはいましたが、
確かに少し笑っておりました。 それからしばらくたって、八雀ははっきり眼を開きました。
そして自分の体が、今、林の火のような美しい光になって、 静かに燃えているのを見ました。
すぐ隣はカシオピア座でした。 天の川の青白い光がすぐ後ろになっていました。
そして、 八雀の星は燃え続けました。
いつまでもいつまでも燃え続けました。 今でもまだ燃えています。
ブルティーズ・カラー・ドーゾン
16:53

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