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2022-05-02 03:10

#36【青空文庫】里の春、山の春

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新美南吉「里の春、山の春」

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Niimi Nankichi titile:Spring in the village, spring in the mountain

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里の春、山の春、にいみ南吉。
野原にはもう春が来ていました。
桜が咲き、小鳥は鳴いておりました。
けれども、山にはまだ春は来ていませんでした。
山の頂には雪も白く残っていました。
山の奥には親子の鹿が住んでいました。
坊やの鹿は、生まれてまだ一年にならないので、春とはどんなものか知りませんでした。
お父ちゃん、春ってどんなもの?
春には花が咲くのさ。
お母ちゃん、花ってどんなもの?
花ってね、きれいなものよ。
ふーん。
けれど、坊やの鹿は花を見たこともないので、花とはどんなものだか、春とはどんなものだかよくわかりませんでした。
ある日、坊やの鹿は一人で山の中を遊んで歩きまわりました。
すると、遠くの方から、ボーンと柔らかな音が聞こえてきました。
何の音だろう?
するとまた、ボーンと、坊やの鹿はピンと耳を立てて聞いていました。
やがてその音に誘われて、どんどん山を降りて行きました。
山の下には野原が広がっていました。
野原には桜の花が咲いていて、よい香りがしていました。
一本の桜の木の寝方に、優しいおじいさんがいました。
小鹿を見ると、おじいさんは桜を一枝折って、その小さい角に結びつけてやりました。
さあ、かんざしをあげたから、日の暮れないうちに山へお帰り。
小鹿は喜んで山に帰りました。
坊やの鹿から話を聞くと、お父さん鹿とお母さん鹿は口をそろえて、
ボーンという音はお寺の鐘だよ。
お前の角についているのが花だよ。
その花がいっぱい咲いていて、気持ちのよい匂いのしていたところが春だったのさ、と教えてやりました。
それからしばらくすると、山の奥へも春がやってきて、いろんな花は咲き始めました。
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